顎関節症は、複数の原因が重なることで起こる病気といわれています。
その原因は、骨・筋肉・神経の異常から精神的な要因までさまざまです。
このようにさまざまな原因が考えられる顎関節症ですが、生活習慣の改善で症状の一部を緩和できます。
今回は、顎関節症の原因・症状・ストレスとの関係、そして顎関節症に悩む方への生活習慣の注意点について解説します。
顎関節症の原因・症状
- 顎関節症の原因を教えてください。
- 顎関節症は、さまざまな原因が合わさることで起こる多因子性疾患です。この原因は、主に以下の5要因です。
- 解剖学的要因(骨・筋肉・神経の異常)
- 生物学的要因(筋力不足)
- 外傷要因(怪我によって起こるもの)
- 咬合要因(不正咬合)
- 精神的要因(ストレスによるもの)
- 行動要因(癖や生活習慣によるもの)
このなかで早期改善が見込まれるのは、癖や生活習慣による行動要因です。
- どのような症状が出るのですか?
- 顎関節症によって起こる症状は、主症状と副症状に分けられます。顎関節症には7つの主症状があります。7つの主症状は、以下のとおりです。
- 顎を動かしたときに音が聞こえる
- お口を大きく開くと痛みがある
- お口を閉じられない
- 顔面に痛みがある
- 顔の筋肉疲労がある
- お口を左右にうまく動かせない
- 顎が外れてしまうことがある
この主症状のほかにも、顎と関連した部位にさまざまな副症状が現れます。主な副症状は以下のとおりです。
- 耳の痛み
- 耳鳴り
- 偏頭痛
- 眼の疲労
- 目の痛み
- 肩こり
- 腰の痛み
- めまい・立ちくらみ
- 歯・舌など口腔内の痛み
これらの副症状は、顎関節症によって起こっているとは限りません。その他の原因による症状であった場合には、早期に専門の医師による診察を受けた方がよいでしょう。
- 顎関節症が疑われる場合は何科を受診すればよいですか?
- 顎関節症の症状があった場合、歯科に受診するのが一般的です。しかし顎関節症の治療方法には、外科的な治療が含まれます。歯科では治療が難しく、口腔外科のあるクリニックや病院へと紹介されることも少なくありません。そのため、初めから受診が可能な場合は、口腔外科を選択するのがおすすめです。
- どのように診断されますか?
- 顎関節症はさまざまな原因が重なることで起こる可能性がある病気です。そのため原因を調べるために、原因と考えられる複数の検査をして顎関節症と診断されます。顎関節症の診断には、一般的に以下の検査が用いられます。
- 問診
- 触診
- パノラマ・レントゲン診断
- MRI
- 口腔内写真説明
このような検査の結果を総括して顎関節症と診断をするのです。
- 顎関節症の治療方法を教えてください。
- 顎関節症には、大きく分けると次のような治療方法があります。その治療方法は、筋肉の萎縮など痛みの原因に対する治療・咬合調整・スプリント療法・行動療法・家庭療法・外科手術です。顎関節症の方が医療機関に受診する場合、その理由が痛みであることは少なくありません。この痛みの原因は多岐に渡ります。そのなかでも痛みの原因が関節円板のズレによるものであった場合には、この部分を元の位置に戻して筋肉の萎縮をほぐします。この治療の目的は、顎関節症の痛みの緩和です。このほかにもマッサージや湿布を使用して痛みの緩和を測る場合もあります。咬合調整やスプリント療法は、この痛みの緩和を行った後に行います。咬合調整は、歯の高さを揃えて噛み合わせを合わせる治療です。歯の高さの低いところと噛み合わせが合うように、歯の高さが高くなっているところを調整します。スプリント療法は、マウスピースを使用する治療です。スプリント療法では、以下のような複数の効果を期待できます。
- ずれている顎関節の調整
- 顎の負担軽減
- 噛み合わせ調整
- 萎縮した筋肉リラクゼーション
行動療法では、顎関節症の原因となる癖や習慣を修正します。ほかにも専門の医師による外科手術を行う場合や、蒸しタオルやマッサージを用いた家庭療法を用いる場合があります。これらの治療方法を原因や症状に合わせて組み合わせて、顎関節症の治療は行われます。
ストレスで顎関節症になる?
- ストレスが原因で顎関節症になることがあると聞いたのですが…。
- 顎関節症は、心理・社会的要因との関連が深いとされる病気です。顎関節症のなかでも筋性顎関節症は、これらの要因との関連が深いことがわかっています。そのため顎関節症の原因となるストレスへの対処も必要です。
- ストレスによる顎関節症を予防する方法を教えてください。
- ストレスによる顎関節症には、セルフ・モニタリングが有効です。具体的には自分自身でストレスと向き合い、ストレスに対する自己認識を確認します。この場合のセルフ・モニタリングを行う内容には、以下のような例があります。
- 自分はどのようなストレスに弱いのか
- ストレスに直面したときにどのような思考をするのか
- どのような身体反応が出るのか
このような自分自身のストレスに対する反応が把握できることは、強力なストレス対策になるといわれています。
- ストレスとうまく向き合う方法を教えてください。
- ストレスに対する対処行動をストレスコーピングといいます。このストレスコーピングは、ストレスの内容に合わせてタイプごとに分かれます。
- 問題焦点型コーピング
- 情動焦点型コーピング
- 社会支援探索(要請)型コーピング
- 気晴らし型コーピング
ストレスが問題を解決することで解消される場合には、問題解決型コーピングという方法がとられます。直面した問題を自力あるいは他者の協力によって解決したり、対策を立てたりするような対処行動を行います。大切な人を亡くしたり、取り返しのつかない失敗をしてしまったりしたときに行われる対処行動は、情動焦点型コーピングです。これは問題を直接解決できない場合に起こる怒りや悲しみなどの気持ちを他人に話したり、自分のなかに抑えこんだりするコーピング方法です。問題に対し、前向きな方向へと見方や発想の転換を図る対処行動を、認知的再評価型コーピングといいます。これは一般的に、ポジティブシンキングと呼ばれる前向きな考え方です。問題に直面したときに他者に相談する対処行動を、社会支援探索(要請)型コーピングといいます。会社であれば上司・同僚・家族・友人などに問題を相談することで対処行動がとられます。問題自体の解決を図る問題解決型や、慰めてもらうことでコーピングが図られる情動焦点型などほかのコーピング方法へつなげてストレスを対処する行動です。4つ目のコーピング方法として、気晴らし型コーピングを解説します。これは運動・趣味・リラクゼーションなど、一般的に気分転換とされる行動をとるストレスへの対処行動です。人はいずれかのストレスコーピング方法に偏って問題に対処しがちです。しかしこれらのコーピング方法はどれがよいという正解があるわけではありません。状況に応じてバランスよく取り入れることが、ストレスとうまく向き合うために重要とされているのです。
顎関節症予防のための生活習慣の注意点
- 生活習慣が原因で顎関節症になることもありますか?
- 顎関節症は、いくつかの原因が重なって起こる多因子疾患です。その原因のなかには、行動要因と呼ばれる癖や生活習慣も含まれます。顎関節症になった方の行動要因でよくみられるものには、片噛み癖・不良姿勢・TCH(歯列接触癖)・歯ぎしり(プラキシブム)などがあります。TCHとは、無意識に上下の歯が持続的に接触してしまう癖のことです。本来、お口を閉じていても上下の歯は接触していないのが正常で、会話や食事という機会にのみ接触します。これらの行動要因とその他の要因が重なることで顎関節に負荷をかけ、痛みや開口障害など生活に支障をきたす症状を引き起こしてしまうこともあります。
- 予防のための生活習慣の注意点を教えてください。
- 顎関節症の原因となる癖や生活習慣について、予防のための注意点を紹介します。まず1つ目に紹介するのは、片噛み癖の注意点です。長期的な片噛み癖は、顎関節に大きな影響を及ぼします。長期に渡り片側を使い続けることで顎関節の動きに偏りや左右差が生まれ、よく使われる方だけ疲弊してしまうのです。噛むという行為は通常、無意識で行う行動です。そのためどちらか片側だけで噛んでいても、それを自覚することは難しいとされています。片噛み癖への注意点としては、自分の噛み癖がないか意識を向けることと、片噛みをしていた場合は積極的に反対側を使うことが大切です。次に紹介するのは、不良姿勢についての注意点です。顎に負担のかかる姿勢は顎関節へ圧力をかけてしまうため、顎関節症の原因になります。具体的には頬杖をついたり、うつ伏せなどの長時間に渡って下を向く姿勢をとったりすると、顎へ負担がかかります。また楽器やスポーツなどで持続的に顎を引くこともまた、顎に負担をかける姿勢です。顎関節症の症状がみられる場合には、顎への負荷が大きい姿勢は避けた方がよいでしょう。3つ目の顎関節症の原因の生活習慣として、TCH(歯列接触癖)への注意点を紹介します。TCHが大きな問題となるのは、持続的に顎に圧力がかかり続けることです。噛み締めや食いしばり程大きな力がかかっていないにしろ、TCHでは長時間に渡って顎関節の緊張状態が続く状態になります。そのため顎関節や顎の筋肉に疲労が蓄積し、痛みを発生させてしまうことも少なくありません。この予防には、自分自身がTCHを行っているかを確認し、意識的に改善することが有効です。
編集部まとめ
顎関節症では、さまざまな原因が重なって痛みや開口障害などの症状を引き起こします。
この原因の1つであるストレスには、セルフ・モニタリングでの予防や適切なコーピング方法を選択して対処することが有効です。
また日常生活の些細な癖も、顎関節症の原因になっていることが少なくありません。
予防のための注意点を参考に、普段の生活から原因への対策を行いましょう。
参考文献