親知らずは、歯の生えかわりの際に最後に生えてくる奥の永久歯で、正常に生えてくることが珍しい歯です。
現代人は顎が小さいため親知らずが生えてくる空間があまりありません。
横や斜めから生えてきたり、半分またはすべて歯茎に埋まった状態で生えてきたりして、状態によっては抜歯が必要となる場合があります。
口腔外科で親知らずの抜歯を行うとさまざまなケースに対応できるため、初めて親知らずの抜歯を行う方や親知らずの生え方に問題のある方でも抜歯可能です。
本記事では親知らずの抜歯を口腔外科で行うメリットについて、歯科医院との違い・費用と併せて解説します。
これから親知らずを抜歯しようと検討している方や親知らずに痛みが生じている方などはぜひ参考にしてください。
口腔外科で扱う主な疾患は?
口腔外科では通常の歯科医院とは異なり、歯だけでなく口腔全体の疾患も診ていきます。
そのため、顎周りの疾患や骨格の不正咬合など幅広い疾患に対応します。
外科的治療のみならず、内科的治療にも対応するのが特徴的です。では、具体的にどのような疾患を治療していくのか詳しくみていきましょう。
歯・歯周疾患
口腔外科で扱う歯・歯周疾患の代表例として、埋伏歯(まいふくし)と智歯周囲炎(ちしししゅうえん)が挙げられます。
埋伏歯は歯が生えているにも関わらず、顎の骨から萌出せずに歯茎に埋まったままの状態を指します。特に親知らずの場合は埋伏歯になる頻度が高く、抜歯が必要になるケースも多いようです。
智歯周囲炎は親知らずが生えてきた際に周囲に炎症を引き起こす疾患です。
親知らずは最後に生えてくる永久歯で、歯肉に覆われた状態になると歯磨きがしにくいため、炎症が起きやすい状態になります。
智歯周囲炎が進行すると顎の痛みや口の開きにくさがみられるでしょう。これらの疾患では治療で抜歯を伴うケースが多いことから口腔外科での対応になります。
顎顔面の外傷
顎や顔面の外傷も口腔外科で診察・治療を行います。
顎や顔面の骨折は交通事故やスポーツなどで発生する可能性が高い外傷で骨折による出血・腫れ・開口障害・噛み合わせの異常などの症状にも対応します。
口腔外科では骨折した箇所の治療のみならず、出血箇所の止血・二次感染予防のための抗菌薬の投与・痛みを緩和する鎮痛剤の投与なども対応する治療の範囲です。
ほかにも転倒や歯を強打したことによる歯の外傷も口腔外科で診察します。外傷の状態によっては抜歯や根管治療が必要になることもあるでしょう。
顎関節の疾患
顎関節の疾患でよくみられるのは顎関節症です。顎関節症は顎の動きがスムーズにいかず、顎を動かした時に雑音や痛みが生じる疾患です。
あくびや硬いものを咀嚼したことによる急性的な原因だけでなく、噛み合わせの異常や歯ぎしりなどの慢性的な原因も顎関節症が発症する要因に挙げられます。
また、顎関節が外れる顎関節脱臼・顎の骨の癒着などで顎関節が動かせなくなる顎関節強直症が顎関節の疾患です。
顎関節を元の位置に戻す治療のほか、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬などの薬物療法、場合によっては外科的手術を施すケースもあります。
骨格性の不正咬合
骨格性の不正咬合として、顎の発達異常による形態の異常や機能障害が伴う顎変形症を指します。
顎の発達が悪いために発症する上顎後退症や下顎後退症、反対に顎が異常に発達したために発症する上顎前突症や下顎前突症がよくみられる疾患です。
これらの不正咬合は単独だけでなく複数組み合わせて発症しているケースもあります。ほかにも、噛み合わせた時に前歯に隙間が認められる開咬症も骨格性の不正咬合に当てはまります。
顎変形症の治療は外科的手術により歯列矯正したのち、歯列矯正治療によって歯の位置を動かす流れです。
歯列矯正治療中は口をあまり動かせないため、歯列矯正治療終了後には口を動かすリハビリや歯の微調整なども行われます。
親知らずの抜歯を口腔外科で行うメリット
親知らずは一番奥の位置に最後に生えてくる永久歯です。そのため、歯磨きが難しいことからむし歯が発生していたり、ほかの歯に支障を及ぼす生え方をしていたりすると抜歯を要します。
親知らずの抜歯は困難なケースもよくあることから歯科治療ではなく、専門である口腔外科での抜歯が望ましいでしょう。
では、親知らずの抜歯を口腔外科で行うメリットを詳しく解説します。
専門性が高い
口腔外科は抜歯する治療について専門性が高い点がメリットの一つとして挙げられます。
そもそも口腔外科とは、口腔・顎・顔面と隣接する周辺に発生した疾患を対象とする診療科です。
外傷などの外科的疾患から神経性疾患などの内科的疾患まで幅広い病態に対応しています。
親知らずの抜歯はほかの歯を抜歯する場合と異なり歯肉を切ったり、骨を削ったりする場合もあるため、専門性の高い口腔外科での治療がおすすめです。
また、抜歯により噛み合わせが変化しても対応できます。
難しいケースにも対応可能
親知らずは横や斜めに生えたり、歯肉から萌出しなかったりなど正常に生えてくることが珍しい歯です。
そのため、生え方によっては親知らずを抜くのが困難なケースもあります。
口腔外科では親知らずを抜歯するために行う歯肉・骨の切開や抜歯後の噛み合わせの調整も専門的に行えるので、このような親知らずの抜歯で困難なケースにも対応できます。
親知らずを抜歯する必要があるのは、智歯周囲炎や痛み・腫れが生じているときだけでなく、親知らずによって歯並びに異常があるときや親知らずがむし歯になっているときなどさまざまです。
親知らずの抜歯を検討している場合は歯科治療では対応できないケースもあるため、口腔外科へ相談してみましょう。
基礎疾患がある場合にも対応しやすい
親知らずの抜歯が必要と診断された際に基礎疾患がある場合にも、口腔外科では内科医と連携しながら抜歯が行えます。
基礎疾患がある場合、抜歯の際の局所麻酔が全身状態に影響を与える可能性が高いです。
特に心疾患・肝臓病・糖尿病・血液疾患などがある方は注意が必要とされるため、歯科治療では抜歯を断られるケースもあります。
また、血管収縮薬を服用している場合は血圧や脈拍数が急激に変化する可能性があります。口腔外科ではこれらの基礎疾患や薬の影響にも対応して親知らずの抜歯が行えるでしょう。
親知らずの抜歯を口腔外科で行うデメリット
口腔外科で親知らずの抜歯を行う場合のデメリットとして、費用が高額になると聞いたことがある方も少なくないでしょう。
全身麻酔や静脈内鎮静法を用いて抜歯する場合、費用が高くなることがあります。
局所麻酔に比べ、費用がかかる麻酔方法になるため、通常の抜歯よりも高額になります。
ただし口腔外科に限った話ではなく、一般的に口腔外科を標榜している場所なら保険治療内で抜歯を行うため、抜歯にかかる費用は変わりません。
口腔外科と歯科医院の違いは?
口腔外科と歯科医院は、歯の健康を守る点では同じようにとらえられがちですが、治療できる疾患の幅や専門領域が大きく異なります。
では、口腔外科と歯科医院について、扱う疾患・医師・設備の3つの視点からそれぞれどのように違いがあるのかを詳しくみていきましょう。
扱う疾患の違い
口腔外科と歯科医院では取り扱う疾患が異なります。歯科医院はむし歯や歯周病など歯そのものの治療がメインとなっています。
対して口腔外科では、口腔内に限らず顔面の外傷・腫瘍・嚢胞(のうほう)・唾液腺疾患・口腔粘膜疾患など幅広い疾患に対応可能です。
そのため、外科的治療だけでなく、内科的治療も行えるのが特徴的です。
歯そのものに原因が生じている場合は歯科医院での治療で問題ありませんが、歯そのもの以外に原因が生じている場合は口腔外科を受診しましょう。
医師の違い
歯科医院では歯の治療・健康管理・保健指導を中心に行われています。むし歯や歯周病の治療はもちろん、あらかじめ予防治療を行うことなどが求められています。
反対に口腔外科医は治療により食事や会話などの機能的障害の回復から審美的障害からの解消が目的です。そのため口腔外科医が行う治療は多岐におよびます。
日本口腔外科学会では専門の医師認定制度があります。
口腔外科専門の医師は歯科医師免許取得後、初期臨床研修を修了してから6年以上学会認定の研修施設に所属し、口腔外科に係る診療と学術活動に従事することが必須です。
専門の医師認定後も定期的に更新制度があるため、学識を高め、診療技能の向上が求められます。
設備の違い
歯科医院では歯を治療するための設備に限られますが、口腔外科では幅広い疾患への対応を行うために歯科医院にある設備のほかにもさまざまな設備が整えられています。
例えば、外科的手術用の手術室・滅菌室・手術後の全身麻酔から覚めるまでの休憩室・生体情報モニターなどが挙げられます。
口腔外科での親知らずの抜歯では多量の出血が伴うケースや全身麻酔が採用されるケースも多いため、これらに対応した設備の充実が重要です。
親知らずを抜かなくてもよいケースとは?
親知らずは抜歯しなければならないのかどうかというと、必ずしも抜歯が必要とは限りません。
抜歯の必要がなければ温存しておくことで噛み合わせに影響を与えないことが大切です。
では、親知らずを抜かなくてもよいケースとはどのような場合でしょうか。具体的な例をみていきましょう。
まっすぐ生えている
親知らずがまっすぐ生えている場合はほかの歯へ影響する可能性が低いため、抜歯せずにそのまま温存することになります。
正常に生えてくることが珍しい親知らずですが、まっすぐ正常に生えている場合は親知らずがあることで歯並びや噛み合わせが整っていると考えられます。
そのため、まっすぐ生えている親知らずを抜歯してしまうと悪影響を及ぼす可能性が高いです。
特に親知らずがほかの歯に問題なくまっすぐ生えているのであれば抜歯する必要性はないでしょう。
噛み合わせに問題がない
噛み合わせに影響を与える親知らずですが、抜歯しなくても噛み合わせに問題がない場合は無理に抜く必要はないでしょう。
親知らずの生え方によってはほかの歯を圧迫して噛み合わせが悪くなることもありますが、抜歯しなくても噛み合わせに問題が生じていなければ不必要に抜歯する必要はありません。
奥歯が抜けておりブリッジの土台にする場合
親知らずがまっすぐ生えている場合、親知らずの手前にある臼歯が抜けたときにブリッジの土台にするため、抜歯しないほうがよいでしょう。
臼歯が抜けた場合、親知らずを削ってブリッジの土台として活用できます。
また、入れ歯を採用する際にバネをかける役割として、親知らずを残しておくこともあります。
このようにほかの歯を補填したり、ほかの治療を助ける役割を担ったりと抜歯せずに残しておくメリットは数多くあるでしょう。
ただし、親知らずが曲がって生えていたり、歯肉に覆われていて隠れていたりする状態だとブリッジの土台や入れ歯のバネかけには不向きです。
あくまでも、親知らずがまっすぐしっかり生えている場合に限られるでしょう。
親知らずの抜歯を口腔外科で行う場合の費用相場
親知らずの抜歯は保険適用になる治療に該当します。親知らずの生え方・手術に要する麻酔方法・レントゲンや薬代などによって費用に幅があります。
通常の親知らずの抜歯では下記のような費用です。
- 保険適用(3割負担)3,000〜4,000円程度
- 即時抜歯で本数が1本あれば、7,500〜9,000円程度
- 即時抜歯で本数が2本であれば、8,000円〜13,000円前後
- 即時抜歯で本数が4本であれば、12,000円〜19,000円前後
ただし、痛みをできるだけ抑えるために静脈内鎮静法を採用した場合は追加料金が発生します。
また、基礎疾患があるなど術後も経過管理が必要な場合は入院が必要になることもあります。
まとめ
本記事では、親知らずの抜歯を口腔外科で行うメリットについて、歯科医院との違い・費用も解説しました。
親知らずはまっすぐ正常に生えてくるケースが珍しく、横や斜めに生えたり、歯茎に隠れたままになっていたりと抜歯が困難なケースが多くみられます。
歯科医院で親知らずの抜歯も可能ですが、専門性が高く、困難なケースでも対応できる口腔外科で抜歯するのがおすすめです。
口腔外科は口腔内のみならず、顔面や口腔周辺の外科的治療から内科的治療まで幅広く対応しているのが特徴です。
口腔外科では専用の手術室や減菌室など設備が充実していることからも親知らずの抜歯について不安なく受診できるでしょう。
親知らずの抜歯は保険適用になる治療に該当しますが、静脈内鎮静法の採用や入院の要否によっても費用が変わるため、担当の医師から説明を受ける際に確認が必要です。
親知らずの抜歯を不安なく受けるなら専門性が高く、どのような症例にも対応できる口腔外科を受診してみてはいかがでしょうか。
参考文献