親知らずの抜歯は、上の歯と下の歯のどちらが痛いかご存知でしょうか。
もちろん症例によって大きく異なりますが、一般的には上の歯の方が痛みが少ないといわれています。
上の親知らずにはどのような特徴があるのかを知っておけば、抜歯の際に過度に不安になることもないでしょう。
この記事では、上の親知らずの抜歯で知っておくべき内容を解説します。
親知らずの抜歯は上の歯と下の歯どっちが痛い?
親知らずの抜歯による痛みは、上下の違いよりも、親知らずの生え方による影響の方が大きくなります。
まっすぐ生えている親知らずであれば、抜歯の難易度が低いため、痛みも少ないことがほとんどです。
上の親知らずは下に比べて横向きに生えることが少なく、抜歯の難易度が低くなります。
また、上顎の骨は下顎よりもやわらかく、歯の根が1本であるため抜きやすいのも特徴です。
このため一般的には、上の歯の方が抜歯後の痛みも少ないといわれています。
親知らずの大半が歯肉に埋まっていたり、横向きに生えたりしている場合は歯肉や歯槽骨を切開する必要があるため、術後の痛みや腫れも大きくなるでしょう。
親知らずの抜歯は局所麻酔下で行われることがほとんどですが、抜歯の傷口が塞がるには数日間かかるため、麻酔が切れると強い痛みが生じることがあります。
麻酔注射自体の痛みもあるため、麻酔注射の前に歯茎に表面麻酔を塗って注射の痛みを和らげることも可能です。
歯科治療や痛みへの恐怖心が強い方の場合は、静脈に鎮静剤を点滴する静脈内鎮静法を行っている歯科医院もあります。
静脈麻酔によって意識が朦朧とした状態になり、不安や痛みを軽減しながら抜歯できるでしょう。
上の親知らずの抜歯の特徴
上の親知らずの抜歯は、下の親知らずよりも難易度が低いケースがほとんどです。
下の親知らずは横向きに生えてくる確率が高く、歯の根が複雑に枝分かれしている場合も少なくありません。
また、下の親知らずは下顎管を通る太い神経に近接している場合もあり、抜歯の際に特別な処置が必要なこともあります。
上の親知らずの抜歯は、下の親知らずに比べて、主に以下のような特徴があります。
- 短時間で抜歯ができるケースが多いとされている
- 一般的に痛みも軽度とされている
- 腫れが起こりにくいとされている
それぞれの内容を解説します。
短時間で抜歯ができるケースが多いとされている
まっすぐ生えている親知らずを抜歯する場合、手術に必要な時間の目安は以下のようになります。
- 上の親知らず:5~10分
- 下の親知らず:10~45分
同じようにまっすぐ生えている場合でも、上顎の骨は下顎よりもやわらかく、短時間で抜歯する場合がほとんどです。
実際には、下の親知らずはまっすぐ生えていないことが少なくないため、さらに時間を要することになります。
横向きに生えた下の親知らずでは、抜歯が1時間以上かかることも少なくありません。
下の親知らずは歯の根が複数に分岐していることもあり、歯を割って少しずつ取り出していく歯根分割抜去法が必要です。
上の親知らずは1本の根であることがほとんどで、下の親知らず程時間がかかるケースは稀といわれています。
横向きに生えて骨に埋まっている場合でも、上の骨はやわらかいため、削って抜歯する際も下より時間はかかりません。
一般的に痛みも軽度とされている
上の親知らずは傾いて生えたり、歯肉に被ったりしているケースが下よりも少ないため、抜歯の痛みも軽度とされています。
また、下の親知らずのすぐ近くには下顎神経という太い神経が通っており、麻酔が効きづらいのも痛みが強くなる原因です。
下の親知らずの抜歯中に、患者さんが痛みを訴えて追加の麻酔をすることも少なくありません。
上の親知らずの場合は麻酔が効きやすいため、適切な量を用いればほぼ痛みを感じずに抜歯できます。
抜歯の際に歯肉や歯槽骨を大きく削る必要も少ないため、麻酔が切れた後の痛みも軽度であることがほとんどです。
上の親知らずであっても、歯肉や歯槽骨を削る手術が必要になった場合は、術後に数日間は痛みが続くことがあります。
腫れが起こりにくいとされている
上の親知らずの抜歯では、歯肉切開になるケースが少ないため、抜歯後の腫れも起こりにくいとされています。
歯を抜くために歯肉を切開したり骨を削ったりした場合は、傷口の修復と感染防止のために強い炎症反応が起こり、大きく腫れることが少なくありません。
下顎の骨は固く、歯の根が2本以上に分かれてしっかり埋まっているため、歯を抜く際に骨にかかる負担も大きくなります。
下の親知らずを抜歯した後は、フェイスラインが変わる程腫れることもありますが、難症例を除いて上の親知らず抜歯後の腫れは軽度です。
上の親知らずでも抜歯が大変なケースは?
上の親知らずでもすべての症例が簡単な訳ではなく、抜歯が難しくなるケースはあります。
上の歯特有のリスクとして、一番に考慮されるのは上顎洞と口がつながってしまう穿孔です。
上顎の上には上顎洞という空洞があり、上の歯の根が上顎洞に突出している場合が少なくありません。
上顎洞に貫通した歯を抜くと、口と上顎洞がつながってしまい、唾液や食べ物が上顎洞に侵入して細菌感染や炎症を起こすリスクが高まります。
上顎洞は鼻に鼻腔につながっているため、口に含んだ飲み物が鼻から出てくることもあります。
CT撮影で上顎洞への突出が確認された親知らずは、抜歯の際にも慎重な手術が必要です。
上顎洞に貫通した穴は自然に閉鎖する場合がほとんどですが、閉鎖せずに炎症を起こしている場合は、穴を塞ぐ手術を行います。
このほかにも、下の親知らずと同じように難易度が高くなるのは、主に以下のようなケースです。
- 埋伏歯
- 横向きや斜めに生えている
- 歯の根の形が複雑
それぞれの内容を解説します。
埋伏歯
歯肉や歯槽骨に埋まっている歯を、埋伏歯といいます。
埋まったまま悪影響がないなら抜く必要はありませんが、埋伏歯の周囲に嚢胞という腫瘍が生じて化膿している場合には、抜歯が必要です。
嚢胞を生じた親知らずは、レントゲン撮影した際に袋状の影が確認できます。
ほとんどは良性の病変ですが、悪性腫瘍の可能性もあるため、抜歯して検査した方がよいでしょう。
埋伏歯を抜くには、歯肉と骨を切開して取り出すため、大がかりな手術となります。
上の親知らずであっても、埋伏歯となっている場合は術後の痛みも強い可能性が高いでしょう。
糖尿病や高血圧などの生活習慣病がある方は、麻酔の使用に制限があるため、入院が必要になる場合も少なくありません。
横向きや斜めに生えている
横向きや斜めに生えている親知らずは、まっすぐな歯よりも抜歯の難易度が高くなります。
親知らずの手前の第二大臼歯に食い込んでいる場合は、歯科医師から患部が見えにくく、上の親知らずは下よりもさらに見にくいといわれています。
歯科医師がミラーを駆使して術野を確保しながら抜歯を行うため、通常よりも時間がかかるでしょう。
歯の根の形が複雑
通常、上の親知らずの根は1本ですが、複数に枝分かれしている場合もあります。
歯の根が複雑だと、力をかけても簡単には脱臼しないため、抜歯にも時間がかかります。
下の親知らずの場合は歯根分割抜去法が一般的ですが、上の親知らずは患部が見えにくく割った歯が迷入しやすいため、歯根分割はしない方が無難です。
上の骨はやわらかいため、歯根が複雑な場合は骨を削って抜歯します。
親知らずの痛みや腫れを放置するリスク
親知らずはお口の一番奥に生えてくるため、歯ブラシが届きにくく、トラブルを起こしやすい歯です。
歯肉に埋まっていたり、斜めに生えて第二大臼歯に食い込んでいたりする場合は、特にリスクが高くなります。
一度トラブルを起こした親知らずは、治療しても再発する可能性が高いため、抜歯した方が無難でしょう。
親知らずの腫れや痛みを放置すると、以下のようなリスクがあります。
- 歯・歯周組織に影響が出ることがある
- 広範囲に炎症が及ぶことがある
それぞれの内容を解説します。
歯・歯周組織に影響が出ることがある
親知らずには歯ブラシが届きにくく、歯肉が被っているなどの理由から、むし歯や歯周病のリスクが高まります。
親知らずの手前の第二大臼歯に食い込んで生えている場合などは、第二大臼歯もむし歯になってしまうことが少なくありません。
また、親知らずに歯肉が被っている場合、歯肉が炎症を起こすことを智歯周囲炎といいます。
智歯周囲炎は細菌感染によって広がる炎症であるため、骨などの歯周組織にまで影響が広がります。
歯周組織の病気は歯を失うことにつながるため、早期の治療を心がけてください。
広範囲に炎症が及ぶことがある
智歯周囲炎や歯周病は歯だけの病気ではなく、全身に広がることがあります。
歯肉に通る毛細血管から細菌が体内に侵入し、動脈硬化や糖尿病など全身の病気の原因となることも少なくありません。
親知らず周囲の歯茎の痛みを放置すると、全身に炎症が広がって発熱や倦怠感などの症状が起こります。
顎や喉が大きく腫れて水を飲むことも難しくなる場合がありますので、親知らずの痛みや腫れは放置せずに早めに受診しましょう。
親知らずを抜かなくても大丈夫なケースは?
親知らずは抜歯することも少なくありませんが、すべてのケースで抜歯が必要なわけではありません。
問題のない親知らずは自分の歯として残した方が、将来的に残る歯を多くできるメリットがあります。
親知らずが残っていれば、第二大臼歯や第一大臼歯を失ったときに、ブリッジ治療や入れ歯治療の土台に使えるでしょう。
以下のような場合は、親知らずを抜歯する必要はありません。
- 上下の親知らずが生えそろい噛み合わせに問題がない場合
- 顎の骨に完全に埋まり周囲の歯や骨に悪影響がない場合
それぞれの内容を解説します。
上下の親知らずが生えそろい噛み合わせに問題がない場合
親知らずがまっすぐ生えており、上下の噛み合わせがあっている場合には、抜歯する必要はありません。
まっすぐ生えた親知らずでも、お口の一番奥であるため歯ブラシは届きづらいですが、毎日のケアを適切にしていれば問題ないでしょう。
上下どちらかだけしか生えていない場合は、噛み合わせがないため歯が異常に伸びてきてしまい、顎関節に負担がかかることがあります。
顎の骨が大きく32本の歯が生えそろう余裕がある方は、上下の親知らずがまっすぐ生える可能性が高いといわれています。
顎の骨に完全に埋まり周囲の歯や骨に悪影響がない場合
親知らずが完全に骨に埋まっており、お口の中に出てこない場合もあります。
レントゲン撮影をしてはじめて、親知らずが骨に埋まっていることを知る患者さんも少なくありません。
完全に骨に埋まっている親知らずは、嚢胞を生じることもありますが、特に問題を起こしていなければ経過観察となります。
骨に埋まった親知らずの抜歯は患者さんにも負担の大きい手術となるため、悪影響を及ぼしていない場合は抜歯はしません。
親知らずの抜歯の費用は?
親知らずの抜歯にかかる費用は、親知らずの生え方や治療目的によって大きく異なります。
保険適用になるかどうかでも自己負担額は大きく変わるため、親知らずの抜歯で保険適用になるケースとならないケースも理解しておきましょう。
保険適用の場合と自費の場合での、親知らず抜歯の費用を解説します。
保険適用の場合の費用
むし歯や歯周病の治療目的や予防目的の場合は、親知らず抜歯は保険適用となります。
まっすぐ生えている上の親知らずの抜歯にかかる自己負担額は、一般的に5,000円前後です。
親知らずが横向きに生えていたり歯肉に埋まっていたりする場合には、処置代が増えるため、8,000円になることもあります。
親知らずの生え方によっては事前に詳細な検査が必要になることもあり、CT撮影やレントゲン撮影などでも費用がかかります。
親知らずの抜歯は一般歯科で行うこともありますが、口腔外科に紹介されることもあり、別の病院への通院費用がかかる場合も少なくありません。
自費の場合の費用
親知らずの抜歯が保険適用とならないのは、主に歯列矯正に伴う抜歯のケースです。
歯列矯正は特別な病気の場合を除いて全額自己負担となり、歯並び全体を治療する場合には一般的に、800,000~1,200,000円(税込)の費用がかかります。
歯並びを治すには、歯を動かすスペースを作る必要があり、そのために親知らずや犬歯などを抜歯することは少なくありません。
親知らずは歯列矯正の装置をかける土台として利用できることもあるため、歯列矯正を始める前に抜歯するかどうかは歯科医師とよく相談してください。
まとめ
上の親知らず抜歯の際の、痛みやリスクを解説しました。
一般的には上の親知らずの方が抜歯の難易度が低く、痛みも少ないといわれています。
上の親知らずはまっすぐ生えてくることも少なくないため、下の親知らずよりは抜歯の必要性自体が低いともいえます。
親知らずだからすべて抜歯が必要なのではなく、問題を起こしていたり、起こす可能性が高かったりする場合に抜歯を検討してください。
上の親知らずでもむし歯や歯周病になる可能性は十分にあるため、痛みや腫れがある場合には放置せずに早めの対処が必要です。
抜歯が必要となれば、上の親知らずは下よりも抜きやすいため、不安なく治療に臨めるでしょう。
参考文献