耳鳴りを一度は経験した覚えがある人は少なくないのではないでしょうか。
耳鳴りの症状は、ザワザワしたものやキーンとしたものまで人によって聞こえる音はさまざまですが、他人には聞こえない音なので周りの人に不快感は伝わりません。
そのため、耳鳴りを我慢してしまう人も少なくないでしょう。しかし、耳鳴りを放置すると不安や抑うつ・睡眠障害などを発症するリスクが高くなります。
また、顎関節は耳と近いので顎関節症と耳のあらゆる症状は深く関係があります。本記事では顎関節症に関連する耳の症状や治療法などを詳しく解説するので参考にしてください。
顎関節症で耳鳴りはなぜ起こる?
耳鳴りには2つのタイプがあります。自覚的耳鳴りと他覚的耳鳴りです。自覚的耳鳴りはジー・キーン・ザワザワなどの雑音が聞こえるもので、他人には聞こえていません。
周りが静かなときや集中していないときに聞こえやすいです。耳鳴りには個人差があるのでとても不快に感じる人もいれば気にならない人もいます。
なお、自覚的耳鳴りは、音を処理する脳の部位(聴覚皮質)が異常に活動することで引き起こされるといわれています。
ほとんどの場合、耳に関連した病気の症状ですが、異常な活動がなぜ起こるのかのすべては解明できていません。
一方の他覚的耳鳴りは稀な症状です。他覚的耳鳴りの原因は、耳の近くを流れる動脈や静脈の血流による雑音です。
注意深く聞いていると本人以外にも聞こえるので他覚的耳鳴りといいます。
顎関節症で生じる耳の症状
顎関節は耳の位置に近いため、顎関節に異常があると耳にさまざまな影響が出ます。代表的なものは耳鳴り・耳の痛み・耳閉感・難聴・めまいなどです。
耳鳴りには特に注意が必要な症状があります。片耳だけに耳鳴りがある場合や難聴以外の神経症状です。具体的な神経症状は主に以下のものです。
- バランスの維持や歩行が困難
- 回転性のめまい
- 物が見えづらい
- 会話がしにくい
- 発音が困難
- 飲み込むことが難しい
上記のような耳に関連する症状は警戒が必要な症状のため、早急に医師の診察を受けるようにしましょう。
耳鳴り
耳関連の病気で多く見られる症状が耳鳴りです。難聴の症状として耳鳴りを挙げる人も少なくありません。耳鳴りの症状には以下のものが挙げられます。
- 片耳または両耳で音がする
- ジー・キーン・シュー・ザー・ヒューなどの雑音
- 長期間続く場合がある
- 音が途切れる場合もあれば長時間の場合もある
- 眠ろうとすると起こる
耳鳴りは高周波や低周波など個人差があります。耳鳴りの原因にはいくつかあります。
- 音響外傷=ヘッドホンなどの大音響・爆発音
- 老人性難聴=加齢
- 顎関節症
- 耳硬化症
- メニエール病
- 偏頭痛
- 外耳炎
- 耳垢の蓄積
- アレルギー
- 前庭神経鞘腫=脳腫瘍の一種
他覚的耳鳴りの症状の多くは頸部の太い血管から出る早い血流音や乱れた血流音です。血流の乱れは貧血や動脈硬化によっても起こるため、高血圧の人は注意が必要です。
耳の奥の痛み
耳に炎症がある場合に鼓膜の奥が痛むことがあります。耳の痛みの原因として次のものが挙げられます。
- 急性中耳炎=鼓膜の奥の中耳の炎症
- 鼓膜炎=鼓膜自体の炎症
- 外耳炎=鼓膜の手前外耳の炎症
- 先天性耳瘻孔=生まれつき耳の付け根付近に空いている穴の感染
- 水痘
- 帯状疱疹
- 耳の神経痛
耳の痛みとともに顔面神経麻痺やめまいが起こっている場合は、緊急性があります。速やかに医師の診察を受けましょう。
なお、耳の痛みには顎関節症が原因の場合や喉の炎症で舌咽神経の刺激を受けて耳の痛みを感じる場合があります。
耳のつまり
耳がつまった感じやプールで水が入った感じを耳閉感といいます。
耳閉感の症状の表現方法は患者さんによってさまざまですが、耳閉感は一過性のものや病気の兆候の場合もあります。
また、外耳・中耳・内耳で原因はさまざまです。外耳に起こる耳閉感の原因は以下です。
- 気圧の変化
- 過剰な耳垢・異物のつまり
- 洗髪やプールなどの水が入っている
- 外耳炎
- 分泌物が鼓膜に付着
中耳で起こる耳閉感は以下のとおりです。
- 耳管の腫れ
- 耳管狭窄症=耳と鼻をつないでいる管が狭い
- 耳管開放症=耳管が開いたままになる
- 滲出性中耳炎=滲出物が中耳に溜まる
次は内耳で起こる耳閉感です。
- メニエール病
- 突発性難聴
- 耳鳴り
- めまい
- 音響外傷
- 顎関節症
- 低音障害型感音性難聴
耳閉感は風邪やアレルギーの時期や気圧や急激な温度変化などで、突然現れることも少なくありません。
症状が長く続いたり頻繁に起こる場合は、病気が隠れている場合があるので専門の医師に相談しましょう。
難聴
難聴は音が聞こえにくくなる症状で、生まれつきのものを先天性難聴といいます。ほかには加齢性難聴や伝音難聴・感音難聴などがあります。
伝音難聴は、鼓膜に穴が生じたり耳小骨が欠損したりし、音の振動が内耳まで伝わらないようになって起こる難聴です。
伝音難聴を生む疾患には、鼓膜穿孔・中耳炎・先天性耳小骨奇形などがあります。感音難聴を起こす疾患は、突発性難聴・内耳炎・加齢性難聴・聴神経腫瘍などです。
めまい
めまいの症状には、自分や周りがグルグル回転していると感じる回転性のものやフワフワする・気が遠くなる感じ・目の前が真っ暗になる・二重に見えるなどさまざまです。
立っていられないものから一過性のものまで個人差があります。なお、めまいを経験した人でよく見られるのは良性発作性頭位めまい症です。
寝返りや起床時に頭の向きが変わったときに起こる回転性のめまいです。内耳にある耳石器の一部が剥がれて三半規管の中を浮遊するとめまいが起こります。
三半規管は顎関節の奥にあるため、顎関節に異常が起きると三半規管を刺激するのでめまいが起きます。
顎関節症で耳の痛みが生じやすいとき
顎関節は耳穴のすぐ前にあるので、顎関節症になると耳にも異常が生じる場合があることは前述で理解していただけたのではないでしょうか。
顎関節症や耳の痛みは口腔障害も誘発します。顎関節症で起こる口腔障害により、会話するときや食事でお口を大きく開くことが難しくなるでしょう。
口腔障害があると人に会うのが躊躇われたり、食事がおいしく感じられなくなったりなど生活に大きく影響します。
口の開閉
顎関節症の症状にお口を開けようとするときの顎関節の痛みがあります。
痛みの出始めは片側の顔から頭までの痛みとして感じますが、こめかみや頬の筋肉が痛いと感じる場合もあります。
痛みがあるためお口を大きく開くことが困難になり、関節の動きが制限され会話や食事をするときは辛いです。
また、顎を動かすときにカクカクやコキコキと音がする人も少なくありません。
しかし、開閉が困難なときでも指1本程の開口はできて、動かさないでいると痛みはさほど感じません。
症状は一般的には何日か経過する間に徐々に開口量が増えて楽になっていきます。
咀嚼
顎関節症の代表的な症状に以下のものがあります。
- 食べ物を噛むときに痛みを感じる
- 食事中に顎がだるくなる
- 噛みしめると顎関節が痛い
- お口を開閉するときに音がする
- お口の開閉が困難
- お口が左右に動かず開けにくいまたは顎が外れる
上記の症状は食事時に感じる顎関節の症状で、症状があると咀嚼が困難になり食事をする気力も減退します。
しかし、上記の症状は悪化したり良好になったりを繰り返しながら治る可能性が高いので、生活習慣の改善で治療を早めます。
食いしばり・歯ぎしり
顎関節症の患者さんによく見られるのが食いしばりです。
日中気が付くと歯を食いしばっていたり、咀嚼が左右のどちらかに決まっていたりする癖がある人は、顎関節症になりやすい人です。
症状が出やすい人は、精神的なストレスを抱えている人も少なくなく日中に無意識に食いしばりをして、肩や首・顔の筋肉に過剰な緊張をもたらします。
日中の緊張は睡眠障害を招き就寝中の食いしばりや歯ぎしりの原因になります。
耳鳴りが生じやすい人の特徴
個人差もありますが耳鳴りは日によって大きかったり小さかったりを繰り返す場合や、耳鳴りが起こる日や起こらない日があるなどさまざまです。
また、耳鳴りを経験した人の半数以上はストレスや疲労が原因で耳鳴りが増悪したと答えています。
耳鳴りは生活習慣とも大きな関わりがあるため、生活習慣を見直すことで不快な耳鳴りの減少につながります。
ニコチン・カフェインの過剰摂取
カフェインやニコチンの過剰摂取は耳鳴りを増悪させます。
たばこに含まれる有害物質であるニコチンは、血管を収縮させ血液の流れを阻害するため脳に十分な血液が回らなくなります。
また一酸化炭素が血液中のヘモグロビンと結合してしまうと、ヘモグロビンと酸素が結合できないことが脳が酸素不足に陥る原因です。
脳の機能が低下するとめまいに襲われ、血液やリンパの流れの増悪で耳鳴りの症状が起こります。
一方、カフェインの過剰摂取は中枢神経を刺激してめまいや心拍数の増加・吐き気などさまざまな症状をもたらします。
また長期的な過剰摂取は高血圧や骨粗鬆症のリスクが高まるでしょう。なお、妊婦のニコチンやカフェインの過剰摂取は胎児の発育に影響するといわれています。
寝不足
精神的ストレスがあり抑うつや不安障害などを発症すると耳鳴りを生み、睡眠障害が耳鳴りをさらに強くさせます。
睡眠不足で耳鳴りが起こる場合は自律神経の関与が原因です。
自律神経は生命活動を維持する役割を担っていて、活動しているときに働く交感神経と安静時に働く副交感神経がバランスを保っています。
外部的要因や心理的要因により自律神経が乱れると、眠りに入ろうとしても交感神経が優位に立って体が興奮状態を継続している状態のままです。
交感神経が活動し続けると睡眠不足を助長させる原因になります。睡眠不足で耳鳴りが強くなると眠りの邪魔になるため、自律神経の乱れは睡眠不足の悪循環につながります。
低血圧・メタボリック
血圧が低いだけで低血圧症の診断が付くわけではなく、めまいや立ちくらみ・耳鳴りなどいくつかの不快症状と重なって低血圧症と診断されます。
なお、血圧が低くても症状がなく、循環器障害や関連する疾患もない場合を体質性低血圧といいます。また、起立時に立ちくらみやめまいがあるものが起立性低血圧です。
起立性低血圧は代謝機能の異常で起こりますが、同時に脳への血流が一時的に減少してさまざまな症状が現れます。
なお、メタボリックシンドロームは動脈硬化・脳梗塞・心筋梗塞などのリスクが高く、さまざまな病気を引き起こす原因となるので注意が必要です。
顎関節症の治療
顎関節症の治療方法はいくつかありますが原則的には、咬合調整(噛み合わせの調整)で顎関節を正常な位置に戻す治療を行います。
主な治療方法は、スプリント(マウスピース)・開口訓練・マッサージ・湿布・生活習慣の見直しなどです。
なお、ブラキシズム(歯ぎしり)が原因で顎関節症を発生している場合は、ボトックス治療も有効です。
咬合調整
顎関節症の原因はさまざまな原因が重なって起こっていると考えられます。
原因には顎の筋肉の弱さや噛み合わせの悪さがありますが、噛み合わせの悪さだけで急に顎関節症になるとは考えにくく、噛み合わせにほかの原因が合わされ顎関節症を引き起こしたと思われます。
例えば下顎に何らかの外傷を負った場合や、緊張の持続で歯ぎしりや食いしばりなどの精神的な要因が重なり顎関節症を発症する場合もあるからです。
その場合は、原因となった外傷治療や精神的要因の緩和治療とともに噛み合わせの治療を行うようになります。なお、顎関節症の治療は歯を削ったり被せ物をする必要はありません。
スプリント療法
顎関節症の治療には、スプリント療法による治療が行われます。
スプリント療法は、顎関節を正常な位置に戻すため歯列全体を調整できるメリットがあります。
スプリントとは、咀嚼筋の緊張緩和や顎関節への過度な負担を減らし、顎関節を安定した状態に保つことができる可撤式の装置です。
マウスピース型の装置で、装着する時間は基本的には就寝中のみになります。
間違われやすいものにナイトガードがありますが、ナイトガードは歯ぎしりなどを防ぐのが目的で使用するもので、顎関節症の治療目的で使用するものではないので注意しましょう。
耳鳴りを放置するリスク
耳鳴りは、日本人の15%が経験したことがある症状ですが、耳鳴りが苦痛として日常生活に支障をきたしている人は経験がある人の20%にもなります。
耳鳴りを引き起こす原因はさまざまありますが、耳鳴りが悪化する原因には睡眠障害や抑うつ・不安などがあります。
耳鳴りを苦痛と感じている人や耳鳴りに対して不安を強く感じていたりふさぎこんだりする人は、耳鳴りを放置すると重症化するリスクが高い人です。
耳鳴りが重症化すると心理治療などの複合的治療が必要になるため、耳鳴りが苦痛と感じる人は早めに医療機関で受診をおすすめします。
まとめ
顎関節症は、顎の関節が左右非対称になる状態です。お口を開けようとすると痛みがあったりお口が開かなかったりするので驚いてしまいます。
顎関節症は、軽度の場合は時間とともに症状が軽くなる人がほとんどです。
ただし、関節部分の痛みだけではなく耳の痛みがある場合や長期化して咀嚼障害や睡眠障害などを併発している場合は、早めに医療機関を受診する必要があります。
以下では顎関節症のリスクを減らすセルフケアを紹介します。
- 食いしばりや歯ぎしりなどの癖を改善する
- 急に顎だけを動かさない
- 大口を開けてあくびをしない
- 長時間の会話をしない
- 大口を開けて笑わない
- 姿勢を正す
- 電話を肩と首に挟んで行わない
- ほおづえをつかない
上記のほかに症状がある場合は、硬いものを食さないことやうつぶせ寝をしないなども注意点としてあります。
なお顎関節症はカチカチと音が鳴る初期症状を自覚する人も少なくありませんが、音がするようならまず前述のセルフケアを実行して、症状の改善が見られない場合は医療機関を受診しましょう。
参考文献