顎が痛くてお口がうまく開けられなくなったとき、疑われる疾患のひとつが顎関節症です。お口を開けるときに音がするなど、違和感を持っている人も顎関節症の可能性があります。
以前は歯の噛み合わせが原因だとされてきましたが、ほかにも原因があることがわかっています。また、女性がかかりやすい疾患であると説明している医療機関もあるのです。
顎関節症の原因・症状・なりやすい人・受診の目安・治療法について解説します。予防法・よくない習慣にも触れていますので、参考になれば幸いです。
顎関節症の原因やなりやすい人
- 顎関節症の原因を教えてください。
- 顎関節症の原因については、まだ完全には判明していないところもあります。現時点では以下の因子が積み重なった結果、発症するとされています。
- 環境因子
- 行動因子
- 宿主因子
- 時間的因子
環境因子とは仕事での緊張・多忙な生活など、ストレスにつながるものです。ストレスに起因する歯ぎしりが、顎関節症の発症要因になっているとされています。行動因子とは、顎関節症につながりやすいとされている行動全般のことです。主なものとしては頬杖・楽器演奏・長時間の咀嚼・うつ伏せでの睡眠などが挙げられます。宿主因子とは患者さんの性質に起因するものです。噛み合わせの悪さ・顎関節の弱さなどが挙げられます。ストレスを受けやすい性格も、宿主因子に入れてよいでしょう。時間的因子とは、上記の因子に接した時間の蓄積です。さまざまな因子に接している時間が長くなればなる程、顎関節症を発症しやすくなるというものです。こうした複数の因子によって発症するという考え方を多因子病因説といいます。
- どのような症状が出るのですか?
- お口を大きく開けようとすると、顎に痛みを感じて開けないのが顎関節症の症状です。痛みがない場合でも、お口を大きく開くと顎の関節で異音が発生するという症状もあります。これらの症状が出るメカニズムとしては、以下の5つが想定されます。
- 咀嚼筋の障害
- 顎の関節周辺の組織の障害
- 顎の関節内部の障害
- 顎の関節の変形
- それ以外の要因
症状が類似していても、メカニズムが異なっているのです。どのようなメカニズムで顎関節症を発症しているかについては、医療機関で診断することになります。
- 顎関節症になりやすいのはどのような人ですか?
- 顎関節症の宿主因子に該当する人です。具体的には噛み合わせの悪い人・顎の関節が弱い人・ストレスを感じやすい人が宿主因子に該当するといえます。噛み合わせが悪いと顎に必要以上の負担がかかるため、顎関節症になりやすいとされています。以前はこの噛み合わせのみが顎関節症の原因だとされていたのですが、現在ではあくまでも原因のひとつにすぎないという見方が主流です。顎の関節が弱いと同じ負担をかけてもダメージが大きくなるため、顎関節症につながりやすいとされています。近年の食生活ではやわらかいものの比率が増え、顎の発達が不十分になりやすいという指摘もあります。ストレスを感じやすい人は、顎関節症の環境因子の影響を受けやすいことが発症につながりやすい原因です。ストレスによって生じる歯ぎしりは、顎関節症の原因のひとつだとされています。男女比では女性の方がなりやすいですが、これについては次で説明します。
- 顎関節症が女性に多い理由を教えてください。
- 顎関節症に女性がかかりやすい理由のひとつとしては、男性より女性の方が顎関節や咀嚼筋が弱いことが挙げられます。同じレベルの負担であっても、男性より女性の方が受けるダメージは大きいのです。時間的因子の短縮につながりやすいといえます。女性が男性よりストレスを受けやすいとされているのも、顎関節症になりやすい原因だとみられています。ストレスに弱い原因のひとつは、女性ホルモンの影響で自律神経のバランスが崩れやすいことです。ただし女性がストレスを受けやすいのは、必ずしも宿主因子によるものではありません。「女性はこうあるべきだ」という社会的圧力、環境因子もストレスの多さにつながっているからです。
顎関節症のセルフチェックや治療法
- 顎関節症はセルフチェックで発見できますか?
- 顎関節症のセルフチェックは可能です。以下のようなものが、主なポイントといえます。
- 指3本を縦にそろえた状態でお口に入るか
- 痛みなくお口を開閉できるか
- 硬いものを噛んで痛みやだるさを感じるか
- お口を開閉したときに異音がするか
人差し指・中指・薬指を縦にそろえた状態でお口に入れられなければ、顎関節症を疑った方がよいでしょう。お口を開閉したときに痛みを感じるかどうかも、重要なポイントです。硬いものを噛んだときも同様で、痛みだけでなくだるさを感じるかどうかも問題になります。軽視しやすいのが、お口を開閉したときの異音です。耳の前のあたりで異音が発生しているようなときは、痛みがなくても要注意だといえます。
- 医療機関を受診する目安を教えてください。
- 顎関節症による痛みが自然回復するかどうかが、医療機関を受診する目安です。顎関節症は痛みを感じる段階まで症状が進行していたとしても、その多くは自然回復するという特徴を持っています。痛みが自然回復しない程に重症化するケースは少ないので、あわてて医療機関を受診しないで様子をみるのが正解です。逆にいえば、痛みが自然回復しない程に重症化しているケースは医療機関の力なしでは対処できないといえます。
- 顎関節症の治療法を教えてください。
- 顎関節症の治療法は、口腔内にスプリントと呼ばれる装置を着けることが主流です。スプリントを装着することで歯ぎしりなどによる顎関節への負担を和らげ、症状を改善していきます。スプリントは常に装着しているわけではなく、夜間のみ装着する方法が主流です。痛みを和らげるため、消炎鎮痛剤が処方されることもあります。ただし、行動因子が除去されていなければ治療効果が不十分になりかねません。このため医療機関では、行動因子を除去するための生活改善指導も併せて行うことになります。
- 顎関節症で手術が行われるケースもありますか?
- 顎関節が変形しているようなケースでは外科手術が行われることもありますが、症例としては少数です。顎関節症の原因が噛み合わせだとされていた時代には、歯を削る・抜歯・歯列矯正など外科的療法が選択されていました。しかし不可逆的な治療法であるうえ、治療成績そのものも思わしいものではありませんでした。かえって症状が悪化してしまったケースもあったのです。このため現在の顎関節症の治療法は可逆的なものが第一選択となっており、外科手術が行われることは少なくなっています。
顎関節症の予防法やよくない習慣
- 顎関節症の予防法を教えてください。
- まず必要なのは、環境因子を除去することです。具体的にいえば、ストレスの原因を可能な限り取り除くことが必要だといえます。対人関係で緊張しやすいならば、誰とも会わない時間を作るなどストレス解消に努めるのがおすすめです。ストレス解消のために、軽い運動をする方法なども考えられます。ただし、歯を食いしばるような激しいものは顎関節症の原因になる可能性があるのでおすすめできません。宿主因子の除去については個人での対処は簡単ではありませんが、噛み合わせが悪い場合には歯列矯正という選択肢があります。ストレスが溜まりやすい性格だと感じているならば、カウンセリングも有効です。行動因子を除去することも重要ですが、これについては次で説明します。
- 顎関節症によくない習慣を教えてください。
- 顎関節症の治療・予防において、行動因子除去の重要性は高いです。行動因子につながるよくない主な生活習慣としては、以下のようなものが挙げられます。
- 歯ぎしり
- 歯を食いしばる
- 頬杖
- 長時間の咀嚼
- 左右どちらかの歯だけで噛む
- うつ伏せでの睡眠
いずれの生活習慣も、顎関節に負担がかかるものです。医療機関でも、これらの生活習慣を改善させることに重点が置かれています。生活習慣の改善がなければ治療効果は上がりませんし、顎関節症の再発につながりかねないからです。
編集部まとめ
体質的に顎関節症になりやすい人がいることは確かです。しかし、顎関節症は発症に至りやすい生活習慣である行動因子をいかに除去するかが重要となります。
行動因子に対処しなければ顎関節症の治癒が遅れるばかりでなく、再発を招きやすいという問題を抱えてしまいかねないからです。
医療機関においても、顎関節症になりやすい生活習慣の改善は重要視されています。顎関節症は治療・予防の両面において、セルフケアが大事な疾患なのです。
参考文献