親知らずを抜歯した後の食事は、傷の治りを左右する重要な因子となります。
抜歯直後の麻酔が効いた状態から、抜歯後1週間の食事について食べた方がよい物・食べない方がよい物を詳しく解説していきます。
親知らず抜歯後の食事は患者さんのセルフケア領域であり、歯科医師が介入できないので患者さん自身の理解が大切です。
傷の治りを阻害する要素を避けて、抜歯後の良好な回復のために必要な食事について理解しましょう。
親知らず抜歯後の食事はどうすればよい?
親知らずを抜歯した後は歯肉に大きな穴が空いた状態で、抜歯当日から数日間かけて自然に傷口が塞がり治癒していきます。
この期間の食事は大変なことも多く、場合によっては傷口が開いてしまったり、感染を起こしたりして治りが遅くなる可能性もあります。
親知らずを抜歯した後の食事の注意点は、抜歯の前から把握しておくことで抜歯後の生活をスムーズにおくれるようになるでしょう。
親知らず抜歯後の食事について、ポイントを解説していきます。
麻酔が切れる前に食事をするリスク
親知らずを抜歯した直後は、手術の際の麻酔が効いている状態です。
抜歯後2〜3時間程で麻酔が切れて傷口の痛みを感じ始めますが、麻酔が効いている間は食事を控えましょう。
その理由は、麻酔によって痛覚が麻痺しているため、食事中に火傷したり傷口が開いたりしても気が付かない可能性があるからです。
口腔内の怪我の対処が遅れて症状が悪くなったり、抜歯後の傷口の治りが悪くなったりするので、食事は必ず麻酔が切れて感覚が戻ってからにしてください。
ただし、抜歯後はお口の中が乾きやすいため、水のみの水分補給は問題ありません。
抜歯当日の痛みが強いときは、冷たい物を食べることで炎症を抑えて痛みを和らげることができます。
冷た過ぎない水や無糖のヨーグルトなどがおすすめで、糖分の高いアイスクリームなどは控えめにしましょう。
また、飲み物を飲む際は、ストローを使わないようにしてください。
ストローはお口の中の気圧を下げて飲み物を吸い上げるものですので、傷口からも吸い上げられてしまい出血が多くなるおそれがあります。
抜歯後の数日間の食事
親知らず抜歯後の数日間は、傷口への刺激を避けるためになるべくやわらかい物・熱過ぎない物を中心に食べるようにします。
ヨーグルト・おかゆ・やわらかく煮たうどんなどは傷口に負担が少なく、水分も十分に摂取できるため抜歯当日の食事にも適しているでしょう。
温かい料理は、少し冷まして熱さを感じない温度で食べるようにすると、傷口への刺激を避けられます。
また、傷口の回復を早めるにはタンパク質の摂取が重要であるため、卵・豆腐・プロテインなどを活用して、栄養のある物を食べるようにしましょう。
抜歯後1週間以降の食事
抜歯後1週間もすれば傷口はかなり塞がっているため、通常に近い食事が取れるようになるでしょう。
ただし、まだ傷口は完全には癒えていないため、硬い物や刺激のある物を食べると強い痛みを感じたり、出血したりするおそれがあります。
傷口の回復のために必要なビタミン・ミネラル類を摂取するため、蒸したりやわらかく煮込んだ野菜料理がおすすめです。
肉じゃがなどの煮物・鍋料理・シチューなどが、食べやすく栄養豊富で取り入れやすいでしょう。
抗炎症用のあるEPAを含んだ魚料理も、回復に役立つため積極的に摂取しましょう。魚は骨のない物を選び、刺し身や蒸し料理であれば刺激なく食べられます。
親知らず抜歯後の食事のコツ
親知らずを抜歯した後に無理なく食事をするために、いくつかのコツがあります。
傷口が痛くて何も食べたくないと思うかも知れませんが、傷を治すためには栄養が必要なので食事は摂らなくてはいけません。
痛みを和らげてしっかり栄養を取るために、役に立つポイントを解説します。
やわらかいものを食べる
抜歯後の傷口への負担を少なくするために、食べ物はやわらかい物を選びましょう。
お米を炊くときには水を多めにしてやわらかく炊いたり、おかゆにしたりすれば食べやすくなります。
タンパク質を取るためには肉ではなく、牛乳・卵・豆腐・ヨーグルトなどがおすすめです。
市販のプロテインドリンクを活用するのも有効で、飲み物でタンパク質を摂取できるので食事がつらいときには試してみてください。
肉類であってもソーセージやハムなどの加工食品は、無理なく食べられる物もあります。
食材を小さく分ける
野菜を調理する際にはいつもより小さく切り分けるようにして、あまり噛まなくても食べやすくしましょう。
小さく切ることで火がとおりやすくなり、短時間でやわらかく調理できるのもメリットになります。
抜歯の当日は噛むのも大変であるため、フードプロセッサーなどでペースト状に加工する料理もおすすめです。
ジャガイモを砕いたマッシュポテトや、白身魚のペーストなどは抜歯当日でも食べやすい料理です。
抜歯した反対側の歯で食べる
親知らずを抜歯したのが片側だけである場合は、反対側の歯で噛むようにしてください。
一口の量を少なくして抜歯した反対側の歯だけで咀嚼すれば、傷口への負担をかなり軽減できます。
ただし、片側だけで噛んでいると顎に負担がかかって痛みを生じることがあるため、この場合でも硬い物は避けた方が無難です。
また、噛んでいない側は唾液の分泌量が減るため汚れがたまりやすく、食事後にはしっかりと歯みがきが必要になります。
うがいをし過ぎると傷口を塞いでいる血餅が取れてしまうので、丁寧に歯みがきで汚れを取り除くようにしてください。
食べ物が穴に入っても無理やり取り除かない
親知らず抜歯後に食事をしていると、傷口の穴に食べ物が入ってしまう場合があります。
慌てて取ろうとするとかえって傷口を痛める可能性があるため、無理に取ろうとしなくて大丈夫です。
通常であれば、食べ物が傷口に入っても自然に出てくることがほとんどで、唾液によって洗浄されていくので問題ありません。
うがいをし過ぎるのは血が止まるのを遅くするので、軽くゆすぐだけにしておきましょう。
親知らず抜歯後の食事で避けるもの
親知らず抜歯後の食事では、避けた方がよい食べ物もあります。
食べ物によっては傷口を痛めてしまったり、治りが遅くなったりするので注意しましょう。
抜歯後の食事は患者さんのセルフケアであり、ご自身で注意することで治療の経過を良好にできます。
親知らず抜歯後1週間に、避けるべき食べ物について解説します。
硬い食べ物・尖った食べ物
傷口を刺激するおそれのある硬い食べ物・尖った部分のある食べ物は避けましょう。
せんべい・魚の骨・硬いパンなどは特に注意が必要で、傷口に触れると出血するおそれがあります。
閉じかけた傷口が開くことで感染の可能性も高まるため、粘膜を傷つけるような食べ物は抜歯後1週間以降まで我慢してください。
香辛料・スパイス
辛い物は刺激性があり、傷口に触れると強い痛みを生じます。
カレー・唐辛子・生姜などの辛味の強い食べ物は、傷口が塞がるまではかなり強い痛みを感じるでしょう。
またスパイス類は毛細血管を広げて血行をよくする物もあり、止血を阻害する可能性もあります。
抜歯当日から3日程は血餅が取れて出血する可能性があるため、血行をよくするような食べ物は避けるようにしてください。
糖分の高い飲食物
糖分の高い食べ物はむし歯のリスクを高めますが、傷口に細菌が感染するリスクもあるため抜歯後は特に注意しましょう。
糖分の多い菓子やジュースなどは、むし歯や歯周病の原因菌を増やす餌となります。
これらの細菌は傷口に感染すると炎症を起こすため、傷口を清潔に保つことは抜歯後の回復に不可欠です。
親知らず抜歯後は糖分の高い飲食物を避けるとともに、毎日のデンタルケアを心がけましょう。
抜歯後は傷の治りを早める栄養素が豊富な食材を摂るのがおすすめ
抜歯後の傷の治りを早めるには、栄養のある食事をしっかり取ることが欠かせません。
傷口を治すにはタンパク質・ビタミンA・ビタミンB群・ビタミンC・亜鉛などの栄養素が特に大切です。
タンパク質とビタミン・ミネラルを多く含む卵はやわらかく調理しやすいので、抜歯当日の食事から取り入れやすいでしょう。
サーモン・マグロ・サバなどの魚も、タンパク質やミネラルのほかに抗炎症作用のあるEPAを含んでいます。 魚類は刺し身で食べれば刺激が少なく、調理の手間がかからないので取り入れやすいです。
親知らず抜歯後には特に栄養バランスに気をつけて、その後も健康的な食生活にあらためていければ一石二鳥になります。
親知らず抜歯後の注意点
親知らず抜歯後には、食事以外にも注意点がいくつかあります。
親知らずを抜歯した場合、次に歯科医院に行くのは約1週間後で、傷の治り具合のチェック・消毒・抜糸を行います。
その間は患者さんのセルフケアによって傷の治りが左右されるので、注意点をよく理解して早く治るように心がけましょう。
歯磨きをする際は患部を避ける
親知らず抜歯後には傷口の感染を防ぐために清潔を保つのが不可欠ですが、歯ブラシが傷口にあたると出血する可能性があります。
傷口の感染予防のためにも毎食後に歯みがきをした方がよいですが、歯ブラシが患部にあたらないよう慎重に動かしてください。ヘッドが小さく、毛先がやわらかいタイプの歯ブラシを使うようにしましょう。
抜歯後の傷口には、血餅と呼ばれる血の塊が形成されています。
これは出血を止めるために自然にできる物で、抜歯当日に形成されて約3日で白く変色していくのが通常の経過です。
血餅が取れてしまうと出血するため、抜歯後3日間は特に注意しながら歯みがきしましょう。
うがいをし過ぎるのも血餅が取れる原因になるので、うがいは歯みがきの後に1回だけで十分です。
赤い血餅がなくなり、抜歯後の傷口が白く盛り上がってきたら歯ブラシ程度では取れにくくなるので、いつもどおり歯みがきをして問題ありません。
激しい運動・入浴は控える
親知らずの抜歯直で血餅が赤い状態の間は止血を優先し、血行がよくなるような行動は控えましょう。
抜歯当日は運動・湯船につかることは控えてシャワーのみとし、なるべく安静に過ごしてください。
抜歯のショックによってめまい・動悸・失神などを起こす可能性もあるので、抜歯当日は特に心拍数を上げるような行動は控えるべきです。
抜歯後翌日からは入浴しても問題ありませんが、激しいスポーツなどは衝撃によって傷口が開く可能性があるため、慎重に再開するのが無難でしょう。
飲酒・喫煙をしない
喫煙は口腔内の毛細血管を慢性的に収縮させ、傷の治りを遅くする因子です。
抜歯直後には血行がよくなり過ぎると止血を阻害しますが、血が止まった後は血行が悪いと傷を治す材料が運ばれないため、治りが悪くなります。
喫煙している方は歯周病のリスクが有意に高いことからも、傷の治りを阻害し細菌感染のリスクを高めるので、親知らず抜歯前から抜歯後1週間は禁煙しましょう。
飲酒はアルコールによって毛細血管が拡張し、止血を妨げるため抜歯当日は避けてください。
親知らず抜歯後には鎮痛剤を処方されますが、鎮痛剤を飲むときに体内にアルコールが残っていると薬の作用を阻害するので、痛みが引くまでの間は禁酒が必要です。
親知らず抜歯後の腫れや痛みはいつまで続く?
親知らず抜歯後の腫れや痛みは通常3日間程で消失し、傷口が徐々に塞がっていきます。
親知らず抜歯の当日から2日後にかけて、頬が大きく腫れることがありますが、これは正常な反応なので心配いりません。
仕事や学業で重要な会議・発表の場などがある場合は、抜歯翌日にならないよう抜歯のスケジュールを調整した方が無難でしょう。
親知らずが横向きに生えていたり、骨に埋まっていたりする場合には、歯肉や歯槽骨を大きく切開して抜歯するため、傷の治りに時間がかかる場合があります。
親知らず抜歯後になかなか血が止まらず口腔内に血の塊ができる場合・抜歯後3日以上経っても痛みが引かない場合などは、歯科医院に連絡して診察を受けてください。
歯周病・肝臓病・白血病・血小板減少症などの病気を持つ方の場合は、特に傷の治りが遅くなるため注意が必要です。
まとめ
親知らず抜歯後の食事で、注意すべきポイントを解説しました。
抜歯によってお口の中に大きな傷口ができると、食事の際にも痛みが伴い患者さんの精神的負担が大きくなります。
痛くて食事などしたくないと思う方も少なくありませんが、傷の治りを早めるためにも栄養の摂取は不可欠です。
やわらかく調理した野菜・卵・豆腐・ヨーグルトなど、食べやすくて栄養のある物で心身を癒やしてください。
一方で硬くて尖った食べ物・辛味の強いスパイス・糖分の多い飲食物は傷口を刺激して強い痛みを生じたり、細菌の感染リスクを高めたりするため避けた方がよいでしょう。
飲酒や喫煙の習慣がある方も、傷口の治りを遅くするため親知らず抜歯後には控えなければいけません。
歯科医師が親知らず抜歯が必要と判断した場合、抜歯しないと口腔内全体に悪影響を及ぼす可能性もあるため、歯を守るために必要な処置といえます。
抜歯後の食事は大変ですが、気をつけるポイントを理解していれば事前の準備ができ、治療経過も良好になる可能性が高いでしょう。
参考文献