原因はよくわからないけれど顎が痛い。そのようなときには専門の医療機関で診察を受けるのが望ましいです。顎が痛い原因によっては、早急な治療が必要になることもあります。そこで気になるのが「顎が痛い」ときに受診すべき診療科です。顎が痛い症状でまず思い浮かぶのは、顎関節症という方が多くを占めるのではないでしょうか。関節のことなら整形外科が適しているように感じますが、実際はそうとは限りません。ここでは顎が痛いときに受診すべき診療科や治療方法、自宅でのケア方法などについて詳しく解説します。
顎が痛い原因と主な症状
はじめに、顎が痛いときの原因やそれに伴う症状について確認していきましょう。
- 顎が痛い場合に考えられる病気は何がありますか?
- 顎が痛い場合には、顎関節症、おたふく風邪(流行性耳下腺炎)、外傷による骨折、むし歯、親知らずのトラブル、歯ぎしり・食いしばりによる影響などが背後に潜んでいるかもしれません。それぞれ原因や症状、発症のメカニズムが異なるため、一概に語ることは難しいですが、顎が痛いという症状が現れやすいという点で共通しています。
- 顎が痛くなる原因を教えてください
- 顎が痛くなる主な原因は、以下のとおりです。
【原因1】顎関節症を発症している
顎関節症とは、頭蓋骨と下顎骨とをつなぐ顎関節やその周囲の筋肉に異常が生じて、顎の痛みや関節雑音などを引き起こす病気です。お口の中や全身の健康状態に明確な異常がなく、顎の痛みが慢性的に続いている場合は、顎関節症を発症している可能性が高いです。
【原因2】おたふく風邪にかかっている
流行性耳下腺炎であるおたふく風邪は、ムンプスウイルスによる感染症です。文字どおり耳下腺という顎の近くにある唾液腺に炎症反応が起こって、顎の痛みや腫れ、発熱などを引き起こします。発症から2~3日経過すると顎の痛みや腫れがピークを迎えることから、その他の病気とは区別しやすいです。
【原因3】顎に外傷を負った
交通事故やスポーツで顎を強打した際に、顎骨および顎関節が損傷することがあります。顎が痛いという症状が現れる直前、あるいは数日前にそうした外傷を負っているのであれば、原因も特定しやすいことでしょう。
【原因4】重度のむし歯にかかっている
むし歯を放置して重症化させると、顎骨骨膜炎(がっこつこつまくえん)や顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)などを発症して、顎が痛くなることもあります。
【原因5】親知らずがトラブルを引き起こしている
親知らずの周りで細菌感染が起こったり、完全埋伏の親知らずに含歯性嚢胞(がんしせいのうほう)が生じて肥大化したりすると、顎が痛くなる場合もあります。
【原因6】歯ぎしり・食いしばりをしている
歯ぎしり・食いしばりが習慣化していると、歯や顎の骨、顎関節に大きな負担がかかって痛いと感じることもあります。
- 顎関節症において顎が痛い以外の症状はどのようなものがありますか?
- 顎関節症では、顎が痛い以外にも以下に挙げる症状が見られます。
・口を大きく開けられない(開口障害)
・口を開けると「ジャリジャリ」「カクン」と音が鳴る(関節雑音)
・下顎を左右に動かしにくい
・食べ物を噛みにくい
・食事や会話で顎がだるくなる
どの症状が現れるかは、ケースによって異なります。
顎が痛いときに受診する診療科と治療方法
次に、顎が痛いと感じたときに受診すべき診療科と具体的な治療方法について解説します。
- 顎が痛いときは何科を受診すればよいですか?
- 顎が痛いと感じたら、まずは歯科の口腔外科を受診するのが望ましいです。口腔外科は、お口の外傷や病気を専門に治療する診療科なので、顎関節症、顎の外傷、顎骨骨髄炎、含歯性嚢胞、親知らずのトラブル、歯ぎしり・食いしばりなどに対応できます。おたふく風邪に関しては、基本的に歯科ではなく内科を受診しましょう。
- 病院に行くべきかの判断基準を教えてください
- 顎の痛みが慢性化していて、日常生活に支障をきたすようであれば、歯科医院を受診しましょう。顎が痛いと感じるのが特定のシチュエーションのみで、痛みの程度も軽いのであれば、急いで病院を受診する必要はありません。経過を見たうえで、痛みが続く場合は、病院の受診をおすすめします。
- 顎関節症に対してはどのような治療を行いますか?
- 顎関節症の治療方法は、症状や原因によって異なります。軽度の顎関節症では、マッサージや温熱療法、低周波治療などが効果的です。歯ぎしり・食いしばりが原因の場合、ナイトガード(マウスピース)を使用することが推奨されます。重症例では、顎関節に潤滑剤を注射したり、変形した顎関節に外科的な処置を施したりする方法で治療を行う方法もあります。
- 顎関節症を放置した場合はどうなりますか?
- 顎関節症は、何もせずに放置しても自然に治ることがあります。そのため症状が軽く、日常生活に支障をきたさない場合は、しばらく様子を見てもよいでしょう。もし顎関節症の症状が慢性化して、食事や会話、睡眠などの妨げとなるようであれば、適切なタイミングで口腔外科を受診してください。ちなみに、外科手術をはじめとした専門性の高い顎関節症の治療を行う場合は、大きい病院の口腔外科が望ましいですが、マウスピースを用いたスプリント療法の場合、口腔外科の診療に対応している歯科医院でも問題ありません。
自宅でできる顎が痛い場合のケア方法
ここでは、顎が痛い場合のセルフケア方法について解説します。
- 急に自宅で顎が痛くなった場合の対処方法を教えてください
- 自宅で顎が痛くなり、すぐには病院を受診できない場合は、以下の方法で対処しましょう。
【対処法1】顎関節に負担をかけない
顎が痛い状態で顎関節に大きな負担をかけると、症状がさらに強くなります。具体的には、あくびでお口を大きく開けたり、頬杖をついたりする行為は控えてください。顎の痛みが軽くなるまで、あるいは病院を受診するまでは安静に過ごしてください。
【対処法2】市販の鎮痛剤を飲む
顎の痛みが強くて、日常生活に支障をきたす場合は、市販の鎮痛剤を服用しましょう。鎮痛剤は対症療法でしかありませんが、病院を受診するまでの痛みやストレスを軽減するうえで有効です。
【対処法3】顎を冷やす
顎が急に痛くなったということは、急性の炎症反応が起こっている可能性が高いため、患部を保冷剤や濡らしたタオルで冷やすと症状の緩和につながります。
- 顎関節症を予防につながる生活習慣の改善はどのようなものがありますか?
- 次の生活習慣を意識することで、顎関節症を予防しやすくなります。
【生活習慣1】極端に硬い食べ物を噛まない
ナッツ類やおせんべい、フランスパンなどは、顎関節に大きな負担がかかるため、極力避けるようにしてください。もともと顎関節の調子が悪い方は、日頃から軟らかい食べ物を意識的に摂るとよいでしょう。
【生活習慣2】食事のときは両側でバランスよく噛む
片側だけで噛む癖は、片方の顎関節に過剰な負荷がかかり、顎関節症の発症リスクを増大させます。そのため食事のときは両側の歯でバランスよく噛むことが大切です。
【生活習慣3】仰向けで眠る
うつ伏せ寝や横向き寝は、4〜6kg程度の頭部の重みが顎にかかることから、顎関節症を誘発しやすくなります。そのリスクを回避するためには、普段から仰向け寝を心がけることが大切です。
【生活習慣4】歯を食いしばらない
歯の食いしばりは、顎関節症の主なリスク因子です。日常生活で歯を食いしばる習慣がある方は、それを改善するよう努めましょう。特にスポーツや勉強、仕事に集中しているときが要注意です。
編集部まとめ
今回は、顎が痛い症状と原因、受診すべき診療科について解説しました。顎が痛い原因の多くは口腔内にあることから、まずは歯科・口腔外科を受診するのが望ましいです。おたふく風邪のような全身の感染症が原因で顎が痛くなっている場合は、例外的に内科などを受診しましょう。顎関節症による顎の痛みは、マウスピースを使ったスプリント療法で改善するのが一般的ですが、重症例では外科手術が必要となることもあります。
参考文献