顎関節症は、顎の関節や筋肉に異常があるときに起こる病気です。
「顎に違和感があるけどこれって顎関節症なの?」「病院に行く必要はあるの?」そんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
本記事では、顎関節症の症状について以下の点を中心にご紹介します。
- 顎関節症の症状
- 顎関節症の症状が見られる場合病院に行くべき?
- 顎関節症を悪化させないためにできること
顎関節症の症状を理解するためにもご参考いただけると幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
そもそも顎関節症とは
顎関節症は、顎の関節やその周辺の筋肉、神経に関わる病気です。また顎は複雑な構造を持ち、食事や会話などの日常生活において重要な役割を果たしています。
顎関節症の症状として、顎関節に痛みや動きの困難さが生じることがあります。
さらに顎関節症は、特定の病態や原因、症状に限定されず、顎関節、咀嚼筋、頚部筋に起こるさまざまな障害を包括的に指す病名です。
日本顎関節学会では、「顎関節症治療の指針 2018」に基づき、病態を明確に分類しています。また、国際的にはDC/TMD分類があり、これを基にした診断基準が2019年に発表されました。
顎関節症には、男女差はないものの、患者さんの多くは女性とされ、特に若い女性や中年の女性に多い傾向があります。顎関節症は日常生活の中で無意識に行っている習慣が原因となることも多く、これを自覚し改善することで予防や症状の軽減ができます。
顎関節症の原因
顎関節症の原因は一つに限らず、複数の要因が絡み合って生じることが多いとされています。
主な要因としては、「歯並びや噛み合わせの悪さによる顎関節への負担」「顎関節の構造上の問題」「ストレスや不安による筋肉の緊張」「外傷」などが挙げられます。
また、日常生活の中の小さな習慣や癖も影響を及ぼすことがあります。
たとえば、頬杖をつく、歯ぎしり、噛み癖、食いしばり、うつぶせ寝、猫背、硬いものを食べる、大口を開けるなどの行動が顎に負担をかけ、顎関節症を引き起こす要因となる可能性があります。
顎関節症は、適切な対処により日常生活に支障が出ない状態を保てますが、症状が重い場合は、放置すると顎の機能が破壊される恐れもあります。
顎関節症の症状
顎関節症は、「あごが痛い(顎関節痛)」「口が開かない(開口障害)」「あごを動かすと音がする(関節雑音)」三つの代表的な症状が現れるとされ、顎関節症の診断のポイントとされています。そのため硬い食べ物や大きな食べ物が食べにくいなど、日常生活へ影響が出る心配があります。もしこの状態を長く放置して慢性に移行してしまうと、治りにくく再発も多くなることや、治療も困難になるといわれています。
以下で、それぞれの症状を紹介します。
顎関節痛・咀嚼筋痛
まず顎関節痛は、主に顎関節周囲の軟組織の「慢性外傷性病」変に起因します。具体的には、滑膜炎や関節包、円板後部結合組織の炎症が挙げられます。これらの炎症が生じると、神経が過敏になり、顎運動時の下顎頭の動きによって痛みが引き起こされます。
「咀嚼筋痛」は、筋膜疼痛によって生じることが多いとされ、局所的な鈍痛や疼くような痛みが特徴です。筋肉の使用に伴って痛みが増し、圧迫すると鋭い痛み(ジャンピングサイン)や関連痛を引き起こすこともあります。特に頬やこめかみの筋肉に痛みが出ることが多く、これが頭痛と誤解されることもあります。
口を開ける際や食事をする際に、このような痛みを感じることがあります。
開口障害
開口障害は、口を開けにくくなる状態のことです。健康な方であれば、人差し指から薬指までの3本の指を縦にして口に入れられますが、これは約40mmの開口量に相当します。開口量が40mm以下の場合、顎関節や咀嚼筋に何らかの異常がある可能性が高いと考えられます。
開口障害にはさまざまな原因があり、大きく分けて筋性、関節円板性、関節痛性、癒着性の4つがあります。
突然口が開かなくなるケースは、多くの場合、関節円板の転位によるものです。
一方で、徐々に開かなくなるケースは筋性の問題が原因であることが多いようです。
開口障害の診断は容易ではありませんが、基本的な診査として、下顎頭が正常に前方に滑走するかどうかを確認します。
滑走が確認できれば、次に最大開口時の咬筋の緊張状態を調べます。
下顎頭に滑走制限がある場合は関節円板性や癒着性の障害が疑われ、滑走はするが開口制限がある場合は筋性の問題が考えられます。
開口障害の管理と治療には、原因の特定とそれに応じた治療が重要です。
適切な診断と治療によって、口を開ける機能の回復と生活の質の向上が期待できます。
関節雑音
関節雑音とは、咀嚼や口を大きく開ける際に音がなる症状のことです。
関節雑音は、主に関節円板の転位や復位に関連して発生します。特に、下顎関節の関節円板が前方に転位し、その後元の位置に戻る過程でカックンといった音が生じることがあります。これは、関節円板性開口障害の一つとされています。
さらに、関節雑音には他のタイプも存在します。
下顎頭や関節窩、関節円板が変形し、これらが直接的あるいは間接的に接触して摩擦することにより、シャリシャリやグニュといった軋轢音が生じることがあります。これらの音は、関節の動きに伴う自然な反応の一部であり、必ずしも異常を示すものではありません。
関節雑音が痛みを伴わない場合は特に治療は不要ですが、音に伴って痛みや不快感がある場合は病院で診察を受けることが推奨されます。
顎関節症の分類
顎関節症は大きくⅠ型・Ⅱ型・Ⅲ型・Ⅳ型の4つに分類されます。
ここでは、それぞれのタイプの特徴について詳しく解説します。
Ⅰ型
Ⅰ型顎関節症は、主に顎の筋肉の過剰な使用による筋肉痛として現れます。このタイプは、特に咬筋と側頭筋が関連しており、これらの筋肉の使い過ぎが主な原因となります。咬筋は頬の部分に、側頭筋はこめかみに痛みを引き起こすことが多く、患者さんはこめかみの痛みを頭痛として訴えることもあります。
Ⅰ型の顎関節症は、咀嚼障害を主な症状とし、咀嚼筋の痛みや、顎、首、肩、腰などに痛みが現れることがありますが、顎関節内の痛みは伴わないのが特徴です。
Ⅱ型
II型顎関節症は、顎関節の靭帯や関節円板の損傷によるものです。このタイプの顎関節症は、「顎の捻挫」と説明されることがあります。
主な症状としては、顎関節の捻挫や外傷による痛みが挙げられます。これは、無理に口を大きく開けすぎたり、固いものを食べ過ぎたりした結果として生じることが多い傾向にあります。
また、歯ぎしりや食いしばりも、II型顎関節症の原因となり得ます。顎関節は耳の穴の直前に位置するため、この症状は耳の痛みと誤認され、耳鼻咽喉科を受診する患者さんも少なくありません。
II型顎関節症は、顎関節周辺の外傷からくる痛みであり、顎関節そのものに直接的なダメージが生じています。
Ⅲ型
Ⅲ型顎関節症は、主に関節円板の位置異常によって発症します。関節円板は、上顎と下顎の骨の間に位置し、クッションの役割を果たす組織です。Ⅲ型の患者さんは、この関節円盤の位置がずれてしまうことにより、口を開ける際に「カクカク」や「ポキポキ」といった関節雑音を伴います。ただし、関節雑音のみの症状であれば、特に治療を必要としないこともあります。
Ⅲ型の顎関節症の原因としては、不正咬合、くいしばり、うつぶせ寝、頬杖などが挙げられます。これらの行為は、関節円盤の位置を不安定にし、そのずれを招くことがあります。
関節円盤のずれが進行して関節雑音が消失してしまうと、開口障害が出現することがあります。開口障害が生じた場合、一般的にマウスピースによる治療が行われます。
Ⅳ型
IV型顎関節症は、顎関節の摩耗やすり減りによるものです。このタイプでは、主に下顎骨の関節突起の変形が見られ、顎関節の構造に深刻な影響を及ぼします。また開口時にジャリジャリとした音(クレピタス)や痛みが伴います。
原因としては、Ⅲ型顎関節症の悪化や骨の病気が挙げられます。IV型の診断は症状だけでは困難な場合があり、疑いのある患者さんはレントゲン撮影によって骨の変形の有無や程度が確認されます。
変形した骨を元の状態に戻すことは困難であるため、治療は痛みのない状態の維持と十分な開口能力の確保が目的となります。
IV型顎関節症は、日常生活における食事や会話などに影響を与える可能性があります。そのため、早期の診断と適切な治療が重要となります。
顎関節症の症状が見られる場合病院に行くべき?
顎関節症は、顎関節や咀嚼筋の問題により、顎の痛み、動きの制限、そして関節の異音などの症状を引き起こします。症状が続く、あるいは日常生活に支障をきたすほどに悪化した場合は、医療機関を受診することが推奨されます。
症状が軽い場合は、まずは1週間程度様子を見ましょう。この期間内に改善が見られない、または症状が悪化するようであれば、受診を検討してください。特に、口が十分に開かない、顎の動きに伴う異音や痛みがある場合は、早急な医療の介入が必要となることがあります。
初診の際は、まず歯科医院を受診することが一般的です。多くの歯科医院では、顎関節症の基本的な診断と治療ができます。
顎関節症と診断されたら、診断や治療設備の整った歯科医院を受診してなるべく早期に治療を受け、症状が治まった後も十分な経過観察が必要となります。
あごの周りには、あごを動かす関節だけではなく様々な組織が付着しています。顎関節症の他にも同じような症状を引き起こす病気が複数あるため、正確な診断を行う上でも内科や耳鼻咽喉科の医師へ受診する必要性があります。
もしこれらの症状について不安がある場合は、かかりつけの医師や歯科医師に一度ご相談ください。
顎関節症は再発する?
顎関節症は、一度治療で症状が改善しても、生活習慣や環境要因により再発する可能性があります。特に、食いしばりや噛みしめといった習慣は、ストレスと密接に関連しており、ストレスが多い生活を送っていると再発のリスクが高まります。このため、顎関節症の治療では症状の改善だけでなく、その背景にある生活習慣やストレス要因の改善も重要です。
さらに、顎関節自体が一度変形や損傷を受けると元の状態に戻ることは難しく、症状が改善した後も継続的なケアや注意が必要です。したがって顎関節症の再発を防ぐためには、長期的な目で、日々の生活の中で意識的にストレスを減らし、顎の健康を維持することが重要です。
顎関節症を悪化させないためにできること
顎関節症は日常生活の中での小さな習慣が大きく影響します。
まずは、顎への負担を減らすための意識が大切です。
例えば、無意識のうちに行っている歯ぎしりや噛み締め、顎を押さえるなどの習慣や、口を無理に大きく開けたり、硬い食べ物を噛んだりすることは避けましょう。これらは顎関節に負担をかけ、症状を悪化させる原因となります。さらに、姿勢にも注意が必要です。
食生活においては、硬い食べ物は避け、おかゆや柔らかい麺類など、噛む力を必要としない食事を選びましょう。
また、食事中には両方の臼歯を使い、ゆっくりと噛むことがおすすめです。
さらに、片側咀嚼は避け、食事中の水分摂取も控えめにしましょう。
顎関節や筋に痛みがある場合は、顔の筋肉をリラックスさせ、歯を接触させないように意識しましょう。
睡眠は仰向けで寝ることや低い枕を使うことが望ましいです。
これらの改善策を日々の生活に取り入れることで、顎関節症の悪化を防ぎ、より快適な生活を送れるでしょう。
顎関節症は自然治癒するのか
顎関節症の症状は一時的なものであり、場合によっては自然に改善することもあります。
例えば、ストレスや特定の口腔習慣によって引き起こされる軽度の顎関節症は、生活習慣の改善によって症状が改善されることもあります。
しかし、症状が進行していたり、顎の歪みや噛み合わせの問題が深刻化していたりすると、これらの問題を単に放置していては改善されることは少ないとされています。そのような場合は、緊張した筋肉を緩め、筋肉のバランスを整えるために、治療やリハビリテーションが必要となります。
また、「治癒」の定義によっても見解は異なります。
痛みや開口障害が改善され、日常生活に支障がない状態を治癒と考えるならば、多くのケースで治癒する可能性はあるといえます。
しかし、顎関節自体の構造的なダメージが修復されることはまれです。このダメージは残り続け、将来的な問題を引き起こす可能性もあります。
このように、症状が軽度の場合は、セルフケアや生活習慣の改善で十分に症状をコントロールできることもありますが、痛みや違和感が持続する場合や、症状が慢性化している場合は、医療機関の受診が推奨されます。
顎関節症は個人差が大きいため、自信に合った治療法を見つけることが大切です。
まとめ
ここまで顎関節症の症状についてお伝えしてきました。
顎関節症の症状について要点をまとめると以下の通りです。
- 顎関節症は、顎の関節やその周囲の筋肉、神経に関わる病気である
- 症状が続く、あるいは日常生活に支障をきたすほどに悪化した場合は、医療機関を受診することが推奨される
- 顎関節症の症状は一時的なものであり、場合によっては自然に改善することもある
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。