顎が痛んだり、お口を大きく開けられなかったり、開ける際に音がしたりするなどの症状に悩んだことはありますか。
これらは顎関節症の代表的な症状といわれています。顎関節症には、咀嚼筋痛障害・顎関節痛障害・顎関節円板障害・変形性顎関節症の4種類があります。
本記事では、変形性顎関節症の具体的な症状やそれに対する治療法や予防法について解説します。
変形性顎関節症について
変形性顎関節症について、その症状の特徴や原因などを解説します。
変形性顎関節症とは
変形性顎関節症とは、顎関節の骨に変形が認められる顎関節症です。顎関節症は顎を支える関節の周囲に異変を感じるさまざまな症状を指します。
顎自体に痛みを感じたり、お口の開閉に困難を感じたり、お口を開ける際に音が生じたりするるといった症状が一般的です。
これらの症状は単独で起こる場合もありますが、複数の症状が同時に起こる場合もあるでしょう。
男性に比べて女性の発症者が多い症状とされ、特に20代~30代の女性の患者さんが多くみられます。
顎から発する違和感のある音は日常生活に不快感を与えるでしょう。
また顎自体に痛みがあったり、お口の開閉に困難を感じたりすると、日々欠かせない食べ物の咀嚼という行為に支障をきたす可能性もあります。
変形性顎関節症は関節円板がずれ、下顎頭とその上の下顎窩が直接当たる状態が続き、変形することで発症します。開口時の違和感のほか、ジャリジャリとこすれる音がすることがあります。
顎関節症は20~30代の女性患者さんが多いですが、変形性顎関節症は中高年の患者さんに見られることが少なくありません。
変形性顎関節症の相談や治療は医療機関、特に歯科医院や口腔外科で行われるのが一般的です。
変形性顎関節症の原因
変形性顎関節症の原因は複数考えられます。まず、考えられるのがホルモンの低下です。下顎頭と下顎窩の間には骨の表面を覆っている軟骨や関節円板があります。
関節円板のずれだけではなく、軟骨が薄くなることでも、下顎頭と下顎窩は直接当たるようになります。軟骨は女性ホルモンの影響を受けやすいため、ホルモンが少なくなると軟骨が薄くなります。
中高年に患者さんが少なくないのは、ホルモンが低下しているためです。顎関節症が長く続いている場合も、変形性顎関節症を発症する可能性はあります。
このほかに、関節リウマチを患っていると発症するケースもあるでしょう。顎関節以外の部位にも痛みがあるときは関節リウマチの可能性が考えられます。
関節リウマチと顎関節症の治療法は違いますので、医療機関で検査を受けるようにしましょう。
変形性顎関節症の症状
変形性顎関節症の症状は顎関節症の症状とほぼ変わりません。顎関節症の症状は、関節雑音・開口障害・痛みが一般的です。それぞれの特徴について解説します。
関節雑音
変形性顎関節症の症状の一つ目は関節雑音です。関節雑音は顎の関節から不自然な音がする症状を指します。
顎関節症の関節雑音には三種類の音があるとされますが、その一つ目はクリック音です。クリック音とは顎を動かすときに生じるコリッという音のことです。
顎の関節がクリック音を発する場合、痛みを伴わない場合があるかもしれません。
クリック音は顎の関節の噛み合わせがずれ、関節の接触部分が擦れることによって生じます。
関節雑音の二種類目はクレピタスと呼ばれる音です。クレピタスとは髪の毛を握って捻ったときのようなジャリジャリという音を指します。
クレピタス音は顎の関節における骨の接触部分にダメージがあると起こり、変形性顎関節症の場合は、このジャリジャリとした音がします。
関節雑音の三種類目はポッピングと呼ばれる音です。ポッピング音は指の関節を鳴らすときなどに発せられるポコッという音のことです。
開口障害
次に開口障害が挙げられます。開口障害とはお口が大きく開かないという違和感のことを指します。
開口障害の症状としては、痛みはないもののお口がロックされたように開かない場合や、痛みがあってお口が開けられない場合などさまざまです。
開口障害を発症すると食事や発声に支障が出るため、早急な治療が必要です。開口障害の患者さんはある日突然その症状に気付くことも少なくありません。
しかし開口障害の前兆は多くの場合、顎のだるさ・痛み・不自然の音といった症例で事前に現れます。
開口障害を発症した患者さんのほとんどは、両方ではなく片方の顎に問題を抱えています。
痛み
変形性顎関節症では、痛みを伴う場合があります。また、顎関節症の痛みには複数の種類があります。
まずはお口の開閉時の痛みです。これは顎の関節の骨の損傷やそれに伴う顎の筋肉の疲れによって起こります。
次に咀嚼時の痛みが挙げられます。これは顎の筋肉の異常が原因として挙げられますが、歯の病気だと勘違いしてしまうことも少なくありません。
片方の顎だけが痛むというケースもあるでしょう。これは、むし歯や噛み合わせの癖により顎の使い方がアンバランスな場合に発症します。
顎の痛みは頭・首・肩など周辺部位の痛みも誘発することがあります。複数の部位の痛みはストレスを増やし、さらなる体調不良の原因にもなりかねません。
顎関節症の種類
顎関節症には複数の種類があり、以下のように分類されています。
咀嚼筋痛障害(I型)
顎関節症には4つの種類があるとされています。まず1つ目は咀嚼筋痛障害(I型)です。
咀嚼筋は顎関節を支える筋肉群で、咬筋・内側翼突筋・側頭筋・外側翼突筋の四つを指します。
これらの筋肉はものを噛んだり笑ったりする際に使用する顔面の筋肉です。
咀嚼筋痛障害はこれらの筋肉が炎症を起こすことによって発症する筋肉痛といえるでしょう。
咀嚼筋痛障害はお顔のこわばり・歯ぎしり・噛み合わせのアンバランスさなどの条件によって起こります。
咀嚼筋痛障害は筋肉の痛み以外にもしこりの発生原因となることもあります。また頭・首・肩などの離れた部位の痛みを誘発することもあるでしょう。
顎関節痛障害(II型)
顎関節症の種類の2つ目は顎関節痛障害(II型)です。顎関節痛障害は顎の関節の靭帯に起こる炎症で、手や足に起こる捻挫に似ています。
顎関節痛障害の場合、大きくお口を開けようとすると痛むという症例が一般的といえるでしょう。
痛みを我慢して大きくお口を開け続けると患部が炎症を起こし、お口を開けられる範囲が狭くなる特徴があります。
顎関節痛障害はお口を普段以上に大きく開いたり、顎の力が必要な食べ物を食べたり、歯や顎に負担をかけることによって起こる症状です。
顎関節痛障害を発症した場合、お口を大きく開けたり顎に負担をかけたりすることを控える必要があります。
そのため、食事を細かく切ったり、あくびの際に注意したりするといった心がけが必要だといえるでしょう。
顎関節円板障害(III型)
3つ目は顎関節円板障害(III型)です。顎関節円板とは上下の顎骨の間にある緩衝材のような組織です。
この顎関節円板の位置がずれることによって起こる違和感が顎関節円板障害といわれています。
軽い顎関節円板障害の場合、顎から音がしないことも多いです。ただし、音がしなくても違和感があったり、音が気になる場合には医師に診てもらうことをおすすめします。
そして顎関節円板障害が重症化した場合、顎からの雑音が消えて開口障害に発展するかもしれません。
この場合、顎の関節の骨が変形してしまう変形性顎関節症を誘発する場合もあります。
顎関節円板障害は重症化する場合もあるので、顎の関節に違和感を覚えた場合は医師に相談するとよいでしょう。
変形性顎関節症(IV型)
最後は変形性顎関節症(IV型)です。変形性顎関節症は顎関節円板障害を治療せずに放置することによって発症します。
緩衝材の役目をする顎関節円板がずれると上下の顎の骨が直接噛み合うことになり、この状態が続くことによって顎の骨の変形が起こります。
これが変形性顎関節症の症状です。変形性顎関節症は長期間の骨の負担が引き起こす症状なので、中高年者によく見られる症状です。
また関節リウマチを患っている場合に変形性顎関節症を誘発する場合も多く見られます。
関節リウマチと変形性顎関節症は異なる病状のため治療方法が異なります。この場合、適切な治療方法を医師に相談することが必要となるでしょう。
変形性顎関節症の治療方法
ここからは、変形性顎関節症の治療方法について解説します。ただ、顎関節症の治療法と変形性顎関節症の治療方法はほとんど同じであるため、ここでは顎関節症の治療法を紹介します。
理学療法
まず挙げられるのが理学療法です。
理学療法は物理療法と運動療法に分類されます。
物理療法は熱や刺激を与えることにより治療を進める方法です。
物理療法の代表的な例としては、熱を持った湿布を患部に貼りつけて有害な物質をなくす温湿布療法が挙げられます。
冷湿布は外傷や炎症がある場合に有効となるでしょう。低周波パッドで患部を刺激して痛みを和らげる方法も使われることがあります。
運動療法はマッサージやストレッチによって回復を促す方法です。
顎関節症のためのマッサージとしては、患部のマッサージ以外にこめかみのマッサージも効果を発揮します。
ストレッチとしてはお口を大きく開ける訓練があります。
お口を大きく開ける動作は症状を進行させてしまう可能性もありますので、医師の指導のもとで行うとよいでしょう。
ストレッチは大きくお口を開けるトレーニングであると同時に筋肉増強の効果も期待できます。
スプリント療法
変形性顎関節症の治療方法としてはスプリント療法も挙げられるでしょう。
スプリントというのは特に歯ぎしりや食いしばりの癖がある患者さんのためのマウスピースです。
スプリントは歯科医師が患者さんの歯型を取って作製します。
スプリントには上顎か下顎のみのもの・両方の顎に装着するもの・前歯のみのものなどのタイプがあるので、歯科医師の判断により選択されます。
スプリント治療は睡眠時に着用する方法など、さまざまな使用法があるでしょう。食いしばりの癖がある場合は日中にも着用する場合があります。
スプリントは歯科医院で定期的に調整するとよいでしょう。スプリントの洗浄は熱による変形を防ぐために冷水を使って歯ブラシで行います。
薬物療法
変形性顎関節症の治療方法には、薬物療法もあります。
変形性顎関節症の治療に使用される薬物としては、鎮痛消炎剤・筋弛緩剤・精神安定剤などが一般的です。
鎮痛消炎剤としては、ロキソニン・インダシン・ボルタレンといった非ステロイド系のものがよく使用されます。
鎮痛消炎剤は患部の炎症を抑えるために用いられますが、消化器に強い刺激を与えるので潰瘍がある患者さんは注意が必要でしょう。
筋弛緩剤としてはムスカルムがよく使用されます。筋弛緩剤は患部にこりや痛みがある場合に効果がありますが、妊娠中や授乳中の患者さんには推奨されません。
精神安定剤としてはホリゾンやセルシンといったジアゼパム製剤が治療に適しています。
精神安定剤はストレスの緩和に役立ちますが、重傷筋無力症などの症状があるときには注意が必要です。
ほかには抗うつ剤が用いられるケースもあります。
これらの薬剤は、医師の処方に基づき使用する必要があります。
変形性顎関節症の予防方法
変形性顎関節症は顎関節症が長く続くことでも発症するので、顎関節症にならないように注意することで、変形性顎関節症の発症を予防できるでしょう。顎関節症の予防にはいくつかの方法が考えられます。以下で説明します。
歯ぎしりやくいしばりに注意する
まず挙げられるのが歯ぎしりや食いしばりに注意することです。
特に歯ぎしりは睡眠中に行うので、自覚が難しい点が厄介だといえます。
歯ぎしりを自覚するための症状としては、起床時の歯・顎・首・頭などの痛みが挙げられるでしょう。これらの痛みは顎に負担がかかっていることによって発症します。
口腔内の噛み跡・歯の破損といった症状も歯ぎしりが原因とされることがあります。
歯ぎしりの主な原因はストレスです。ほかには飲酒・喫煙・噛み合わせの不具合などが原因として考えられるでしょう。
これらの原因を取り除くことが歯ぎしりの予防につながるかもしれません。
自分で予防することが難しい場合は、歯の治療やスプリントの作製といった方法も検討しましょう。
頬杖といった癖に注意する
頬杖をやめることも効果的です。
頬杖は左右の顎のどちらか一方に負担をかけることになるので、慢性化するとお顔に歪みが生じて左右の対称性が損なわれるといった症状を誘発します。
お顔の歪みは噛み合わせのバランスを崩し、顎関節症の要因となりえるでしょう。
また、頬杖の姿勢は猫背といった身体の歪みも誘発し、これも顎関節症の要因の一つに挙げられます。
頬杖を改善する方法としてはストレッチが有効だといえるでしょう。腰かけるときに椅子に深く座り胸を張るようにすることも効果的です。
この姿勢は頬杖と猫背の両方を改善する効果があります。
ガムを噛み続けない
顎関節症の予防としては、ガムを噛み続けないようにすることも挙げられます。
ガムを長時間噛むと、食事時より顎関節に負担がかかりやすいです。
顎の筋肉を長時間酷使すると、筋肉の疲労や炎症といった顎関節症の症状を生み出すことがあります。
すでに顎関節症を発症している場合、長時間ガムを噛む習慣が症状を悪化させるかもしれません。
特に顎の片側でガムを噛む習慣はお顔の歪みにもつながります。
ガム以外にもスルメといった固い食べ物は避けるとよいでしょう。
まとめ
変形性顎関節症は顎関節が変形することで起こる顎関節症です。
もし顎関節症の症状に心当たりがある場合は我慢せず、歯科医院に相談しましょう。顎関節症が長く続くと、変形性顎関節症を引き起こすため、早期の治療が大切です、日常生活の習慣や姿勢を正すことによっても予防できます。
参考文献