親知らずといえば抜歯するもの、というイメージをお持ちの方は少なくないでしょう。
親知らずが生えてきたけれど、抜いた方がいいのか迷っている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、親知らずを抜いた方がいい判断基準や抜くメリット・デメリット・費用を解説します。
親知らずを抜くか迷っている方は、ぜひ参考にしてください。
親知らずを抜いた方がいい判断基準は?
- 親知らずはどの歯をさしますか?
- 親知らずは、大人の歯の一番奥に位置する永久歯です。正式には第三大臼歯といい、智歯(ちし)ともいいます。親知らずは一番前にある中切歯から数えて8番目の位置にあり、永久歯の中で最後に生えてくる歯です。
親知らずが生えるのは18歳~23歳頃で「親に知られずに生える」という意味で「親知らず」といわれています。親知らずは上下左右の奥に計4本ありますが、先天的に生えない・4本揃わない人も多く、生え方には個人差があります。また、最後に生えてくるので場所が不足していたり、生える方向がほかの歯と違ったりすることが多いです。
そのため、骨の中に埋まっている・横向きや斜めに生えているなど正常に生えないケースも少なくありません。
- 親知らずを抜いた方がいい理由は何ですか?
- 親知らずを抜いた方がいい理由は、完全な形で生えないケースが多くむし歯や炎症といったトラブルが起きやすいためです。
例えば、以下のようなトラブルが発生する可能性があります。- 生える際に歯肉に炎症が起きて腫れる
- 汚れが溜まりやすくむし歯や歯周病になりやすい
- 隣の歯を押し出して歯並びが悪くなる
- 智歯周囲炎になって周りの歯肉が腫れる
- 顎関節症になりやすい
一番奥に生えるため歯磨きしにくく、汚れが溜まってむし歯や歯周病になりやすいです。親知らずがむし歯になると、隣の歯までむし歯になることもあります。
斜めや横向きに生えてきた場合、隣の歯を押し出して歯並びが全体的に悪くなる可能性もあるでしょう。また部分的に歯肉が被さった状態だと細菌が繁殖しやすく、周囲の歯肉が炎症を起こし智歯周囲炎になることもあります。
智歯周囲炎が悪化して炎症が広がると、顔が腫れる・口を開きにくい・飲み込みにくい・摂食障害などの症状が出ます。咽頭まで広がると気道が閉塞して呼吸困難になったり、炎症を繰り返すと骨髄炎になったりする可能性もあり注意が必要です。
さらに上下の親知らずが揃わなかったり不完全な状態で生えたりすると、噛み合わせが悪くなって顎の関節に負担がかかり、顎関節症になるケースもあります。
- 親知らずを抜くか抜かないかの判断基準を教えてください。
- 親知らずや周囲にトラブルがあり、治療しても再発の可能性が高い・抜歯で改善が見込める場合は抜く判断をするケースが多いでしょう。
抜くと判断するのは、以下のような症状が出た場合です。- 親知らずや手前の歯がむし歯になった
- 痛みや腫れを繰り返す
- 横向きに埋まっていて手前の歯に影響がある
- 骨の中に埋まっているが嚢胞がある
- 歯茎や頬を傷つけている
- 親知らずが原因と思われる顎関節症の症状がある
親知らずがむし歯になった場合、一番奥にあるため治療しにくく治療後のセルフケアも困難です。治療しても再発する可能性が高いので、治療するより抜歯した方がいい場合もあります。
手前の歯もむし歯になった場合は、親知らずを抜いて隣の歯の治療を優先します。また、横向きに埋まっていて智歯周囲炎や手前の歯を吸収するリスクがある場合は抜歯するケースが多いです。
骨の中に完全に埋まっていて症状がなくても、嚢胞があると神経を圧迫したり化膿したりして痛み・腫れを生じることがあります。嚢胞自体は良性ですが、腫瘍と鑑別するため親知らずを抜いて病理検査を行うこともあるでしょう。
一方で、正常に生えていて症状がない場合・手前の歯が抜けている場合などは、抜かないと判断することもあります。
抜かないと判断できるのは、以下のような場合です。- まっすぐに生えていて上下が噛み合っている
- 正常に生えていてきれいに歯磨きできている
- 骨の中に完全に埋まっていて周囲に悪影響がない
- 入れ歯・ブリッジの土台に使える
- 手前の歯を抜く場合の移植に使える
- 矯正治療で親知らずを正常な位置に動かせる
親知らずの手前の歯を抜いた場合、親知らずを入れ歯やブリッジの土台に使ったり移植したりできるケースがあります。また、まっすぐ生えていなくても矯正治療で正常な位置に戻せるようであれば抜かなくても良いでしょう。
親知らずを抜くか抜かないかの最終判断は、患者さん本人が行います。歯科医師から抜歯のメリット・デメリット・リスクなどの説明をしっかり受け、十分相談したうえで判断しましょう。
親知らずを抜くメリット・デメリットと費用
- 親知らずを抜くメリットを教えてください。
- 親知らずを抜くメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- むし歯や歯周病のリスクを軽減する
- 口臭を予防できる
- 歯並びの悪化を予防できる
- 顎関節症の症状を軽減できる
- (親知らずが原因の場合の)肩こり・頭痛・鼻詰まりが改善する
親知らずの歯磨きが十分にできていないと汚れが溜まり、細菌が繁殖したり炎症を繰り返したりして口臭の原因になります。
親知らずを抜けば奥まで歯磨きしやすく炎症も起きにくくなるため、むし歯や歯周病のリスク軽減や口臭予防になるでしょう。
また、手前の歯を押し出すことがなくなるので歯並びの悪化を予防することができます。親知らずが原因で肩こりや頭痛・鼻づまりが起きているケースでは、抜くことで症状が改善されることもあります。
- 親知らずを抜くデメリットを教えてください。
- 親知らずを抜くデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 抜歯による痛み・腫れがある
- ドライソケットにより痛みが続く場合がある
- 手術部位が感染を起こす可能性がある
- 下の親知らずを抜いた場合、下唇が麻痺するリスクがある
抜歯中は麻酔をするため痛みを感じることは少ないですが数日~1週間は痛みや腫れがあるので、大事な予定がある場合はスケジュールを調整する必要があります。
抜歯した穴を塞ぐ血餅ができないと、ドライソケットという痛みが続く状態になることがあります。ドライソケットになると、通常痛みが落ち着き始める3~5日目から強い痛みが出るのが特徴です。
また、下の親知らずが下顎の神経組織に接していると手術の際に神経を圧迫・損傷し、下唇が麻痺するリスクもあります。
回復には数ヶ月~数年かかりますが、神経麻痺が発生する確率は0.6%程度で、感覚の麻痺のみのため顔の筋肉が動かない・顔が歪むなどの症状は出ません。
- 親知らずを抜く治療の費用相場はどのくらいですか?
- 費用は、親知らずの状態によって異なります。保険診療(3割負担)での抜歯費用は1本あたり1,210円~4,330円です。
抜歯する際は、診察料・各種検査代・薬代・消毒代・抜糸代などの別途費用がかかります。保険適用の場合、初診料・抜歯代・薬代を合わせて1本あたり5,000円~12,000円が相場でしょう。
また、必要に応じてCT撮影(3割負担で3,500円)を行うこともあります。矯正治療目的の場合は保険適用外となり、費用は歯科医院によって異なりますが6,000円~22,000円(税込)が相場です。
親知らずを抜く際に気を付けたいこと
- 親知らずを抜く際に気を付けたいことはありますか?
- 抜歯当日は十分睡眠をとり、体調を整えておきましょう。術後は麻酔が切れるまで食事を控えてもらうので、抜歯する少し前に食事を済ませてください。
食べすぎたり直前に食べたりすると嘔吐する危険があるため、注意しましょう。感染リスクを下げるためにも、お口の中は清潔な状態にしておいてください。
- 親知らずを抜いた後の痛みはどのくらい続きますか?
- 痛みや腫れは個人差がありますが、下顎の方が痛みや腫れが出やすい傾向にあります。痛みのピークは当日〜翌日で数日~1週間程度続きます。術後に痛み止めの薬が処方されるので、歯科医師の指示通りに服用してください。腫れのピークは術後2~3日後で、1週間程度で元に戻ります。下の親知らずの場合、腫れてお口を開けづらくなったり噛みにくくなったりすることもあるでしょう。痛みや腫れは徐々に落ち着いていきますが、続く場合には歯科医師に相談してください。
- 親知らずを抜いた後の治療期間はどのくらいですか?
- 翌日に抜歯した穴の確認・消毒を行い、1週間~10日後に術後検査・抜糸を行います。
このころには粘膜が治癒し始め、親知らずが生えていたところの骨は3ヶ月~6ヶ月かけて治癒していきます。抜歯した穴が完全に塞がるのは、抜歯した数ヶ月先です。
- 親知らずを抜いた後の生活で注意点はありますか?
- 親知らずを抜いた後は、以下のことに注意しましょう。
- 当日は飲酒・激しい運動・入浴などは避ける
- 頻回のうがい・激しいうがいをしない
- 抜歯箇所は歯磨きしない
- 口腔内を清潔に保つ
- 3日間はやわらかいものを食べ刺激物は避ける
- 抜歯した方とは反対側で噛む
当日は飲酒・激しい運動・入浴など血行が良くなることは避け、なるべく安静にしましょう。
術後数日間は唾液に血液が混じるためうがいをしたくなりますが、激しくうがいをすると血餅が取れて治癒が遅れてしまいます。完治するまでは穴が開いている状態なので、お口の中を清潔に保ちましょう。
食べ物が詰まったときは指や下で取ろうとせず、軽く水でゆすぐようにします。
編集部まとめ
この記事では、親知らずを抜いた方がいい判断基準や抜歯するメリット・デメリットを解説しました。
親知らずは正常に生えないことも多く、むし歯や炎症といったトラブルを引き起こす可能性もあります。
痛みや腫れなど親知らずによる症状がある場合には歯科医師に相談し、メリット・デメリット・リスクの説明を受けたうえで抜くかどうか判断しましょう。
参考文献