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顎関節症のスプリント治療とは?治療方法やメリットなどを解説!

顎関節症のスプリント治療とは?治療方法やメリットなどを解説!

顎の関節でカクンと音が鳴ったり、顎に強い痛みを感じたりする顎関節症。比較的若い女性によく見られる症状ですが、日本人は全般的に発症しやすい病気といえます。顎関節症に伴う症状は、日常生活に支障をきたすこともあるため、歯科医院での治療が必要となるケースも珍しくありません。ここではそんな顎関節症を改善するために行われるスプリント療法の内容やメリット、副作用などを詳しく解説します。顎関節の症状に悩まされている人は参考にしてみてください。

顎関節症とは

顎関節症とは はじめに、顎関節症の基本事項を確認しておきましょう。

顎関節症とは

顎関節症とは、上顎骨と下顎骨が接する関節部分にさまざまな症状が現れる病気です。口を開けた時にカクンと鳴る関節雑音、口を閉じることができなくなるロッキング現象などの症状が有名です。顎関節自体がとても複雑な構造をしていることから、症状には多様性があり、原因もひとつに絞れないことが多いです。

顎関節症の症状

顎関節症を発症すると、次のような症状が現れます。

症状1:関節雑音
関節雑音とは、口を開け閉めした時に生じる「カクン」「ゴリゴリ」「ジャリ」といった関節の音です。これは主に顎関節の中心部分に位置している関節円板(かんせつえんばん)の脱臼によって引き起こされます。脱臼といっても一時的な現象であり、すぐにまた元の位置へと戻るため、顎関節の機能が破綻することはありません。口の開閉時にカクカク鳴るのは、関節円板が脱臼を復位を繰り返している証拠なのです。

症状2:開口障害
口を一定以上、開けられなくなる症状を開口障害といいます。開口障害の目安となるのは、縦に重ねた人差し指・中指・薬指が口の中に入るかどうかです。この3本の指が入らないほど、開口量が少なくなっている場合は、顎関節症による開口障害が疑われます。開口障害があると、口を開ける時に痛みが生じたり、食事や会話にも支障をきたしたりするため、早期に治療で改善した方が良いと言えます。

症状3:閉口障害
開口障害の逆の症状を閉口障害といいます。開けた口を閉じることができない状態です。閉口障害が生じる原因としては、顎関節自体の脱臼が第一に挙げられますが、関節円板の異常が関係していることも多々あります。当然ですが閉口障害が生じた状態では、日常生活を送ることが困難なため、速やかに歯科医院を受診するようにしてください。歯科医院では、脱臼した顎関節を元の位置に戻す整復術が受けられます。

症状4:顎関節痛
顎関節に痛みが生じる症状です。顎関節を構成する骨や軟組織に不可逆的な変化が生じることで、開閉運動の際に痛みが生じます。比較的症状の軽い顎関節症で、不可逆的な変化が起こっていないケースでも、顎関節に痛みが生じることがあります。患者さんには「顎関節が痛い」というよりは「顎が痛い」と感じられることでしょう。

顎関節症の原因

顎関節症を発症する原因は複数、存在しています。以下に挙げる原因のひとつではなく、いくつかが複合的に関連して、顎関節に異常をきたすケースが非常に多いといえるでしょう。

原因1:TCH(歯列接触癖)
顎関節症になる原因として第一に挙げられるのがTCH(Tooth Contact Habit)です。日本語では歯列接触癖(しれつせっしょくへき)と呼ばれるもので、安静時に上下の歯列を接触させてしまう習癖を指します。私たちの歯は本来、安静時に上下の歯列を接触させないための安静空隙(あんせいくうげき)が存在しており、上下顎間に1〜3mm程度の隙間があるのです。

この隙間が存在していないか、意識的に隙間をなくそうとすると、歯列接触癖が引き起こされます。歯は食べ物を咀嚼する時だけ接触すれば良いのですが、歯列接触癖では安静時にも歯と歯がぶつかったり、強くこすれ合ったりするため、顎関節に大きな負担がかかるのです。ちなみに、TCHは、スマホやパソコンの画面を凝視している時などに起こりやすいと言われています。

原因2:ストレスや強い緊張
これはTCHとも関連のある要因です。私たちは強いストレスや緊張状態に晒されると、噛みしめたり、歯ぎしりをしたりする傾向があります。噛みしめや歯ぎしりはTCH以上に顎関節を傷める原因となるため、十分な注意が必要です。この要因に心当たりのある人は、日常的に強いストレスや緊張を受ける状況や環境をできるだけ減らすよう努力しましょう。眠っている時に歯ぎしりをしている場合は、歯科医院での治療も検討した方が良いと言えます。

原因3:顎の負担のかかる悪習慣
頬杖をつく癖片側だけで噛む癖うつ伏せ寝などの習慣がある人は、意識的に改善する必要があります。こうした悪習慣は、顎の関節に大きな負担がかかるからです。いずれも何気なく行っている習慣ではありますが、その影響が日々積み重なることで、顎関節の炎症や変形を招いてしまう場合もあるのです。

原因4:顔面や顎への外傷
交通事故やスポーツ中のトラブルなどで顔面を強打すると、顎関節にダメージが及ぶことがあります。その結果、顎関節に不可逆的な変化が起こり、顎関節症を引き起こす原因となる場合もあります。

原因5:合わない入れ歯を使っている
入れ歯を使っている人は、適合性に十分、配慮する必要があります。合っていない入れ歯は噛みにくく、安定性も悪いことから、顎関節に悪影響が及びやすいのです。入れ歯は人工臓器ともいわれる重要な装置なので、適合性の悪いものは必ず調整を加えるか、新しいものに作り変えるようにしてください。

顎関節症の治療方法

顎関節症の治療方法 顎関節症の症状は、次の方法で改善できます。

セルフケア

比較的症状の軽い顎関節症は、歯科医院や病院での積極的な治療が不要な場合もあります。例えば、強張っている咬筋や側頭筋をマッサージする、開口訓練を行う、顎関節症の原因となっている悪習慣を意識的に取り除く、といったセルフケアでも症状の改善が見込めることが多いです。ただし、セルフケアを行うにしても、その方法は専門家から学んだ方が良いです。歯科医院では、顎関節症の症状緩和に効果のあるセルフケア方法の指導を受けられます。その方法を自宅で実践していきましょう。

理学療法

顎関節症における理学療法は、主に顎周囲の筋肉の緊張を取り除く際に行われます。痛みや凝りが出ている部分に電流を流したり、理学療法士がマッサージしたりすることで、筋肉の血流が良くなります。その結果、咀嚼筋痛などが改善されます。

薬物治療

薬物療法では、筋肉の緊張をほぐす薬を投与したり、痛みを緩和する薬を服用したりします。普段から服用している薬がある場合は、事前に歯科医師に伝えておきましょう。薬は飲み合わせによって思わぬ副作用をもたらす場合があるからです。

スプリント治療

スプリント治療は、スプリントと呼ばれるマウスピースタイプの装置を使って、顎関節症の症状を改善する方法です。歯科医院で行う顎関節症の治療法として広く普及しています。

顎関節症におけるスプリント治療とは

顎関節症におけるスプリント治療とは ここからは、顎関節症におけるスプリント治療について詳しく解説します。

スプリント治療の概要

スプリント治療は、患者さんの口腔内の状態に合わせて作ったマウスピースで、顎関節症の症状を改善する方法です。マウスピースを装着するのは夜間のみで、昼間につける必要はありません。マウスピースを装着すると、下顎が正常な位置へと誘導されると同時に、上下の歯が直接、接触するのを防げます。その結果、顎関節への負担が減って顎の痛みや炎症なども改善されていくのです。下顎の位置が正常化されると、歯列接触癖や歯ぎしり・食いしばりなどの悪習慣も改善しやすくなります。

スプリント治療のメリットと効果

スプリント治療は、外科的な処置が必要なく、保存的な方法のみで顎関節症を改善できます。自分専用のマウスピースを作る費用は、原則として保険適用されるため、費用負担が少ないというメリットも伴います。

また、装置を装着するのが夜間のみであることから、職場や学校での生活に支障をきたすことはありません。正しい診断を下した上で、適切なマウスピースを作製できれば、比較的簡便に顎関節症の症状を改善できます。上段でも説明したように、歯と歯が直接、接触することがなくなり、下顎も正常な位置へと誘導する効果が期待できることから、顎関節症の症状が大きく改善される可能性が高いといえます。

スプリント治療の注意点

スプリント治療は、顎関節症の症例に広く適応されている方法ですが、決して万能ではありません。スプリント治療を実施しても、顎関節症の症状が改善されないことも多々あるため、その点は事前に正しく理解しておく必要があります。また、スプリント治療の経験や知識が豊富な歯科医師でなければ、適切な処置を施せないことから、歯科医院選びは慎重に行う必要があります。誤った診断のもと作られたマウスピースは、装着を続けることで顎関節症の悪化を招くリスクもあるのです。

スプリントの種類と選択基準

スプリントの種類と選択基準 スプリント治療で用いるマウスピース(スプリント)には、いくつかの種類があります。それぞれに異なる特徴があり、適応症にも違いが見られます。

スプリントの種類と特徴

種類1:全歯列接触型スプリント(スタビライゼーション型スプリント)
文字通り上下の歯すべてを均等に接触させるためのスプリントです。特定の歯が強く噛むことがなくなり、噛み合わせと下顎の位置の安定化につながります。同時に、神経筋機構(しんけいきんきこう)も正常化されるため、咀嚼筋も運動もスムーズに進むようになります。

種類2:前方整位型スプリント
上顎か下顎のどちらか一方にスプリントを装着して、関節円板の位置を正常化する際に用いられます。口を開けた時にカクンとなる関節雑音が認められるケースに有効です。

種類3:前歯接触型スプリント
前歯部のみを接触させるスプリントです。前歯部が接触すると口を開ける開口反射が誘発されるため、口を閉じる筋肉の緊張を和らげることができます。

種類4:ピボット型スプリント
臼歯部のみを接触させるスプリントです。上顎か下顎どちらか一方にスプリントを装着します。顎関節症で開口障害が認められるケースに有効です。

スプリントの選択基準

どのタイプのスプリントが適しているかは、顎関節症の症状によって変わってきます。上述したように、歯列全体の噛み合わせに異常が認められる場合は全歯列接触型スプリント、関節雑音が生じている場合は前歯接触型スプリント、口を閉じる筋肉が過剰に働いている場合は前方整位型スプリント、強い開口障害が現れている場合はピボット型スプリントが適しているといえます。ただし、顎関節症では、原因と同じように症状も複合的に現れることが多いため、どのスプリントを選択するかは、専門家である歯科医師の診断に委ねることになります

スプリントの装着方法とメンテナンス

スプリントの装着方法とメンテナンス 次に、スプリントの取り扱い方法について解説します。

スプリントの装着方法と装着時間

スプリントは、マウスピース型の装置なので、装着方法は至ってシンプルです。上顎か下顎、もしくはその両方の歯列にスプリントをはめ込む形で装着します。装着は基本的に就寝中のみなので、8時間前後がスプリントの装着時間となります。

スプリントの適切なメンテナンス

スプリントは一晩中、口腔内に装着していることから、汚れがたまっていきます。そのためスプリントを外すたびに歯ブラシで汚れを落とし、水道水で洗浄する必要があります。市販されているリテーナー用の洗浄剤を併用することで、歯ブラシや水洗いでは落とせない汚れを化学的に分解・除去できます。洗浄剤の使用は、週に1回程度が目安となります。

スプリント治療の治療期間と副作用

スプリント治療の治療期間と副作用 最後にスプリント治療にかかる期間と注意すべき副作用を解説します。

スプリント治療の治療期間

スプリント治療は、一般的に6〜12ヵ月程度の期間を要します。その間は1ヵ月に1回くらいの頻度で通院しながら、装置の調整を行ったり、経過を観察したりします。重症度の高い症例では、もう少し長い治療期間がかかる場合もあります。

スプリント治療の副作用

スプリントを装着していると、口腔乾燥や唾液分泌量の増加、歯や顎の痛みといった副作用が生じる場合があります。痛みが強い場合は、スプリントの調整によって症状を改善できることが多いです。病状に合っていないスプリントを使うと、顎関節症の症状が悪化する恐れもあるため、必ず経験や知識が豊富な歯科医師に治療を任せるようにしましょう。

編集部まとめ

編集部まとめ 今回は、顎関節症のスプリント治療について解説しました。患者さん専用のマウスピースを作って、夜間に装着する方法でいくつかの種類があります。それぞれのマウスピースに異なる効果があり、適応症も異なる点に注意が必要です。スプリント治療は、顎関節症のケースに広く適応されている方法ですが、症状によっては他の治療法の方が適している場合もありますので、その点はご注意ください。

参考文献

この記事の監修歯科医師
山下 正勝歯科医師(医療法人徳洲会 名古屋徳洲会総合病院)

山下 正勝歯科医師(医療法人徳洲会 名古屋徳洲会総合病院)

国立大学法人 鹿児島大学歯学部卒業 / 神戸大学歯科口腔外科 勤務 / 某一般歯科 7年勤務 / 国立大学法人 山口大学医学部医学科卒業 / 名古屋徳洲会総合病院  呼吸器外科勤務 / 専門は呼吸器外科、栄養サポートチーム担当NST医師

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