顎が腫れて痛いなどの症状が見られる際に、顎関節症が原因だと思われる方もいることでしょう。
顎関節症は自己診断も可能ですが、リンパの腫れがある場合、腫瘍などほかの病気が原因のこともあります。
顎関節症の主な症状である顎の痛みやお口の開けづらさがある場合でも、リンパの腫れがあるときには、安易に自己診断で完結せずに医療機関を受診するようにしましょう。
この記事では、顎関節症がどういった病気なのかやリンパの腫れとの関係や原因、対処法を解説します。
顎関節症の原因や症状
- 顎関節症とはどのような病気ですか?
- 顎関節症は、顎の関節や顎に関連する筋肉の病気です。主な症状として、お口を開こうとする際に顎関節や筋肉に痛みが出る・顎関節で音がなるなどがあります。
お口を大きく開けられなくなるケースが多いため、歯科医院での治療時や飲食の際に発見されることがあります。
一般社団法人日本顎関節学会の顎関節症治療の指針2018では、顎関節症を次のように分類しています。- 咀嚼筋痛障害(I型)
- 顎関節痛障害(II型)
- 顎関節円板障害(III型)復位性
- 顎関節円板障害(III型)非復位性
- 変形性顎関節症(IV型)
上記はそれぞれ原因となる場所が異なっており、咀嚼筋痛障害は筋肉の硬直や炎症が原因で起こり、顎関節痛障害は関節包や靭帯が捻挫のような状態になることで起こります。
顎関節円板障害は関節円板の位置がずれたり変形したりすることで起き、お口を開閉する際に音が出るのが特徴です。変形性顎関節症は、顎関節に強い負荷が持続的・繰り返し与えられることで起こります。
- 原因を教えてください。
- 長い間、噛み合わせの悪さが顎関節症の原因だと考えられていました。しかし顎関節症の原因は、はっきりしていないというのが現在の一般的な見解です。
顎関節症は原因を一つに絞ることは難しく、現在では多因子病因説が世界的に認められています。顎関節や筋肉にかかるさまざまな負担が集まり、顎関節症を発症するという考え方です。
顎関節症を発症するリスクを高める因子には、次のものが挙げられます。- 顎関節や筋肉の構造的な弱さ
- 噛み合わせの問題
- 緊張や不安などの精神的要因
- 外傷による問題
- 頬杖やスマートフォンの操作などの日常的な習慣
- 片側で噛み続けたり、ガムや硬いものを噛む
- 歯ぎしりや睡眠不足などの睡眠の質
- 球技スポーツやウィンタースポーツなどのスポーツ
- 吹奏楽器や歌唱などの音楽活動
- コンピューター作業や精密作業などの仕事
ほかにもあくびなどによる過度な開口なども、発症の原因として考えられています。
- どのような症状が出るのですか?
- 顎関節症では、次のような症状が見られます。
- お口を開こうとすると顎関節や筋肉が痛む
- 大きくお口を開けられない
- お口を開閉する際に顎関節で音が鳴る
- 咀嚼時に痛みがある
- 首や肩がこる
顎関節症の音は、耳のそばで鳴るため音が気になる方は少なくありません。しかし顎関節症の音を消すためには手術が必要です。症状が音だけの場合、わざわざ手術で治療する必要はないと考えられています。顎関節症が長く続いている方や年齢の高い方には、関節を作っている骨が変形しているケースもあります。
- 顎関節症になりやすい年齢・性別を教えてください。
- 顎関節症は女性に少し多い病気で、10代後半から増加しはじめ、20代と40代以降の人に多くみられます。顎関節症は一生の間で二人に一人が経験するとされている病気です。症状が音だけの場合、少なくても人口の20%程度の方が顎関節症を持っているとされています。治療が必要になるのは、顎関節や筋肉の痛みやお口が開けにくいなどの症状がある方で、自覚症状がある方のうちの5%程度といわれています。
- 顎関節症のセルフチェック方法を教えてください。
- 顎関節症の診断時には、お口を大きく開け閉めした際に顎に痛みがあるかどうかを確認されます。セルフチェックでもこの質問への答えを考えてみましょう。痛みがある場合は、顎関節症の可能性があります。日本顎関節学会1998の顎関節症の診断基準には、顎関節や咀嚼筋などの疼痛・関節の雑音・開口障害・顎運動異常があり、類似症状を持つほかの疾患を除外したものとされています。これらの症状がみられた場合、顎関節症の可能性が極めて高いようです。日本顎関節学会の顎関節症の診断基準は2019年に変更がありましたが、顎関節症の診断基準としては変更はありません。
顎関節症とリンパの腫れは関係がありますか?
- 顎関節症でリンパの腫れが起こることはありますか?
- 顎の筋肉の炎症が原因で顎関節症を発症している場合には、腫れぼったくなるケースがあります。しかしリンパの腫れが起こることはありません。頬の筋肉や顎の筋肉が腫れている場合には顎関節症が可能性として挙げられますが、リンパの腫れの場合には別の病気が隠れている可能性が考えられます。現在腫れている方は、腫れている部位をよく確認して医療機関を受診しましょう。
- 顎のリンパが腫れている場合に考えられる病気を教えてください。
- 顎のリンパの腫れは、ウイルスや細菌に感染したり腫瘍ができたりなどの原因が考えられます。顎の下や首にはリンパ節がたくさんあり、さまざまな病気が原因で腫れることがあります。
- 頸部リンパ節炎
- 伝染性単核球症
- 慢性リンパ節炎
- 風邪・おたふく風邪
- 親知らず
- 悪性・良性腫瘍
伝染性単核球症やリンパ節炎は、腫れのほかに痛みや発熱を伴うことのある病気です。顎付近の痛みから自己診断では顎関節症と間違えることもあります。早めに医療機関で診察を受けて診断・治療を行いましょう。その他、風邪やおたふく風邪でもリンパ節の腫れが見られます。親知らずは歯冠周囲炎を併発しやすく、顎の骨まで炎症が広がるとお口が開けづらくなるケースがあります。
顎関節症の対処法や治療
- 顎関節症の対処法を教えてください。
- 顎関節症の対処法にとして、患者さん自身の日常的なセルフケアが重要だとされています。開口時の痛みや開閉しにくいなどの症状がある方は、取り入れてみてください。
お口を動かしていなくても痛みがある・急速に顎関節症を発症してお口がほとんど開かないなど症状が強い場合は、急激にお口を開閉すると症状が悪化する可能性があるため避けましょう。
氷水をビニールに入れて10分を目処に患部を冷やし、10分程度経ったらゆっくりとお口を開閉して筋肉を伸ばします。この動作を1日数回行うようにしましょう。
食事は小さく切り分けて大きくお口を開ける必要がないようにします。フランスパンやビーフジャーキーのような強い噛み締めが必要な食材も避けましょう。
あくびをする場合も大きくお口が開かないように顎の下に手を置いて抑えます。
症状が落ち着いてきたら親指の付け根などで、ゆっくり押して回すようにマッサージをするとよいですよ。蒸しタオルで5分程度温めるのもおすすめです。
セルフケアなしで顎関節症の症状を完治させることはほとんどありません。顎関節症の予防や再発防止にもつながるため、セルフケアは継続して行ってくださいね。
- 何科を受診すればよいですか?
- 顎関節症の診断・治療には、歯科医院や口腔外科を受診しましょう。顎関節症の外来がある医療機関もあるため、ご自分の周辺地域で探してみてくださいね。一部の整形外科で診療してもらえる場合もあります。
- 医療機関ではどのような治療が行われますか?
- 医療機関では、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬を用いた薬物療法が行われます。並行して噛み合わせの調整やスプリント(マウスピース)を使用した保存療法が主な治療方法です。スプリント(マウスピース)を睡眠中に装着することで、夜間の無意識の噛み締めによる顎関節や筋肉への負担を軽減できます。痛みが強い場合には、レーザーや電気刺激で血流を改善して、痛みを軽減することも可能です。保存療法が効果を発揮できない場合や噛み合わせのズレが大きい場合には、手術を伴う治療が必要なケースもあります。治療開始から1ヵ月以上経過しても改善が見られない場合は、2次医療機関を紹介してもらうとよいでしょう。
編集部まとめ
リンパの腫れは顎関節症が原因ではないケースが少なくありません。悪性腫瘍が隠れていたり、親知らずが炎症を起こして顎の骨まで細菌が侵入していたり、早急な対応を求められるケースもあります。
顎関節症自体はセルフチェックも可能ですが、その他の病気との見分けが難しい場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
医師の診断で顎関節症だと認められた際には、自宅で行う日常的なセルフケアが重要です。セルフケアなしに顎関節症の症状が完治することはまずありません。
顎関節症が疑われる場合やリンパの腫れが気になる場合は、早めに医療機関を受診して診断・治療を受けましょう。
参考文献