鏡を見て自分の顔の見た目が少し変わった?などと感じられる方もいるのではないでしょうか。顔の変化はないけれど、お口が開けにくくなったと感じられる方もいることでしょう。それらには、顎関節症が影響している可能性があります。顎関節症では、お口が開けにくくなったり、顎の関節に痛みが生じたり、顎の開閉でガクガクと音がしたりという症状がでます。この記事では、顔の歪みや顎関節症の原因と対処方法について詳しく解説しています。ぜひ知っておいてください。
顎関節症の概要
顎関節症とはどのような病気なのでしょうか? 顔の歪みは、機能的には特に問題がない場合も少なくはありませんが、顎関節症になると、お口が開けにくくなったり、顎の関節に痛みが生じたりと心配です。詳しい症状について解説します。
顎関節症とは
顎関節症では、お口を開こうとすると、耳の穴の前側の顎関節や顎を動かす筋肉が痛みます。また、十分に大きくお口を開けられない、さらにお口を開け閉めするときに顎関節で音がする、といった症状があります。これは一生の間に、2人に1人は経験するといわれる程たくさんの人が経験しているそうです。顎関節の場合、耳のすぐ隣にあることから、音が気になるという人がいますが、この音を消すためには手術が必要です。ただ、顎関節症の症状がでても、音が気になるだけでほかの症状がないのであれば治療の必要はないといわれています。
顎関節症の主な症状
関節内には関節円板というクッションのようなところがありますが、顎関節症によくある症状は、このクッションが前方にずれることでカクンカクンという音がでる状態です。次に、ズレが大きくなりお口を大きく開けられなくなるといった症状があります。この場合は、お口を開けたり食品を噛もうとしたりすると痛みがあります。これらの症状が約60%を占めているそうです。これ以外では、顎関節そのものには痛みはありませんが、下顎を動かす筋肉がうまく働かなくなり、お口を開けようとすると、頬やこめかみの筋肉が痛むという症状もあります。また、あまり多くはありませんが、関節を作っている骨が変形するタイプの顎関節症があります。このタイプは、長年顎関節症が続いている高齢者に多く見られます。
顎関節症の分類
顎関節症の症状のタイプとしては、前述のように4つのタイプとそのどれにも該当しない異常症状を訴える心身医学的要素を含んだ5つのタイプがあります。
まず、咀嚼(そしゃく)障害を主とする咀嚼筋の痛みを伴うタイプです。このタイプの原因は口腔内の炎症やくいしばり、歯ぎしりなどによる咀嚼筋の使いすぎです。
2つ目のタイプとしては、靭帯(じんたい)や関節円板の損傷タイプがあります。顎関節の捻挫、顎関節周辺の外傷からくる痛みで、原因は大きくお口を開けすぎることや硬いものの食べ過ぎです。
3つ目は、顎の動きに異常があるタイプです。顎関節円板の異常位置、関節が傷ついたときの開口障害、頭痛、カクッという雑音などの症状があり、その原因には不正咬合(こうごう)、くいしばり、うつぶせ、頬杖などがあります。
4つ目は、顎関節の変形によるタイプです。開口時にジャリジャリした雑音と痛みがあり、原因は3つ目のタイプの悪化や骨の病気によるものです。
5つ目のタイプは、上記のどれにも該当しない異常症状を訴える心身医学的要素を含む心身症です。顎関節を中心に身体各所に疼痛(とうつう)と違和感があります。その原因は身体の異常と心のトラブルの相乗効果によるものです。
顎関節症により見た目が変わる可能性がある
顔が歪む原因の多くは、下顎のズレにあるといわれています。食べ物を噛んだり、話をしたり、呼吸をするときには、主に下顎を上下、左右、前後に細かく動かします。一方、上顎は頭蓋骨に固定されているので、下顎のように大きくは動きません。上顎と下顎の噛み合わせが正しい位置になっていないと、上顎に対して下顎が前後、左右、上下のどの方向かにずれていきます。この状態が習慣になると、顎関節や頬の筋肉に痛みが生じたり、お口を大きく開けられなくなったり、顎を動かすたびにカクカク、ミシミシなどの音がするようになります。 このような症状が顎関節症ですが、これがやがて顔全体の歪みにもつながり、見た目の印象が変わってくることもあります。具体的な歪みや歪みによる不具合などから説明していきましょう。
顎関節症で顔が歪む可能性がある
私たちの目、鼻、お口、耳、顎などの顔のパーツは、それぞれが頭蓋骨とその周りにある筋肉によって互いにつながれています。そのため、それぞれのパーツを動かす筋肉や骨は、少なからずほかのパーツにも影響を及ぼすのです。 特に大きく動く下顎がずれると、顔全体の骨や筋肉が影響を受けるために、目や鼻、お口などの顔のパーツも歪んでくることもあります。
歪みやすい部分について
顔のパーツのうち、骨や筋肉の動きが大きいのは下顎です。噛んだり、話したり、呼吸するときなどお口を動かすときには、必ず下顎を動かします。下顎は、ちょうど耳たぶの内側あたりで下顎頭(かがくとう)という骨が、ちょうつがいのように顎関節で頭とつながっています。頬骨から下顎のえらのあたりにかけて咬筋という大きな筋肉がありますが、下顎頭を軸として咬筋を動かすことで、お口を開けたり、閉じたり、物を噛んだりするのです。 ところが、噛み合わせの位置がずれていると、ちょうつがいにあたる下顎頭の動きが悪くなり、下顎の位置がずれます。この状態が続くと顎の位置が変わり、顔全体が歪んでしまうのです。
顔が歪むことで起きる不具合
顎がずれることで、左右の咬筋のバランスが崩れ、目の周りの筋肉が影響を受け歪んだ状態になります。場合によっては、左右の目の大きさが異なるように見えることもあります。目は人の印象に大きく影響します。そして顔全体の印象も変わります。顔のパーツや筋肉は、咀嚼したり、臭いを嗅いだりという機能的な働きだけではなく、表情を作るという役割もあるからです。無理な力が加われば、顔の筋肉は固くなり豊かな表情を作ることができなくなります。 また、鼻呼吸ができず、口呼吸になります。鼻の気道が狭くなり、鼻呼吸がしにくくなるためです。また、偏咀嚼といって、顎のズレから、どちらか一方の側で食べ物を噛む癖がついてしまいます。さらに、頬の内側の粘膜に歯があたることで、白い筋のようなものができ、顔の歪みからやがて頬の内側が傷つけられ、強い痛みや出血が起きます。頬と同様に噛み合わせの悪さから、舌を繰り返し噛みやすくなります。さらに、舌の周囲にも歯があたり、歯の跡がついてしまうのです。
顎関節症の原因となりやすいの人の特徴
顎関節症は日常生活の癖や習慣が大きく影響するといわれています。原因やなりやすい人の特徴などから説明します。
顎関節症の原因
顎関節症の原因としては、夜間の歯ぎしりがあります。眠っている間に過度の歯ぎしりをすることは、起きている間の数倍もの咬合力があり、長時間にわたって咬み続けていることになるのです。そのため、眠っている間に筋肉が疲労し、顎関節に障害が生じます。 また、くいしばりも原因の一つです。くいしばるときに使う筋肉を咀嚼筋といいますが、咀嚼筋の力はとても強く、強いくいしばりが続くと顎に大きな負担がかかります。 そして、歯の噛み合わせが悪い状態では顎関節の働きが安定せず、正しい下顎の位置で噛み合わせることができなくなってしまうのです。 さらに、頬杖も原因となります。頬杖をついている間、私たちの頭の重さを片方の顎関節だけで支えている状態になっているからです。人間の頭の重さは体重の10%といわれ、顎関節に大きな負担をかけることになります。ほかに、うつぶせ寝も顎関節には負担となります。長時間顔面に力がかかると、徐々に歯のバランスが崩れて歯並びが悪くなります。顎の発育にも影響し、上下の顎バランスが崩れ、顎が横にずれてしまうのです。
顎関節症になりやすい人の特徴
顎関節症になる原因としては、習慣や癖が大きく関係しているようです。物を食べるときに片側の顎ばかりを使う人や、頬杖をつく頻度が高い人などが顎関節症になりやすいといわれています。ほかにも、顎と肩でスマートフォンを挟む癖がある、寝るときはいつもうつぶせ、という人も顎関節症のリスクが高まります。このような、日常生活における自分の習慣や癖をなおしておくことが、顎関節症の予防につながるのです。
顎関節症のセルフチェック方法
スマートフォンを見ているときにずっと下を向いていませんか? 長時間のパソコン業務やデスクワークによる悪い姿勢、頬杖や歯ぎしりなど日常生活には顎に負担をかけている行動があふれています。知らず知らずのうちに顎関節症になってしまう可能性があるのです。顎に異変や不安を感じたら顎関節症のセルフチェックをしてみましょう。
チェック項目は以下の6つです。
・物を噛むとこめかみや耳周辺が痛む
・お口が突然開かなくなることがある
・お口のなかに縦3本分の指が入らない
・お口を開閉すると音がする
・物を噛んでいると顎が疲れやすい
・顎が外れることがある。
以上のチェック項目のなかで、1つでも当てはまる場合は顎関節症の疑いがあります。
顎関節症の治療
顎関節症の治療は、セルフケア、理学療法、薬物療法、スプリント(マウスピース)、ボトックスなどの治療が一般的です。それぞれの治療法について説明します。
経過観察
無意識に歯をくいしばる、頬杖をつくなど、日常生活の癖や生活習慣が起因と考えられる場合は、行動認知療法といって、意識して癖を改善するワンポイントアドバイスなども治療に加えます。
理学療法
運動療法として、筋肉や靭帯などの柔軟性や伸張性を改善するストレッチや、関節へ直接アプローチして顎関節の動きをよくする下顎可動化訓練、また、疲れやすい筋肉を鍛えて耐久性を向上させる筋力増強訓練などがあります。
薬物療法
痛みが強い時期には鎮痛薬も投与されます。鎮痛薬としては、非ステロイド系のロキソプロフェンやジクロフェナク、副作用の少ないアセトアミノフェンなどが処方されます。痛みが慢性化したり、痛みの程度が強かったりする場合には、トラムセットのような非麻薬性オピオイドや抗うつ薬、顎の筋肉の力を弱める筋弛緩薬が使われることもあります。
スプリント
顎関節症は、物を噛む際に特定の歯のみが接触していて、歯全体を使えていないことが原因でもあります。特定の歯だけに負担がかかると、その負担を顎関節が一手に担うことになり、顎関節への負担増大の原因となるのです。 このような特定の歯だけに接触が起きる状態を改善し、歯全体を使って噛むために作られるのがスプリント(マウスピース)です。これを装着して顎関節症を改善させる治療をスプリント療法といいます。 マウスピースを装着することで、特定の歯だけに生じていた接触をほかの歯にも接触するように調整します。治療期間は半年から1年程かかるのが一般的です。
ボトックス治療
ボトックス治療は、顎関節症に伴う筋肉の過度な緊張を和らげるために使用される治療法です。顎関節症は、顎の筋肉や関節に負担がかかることによって痛みや不快感を引き起こしますが、ボトックスはこれを軽減する効果があります。ボトックスは神経伝達物質の放出を抑制し、筋肉の収縮を弱めるため、顎の筋肉の緊張を緩和し、痛みやこわばりを改善します。
顎関節症のセルフケア
顎関節症の痛みや開口しにくいという症状の改善には、家庭でのセルフケアが重要です。セルフケアを積極的に行うことが、世界的にも提唱されているからです。セルフケアなしで症状の完全消失はあり得ないといっても過言ではありません。セルフケアによる十分な自己管理ができているなら、顎関節症は始まりませんし、治った後の再発もないでしょう。
症状が強いときのセルフケア
まず、お口を動かさなくとも顎関節や筋肉が痛むといった、症状が強い急性期における生活上の注意点について説明します。顎関節症が急に起こったときは痛みが激しく、お口も手指1本の幅くらいしか開かなくなる場合もありますが、セルフケアを行ううちにやがて数日で痛みは和らぎます。具体的な方法は、10分間を限度として、氷水を入れたビニール袋を痛む顎関節の外側にあてて冷やすものです。10分冷やした後、ゆっくりと開閉口から顎関節を動かすとともに筋肉を引き伸ばす動作を繰り返します。これを1日何回か行ってください。また、食品は小さく切り分けて食べ、大きく開口することを避けます。急にお口を開閉する動作は避けましょう。あくびをするときは、下顎の下に拳骨を置いて開口を抑えるようにします。
症状が弱いときのセルフケア
お口を開けたり物を噛まなければ痛みがないといった、症状が少し落ち着いたときに行うべきセルフケアは、まず、蒸しタオルを5分程あてて顎関節を温めることです。その後、親指の母指球でゆっくりマッサージするといいでしょう。強くつまんだり、痛みが強まる程激しくもんだりするのは逆効果です。急性期の痛みが和らいできたら、少し痛みを感じる程度に関節を動かし、筋肉を引き伸ばす訓練療法を行うと、痛みの改善が早まります。
まとめ
日常生活の癖や習慣が思わぬ病気を引き起こしていることがわかりました。最近では若い女性にも多く見られるのが顎関節症です。女性にとって顎の影響で顔つきが変わってしまうのは一大事です。しかし、病気といっても、重症化していなければセルフケアでも治療できる気軽さはうれしいことです。普段からちょっと気になっている癖はありませんか? 無理な姿勢でオフィスワークをしていませんか? この機会に自分の癖や習慣を見直して自信をもって鏡に向かってみましょう。
参考文献