親知らずは、いくつかの理由からトラブルが起こりやすくなります。なかでも特に注意すべきは細菌感染です。親知らずが細菌に感染すると、通常よりも症状が強くなりやすいためといわれています。
この記事では、親知らずが細菌感染する原因や症状、治療する方法を解説します。親知らずに痛みや腫れがあったり、開口障害や嚥下困難などが見られたりする方は、このコラムを参考にしてみてください。
親知らずが細菌感染を起こす原因
親知らずが細菌感染を起こす原因を確認しておきましょう。
歯磨きが行き届いていない
親知らずが細菌感染する主な原因は、口腔ケアが不十分であることです。親知らずというのは、まっすぐ正常に生えていることの方が珍しい永久歯で、歯磨きしにくい点に注意が必要です。
半分だけ歯茎に埋まっていたり、斜めに生えていたりする親知らずは、普通の歯ブラシで漫然と磨いていたのでは磨き残しが生じます。その結果、親知らずの周りに歯垢や歯石が堆積していくのです。
食べかすの蓄積と細菌繁殖が起きている
親知らずの周りには、歯垢や歯石だけでなく、食べかすも蓄積しやすいです。歯垢や歯石は主に細菌の住処となる汚れですが、食べかすはエネルギー源となって細菌繁殖を促します。親知らずの周りで細菌の数が増えると、歯周病やむし歯といった細菌感染症のリスクも上昇します。
口腔内の細菌バランスが乱れている
お口のなかには、700種類以上の細菌が生息しています。このなかには悪玉菌だけでなく、善玉菌も含まれており、バランスを保っているのが健全な口腔です。
親知らずのような細菌の住処となりやすい歯があると、悪玉菌の数が増えて口腔内の細菌バランスが乱れます。悪玉菌が優勢になれば、細菌感染のリスクも高まります。
疲労などにより免疫力が低下している
細菌感染のリスクは、口腔内の衛生状態のみに左右されるものではありません。疲労や睡眠不足、ストレスなどによって全身の免疫力が低下していると、細菌と戦う力、細菌を追い出す力が衰えて感染のリスクが高まるからです。
忙しく働いている人や全身の病気によって免疫力が低下している人は、親知らずの細菌感染も起こりやすくなっています。
細菌感染をすると現れる症状
親知らずが細菌感染すると、以下に挙げる症状が現れることがあります。ここでは親知らずの細菌感染として、智歯周囲炎(ちししゅういえん)や親知らずのむし歯、歯性感染症(しせいかんせんしょう)などを想定しています。
強い痛みと腫れ
親知らず自体に細菌感染が起こり、むし歯を発症している場合は、親知らずそのものに強い痛みが生じます。この痛みは、その他の永久歯のむし歯と違いはありません。親知らずのむし歯が重症化して歯茎が腫れている場合は、根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)が疑われます。
親知らずの周りの歯茎に細菌感染が起こった場合は、歯茎に強い痛みや腫れが生じます。これは親知らず特有の歯周疾患である智歯周囲炎で、通常の歯周病よりも重症化しやすい点に注意が必要です。
膿と口臭が発生
智歯周囲炎が進行すると、歯茎から膿が出たり、口臭が強くなったりします。歯茎から膿が出ているのは、細菌が異常繁殖している証拠です。また、歯周病菌はメチルメルカプタンという腐った野菜の臭気を放つガスを産生することから、口臭が強くなりやすいです。
開口障害や嚥下困難が生じる
親知らずの細菌感染では、お口を大きく開けられなくなる開口障害(かいこうしょうがい)や食べ物が飲み込みにくくなる嚥下困難(えんげこんなん)が生じることがあります。
これらは主に歯性感染症による影響といえるでしょう。歯性感染症とは、歯が原因で発症する感染性疾患で、歯槽骨炎(しそうこつえん)、顎骨骨膜炎(がっこつこつまくえん)、顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)、蜂窩織炎(ほうかしきえん)、歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)などが挙げられます。
細菌感染が歯の周りや根っこの先にとどまらず、より広範囲に広がった状態です。特に親知らず周囲の組織が腫れると、顎関節や咽頭・喉頭にまで影響して、口が開けにくい、食べ物を飲み込みにくいという症状が現れやすくなります。これは親知らずの細菌感染のなかでもかなり重症度の高い症例といえます。
発熱と倦怠感
親知らずの細菌感染に伴う発熱と倦怠感も歯性感染症が原因となりやすいです。細菌感染や炎症反応が広範囲に及んでいるため、全身の病気と同じような症状が現れることがあります。親知らずの細菌感染と発熱・倦怠感には何ら関連性が認められないように感じるかもしれませんが、実際は強く関係していることもあるのです。
親知らずが細菌感染した際の治療方法
親知らずが細菌感染した場合は、その原因によって治療方法も変わってきます。
抗生物質の処方
親知らずの細菌感染によって重度の智歯周囲炎や歯性感染症を発症している場合は、抗生物質が処方されます。抗生物質は、特定の細菌に対して高い効果を示す薬剤であるため、親知らずの細菌感染の治療法としては有効です。
ただし、親知らずの細菌感染を抗生物質の服用だけで完治させることは不可能です。抗生物質の効果は細菌の数を減らし、その活動を抑える程度にとどまるからです。一般的な細菌感染症であれば、抗生物質と自然免疫の力も使いながら、完治へと向かわせることは可能ですが親知らずは例外です。親知らずそのものが細菌の住処となっていることから、感染源である親知らず自体への処置が不可欠です。
切開による排膿処置
親知らずの細菌感染で、歯茎から膿が出ている場合は、切開による排膿処置が有効です。膿が貯留している部位をメスで切開し排出を促します。
排膿処置によって歯や歯茎の不快症状は一時的に改善されますが、根本的な解決にはなりません。細菌が異常繁殖している感染源を取り除かない限り、再び膿が形成されるからです。重症化した場合は原因歯を適切に治療する必要があります。
親知らずの抜歯手術
親知らずのむし歯や歯周疾患、それに伴う歯性感染症などが進行すると、通常のむし歯治療や歯周病治療では対応が難しくなります。このような場合に選択されるのが親知らずの抜歯です。
感染源となっている親知らず自体を抜歯することで、強い痛みや腫れ、膿の発生などを緩和できます。ただし、親知らずの細菌感染によって強い炎症反応が起こっている状態で抜歯をすると、より深刻なトラブルを引き起こしかねないため、準備段階として消炎処置は徹底する必要があります。
親知らずの細菌感染を防ぐ方法
親知らずやその周囲の組織に細菌感染が起こると、さまざまな症状を引き起こしかねないため、可能な限り予防するのが望ましいです。親知らずの細菌感染を防ぐ方法としては、以下の4つが挙げられます。
しっかりと歯磨きを行う
親知らずの細菌感染を防ぐうえで重要となるのは歯磨きです。毎日の歯みがきをしっかりと行うことで、歯垢や歯石の堆積、汚れの蓄積を防ぎ、細菌の活動も抑えられます。
ただし、親知らずはほかの永久歯とは異なり、通常の歯磨きをしていてもプラークフリーな状態を作ることは簡単ではありません。親知らずは歯列の一番奥に生えてくるだけでなく、半分だけ顔を出していたり、斜めに生えていたりするからです。
親知らずの正しい歯磨きの方法は、歯科医院で教えてもらうようにしてください。自己流で歯磨きしていると、歯垢や歯石が着実に堆積していきます。親知らずが真っすぐ正常に生えている場合もその位置関係から磨き残しがあるので、歯科医院での定期的な歯磨き指導を受けるようにしましょう。
マウスウォッシュを使用する
マウスウォッシュは適切な方法で使用することで、お口の健康維持に役立ちます。特に磨き残しが出やすい親知らずが生えている患者さんには推奨できます。
マウスウォッシュには、細菌を殺す作用や活動を抑える作用が期待でき、薬用成分をお口のすみずみまで行き渡らせやすいのです。マウスウォッシュの殺菌作用や抗菌作用は、お口の粘膜にダメージを与えるおそれはないのですが、歯磨き後や出先での食後、就寝前などに使うことで、お口を清潔に保ちやすくなることは間違いありません。
ただし、注意が必要なのがマウスウォッシュの効果に頼り過ぎてしまうことです。マウスウォッシュでお口のなかをクチュクチュと30秒程うがいをすると、さっぱりとした爽快感はありますが、この製品で落とせるのは食べかすの一部だけです。マウスウォッシュでは、歯石はもちろんのこと、歯垢も落とすことはできませんので、あくまで歯磨きの補助的なケアとして活用するようにしましょう。
定期的に歯石除去を行う
親知らずの細菌感染の原因となる歯石は、歯垢が石灰化して石のように硬くなった物質です。舌で触るとザラザラしていて、歯ブラシでは取り除くことはできません。そのため歯石の除去は、歯科医院に任せるようにしてください。
歯科医院では、歯科衛生士がスケーラーという器具を使って歯石をガリガリと削り落としてくれます。これをスケーリングと呼び、親知らずの細菌感染を防ぐうえでは重要な処置となります。歯石除去は、3~4ヶ月に1回の頻度で受けるのが望ましいですが、親知らずに歯石が付着しやすい、親知らずが不潔になりやすいという方は、1~2ヶ月に1回の頻度で通院してもよいでしょう。
早めに抜歯する
親知らずのむし歯や歯周疾患が重症化して、排膿や開口障害、発熱などが認められたら、適切な処置を施したうえで抜歯することになりますが、それ以前の段階でも予防的に親知らずを抜くことはできます。
例えば、親知らずの生え方が悪くて歯垢や歯石がたまりやすい、親知らずが手前の歯を圧迫しているなどの症状が見られる場合は、予防的に親知らずを抜歯した方がよいでしょう。
親知らず抜歯後の過ごし方
親知らずを抜歯した後の注意点や過ごし方、ドライソケットという厄介な病気の予防方法などを解説します。
抜歯当日の注意点
親知らずを抜歯する当日は、できるだけ安静に過ごすようにしてください。全身の血流がよくなる激しい運動、飲酒、熱い湯船に浸かる入浴は、傷口からの再出血を促したり、細菌感染のリスクを高めたりします。喫煙は傷口の治りを遅らせることから、親知らずを抜いた日だけでなく、しばらくは禁煙するようにしましょう。
腫れと痛みの対処法
親知らず抜歯後の腫れや痛みは、歯科医師が処方する消炎鎮痛剤である程度、抑えられます。抗生物質も処方されますので、それも併せて服用しましょう。
食事の取り方
親知らず抜歯後の食事は、あまり噛まずに飲み込めるものが望ましいです。お粥やリゾット、スープなどは、患部への刺激が少なく、親知らず抜歯後の食事としては適しています。あまり噛まずに飲み込めるものでも、熱いもの、辛いもの、冷たいものも患部を傷めるおそれがあるため避けるようにしてください。
ドライソケットの予防法
親知らずの抜歯後にはドライソケットという合併症を発症することがあります。ドライソケットとは、親知らずを抜いたときにできる穴の骨がむき出しとなり、強い痛みが生じる病気です。骨が外に露出している状態は、細菌感染のリスクも高まることから、親知らずの抜歯後にはドライソケットを予防するよう努める必要があります。 具体的には、親知らずの抜歯後にブクブクうがいを繰り返し行わない、患部を不必要に刺激しない、止血はしっかりと行うことで、抜歯窩に血の塊である血餅(けっぺい)が作られて、ドライソケットを予防できます。
まとめ
今回は、親知らずが細菌感染するとどうなるのか、感染の原因、症状、治療方法について解説しました。親知らずがむし歯になったり、智歯周囲炎を発症したりすると、強い痛みや腫れ、膿の排出などが認められるようになります。重症例では歯性感染症へと進展し、開口障害や嚥下困難、発熱なども伴うことから十分な注意が必要です。親知らずに細菌感染が起こった場合は、薬物療法や切開排膿、親知らずの抜歯手術が適応されます。こうした事態を避けるためには、日頃から口腔ケアを徹底し、歯科医院でのプロフェッショナルケアを定期的に受けることが重要です。
参考文献