口腔がんが心配になったら、何科の診療を受ければよいのかと疑問に感じていませんか。口腔がんはお口のなかにできるがんの総称ですが、お口のなかだから歯医者にいけばよいのか、それとも内科などを受けるべきなのかなど、判断が難しいかもしれません。
この記事においては、口腔がんを何科で受けるべきなのかをはじめ、適切な診療を受けるためのポイントなどを紹介します。
口腔がんの基礎知識
口腔がんは、口腔内にできる悪性腫瘍を広く指します。口腔がんのなかには舌にできる舌がんや、歯茎にできる歯肉がんなどの種類があり、がんが生じる部位によってその名称が異なりますが、基本的にはどれも悪性腫瘍として同じ性質をもっています。
悪性腫瘍というのは、わかりやすくいえば周囲の細胞を巻き込みながら無秩序に増大していってしまう細胞のことです。放置しておくと身体の機能維持に必要な細胞までがん化させて機能不全に陥らせてしまうという特徴があります。
口腔がんと咽頭がんの違い
口腔がんと近い部位にできるがんに、咽頭がんと呼ばれるものがあります。これらの違いは、主にがんができる場所となっています。
咽頭とは鼻の奥から食道までの範囲のことで、舌の奥側3分の1の範囲も咽頭に該当します。
舌の前側3分の2の範囲にできるがんは口腔がんに分類されるため、同じ舌にできるがんとして混同しやすい方もいると思います。
自己判断で口腔がんか咽頭がんかを判断することは困難なため、専門医の診断を受けましょう。
口腔がんの原因
口腔がんを含む悪性腫瘍は、細胞の遺伝子に異常が生じることで引き起こされます。
健康な細胞の場合、細胞の増殖には一定の決まりごとがあるため、細胞が過剰に増えすぎるということはありません。しかし、何らかの理由で遺伝子に異常が引き起こされると、細胞の増殖が無秩序に引き起こされてしまい、大きな細胞の塊ができます。この状態を腫瘍といいます。
腫瘍には悪性と良性があり、周囲の細胞をがん化させたり、転移したりする場合は悪性腫瘍、そうでない場合は良性腫瘍と呼ばれます。 健康な細胞に遺伝子の異常が生じてしまう原因は多岐にわたり、家族内で受け継がれた遺伝の特性や、放射線などの影響、HPVウィルスなどによる影響などが要因になると考えられています。
口腔がんにおいては、喫煙や飲酒の習慣がある方の場合に発症リスクが高くなりやすいことがわかっているほか、噛み合わせの悪さによる口腔内への刺激なども口腔がんのリスクを高めると考えられています。
口腔がんの症状
口腔がんは、初期段階においては口腔内のしこりや、粘膜の変色、そして口内炎のような症状として現れることが多いがんです。発生部位によっては歯がぐらついたり、入れ歯が合わなくなったり、噛み合わせに違和感が生じたりする場合もあります。 進行するとお口を開きにくくなったり、出血が生じるようになったりするほか、転移によって首のリンパ節などにしこりを感じるようになるといった変化が生じます。
日常生活への影響としては食事を飲み込みにくくなったり、会話がしにくくなったりという変化が現れやすいといえます。
口腔がんができやすい部位
口腔がんの半分以上は舌にできる舌がんで、特に舌の側面にできやすいです。舌がんが舌の表面にできることは稀で、下の側面や裏側に生じます。
次にできやすい部位は歯肉で、口腔がん全体の25%ほどが、上下いずれかの歯肉に生じます。歯肉がんは歯に影響を与えやすく、歯がぐらつくなどの自覚症状で気が付く場合もあります。
残りが頬の粘膜や口腔床、口蓋などで、唇に生じるケースもあります。
口腔がんは何科を受診するべき?
口腔がんが心配な場合に何科を受診するべきか悩む方も多いかもしれません。
お口のなかのトラブルは歯科医院に相談するという方もいるでしょうし、何科かわからないからひとまずかかりつけの内科などを受診するという方もいるでしょう。
専門性が高い口腔がんの診療を受けるためには、何科を受診するべきか解説します。
口腔がんの診療を行っている診療科
口腔がんの専門性が高い診療を受けることができるのは何科かという点については、口腔外科や耳鼻咽喉科を挙げることができます。 口腔外科は歯科に関連する診療科で、難症例の親知らずの抜歯など、口腔内の外科的な治療を専門的に取り扱っています。
口腔がんは口腔外科が取り扱う主要な疾患の一つで、がんの診断から切除手術まで、幅広い対応を受けることができます。 耳鼻咽喉科は耳や鼻の診療を行うイメージが強い診療科ですが、眼球を除いた脳の下から鎖骨までの幅広い部位について診療を取り扱っています。お口のなかにできる口腔がんだけではなく、咽頭がんなども診療を行っているため、首まで腫れているようなケースなどで相談しやすいといえます。
口腔外科と耳鼻咽喉科の口腔がんに対する診療の違い
口腔外科と耳鼻咽喉科はどちらも口腔がんの診療を行っていますが、細かくいえば取り扱いの範囲に違いがあります。
まず口腔外科はお口のなかについては全体的に診療を行っていますが、のどは診療を行う範囲外であるため、咽頭がんは対応していません。また、口腔がんは早い段階で頸部リンパ節という首のリンパ節に転移しやすいことが知られていますが、頸部リンパ節は首の範囲であるため、口腔がんでの取り扱いが難しい可能性があります。 一方、耳鼻咽喉科はお口のなかの診療も行っているため口腔がんに対応可能ですが、歯や歯茎、顎の関節などは診療を行っていません。
口腔がんは歯茎などにも生じることがあるため、口腔がん全般に対応可能という点では、口腔外科の方が相談しやすいといえます。
診療科の選び方のポイント
口腔がんの診療において大切なのは、まずは口腔外科でも耳鼻咽喉科でもいいので、なるべく早めに診療を受けることです。口腔がんは放置していると症状が進行していってしまいますので、まずは早期診断を心がけ、負担の少ない早期治療が可能な内に治療を進めることが重要です。
そのため、例えばよく受診している口腔外科や耳鼻咽喉科があるのであれば、まずはどちらでもいいので、そのときに受診しやすい方へ相談してみましょう。 もしも口腔外科と耳鼻咽喉科のそれぞれを専門的に扱うクリニックが両方とも通いやすい範囲にあって、できる限り適切な診療を受けたいということであれば、以下のように判断してみるといいかもしれません。
違和感を感じるなど早期の場合
口腔内にしこりがあるような気がしたり、歯がグラついている気がしたり、なかなか治らない口内炎が気になったりと、口腔内に違和感があるというような状態であれば、口腔外科の受診をおすすめします。
口腔外科の診療を専門的に行ってきた歯科医師は、口腔がんをはじめ口腔内のさまざまなトラブルについて診療経験を積んでいるため、しっかりとした診断が期待できます。
もし口腔がんという診断があれば早期に治療へ進むことができますし、口腔がんではなかった場合も専門性の高い治療やケアを受けることができるため、何か違和感があればまずは口腔外科を受診してみましょう。
首のリンパ節への転移している場合
症状が進行してしまい、口腔内の違和感だけではなく首にもしこりがあるように感じる場合は、頸部リンパ節への転移なども含めて検査が必要となるため、耳鼻咽喉科を受診するとよいでしょう。
口腔内だけではなくのどや鼻などの広い範囲の診療を行う設備が揃っているため、転移の有無などについても詳しい検査が期待できます。
口腔がんの早期発見のために
口腔がんは、早期発見と早期治療が大切です。
早期発見が重要な理由や、早期発見するためのポイントを紹介します。
口腔がんの早期発見の重要性
口腔がんは、周囲の細胞を巻き込みながら拡大を続けていく悪性腫瘍の一種です。病気を見つけるのが遅くなり、治療に時間がかかるほど症状は悪化を続け、必要な治療の難易度も高くなってしまいます。
口腔がんはステージ1からステージ4という4つの段階に分類されますが、がん研有明病院における舌がんの治療成績によれば、ステージ1の初期段階であれば5年後生存率が93%であるのに対し、ステージ4の場合は5年後生存率が50%まで下がってしまうそうです。このことからも、早く病気を見つけることが生存率を高めるために重要であることが伺えます。 早期発見を行うことができれば、治療自体も身体への負担が小さくなりやすく、治療後のQOLも維持しやすくなります。
行政による口腔がん検診の特徴
口腔がんの検診は、全国複数の行政機関によって実施されています。行政主導で行う口腔がん検診は受診費用が数百円または無料という金額で利用できる点が特徴で、問診や視診、触診などによる検査を受けることができます。
住んでいる自治体で口腔がん検診が導入されていれば、少ない費用負担で気軽に口腔がんの検査を受けることができますので、早期発見のために利用してみてはいかがでしょうか。
口腔外科の定期検診の特徴
口腔外科の診療を行う歯科クリニックの多くは、歯のトラブルを予防することを目的とした定期的な歯科検診を提供しています。
一般の歯科医院と同様、むし歯や歯周病などのトラブルがないかをチェックし、専門的な歯のクリーニングなどで歯の健康をサポートしてくれます。
歯の健康を保つためにも、数ヶ月に一度は歯科検診を受けることが推奨されていますが、口腔外科の専門的な診療を行っている歯科医院で定期検診を受けるようにしておけば、口腔がんになった場合も早期発見につながりやすいといえるでしょう。
気になることがある場合は早めに診察を受ける
口腔がんを早期発見するためには、気になることがあれば躊躇せずにすぐ診療を受けることが大切です。口腔がんの進行速度は人によって異なり、急速に進行してしまう場合もあるため、気になる症状を放置してしまったり、ひとまず様子見をしていたりすると、あっという間に重症化してしまう可能性も考えられます。
何科の診療を受けるべきか悩んで受診を遅らせてしまうのではなく、口腔外科でも耳鼻咽喉科でもよいので、まずは早めに診察を受けましょう。
気を付けるべき症状
下記のような症状がある場合、口腔がんの可能性が考えられるため、早めに口腔外科などを受診しましょう。
舌が赤くなったり白くなったりしている
舌は、口腔がんが特にできやすい部位です。
舌にできる赤い斑点や白い斑点は、口腔がんの前段階ともされ、がん化する可能性が高い状態ですので、早めに診療を受けておきましょう。
2週間以上治らない口内炎がある
口内炎は誰にでもできる症状ですが、口内炎であれば通常は2週間もあれば症状が軽快していきます。
2週間以上たっても治らないような口内炎は口腔がんの可能性が考えられます。
口腔内に硬いしこりや出血しやすい部分がある
お口のなかに硬いしこりがあると感じたり、同じ場所からたびたび出血する場合も、口腔がんの可能性があります。口腔がんではなかったとしても、適切な治療を行えば改善可能な場合が多いので、まずは口腔外科を受診しましょう。
首のリンパ節が3週間以上腫れている
口腔がんは、早い段階から首にあるリンパ節に転移しやすく、首に転移するとリンパ節に腫れが生じるようになります。
首のリンパ節は外部から体内に進入してきた細菌やウイルスなどによっても腫れることがありますが、長期に及ぶ場合はやはり何らかのトラブルの可能性があるため、耳鼻咽喉科を受診するとよいでしょう。
口腔がんの診断と治療
口腔がんの診断や治療は、下記のように行います。
口腔がんの診断方法
口腔がんは、まずは問診や視診、触診を行い、悪性腫瘍の疑いがある場合は細胞を一部採取して細胞診を行います。細胞診で悪性腫瘍の特徴が認められた場合は口腔がんと診断され、X線やMRIなどの画像診断でがんの大きさを調べ、ステージを判断します。
そのほかにも、離れた場所への転移などを確認するために血液検査などが行われる場合があります。
口腔がんの治療方法
口腔がんの治療は、悪性腫瘍がある部位を手術で除去する原発巣切除が基本です。口腔がんは周囲の細胞を巻き込みながら拡大していく病気ですので、がん化している細胞をすべて除去できれば、完治が可能です。
悪性腫瘍は手術時点で見えている範囲よりも広い範囲に影響を及ぼしている可能性があり、切除する際は再発を防止するために、腫瘍のサイズよりも広範囲を切除することが一般的です。 口腔がんの場合は頸部リンパ節に転移することも多いため、必要に応じて頸部郭清術と呼ばれる、首のリンパ節やその周囲の組織を切除する手術も行います。 手術で病巣を除去しきれなかった場合は、抗がん剤や放射線を使用した治療も併用し、残っているがん細胞に対応していきます。 なお、手術によって切除した組織については、身体のほかの部位から採取した筋肉などを使用して機能や見た目を回復させる再建手術が行われることもあります。
まとめ
口腔がんかもしれないと気になることがあれば、まずは何科を受診するべきかと迷うのではなく、早めに口腔外科や耳鼻咽喉科を受診することが大切です。
口腔がんをなるべく身体への負担を抑えながら治療するためには早期発見と早期治療が大切なので、診療を受けやすいクリニックにまずは相談してみましょう。 また、口腔がんをはじめとしたお口のトラブルは、定期的な歯科検診を受けることで予防や早期治療がしやすくなります。
口腔外科を取り扱う歯科医院の多くは専門性の高い定期検診も提供していますので、気軽に相談できるかかりつけ歯科医院として、歯科検診を受けてみてはいかがでしょうか。
参考文献