口腔粘膜に擦っても取れない白斑病変が認められたら、それは白板症かもしれません。白板症は、口腔がんとの関係も指摘されている深刻な病変のため、軽視はせずにできるだけ早い専門家の診察をおすすめします。ここではそんな白板症の症状や原因、治療方法、予防方法などを詳しく解説します。舌や歯茎に見慣れない白斑病変がある人は、本記事の内容を参考にしてみてください。
白板症とは
はじめに、白板症の概要や症状、原因について解説します。
白板症の基本事項
白板症は、舌、歯茎(歯肉)、頬の内側の粘膜(頬粘膜)、舌の下の粘膜(口腔底)、および左右の上の歯茎の間の粘膜(口蓋)などに現れる、擦っても取れない白い斑点です。この病変は、放置すると口腔がんに進展する可能性があるため、口腔潜在的悪性疾患とされています。
特に、白斑のなかにただれ(びらん)や潰瘍などの赤い部位が見える場合、すでに初期の口腔がんか、がん化するリスクが高い状態にあります。また、広範囲にわたりいぼ状に盛り上がっている白斑も同様にがん化しやすい傾向にあります。口腔白板症の約10%ががん化すると言われていますが、経過が長くなる程そのリスクは高まり、10年間で約30%ががん化するとの報告もあります。
白板症が見つかった場合、早期の診断と適切な対応が重要です。定期的な歯科検診を受け、異常を感じたらすぐに専門医に相談しましょう。早期発見と予防策を講じることで、口腔がんへの進展を防ぐことが可能です。日常の口腔ケアを怠らず、健康な口腔環境の維持が重要です。
白板症の症状
白板症の症状は、均一型と不均一型の2つに大きく分けられます。触ると表面が滑らかであるか、少しざらざらしているものは「均一型白板症」と呼ばれます。一方、潰瘍を伴ったり、角化して盛り上がったりしている場合は「不均一型白板症」に分類されます。
白板症の特徴は、擦っても取れず、長期間にわたって病変が残り続ける点です。また、白い部分のなかに赤い部分が混ざって見えることや、イボのように盛り上がっている場合もあります。基本的には痛みを感じることはありませんが、赤い部分がただれ(びらん)や潰瘍を伴うことがあり、そのため食べ物が当たると痛みやシミたりといった感覚を引き起こすことがあります。
白板症が疑われる場合は、早めに歯科医師の診断を受けることが重要です。特に、白板症は一部が悪性化する可能性があるため、定期的なチェックと適切な治療が求められます。日常的な口腔ケアを徹底し、異常を感じた際にはすぐに専門医の診察を受けるようにしましょう。
白板症の原因
白板症の原因はいまだ完全には解明されていませんが、口腔粘膜に対する継続的な機械的刺激が主な要因とされています。例えば、悪い歯並びや尖ったむし歯、差し歯、合わない義歯などが口腔内を持続的に傷つけることで白板症を引き起こす可能性があります。さらに、喫煙や過度の飲酒、辛い食べ物や熱い飲み物などの刺激性の高い食品の摂取、ビタミンAやBの不足も白板症の発生リスクを高めると考えられています。
また、加齢に伴う体の変化も一因とされています。年齢を重ねることで、口腔内の細胞の再生力が低下し、白板症の発生リスクが高まることがあります。さらに、カンジダというカビやヒトパピローマウイルス(HPV)の感染も白板症の原因の一つとして挙げられています。特に、HPVは口腔内の健康に大きな影響を与えるため、注意が必要です。
このように、白板症の原因は複数あり、それぞれが複雑に関与しています。早期発見と適切な対策が重要であり、口腔内に異常を感じた場合は早めに歯科医師への相談をおすすめします。健康な口腔環境を維持するために、定期的な歯科検診と日常的な口腔ケアを欠かさないようにしましょう。
白板症と口腔がんの関係
白板症は口腔粘膜に発生する白い斑点で、擦っても取れないことが特徴です。この状態は単なる炎症や刺激によるものではなく、口腔潜在的悪性疾患として認識されています。つまり、白板症は将来的にがん化するリスクがある病変であり、そのリスクを理解することが重要です。
白板症のがん化リスク
白板症のがん化率は約3〜16%とされています。この幅の広さは、個々の症例によるリスクの違いを反映しています。白板症の中でも、赤い部分(びらんや潰瘍)を伴う場合や、広範囲にイボ状の盛り上がりがある場合は、がん化のリスクが高まります。これらの状態は、病理組織学的に上皮性異形成が強い場合に該当し、早期の治療が求められます。
病理組織検査の重要性
白板症が見つかった場合、その一部を切り取って病理組織検査を行うことが重要です。この検査により、がん細胞の有無や、がん化の可能性がある上皮性異形成の程度を確認します。検査結果に基づいて、がん化リスクが高いと診断された場合は、手術による病変部の切除が行われます。一方、リスクが低いと診断された場合は定期的な経過観察が選択されることもあります。
経過観察と早期発見
白板症ががん化するまでには数ヵ月から数年かかることが多いため、定期的な経過観察が重要です。かかりつけの歯科医院で定期的にチェックを受け、口腔内の状態を監視することで、早期に異常を発見し、適切な対応を取ることができます。特に、赤い部分が治らない場合や新たに異常が現れた際は、すぐに専門医の診察を受けることを推奨します。
白板症の検査方法
白板症の検査は、まず視診と触診から始まります。これにより、白斑の大きさや形状を確認し、白斑を噛んでいたり、傷つけていたりする歯や差し歯、入れ歯の存在をチェックします。必要に応じて、歯を丸めたり、入れ歯を調整したりする場合もあります。また、白板症は舌がんとは異なり、噛んでいない歯肉にも発生するケースがあるため、歯磨きの強さが原因となっている可能性も考えられます。その場合、歯磨き指導を行い、正しい歯磨きの方法を教えることもあります。
これらの処置を施しても白斑が改善しない場合は、専門の医療機関への受診をおすすめします。特に、白斑に赤い部分が見られ、その赤みが治らない場合には注意が必要です。がんか否かの簡易的な診断方法は、擦過細胞診(舌がんの検査に用いられる方法)で見ることができます。しかし、確定診断を行うためには、白斑の一部を切り取り病理組織検査を行うことが不可欠です。 病理組織検査では、白斑ががん化しているか、あるいはがん化しやすい状態である上皮性異形成が認められるかを調べます。また、白斑が単に角化が亢進(こうしん)しているだけの状態かどうかも確認します。この検査により、治療方針を決定し、適切な対応を取ることが可能となります。 白板症の早期発見と適切な診断および治療は、口腔がんへの進展を防ぐためにとても重要です。定期的な歯科検診と日常的な口腔ケアを徹底し、異常を感じた場合は早めに専門医に相談しましょう。
白板症の治療方法
白板症の治療方法は、外科手術と経過観察の2つに分けられます。
手術
白板症の治療において、病理組織検査でがんが確認された場合、またはがんになりやすい状態である場合は、手術によって病変を切除することが基本的な方針となります。特に、上皮性異形成が強い場合や角化が亢進している場合は、手術が推奨されます。手術では、病変部位を完全に取り除くことで、がんへの進行を防ぎます。手術後は、再発のリスクを抑えるため、定期的な検診が重要です。
経過観察
がん化するリスクが高くない場合、例えば異型性が弱い、または角化亢進のみが認められる場合には、経過観察を選択するケースがあります。白板症が実際にがんを発症するまでには数ヵ月から数年かかることが多いため、急いで手術を行わずに定期的な観察を行うことで、病変の変化を注意深く監視します。
経過観察の際には、かかりつけの歯科医院で定期的に診察を受けることが重要です。これは、歯や入れ歯、歯磨きの方法が白板症の発生や進行に影響を与えることがあるためです。歯磨きの力加減や入れ歯の調整など、口腔内の環境を整えることで白板症の進行を抑えることが期待されます。
白板症の治療方針は、個々の患者さんの病状やリスクに応じて適切に選択されます。いずれの場合も、早期発見と適切なフォローアップが重要であり、定期的な歯科検診と口腔ケアを怠らないようにすることが、健康維持の鍵となります。
白板症の予防方法
最後に、白板症を予防する方法を解説します。
過度な喫煙や飲酒を控える
喫煙と飲酒は、白板症の発生リスクを高める大きな要因です。タバコの煙には多数の有害物質が含まれており、これらが口腔内の細胞に悪影響を与えます。長期的な喫煙は、白板症のみならず口腔がんのリスクも高めます。また、アルコールも口腔粘膜を刺激し、炎症を引き起こすことがあります。特に、強い酒を頻繁に摂取すると、口腔粘膜が傷つきやすくなり、白板症の原因となりえます。
これらを防ぐためには、まず禁煙に取り組むことが重要です。禁煙をサポートするプログラムや医師の指導を受けることが有効です。また、飲酒の量と頻度を見直し、節度ある飲酒を心がけましょう。適度な飲酒は健康にもよい影響を与えると言われていますが、過度な摂取は避けるべきです。
規則正しい生活を送る
規則正しい生活習慣は、全身の健康維持に不可欠であり、口腔の健康にも大きく寄与します。十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動は、免疫力を高め、感染症に対する抵抗力を強化します。これにより、口腔内の炎症や病変の発生リスクを低減できます。
また、ストレスは体調不良の原因となり、口腔内の健康にも影響を与えます。適切なストレス管理法を取り入れ、リラックスする時間を持つことが大切です。趣味やリラックスできる活動を日常に取り入れ、心身の健康を保ちましょう。
正しい方法で歯磨きする
正しい歯磨きは、白板症の予防に大きな効果があります。適切な歯磨きは、歯垢を除去し、口腔内の健康を維持するために不可欠です。歯磨きは食後30分以内に行い、少なくとも1日2回の歯磨きが推奨されます。
歯ブラシはやわらかめのものを選び、力を入れすぎずに優しく磨くことが重要です。特に、歯と歯茎の境目や舌の裏側、奥歯の裏側など、歯垢がたまりやすい部分を丁寧に磨きましょう。歯磨き粉もフッ素入りのものを使用すると、むし歯予防に効果的です。
また、歯間ブラシやデンタルフロスを併用すると歯と歯の間の歯垢もしっかりと除去することができます。これにより、口腔内を清潔に保ち、白板症の発生を防ぐことができます。
歯科医院で定期検診を受ける
定期的に歯科医院で検診を受けることは、白板症の早期発見と予防にとても重要です。歯科医師による専門的な診察を受けることで、日常の口腔ケアでは気付かない異常や問題を早期に発見できます。特に、白板症の初期段階は自覚症状が少ないため、専門家の目で定期的にチェックしてもらうことが必要です。
歯科検診では、視診や触診、必要に応じてレントゲン撮影などを行い、口腔内の詳細な状態を確認します。また、歯石除去やクリーニングなど、プロフェッショナルな口腔ケアも受けることができます。これにより、歯垢や歯石の蓄積を防ぎ、健康な口腔環境を維持できます。
検診の頻度は、一般的に3ヵ月から4ヵ月に1回が推奨されますが、個々の口腔状態に応じて異なる場合があります。歯科医師と相談し、適切な検診スケジュールを立てることが大切です。
以上のように、白板症の予防には喫煙や飲酒の制限、規則正しい生活習慣、正しい歯磨き方法、そして定期的な歯科検診が不可欠です。これらのポイントを意識して日常生活を送ることで、白板症の発生を防ぎ、健康な口腔を保つことができます。口腔内トラブルの早期発見と予防を心がけ、お口の健康を守りましょう。
編集部まとめ
今回は、舌や歯茎にできる白板症の症状や原因、治療方法などを解説しました。白板症は、口腔粘膜に生じる、擦っても取れない白い斑点で、放置すると口腔がんに進展する可能性がある口腔潜在的悪性疾患に分類されている病変です。根本的な原因は不明ではあるものの、喫煙やアルコールによる化学的な刺激や義歯による機械的な刺激などが誘因になると考えられています。症状が重い場合は、外科手術にて切除し、症状が軽く、悪性化のリスクが少ない場合は経過を見ることも珍しくありません。白板症の症状がある方は、まずは歯科もしくは口腔外科を受診しましょう。
参考文献