お口のなかに発生する重篤な病気のひとつに口腔がんがあります。お口のなかに生じる悪性腫瘍である口腔がんは、進行性の病気であり、放置すると末期へと至ります。口腔がんの末期ではさまざまな症状が現れ、日常生活にも支障をきたすため、適切なケアが必要となります。ここではそのような口腔がんの末期症状と進行の仕方、緩和ケアのポイントなどを詳しく解説します。口腔がんを患っていたり、ご家族が口腔がんの症状に悩まされていたりする方は参考にしてみてください。
口腔がんの進行と症状
はじめに、口腔がんの進行と症状について解説します。
- 口腔がんのステージを教えてください
- 口腔がんのステージは、0〜Ⅳまでに大きく分けられます。厳密には、0、I、II、III、IVA、IVB、IVCの7つに分類され、それぞれで異なる症状が見られます。ステージ0〜IIは早期がん、ステージIII〜IVBは局所進行がん・IVCは遠隔転移を伴う進行がんに相当します。いわゆる口腔がんの末期は、ステージⅣを指すのが一般的です。
- 口腔がんの症状はどのように進行していきますか?
- 口腔がんでは、まず口腔粘膜に発赤や白色病変、しこりなどが見られるようになります。口内炎がなかなか治らなかったり、繰り返し発症したりするのも口腔がんの初期でも見られることがあります。その後は、がん細胞が周りの組織へと浸潤し、病変の範囲が拡大したり、粘膜のただれや出血、痛みなどが生じたりするようになります。さらには、お口を大きく開けられない、食べ物が飲み込みにくい、発音や滑舌が悪くなるなどの症状が現れます。がん細胞が首のリンパ節に転移すると、しこりが認められるようになります。口腔がんの症状はこうして徐々に広がり、重篤化していくのです。
- 転移の可能性がある場合の症状を教えてください
- 首のリンパ節が腫れたり、口腔以外の臓器や全身に痛みを感じるようになったりした場合は、がん細胞が転移している可能性を考えた方がよいです。もちろん、こうした全身症状が悪性腫瘍に由来しているかどうかは、精密検査をしてみなければわかりませんが、口腔がんを患っている時点で、その可能性も考慮した方が賢明といえます。
- 口腔がんの末期症状を教えてください
- 口腔がんが末期に至ると、次のような症状が現れます。
【症状1】極端な体重減少
口腔がんの末期症状としては、極端な体重減少が第一に挙げられます。口腔がんの末期では、食欲が落ちることに加え、食事から摂取した栄養もがん細胞の代謝に使われてしまうことから、患者さんの体重は徐々に減っていきます。体重が減り、栄養の吸収量も不足すると全身の免疫力が低下して、さらに重篤な疾患・症状を引き起こすリスクが高まることから、十分な注意が必要といえます。ちなみに、末期がんで体重が減少するとがん悪液質(Cancer Cachexia)という症状が現れ、顔のやつれや頬のこけ、顔の輪郭の変化などが見られることがあります。栄養不足によって皮膚が乾燥し、弾力を失うのも末期がんにおける特徴的な症状です。
【症状2】全身の痛み
口腔がんに伴う痛みは、主に口腔周囲に現れますが、末期に至ると痛みが全身へと広がります。これは特定の部位に鋭い痛みが生じるのではなく、お腹や関節、首などに何とも表現できない痛みが起こることがあります。口腔末期における全身の痛みは、基本的にがん細胞が転移していることを意味します。【症状3】構音障害
口腔がんの腫瘍が大きくなると、口腔周囲筋の運動を阻害して、構音障害を引き起こすことがあります。口腔がんを患っていて発音しにくい、滑舌が悪いなどの構音障害が認められたら、病状が進行している可能性が高いといえます。【症状4】咀嚼障害・嚥下障害
口腔がんの腫瘍の拡大は、咀嚼障害や嚥下障害を引き起こすこともあります。これは口腔がんの末期で構音障害が生じるメカニズムと同じです。【症状5】出血と悪臭
口腔がんの末期症状では、口腔粘膜からの出血や悪臭が見られるようになります。【症状6】その他
末期の口腔がんでは、口腔内に硬いしこりや白斑病変、口内炎なども生じます。これらは口腔がんが進行する過程で見られる症状ですが、末期の口腔がんでも認められることがあります。
口腔がんの末期症状へのケア方法
次に、口腔がんの末期症状に対して、どのようなケアを行うべきかについて解説します。
- 口腔がんの末期症状への緩和ケアではどのような対応が行われますか?
- 口腔がんの末期症状における緩和ケアとは、治癒を目的とした治療ではなく、患者さんとその家族にとって可能な限り良好なQOLを実現し、保持するための医療です。そのため口腔がんの末期症状の緩和ケアでは、がん性疼痛という痛みを和らげることに重きが置かれます。具体的には、痛みに妨げられずに良眠できる、安静時に痛みがない、体動時にも痛みがないことを目標にします。◎WHO方式の除痛ラダー
世界保健機関であるWHOでは、次の方法で鎮痛薬を服用し、がん性疼痛を取り除くことを推奨しています。
・by mouth(できるだけ経口で)
・by the ladder(効力の順に段階的に)
・by the clock(投与時間を決めて定期的に)
・for the individual(痛みが消える個別的な量で)
・attention to detail(そのうえで細かい点に配慮)実際の緩和ケアでは、比較的作用の弱いNSAIDsの服用から始めて、オピオイドを加えたり、モルヒネ水を処方したりするなど、徐々に段階を踏んでいきます。そうすることで患者さんががん性疼痛に悩まされず、薬剤による副作用もできる限り抑えながら快適に過ごせるようになります。
- 在宅での緩和ケアはどのように行えばよいか教えてください。
- 在宅での緩和ケアでは、口腔ケアを徹底することに加えて、摂食や嚥下、構音のリハビリテーションを行うことで、口腔がんの末期における症状を緩和することができます。ケースによっては、舌接触補助床(PAP)や軟口蓋挙上装置(PLP)といった専用の装置を使ってリハビリテーションすることもあります。こうしたリハビリテーションには、しゃべる・食べる・飲み込む・呼吸する機能を回復する効果も期待できるため、QOLの向上に大きく寄与します。その点も踏まえたうえで、一緒に暮らしている家族や介助者がリハビリテーションを促し、患者さんのモチベーションを高めてあげることも重要といえます。
- 食事や栄養管理で気をつけることは何ですか?
- 口腔がんの末期における栄養管理では、経鼻胃管カテーテルが使用されることがほとんどですが、以下のような問題点があることを知っておきましょう。
【経鼻胃管カテーテル】・カテーテルを自分で繰り返し抜いてしまう
・誤嚥性肺炎のリスクが高くなる
・胃管カテーテルの違和感が強く現れやすい
・鼻の周囲に潰瘍や粘膜びらん、かぶれが生じやすい
・薬剤によってカテーテルが閉塞するおそれがある
・審美面の問題が生じる
・実際は胃内まで留置されないことがある
- 医療チームとの連携で大切なポイントを教えてください。
- 緩和ケアの医療チームとの連携では、患者さん自身はもちろん、家族や介護者などの関係者などが円滑にコミュニケーションを取ることが大切です。緩和ケアに関する意思決定も患者さん、もしくは家族が独断で決めるのではなく、医療チームの意見も聞きながら慎重に行っていくようにしましょう。そのうえで患者さんが普段どのようなことを感じて、どのようなことに悩まされているのかも含め、正確な情報を医療チームに伝えることは重要といえます。
編集部まとめ
今回は、口腔がんの末期症状や自宅でのケア方法、緩和ケアのポイントについて解説しました。口腔がんが末期に至ると、極端な体重減少、全身の痛み、構音障害、咀嚼障害、嚥下障害、口腔粘膜からの出血などが見られるようになります。いわゆるステージⅣの口腔がんでは、外科的な治療の選択肢がなくなるため、基本的には痛みを取り除く緩和ケアに重点が置かれます。緩和ケアは、通常の治療とは異なる点が多々あるため、不安や疑問に感じることがあれば、その都度、医療チームに相談すると良いでしょう。
参考文献