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顎関節症

顎関節症の治療法とは?保存的治療法や手術による治療法、予防方法について解説

顎関節症の治療法とは?保存的治療法や手術による治療法、予防方法について解説

顎関節症は顎の関節やその周囲にさまざまな症状が現れる病態です。日本人はかかりやすいといわれており、顎関節の痛みや雑音に悩まされている人も少なくないことでしょう。顎関節症の症状は、自然に改善していくこともあれば、積極的な治療が必要となる場合もあります。本記事ではそんな顎関節症の種類や保存的治療法、手術による治療法などを詳しく解説します。顎関節症の症状や治し方について知りたいという人は参考にしてみてください。

顎関節症とは

顎関節症とは はじめに、顎関節症の基本事項を確認しておきましょう。

顎関節症の概要

顎関節症とは、頭蓋骨と下顎骨の連結部分である顎関節や咀嚼筋にさまざまな異常が生じる病気です。顎関節の運動や機能には、いくつかの組織が関係しているため、顎関節症では実に多様な症状が現れます。お口を開けるとカクカク鳴る、お口を大きく開けられない、食べ物を噛むと顎の筋肉に痛みを感じるといった症状が認められる場合は、顎関節症が疑われます。

顎関節症の種類

顎関節症は、咀嚼筋痛障害(I型)、顎関節痛障害(II型)、顎関節円板障害(III型)、変形性顎関節症(IV型)の4種類に大きく分けられます。

・咀嚼筋痛障害(I型)

咀嚼筋痛障害は、咀嚼に関わる筋肉の疼痛と機能不全を主症状とする病態として知られています。患者さんは、筋肉の痛み、咀嚼時の不快感、顎の動きの制限を訴えます。この障害に関しては、国際的に認知されているDC/TMD(顎関節症の診断基準)において、詳細な分類がなされています。

咀嚼筋痛障害の発症要因としては、中枢神経系に起因する筋痛、筋肉の異常収縮、筋組織の炎症、筋肉の硬直、腫瘍性病変、線維筋痛症などが挙げられますが、これらの発生率は極めて低いのが現状です。一般的な病態は、局所的な筋肉痛と筋・筋膜痛症候群であり、特に後者が臨床上重要視されています。局所的な筋肉痛は、筋・筋膜痛症候群の特徴を持たない筋肉の痛みとして理解されています。

筋・筋膜痛症候群の病態生理についてはいまだ不明な点が少なくないですが、近年の研究によると、以下の3つの要素が関与していると考えられています。1つ目は筋肉内における痛みの受容メカニズム、2つ目は中枢神経系における痛みの知覚プロセス、そして3つ目は個人の痛みへの対処能力(コーピングスキル)です。これらの要因が複雑に絡み合って、咀嚼筋痛障害の症状を形成していると推測されています。

・顎関節痛障害(II型)

顎関節痛障害は、顎関節部位の痛みと機能不全を主要な特徴とする病態として認識されています。患者さんは、顎を動かす際の痛みや動きの制限を経験します。この状態は、顎関節内の円板の位置異常、関節の変形性疾患、内部損傷(硬い食物の過度な咀嚼、大きなお口の開閉、睡眠中の歯ぎしり、不適切な咬合状態など)によって引き起こされることが少なくないです。

顎関節痛障害の主な影響を受ける部位は、滑膜、関節円板後方の組織、関節を支える靭帯(特に外側部分)、関節を包む被膜が挙げられます。これらの構造に炎症や傷害が生じることで痛みが発生します。滑膜は下顎窩の軟骨面、関節隆起の軟骨面、そして関節円板を除く顎関節内部を覆う重要な組織です。異常な力が加わると、この滑膜組織が損傷し、炎症反応が起こります。その結果、痛みを引き起こす物質や痛みを増強する物質が放出され、滑膜内に存在する痛覚受容器が刺激されて顎関節の痛みが生じます。

関節円板後方の組織は、円板が前方に移動することで直接的な負荷を受け、組織の損傷とそれに続く炎症により痛みが発生します。さらに、関節を支える靭帯の損傷や関節を包む被膜の炎症も顎関節痛の要因となり得ます。これらの要素が複合的に作用して、顎関節痛障害の症状を形成していると考えられています。

・顎関節円板障害(III型)

顎関節円板障害は、顎関節内における円板の位置や形状の異常に起因する機能的および構造的な問題で、顎関節内障という名称でも知られています。主に影響を受ける部位は関節円板と滑膜であり、円板の位置ずれ、変質、穴あき、線維化繊維化などが原因となります。近年では、MRI技術の進歩により、より正確な診断が可能になっています。

この障害は顎関節症のなかで頻繁に見られ、患者の約6〜7割がこの症状になるといわれています。関節円板の位置ずれは主に前方や前内方向に生じますが、稀に内側、外側、後方へのずれも観察されます。ずれた円板が顎の動きに応じて元の位置に戻る場合(整復性)と戻らない場合(非整復性)があり、それぞれの状況で異なる臨床症状が現れます。

前方へのずれは、部分的なものと完全なものに分類されます。部分的な前方ずれは全体の約2〜4割を占め、症状が明確でない場合も少なくありません。一方、完全な前方ずれは、円板の後部肥厚部が完全に下顎頭の前方に移動した状態を指します。さらに、前方ずれは開口時に関節円板が元の位置に戻る整復性前方ずれと、戻らない非整復性前方ずれに細分化されます。関節円板の位置のずれ方により、患者さんの症状や治療方針が大きく異なる可能性があります。

・変形性顎関節症(IV型)

変形性顎関節症は、主に退行性の変化を特徴とする病態として知られています。関節軟骨、円板、滑膜、下顎頭、下顎窩が主に影響を受けます。これらの部位では、軟骨の破壊、肉芽組織の形成、骨の吸収や添加といった病理学的変化が発生します。臨床的には、関節音、顎の動きの制限、関節部の痛みのうち、少なくとも一つ以上の症状が現れます。

変形性顎関節症は、非復位性の関節円板前方転位を高い頻度で伴い、円板に穴が開いたり裂けたりすることが少なくないのが特徴です。進行すると、下顎頭や下顎窩、関節隆起が骨の吸収や添加により形を変えていきます。この疾患の罹患率は年齢とともに上昇する傾向にありますが、性別による発症頻度の差は見られません。

変形性顎関節症の発症には、関節組織の加齢による負荷耐性の低下と、関節部への過度な負担が基本的な要因として考えられています。正常な下顎頭と関節円板の関係が保たれている場合、発症頻度はやや低いです。一方、関節円板の位置異常や炎症、関節包内の骨折などの先行する問題に続いて発症する場合があり、特に非復位性の関節円板前方転位例の約半数でこの状態が見られます。また、全身の関節症の一部として顎関節にも症状が現れる全身性の変形性顎関節症も存在します。これらの複雑な要因が絡み合って、変形性顎関節症の発症と進行に関与していると考えられています。

さらに、リウマチ性関節炎や全身性エリテマトーデス(SLE)などの全身性疾患も、顎関節に病変を引き起こすことがあります。リウマチ性関節炎は顎関節を含む関節に慢性的な炎症を引き起こし、滑膜の肥厚や関節の破壊を伴います。SLEなどの他の全身性疾患も顎関節に影響を与え、痛みや機能障害を引き起こします。これらの全身性疾患を有する患者さんの場合、リウマチ専門医や関連する専門医との連携が重要となります。

顎関節症の診断方法

顎関節症の診断方法 顎関節症は、目で見てわかるものではないので、診断にはいくつかの検査を行う必要があります。ここでは顎関節症の有無をセルフチェックする方法と、専門の歯科医師が正確に診断する方法を紹介します。

セルフチェック方法

次に挙げる症状が当てはまる場合は、顎関節症を発症している可能性が高いです。

  • お口を開けるとカクカク、ジャリジャリという音がする
  • 顎を動かすと痛みを感じる
  • お口を大きく開けられない(縦にした指3本が入らない)
  • お口を大きく開けたときに顎が左右どちらかにずれる
  • 硬い食べ物を噛むと顎が痛い
  • 近年、噛み合わせが変わったと感じる

ただし、これらはあくまで顎関節症が疑われる症状なので、自己判断するのはおすすめできません。正確な診断は必ず専門の歯科医師から受けるようにしましょう。

専門の歯科医師による診断方法

痛みやカクカクという音、お口が開きにくいなどの症状がある方は、歯科医院や口腔外科で診断を受けることをおすすめします。診断では、以下のような方法が用いられます。

・問診

まず、専門の歯科医師があなたの症状や生活習慣について詳しく聞きます。いつから症状が始まったか、どのようなときに痛むか、ストレスが少なくないかなど、さまざまな質問をされるでしょう。

・触診

専門の歯科医師が直接顎の筋肉や関節を触って、痛みや腫れがないかを確認します。また、口を開け閉めするときの動きも観察します。

・レントゲン撮影

顎の骨の形や位置を確認するために、レントゲン写真を撮ります。これにより、骨に異常がないかがわかります。

・MRI検査 MRIは強力な磁石を使って身体の中の様子を詳しく見る検査です。顎関節の軟骨や筋肉の状態を確認できるので、より詳細な診断が可能になります。

・セファロ分析

これは頭全体のレントゲン写真を撮る方法です。顎の骨格や歯の並びの問題を総合的に調べることができます。

・歯列模型による咬合分析

患者さんの歯の型を取って作った模型を分析する検査で、噛み合わせの問題を詳しく調べられます。

これらの検査を組み合わせることで、顎関節症の原因や程度を正確に診断できます。ただし、保険診療ではすべての検査を受けられるわけではありません。MRIやセファロ分析などの特殊な検査は、症状が重い場合や原因がはっきりしない場合に行われることが少なくないです。

顎関節症の保存的治療法

顎関節症の保存的治療法 次に、顎関節症で外科的な手術を行わない保存的治療を解説します。

運動療法

運動療法は、顎関節の柔軟性と強さを改善するための運動を行う方法です。具体的には、顎の開閉運動や側方運動などを行います。これにより、噛み合わせのバランスを整え、顎の筋肉の緊張を緩和する効果が期待できます。運動療法は、自宅で簡単に行える方法で、継続的な実施が重要となります。

薬物療法

薬物療法は、顎関節症の痛みや炎症を軽減するために使用される方法です。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や筋弛緩薬が一般的に処方されます。これらの薬剤は、痛みを和らげ、炎症を抑える効果があります。薬物療法は、症状の急性期に特に有効です。

スプリント療法

スプリント療法は、夜間にマウスピースを装着することで、顎関節や噛み合わせの負担を軽減する方法です。スプリントは、特定の素材で作られ、上下の歯の間に挟むことで、歯ぎしりや食いしばりを防ぎます。これにより、顎関節や筋肉の負担が軽減され、症状の改善が期待できます。スプリントの装着は、専門の歯科医師によって行われます。

理学療法

理学療法は、温熱療法や電気刺激などを利用して、顎の筋肉の緊張を和らげる方法です。これらの治療法は、血行を改善し、筋肉の緊張を緩和する効果があります。理学療法は、専門の理学療法士によって実施され、個々の患者さんの症状に合わせたプログラムが提供されます。

顎関節症の手術による治療法

顎関節症の手術による治療法 顎関節の問題が深刻な場合、手術が必要になることがあります。ここでは、顎関節症の外科的な治療法を解説します。

関節鏡視下手術

関節鏡視下手術は、パンピングマニピュレーションや関節腔洗浄療法を行っても症状が改善しない場合に用いられる、内視鏡を使用した手術方法です。この手術は、患者さんの身体への負担や侵襲をできる限り抑えられることが特徴です。

手術は耳の前に2か所、2〜3mmの小さな切開を入れ、一方から関節鏡を挿入して関節内を観察し、もう一方から手術器具を入れて行います。関節鏡視下手術の主な目的は、上関節腔にできた線維の癒着部分を剥がして関節の動きを改善することです。

顎関節に負担がかかったり、長期間関節の動きが少なかったりする場合に、この線維の癒着が生じやすいことがわかっています。手術では、まず癒着を剥がし、開口器でお口を開けます。そして生理食塩水で関節腔を洗浄します。耳の前の切開は縫合しますが、術後にはほとんど目立たなくなります。手術後は、再び癒着が起こらないようにするため、開口練習を含むリハビリが重要です。

顎関節開放手術

外科的治療である開放手術は、顎関節周囲の多様な器官との関係を熟知し、咬合や咀嚼機能に配慮することが重要です。具体的には、次のような術式が挙げられます。

・顎関節授動術

顎が動かなくなってしまう顎関節強直症という状態を治すための手術です。顎の動きをよくするために、くっついてしまった部分を切り離したり、顎の先端(下顎頭)を取り除いたりします。ときには、人工的な関節を作ることもあります。

・関節円板切除術

顎の関節のなかにある関節円板という部分に穴が開いたり、裂けたりしたときに実施します。レントゲンや特殊な検査で状態を確認してから、手術が必要かどうかを決めます。

・下顎頭形成術

顎の先端の形が変わってしまって問題が起きている場合に行います。医療用の特殊な道具を使って、顎の形を整えます。

人工顎関節置換術

人工顎関節置換術は、顎の関節に深刻な問題を抱える患者さんにとって、限られたなかで施せる治療法です。この手術は、顎がほとんど動かなくなってしまった状態(顎関節強直症)や、顎の関節に腫瘍ができた場合、あるいは顎の骨が大きく変形してしまった場合などに検討されます。

この手術の主な目的は、患者さんの顎の動きを改善し、日常生活の質を向上させることです。顎が動かなくなると、食事や会話が困難になり、生活に大きな支障をきたします。人工顎関節置換術を受けることで、再びお口を開けられるようになり、食事や会話が可能になることが期待できます。また、以前の手術方法では、顎が再びくっついてしまう再発のリスクが高かったのですが、人工関節を使用することではじめのリスクを軽減できます。

手術の具体的な方法としては、まず耳の前と顎の角のあたりに小さな切開を入れます。この切開は、手術後にほとんど傷跡が目立ちにくいよう工夫されています。次に、問題のある部分を取り除き、人工関節を取り付けます。うえの部分にはシリコン製の部品、下の部分には金属製の部品を使用し、これらをしっかりとネジで固定します。

手術後のケアもたいへん重要です。お口の開け閉めの練習や、噛み合わせをよくするためのリハビリが必要となります。これらのケアを継続的に行うことで、徐々に顎の機能が回復します。

ただし、この手術にはいくつかの注意点があります。まず、ほかの治療法が効果を示さない場合の手段として考えられるものです。また、専門的な技術が必要なため、経験豊富な専門の歯科医師が行う必要があります。さらに、手術後も定期的な検査が必要で、長期的なフォローアップが重要です。加えて、人工関節にも寿命があり、将来的に再手術が必要になる可能性があることも知っておく必要があります。

顎関節症の予防法

顎関節症の予防法 ここでは、顎関節症の予防方法を紹介します。

正しい姿勢の維持

正しい姿勢を維持することは、顎関節症の予防にとても重要です。姿勢が悪いと、首や肩に負担がかかり、顎関節に悪影響を及ぼします。特にデスクワークをする人は、パソコンの画面を適切な高さに設定し、椅子の高さや背もたれの角度を調整することで、正しい姿勢を保つことができます。さらに、長時間同じ姿勢を続けないようにし、定期的にストレッチを行うことも効果的です。

悪習癖の改善

顎関節症を予防するためには、悪習癖を改善することが重要です。例えば、歯ぎしりや食いしばり、爪を噛む、頬杖をつくといった習慣は、顎関節に過度な負担をかけます。これらの悪習癖を自覚し、意識的に改善することが予防につながります。

ストレスの管理

ストレスは顎関節症の発症や悪化に大きく関与します。ストレスがたまると、無意識に歯を食いしばることが増え、顎関節に負担がかかります。ストレスを効果的に管理するためには、適度な運動や趣味の時間を持つことが大切です。また、リラクゼーション法や深呼吸、マインドフルネスといったリラクゼーションテクニックを取り入れることもおすすめです。定期的な休息と十分な睡眠もストレス管理には欠かせません。

まとめ

まとめ 今回は、顎関節症の症状や保存的治療法、手術による治療法などを解説しました。顎関節症は、顎関節症や咀嚼筋にさまざまな症状が現れる病気で、重症度に応じて対処法を変える必要があります。軽度から中等度の顎関節なら保存的治療法で対応できることが少なくないですが、重症度が高い場合は手術による治療が必要となります。そんな顎関節症の症状に悩まされている人は、まず歯科医院などの専門の医療機関を受診しましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
若菜 康弘歯科医師(若菜歯科医院院長)

若菜 康弘歯科医師(若菜歯科医院院長)

鶴見大学歯学部大学院卒業 / 現在は若菜歯科医院の院長

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