親知らずは、口腔内に収まりきらないため、歯並びの乱れや痛み、感染症のリスクなどが生じます。さらに、周囲の神経や血管に影響を与え、頭痛や顔面の腫れなどの全身症状も引き起こすことがあります。
親知らずの抜歯は、これらの問題を改善する治療法ですが、手術に伴うリスクや注意点もあるため、理解しておくことが大切です。
本記事では、親知らずがもたらす影響について解説します。
- 親知らずと歯並びの関係
- 親知らずの抜歯
- 親知らずの抜歯後の注意点
親知らずがもたらす影響について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
親知らずと歯並びの関係
親知らずと歯並びにはどのような関係があるのでしょうか?以下で歯列矯正と嚙み合わせへの影響を併せて解説します。
歯並びへの影響
親知らずは、位置や角度によって歯並びに影響を与えることがあります。特に横向きに生えた親知らずは、隣接する歯を押してしまうため、歯並びを悪化させるリスクがあります。
このため、若いころは整っていた歯並びが、年齢と共に乱れる例がしばしば見られます。しかし、親知らずが歯並びに与える影響は、医学的に明らかになっていません。
全てのケースで親知らずを抜く必要があるわけではなく、場合によっては残すべきとする医師の判断もあります。治療方針は、検査結果に基づき、歯科医師のアドバイスに従うことが重要です。
歯列矯正への影響
歯列矯正後の安定を保つため、多くの人が保定装置(リテーナー)を使用しますが、親知らずの存在が後戻りのリスクを高めることがあります。
特に、下顎に真横に生えた親知らずは、隣の歯を押し、その影響が前歯にまで及ぶことがあるため、矯正治療を終了するときには親知らずが抜歯されているのが理想的です。
矯正治療前に親知らずが原因で歯並びが乱れていると判断される場合、歯が押されてしまう可能性があるため抜歯を行うこともあります。したがって、矯正治療を進めるためにも、適切なタイミングでの抜歯が推奨されます。
噛み合わせへの影響
親知らずが横向きに生えていると、周囲の歯を押して歯並びを変え、噛み合わせの問題を引き起こすことがあります。不適切な噛み合わせは顎関節症の原因となり、これが進行すると、筋肉のアンバランスや顔の非対称性、肩こりや頭痛へと繋がる可能性があります。 また、顎が小さい場合、親知らずが適切な位置で生えるスペースがなく、歯列が乱れやすくなります。
これは骨格にも影響を及ぼし得るため、親知らずの抜歯によって噛み合わせの正常化を図ることが重要です。
親知らずと口内環境
親知らずは、生え方や位置により口内環境に大きな影響を与えることがあります。主な影響を以下で解説します。
むし歯や歯周病になりやすい
親知らずは奥に位置するため、歯ブラシが届きにくく、食べカスが溜まりやすい環境を作り出すことで、むし歯や歯周病を引き起こすこともあります。特に斜めに生えた親知らずは、歯茎の中で未発見のむし歯が進行し、ときには抜歯が必要となることもあります。
したがって、親知らずはむし歯や歯周病になりやすいため、適切なオーラルケアと定期的な歯科検診で、これらの問題を未然に防ぐことが重要です。
口臭
親知らずの位置と生え方は、口内環境に大きく影響を及ぼし、口臭の原因となり得ます。親知らずはむし歯や歯周病のリスクを高めるだけでなく、発酵した食べかすや歯肉の炎症による膿が口臭の直接的な原因となります。
さらに、部分的に埋もれた親知らずは、歯茎の溝に細菌が潜んで清掃が困難となり、それが慢性的な口臭を引き起こします。
したがって、親知らず周辺の清掃を徹底すること、定期的な歯科診断を受けることが口臭を防止させるためには重要です。
隣の歯への影響
親知らずが斜めに生えている場合、隣の歯、特に第二大臼歯への影響が顕著になります。親知らずの圧力により、隣の歯の歯根が溶ける「歯根吸収」という現象が起こります。この状態が進行すると、親知らずだけでなく第二大臼歯も抜歯が必要になることがあります。
このように、不適切に生えた親知らずは、隣接する歯にも悪影響を及ぼすため、早期の診断と適切な治療が重要です。
親知らずの全身への影響
親知らずは口内環境だけではなく全身にも影響を及ぼします。以下で見ていきましょう。
周囲への炎症
親知らずの腫れを放置すると、その炎症が顎部分にまで広がり、最悪の場合、全身に深刻な影響を及ぼす可能性があります。この腫れた部分から細菌が体内に侵入し、症状が悪化すると、口を開けることが困難になることもあります。
感染がさらに進行し、喉に広がると、喉下が腫れ、発熱や倦怠感などの全身症状が現れます。
極めて稀ではありますが、この感染が首や胸の周囲を経て内臓や心臓にまで達することもあり、重篤な健康問題を引き起こすことがあります。
したがって、親知らずの腫れが見られた場合は速やかに治療を受けましょう。
頭痛・肩こり
横向きや斜めに生えた親知らずが放置されると、歯に偏りが生じ、その結果、顎周辺の筋肉に余計な負担がかかります。この筋肉の過剰な緊張は、首や頭部にも影響を及ぼし、血行不良を引き起こして頭痛や肩こりの原因となります。
これが顎関節症の症状や、顎の疲労、さらにはこめかみの痛みにつながることがあります。そのため、親知らずが原因で頭痛や肩こりが慢性化する場合もあります。このような問題を避けるためにも、親知らずの発見や症状があれば、早めに歯科医師の診断を受けることが大切です。
親知らずの抜歯
親知らずの抜歯は、噛み合わせの問題や歯並びの悪化を防ぐために行われます。以下で抜歯について詳しく解説します。
抜歯の時期は20歳頃が目安
親知らずは17歳から22歳の間に生え始めますが、場合によっては30代や40代で初めて顔を出すこともあります。抜歯の適切なタイミングは20歳頃とされており、この時期に抜くことで、骨の回復が早く、手術後の合併症のリスクも低減されます。
また、若いときに抜歯を行うことで、抜歯が困難になるリスクや、重要な神経に損傷を与える可能性を減らせます。したがって、親知らずが生え始めたら早めに歯科医の診断を受け、必要に応じて抜歯を検討することが推奨されます。
抜歯後の痛み
親知らずの抜歯は、局所麻酔を使用して行われるため、麻酔が効いている間は痛みを感じることはほとんどありません。しかし、麻酔が切れ始めると痛みが感じられることがあるため、術後は歯科医から処方された鎮痛剤の服用が推奨されます。
特に、歯茎の中や下の顎に埋まっていた親知らずを抜いた場合は、痛みが強く出るとされているため、24時間から3日間は痛みが続くことが少なくないとされています。
したがって、痛みが激しくなったり、予想より痛みが長く続いたりする場合は、再度歯科医院に相談することが重要です。
抜歯後の腫れ
親知らずの抜歯後は、顎の腫れが顕著に現れることが多く、この腫れは2〜3日でピークに達し、1週間程度で落ち着きます。腫れの程度は個人差が大きく、上の親知らずの場合は腫れは少ないですが、下の親知らずは著しい腫れが見られることがあります。
抜歯後は感染予防として抗生剤が処方されるため、歯科医の指示に従って服用することが重要です。また、腫れや痛みが激しい場合は、痛みを和らげるための鎮痛剤の使用や、冷やすことが推奨されます。
抜歯後の腫れは回復しますが、腫れが予想以上に長引く場合や悪化する兆候が見られる場合は、迅速に歯科医師に相談することが望ましいとされています。
抜歯後の食事
親知らずの抜歯後は、食事に注意が必要です。抜歯後の2〜3日間は、傷口に負担をかけないよう柔らかい食事を心掛けましょう。おすすめはおかゆ、柔らかいうどん、または具の少ないスープなどです。
4日目以降、傷口の回復状況に応じて徐々に普通の食事に戻せますが、傷口が塞がるまでの間は、食べ物を噛む際はできるだけ反対側の歯を使用することが望ましいとされています。
また、抜歯直後は局所麻酔の影響で頬や舌が痺れていることが多く、誤って粘膜を噛んでしまうリスクもあるため、麻酔が完全に切れるまでは食事を控え、痺れがなくなってから慎重に食べ始めましょう。
親知らずの抜歯後の注意点
最後に、親知らずの抜歯後の注意点について解説します。詳しく見ていきましょう。
しっかりと止血する
親知らずの抜歯後、適切な止血処置が重要です。親知らずの抜歯後の止血処置は、以下の手順で行います。
- 歯科医から提供された止血用のガーゼを傷口に当てます。このガーゼは、出血を抑えるための重要なツールです。
- ガーゼを傷口に当てたまま、30分間しっかりと噛み続けます。これにより、圧迫止血が行われ、出血が抑えられます。
- この圧迫止血の方法は、傷口からの出血を早期に止め、かさぶたを形成しやすくします。また、適切に圧迫止血を行うことで、出血が減少し、その結果、痛みの発生を抑制する効果が期待できます。
- もし30分経過しても出血が止まらない場合は、清潔なガーゼまたはティッシュを新たに噛み、再度30分間圧迫を続けます。これにより、出血が収まるかどうかを確認します。
- それでも止血がうまくいかない場合は、再度歯科医の診察を受けることが推奨されます。
以上の手順を遵守することで、親知らずの抜歯後の適切な止血処置が可能となります。これらの手順は、出血を抑え、痛みを軽減し、回復を促進するために重要ですが、止血がうまくいかない場合は、再度歯科医の診察を受けることが推奨されます。
うがいは優しく
親知らずの抜歯後のうがいは、慎重に行う必要があります。親知らずの抜歯後のうがいは、以下の手順で慎重に行いましょう。
- 優しくゆっくりとうがいする:抜歯後、傷口には血餅が形成され、治癒過程で重要な役割を果たします。強くうがいをすると、この血餅が洗い流されてしまい、出血が再び生じる可能性があります。したがって、うがいは優しくゆっくりと行い、口の中を軽くすすぐ程度に留めることが大切です。
- 血餅の確認:うがいをした後、口の中に血餅が残っているか確認します。血餅が取れることでドライソケットと呼ばれる痛みの強い状態になるリスクがあります。これは、傷口の骨が露出し、炎症を起こすため、とても不快な痛みを伴います。
- 異常な出血の確認:通常よりも多くの血が溜まるような状態があれば、それは異常な出血の兆候の可能性があります。その場合は、速やかに歯科医院に相談してください。
以上の手順を遵守することで、親知らずの抜歯後の適切なうがいが可能となり、出血を抑え、痛みを軽減し、回復を促進するために重要です。
運動・飲酒・喫煙の制限
親知らずの抜歯後は、血流を促進する行為が出血や合併症を引き起こす原因となり得るため、注意が必要です。
- 運動の制限:抜歯当日は、血流を促進する行為が出血や合併症を引き起こす可能性があるため、運動を控えることが推奨されます。特に、激しい運動は血圧を上げ、出血を増加させる可能性があるため、抜歯当日は安静に過ごし、シャワーで済ませることをおすすめします。
- 飲酒の制限:アルコールは血液の循環を向上させるため、傷口の治癒が遅れたり、出血が続いたりするリスクを高めます。そのため、抜歯後はアルコールの摂取を控えることが、回復に役立つとされています。
- 喫煙の制限:タバコは毛細血管を収縮させ、治癒プロセスを遅らせます。また、術後の痛みを長引かせる可能性があります。これらの理由から、抜歯後はタバコを避けることが、回復に役立ちます。
これらの制限を守ることで、抜歯後の回復をスムーズに進め、出血や合併症のリスクを最小限に抑えられます。健康を第一に考え、適切なケアを心掛けましょう。
まとめ
ここまで親知らずがもたらす影響についてお伝えしてきました。親知らずがもたらす影響の要点をまとめると以下の通りです。
- 横向きに生えた親知らずは歯並びを乱し、矯正治療の結果を妨げ、噛み合わせを悪化させるリスクがあるが、全てのケースで親知らずを抜く必要はなく、治療方針は検査結果と歯科医師のアドバイスに基づいて計画される
- 抜歯後の食事は柔らかいものから始め、傷口が塞がるまで硬い食事は避け、抜歯直後は麻酔が切れるまで食事を控えることが望ましいとされている
- 親知らずの抜歯後は、適切な止血処置、優しいうがい、運動・飲酒・喫煙の制限が重要で、運動・飲酒・喫煙は出血や合併症を引き起こす可能性があるため、抜歯後は控えることが推奨される
親知らずは、歯並びや噛み合わせなどの口腔内に影響を及ぼしますが、進行すると頭痛・肩こりなど全身の健康にも影響を及ぼすとされています。さまざまな症状を避けるためにも、親知らずの発見や症状があれば、早めに歯科医師の診断を受けることが大切です。
親知らずが身体にどのような影響を与えるのか理解して頂けたら幸いです。ここまでお読みいただきありがとうございました。