顎関節症は、顎の関節や顎の周囲の筋肉などの異常で起きる病気です。日常生活での癖・食習慣・ストレスなどの複数の要因が重なって起きると考えられています。
顎関節症では、お口の開きづらさ・顎の痛み・物の噛みにくさなどの症状が現れます。患者さんは女性の方がやや多いのも特徴です。
今回は、顎関節症の原因・症状・保険適用・治療法を紹介しています。顎関節症で悩んでいる方の参考になれば幸いです。
顎関節症の原因や症状
- 顎関節症の原因を教えてください。
- 確固とした原因はわかっていません。以前は、噛み合わせの異常が原因と考えられていました。
しかし、近年では、いろいろな原因が絡み合って発症すると考えられています。日常生活で顎関節症につながる要因が積み重なり、個人の限界を超えたときに発症する流れです。
日常生活で考えられる原因には以下のものがあります。- 歯ぎしりや食いしばり
- 噛み合わせ
- 精神的ストレス
- 癖や習慣
- 顎の歪み
- 顎の骨格や食生活
歯ぎしり・食いしばりは、無意識に行っていることが多く、知らない間に顎や顎関節に相当な負担がかかっています。噛み合わせが悪く下顎骨の位置異常を起こしている場合、顎関節への負荷が高くなり、顎関節症の一因になることもあるでしょう。
個人の性格にもよりますが、精神的ストレスは顎の筋肉の緊張度が高くなり、歯ぎしりなどにつながりやすいです。睡眠中の歯ぎしりも顎には負荷がかかります。
ほかにも、頬杖・偏咀嚼・楽器・姿勢など日常で何気なく行っている行動や習慣が、顎関節症の一因になっている可能性があります。
- どのような症状が出るのですか?
- 主に以下の症状が出ます。
- 顎が痛む
- 顎を動かすと音がする
- お口を大きく開けられない
- ものが噛みづらい
顎関節は、頭の骨のくぼみに下顎が入り込む構造になっています。頭の骨と下顎の間でクッションのような働きをしているのが関節円板です。関節円板は、下顎骨と側頭骨の間にある軟らかい線維組織です。関節円板があるため下顎がなめらかに動きます。
しかし、何らかの理由で関節円板がずれることで、顎関節の痛みや開閉口時の雑音につながります。顎関節症では、顎周囲の頬やこめかみなどにも痛みが出るのが特徴です。
また、顎を動かした際にカクンカクン・ミシミシなど、耳の前あたりで音が鳴る場合もあります。痛みがない場合は、治療の必要性は少ないでしょう。関節円板がずれることで、お口の開閉にも支障をきたすため、お口を大きく開けられないことや物が噛みづらい症状が出てきます。
- 顎関節症は何科を受診したらよいですか?
- 口腔外科が診療科目に入っている歯科医院を受診するようにしましょう。口腔外科では、顎関節症をはじめ、親知らずの抜歯・嚢胞・口腔腫瘍・インプラント・口腔がんなど口腔と口腔周囲の組織・器官の治療を行います。
一般歯科は、むし歯・歯周病の治療がメインです。顎に気になる症状がある方は、口腔外科がある歯科医院を探しましょう。
顎関節症の治療法と保険適用
- 顎関節症の治療法を教えてください。
- 顎関節症では、症状に応じて保存的治療と外科的治療が行われます。保存的治療は、薬物療法・理学療法・スプリント療法です。
外科的治療では、顎関節腔洗浄法・顎関節鏡視下手術・顎関節開放手術などの手術を行います。
- 顎関節症の保存療法ではどのようなことを行いますか?
- 保存療法では、薬物療法・理学療法・スプリント療法を行います。痛み止めや筋弛緩剤などを処方し、患者さんの状態を判断しながら投与の継続・変更を行うのが薬物療法です。
理学療法では、咀嚼筋のマッサージ・患部を温める温罨法・筋伸展訓練・顎関節可動化訓練などを行います。筋伸展訓練は、できる限りお口を大きく開け、咀嚼筋をストレッチさせる方法です。
顎関節可動化訓練は、顎関節の痛みによってお口の開閉に制限がある方に行います。少し痛みを感じるまで自分の指で開口させ、下顎の可動域を改善する方法です。
スプリント療法は、マウスピースに似た装置を就寝時に装着して使用します。上下顎の間に緩衝材が入ることで、噛み締めた際の顎関節への負荷を軽減するのが目的です。
- 顎関節症の手術について教えてください。
- 顎関節症では、顎関節腔洗浄法・顎関節鏡視下手術・顎関節開放手術などを行います。顎関節腔洗浄法は、生食水で関節腔内を洗う手術です。関節腔内を洗浄すると疼痛などの症状が治まります。
顎関節鏡視下手術は、関節円板が関節内で動けなくなった際に関節鏡で行う手術です。少しの皮膚切開で行えるため、患者さんの精神的・肉体的な負担を軽減できます。
保存的療法やほかの手術でも治療が難しい場合は、顎関節開放手術を行います。
- 顎関節症の治療は保険が適用されますか?
- 保険が適用される歯科医院もあります。保険で治療を行う場合、受けられる治療が限定されるかもしれません。また、治療方法によっても、保険適用と保険適用外の治療があります。
保険適用外の治療は、治療費が安くはないため歯科医師と相談して判断しましょう。
- 自由診療の場合の費用について教えてください。
- 自由診療の場合、スプリントのハードタイプで40,000円(税込)、ソフトタイプで25,000円(税込)程かかります。ほかにも、筋マッサージ(20分)で4,000円(税込)、咀嚼筋のリハビリ指導料(初回のみ)6,000円(税込)程になります。
各歯科医院で治療費は異なるため、確認してから治療に臨むようにしましょう。
顎関節症のセルフチェックや予防方法
- 顎関節症はセルフチェックで発見できますか?
- セルフチェックでみつかる場合もあるでしょう。ご自身で以下に挙げる点をチェックしてみてください。
- 長時間、顎を使うと疲れる
- お口の開閉時に痛みがある
- 耳の前やこめかみ、頬に痛みがある
- 大きくお口を開けられない
- 顎が動かなくなることがある
- 人差し指、中指、くすり指の3本を縦にした状態でお口に入らない
- お口の開閉時に耳の前あたりで音がする
- 頬や頸部、頭などを最近うった
- 最近、嚙み合わせが合わないと感じる
- 肩こりや頭痛がよくある
上記の何個かが該当する場合には、顎関節症の可能性が考えられます。雑音は、顎を動かした際に耳の前あたりでカクンカクン・ミシミシなどの音がするときがあります。顎が動く際に関節円板がずれるため音が出るようです。
お口は、顎に問題がなければ、人差し指・中指・くすり指の3本を縦にしてもお口に入れる程度には開きます。しかし、精一杯開けても開かない場合には、顎関節か咀嚼筋に何か問題が生じているかもしれません。また、お口を動かした際の顎の痛みにも注意してみてください。
お口を開閉した際に痛むのか、食事の際に痛むのかなど、顎が痛む状況を把握しておくと診察・治療にも役に立ちます。
- 顎関節症の予防方法を教えてください。
- まずは、日常生活で顎関節に負荷がかかりやすい状況や自身の動作の癖などを把握しましょう。把握したら、負荷が軽減するように改善してください。
- 固い食べ物を避ける
- 長時間のデスクワークを控える
- 頬杖や荷物の片手持ちなどをやめる
- 日中の食いしばりに気付いたら力を抜く
- 姿勢をチェックする
- こまめに休憩をはさむ
- お口を開きすぎないようにする
上の歯と下の歯が接触していない時間も顎に相当の負担がかかっています。また、長時間のデスクワークや趣味に没頭しているときにも、知らない間に顎に力が入ります。
ストレスを感じたら休憩を挟んで気分転換を図るのも1つの手です。食事やあくびで、ついついお口を大きく開けてしまうときがあります。なるべく意識して開けすぎないようにしましょう。あくびの際に下顎を少し押さえると開けすぎを防げます。
姿勢にも注意しましょう。うつ伏せや横を向いて寝ると顎や首に負担がかかるため、できる限り仰向けで寝ることをおすすめします。
頬や顎の関節周囲のマッサージも効果的でしょう。固くなっている部分を円を描くように押してみると固さや痛みが軽減されます。
編集部まとめ
顎関節症の原因・症状・保険適用・治療法を紹介してきました。
顎関節症は、日常生活での顎関節への負担が要因として積み重なり、個人の限界を超えた時に発症します。
原因は、ストレス・歯ぎしり・食習慣・行動の癖など多くの因子が重なって起きると考えられています。
保存的治療は、薬物療法・理学療法・スプリント療法など顎への負担が少しでも減る方法です。
保存的治療で治らないときや重症度が高いときには、外科的手術も行われます。治療には、保険適用の治療もありますが、自由診療の治療も受けられます。
顎の状態や症状の程度に応じて治療方針も変わるため、歯科医師と相談して治療を進めていきましょう。
参考文献