顎が痛くなるのは、顎の使いすぎや咀嚼筋の緊張などが原因と考えられています。顎の痛みは日常生活に支障がないこともあるため、放置してしまう方もいらっしゃるでしょう。
しかし、顎が痛いのは顎関節症などの疾患が原因となっている可能性があるため、注意が必要です。
今回の記事では、顎が痛い原因を詳しく紹介します。また、顎が痛いときに疑われやすい顎関節症の症状・治療法・注意点も解説するため、顎の痛みが気になる方はぜひ参考にしてください。
顎が痛い原因は?
顎が痛くなるのは、顎関節症や神経痛などさまざまな原因が考えられます。それぞれの原因を詳しく見ていきましょう。
顎関節症によるもの
顎が痛くなるのは顎関節症によるものと考えられるケースが少なくありません。顎関節症とは、顎関節や顎を動かす筋肉に異常が起こることで、顎が痛くなる・お口が開きにくくなるなどの症状が現れる疾患です。
顎関節症による顎の痛みの程度は個人差があり、人によっては日常生活に支障をきたす可能性があります。進行すると顎の機能が低下する場合もあるそうです。
そのため、顎関節症の疑いがある場合は歯科医院での受診をおすすめします。なお、顎関節症の症状や治療法などの詳しい内容は後半で解説します。
神経痛によるもの
顎が痛くなるのは神経痛が原因となっている可能性もあります。神経による痛みは、神経系疾患によるものやほかの疾患によって神経の性質が変化して生じるものが挙げられます。
顎の痛みの原因となる神経痛は以下のとおりです。
- 三叉神経痛
- 舌咽神経痛
- 帯状疱疹後神経痛
- 外傷後の神経障害に起因する神経痛
三叉神経痛とは、顔面の感覚をつかさどる三叉神経が刺激されることで痛みを感じてしまう疾患です。頭の中の血管が圧迫されることで生じます。
舌咽神経痛は三叉神経痛と同様に、頭の中の血管が圧迫されることで生じる痛みです。舌咽神経は喉や舌の粘膜などの知覚や味覚をつかさどる神経で、舌咽神経痛になると唾液を飲み込んだ際に激痛が起こります。
帯状疱疹後神経痛とは、水痘や帯状疱疹ウイルスの感染により神経細胞が傷害されることで発症する疾患です。焼けるような痛みを感じ、歯磨きや飲食が苦痛になる場合があるそうです。
また、スポーツや交通事故などの外傷によって神経が障害され発症する場合があります。持続的に焼けるような痛みや発作的に電気が走るような痛みを感じます。
筋・筋膜性(筋性)歯痛によるもの
筋・筋膜性(筋性)歯痛による顎の痛みもあります。筋・筋膜性(筋性)歯痛とは、咀嚼筋や頭・首の筋肉に強い緊張が続くことで、顎や歯の痛みが生じる疾患です。
咀嚼筋を使いすぎることで慢性的に疲労し、筋肉にしこりが生じます。これが痛みの発生源となります。該当部分を押すと強い痛みを感じ、歯の痛みも生じるそうです。
そのため、咀嚼筋を刺激した際に顎の痛みだけではなく歯の痛みがある場合は、筋・筋膜性(筋性)歯痛の可能性が考えられます。
食いしばりなどの顎への負担によるもの
食いしばりや歯ぎしりなどの行為は、顎に負担がかかり痛みを生じることがあります。
食いしばりとは寝ている間や集中している間に無意識に上下の歯を強く噛む行為です。一方で、歯ぎしりは上下の歯を擦り合わせたり、噛み合わせたりする行為です。
通常は安静にしていれば上下の歯は噛み合わせていない状態ですが、食いしばりや歯ぎしりの癖がある場合は通常よりも顎へ負担をかけている可能性があります。
食いしばりや歯ぎしりをする原因はさまざまありますが、代表的な原因はストレスといわれています。以前よりも歯が削れている状態であれば、食いしばりや歯ぎしりしている癖があるかもしれません。
また、頬杖をつく・ガムを噛み続けるなどの習慣も顎に負担がかかっている可能性があるでしょう。
このように無意識に行っている習慣が顎に負担をかけていることで、顎の痛みが生じます。
顎が痛いときは何科を受診すべき?
顎が痛くなるのはさまざまな原因がありますが、基本的には口腔外科で受診するとよいでしょう。
口腔外科とはお口の中・顎・顔面・顔面に隣接する組織に現れる疾患を扱う診療科です。
歯が原因となるものやお口のなかに発生するがんなどさまざまな疾患を診療します。
また、スポーツや交通事故などによる外傷・顎や唾液腺などの外科的疾患・口腔粘膜や神経などの内科的疾患なども対応しています。
口腔外科が対応している主な疾患は、以下のとおりです。
- 智歯周囲炎
- 口腔がん
- 顎関節症
- 口内炎
- 口腔乾燥症
- 顔面神経麻痺
- 顎変形症
このように、口腔外科は食事や発音など日常生活を過ごすうえで欠かせない機能を回復したり、顔の見た目をよくしたりするために治療を行う診療科です。
顎の痛いときの受診の目安
顎が痛いときはどのタイミングで受診すればよいのか、よくわからない方もいらっしゃるでしょう。
一般的に、お口を大きく開け閉めした際に痛みを感じる症状が1週間以上続く、もしくはお口が開けにくい症状がある場合は歯科医院を受診しましょう。
症状が顎の痛みのみでしたら1週間程顎を使わないように安静にしていると、痛みが治る可能性もあります。その場合は受診せず、しばらく様子を見るのがよいでしょう。
ただし、少しでも気になったり不安を感じたりする場合は、歯科医院で受診するのが望ましいです。
顎関節症について
前項で少し触れましたが、ここからは顎関節症を詳しく解説します。
顎関節症による顎の痛みはほかのケースと異なり、放置すると日常生活に支障をきたす恐れがあります。では、顎関節症などのような特徴があるのか、具体的にどのようなリスクがあるのかを見ていきましょう。
顎関節症の特徴
顎関節症とは、顎関節や顎を動かす咀嚼筋に異常が起こることで、顎が痛くなったりお口が開きにくくなったりする疾患です。
顎関節はお口を開けたり閉じたりする際に耳の前で動く部分で、左右に1つずつあります。また、咀嚼筋は咀嚼に関わる筋肉の総称で、こめかみの周囲にある側頭筋や顎の下にある咬筋などがあります。
一般的に顎関節の痛みで医療機関を受診して、発症がわかることが少なくないそうです。ほとんどの症状は特別な治療をしなくても、改善していく傾向にあります。
顎関節症の原因ははっきりわかっていませんが、日常生活のなかで無意識に行っている習慣が原因となる場合があり、この習慣を改めることで予防できると考えられています。
顎関節症による顎の痛みを放置するリスク
顎関節症は自然に改善していく場合もありますが、放置していると悪化するリスクもあります。
顎の痛みの程度は個人差があり、痛みが弱い場合や強い場合もあります。顎の痛みが強かったりほとんどお口を開けられなかったりする場合は、重度の顎関節症が疑われるそうです。
重度の症状を放置していると、顎の機能が低下して日常生活に支障をきたす可能性があります。
そのため、気になる症状があれば医療機関で受診するとよいでしょう。
顎関節症の症状
顎関節症は顎の痛みだけではなく、顎や付近の筋肉に痛みが生じる・大きい開口がしにくい・顎の開閉で音がしやすい症状が現れる場合があります。
特に、顎付近が痛むやお口が開けにくい症状は、心疾患や筋肉の疾患などほかの疾患が関連している可能性があります。
さらに、上記以外にも肩こりやめまい、眼精疲労など全身症状に悩まされることもあるため注意が必要です。
ここからは、顎関節症の主な症状を詳しく解説します。
顎や付近の筋肉に痛みが生じる
顎関節症になると顎関節を構成する組織に炎症が生じ、お口を開けたり閉めたりする際に顎の痛みを感じます。
強く食いしばる・歯ぎしりするなど顎付近にある咀嚼筋に負担をかけることで、筋肉痛のような痛みを感じる場合もあります。
咀嚼筋はこめかみ付近にもあるため、頭痛を訴えるケースも少なくないそうです。
また、顎関節付近の靭帯に必要以上の力が加わると痛みが生じることがあります。靭帯とは骨と骨、筋肉と骨をつなぐ線維組織です。
靭帯の痛みは無理にお口を開ける、食いしばりするなどで起こるといわれています。
なお、顎や付近の痛みは中耳炎や三叉神経痛などの病気の可能性もあるため、気になる場合は自己判断せず検査を受けることが大切です。
大きい開口がしにくい
大きい開口がしにくくなる開口障害も顎関節症の症状の1つです。
通常は自分の指の人差し指・中指・薬指を揃えて並べたときの幅よりも大きい開口ができますが、開口障害が生じているとこの幅よりも大きい開口ができません。
3本の指がお口に入らなくなったら一度医療機関を受診しましょう。
なお、開口障害が起こるのは、顎関節周囲の筋肉・関節円板のずれ・関節痛・顎関節内の骨の癒着が原因と考えられています。
徐々にお口が開かなくなった場合は筋肉の痛みや緊張によるもの、突然お口が
開かなくなった場合は関節円板のずれや変形によるものといわれています。
ただし、開口障害があるからといって顎関節症を発症しているとは限りません。開口障害の症状がある疾患は以下のものがあります。
- 歯周病
- 悪性腫瘍
- 筋ジストロフィー
- 顎関節炎
- 顎関節の骨折
開口障害がある場合は、ほかの疾患の可能性も考慮して医師に相談するとよいでしょう。
顎の開閉で音がしやすい
顎関節症では、咀嚼や開口時にカックンやガリガリなどの音が発生する場合があります。これらの音は関節円板がずれることで生じる音です。
顎を動かすことで音がするため、関節雑音ともいいます。
関節円板とは、顎関節に存在する下顎頭と下顎窩の間にあるもので、骨よりやわらかい線維がまとまった組織です。顎が動く際にクッションのような役割を持つため、顎関節は滑らかに動きます。
しかし、 関節円板は強い圧迫により前後にずれやすく、前にずれてしまうと顎を動かした際にカックンなどの音が生じます。
さらに関節円板は変形してしまう場合もあるため、注意が必要です。変形して骨がすれ合うことで、シャリシャリやグニュなどの音が出ます。
基本的に痛みを伴わなければ、治療の必要はないといわれています。しかし、関節雑音があったのに突然音がしなくなった場合は、注意が必要です。
開口障害が発生しているケースがあるため、お口が3本指分の幅を開けるかを確認しましょう。
顎の痛みを予防するには
ここまでは顎の痛みの原因や顎関節症の特徴などを解説してきました。顎の痛みに悩まされないためには、どのように予防すればよいのでしょうか。
顎の痛みの原因は、ストレスや癖など日常生活によるものが少なくありません。
ストレスをためている・姿勢が悪いなどが当てはまる場合は、この後ご紹介するポイントを意識して予防していきましょう。
日常的な習慣を見直す
普段の生活で何気なく行っている習慣が、顎に負担をかけ痛みを招いている可能性があります。
顎に負担をかける習慣は、うつ伏せ寝・硬いものをよく食べる・片方の歯ばかり噛んでいる・長時間のデスクワークなどが挙げられます。
うつ伏せ寝でテレビを見ている場合は椅子に座って見るようにし、デスクワークの途中で休憩を入れるなどの対策をしましょう。
ストレスを適度に発散する
ストレスは顎の痛みの原因となる顎関節症や歯ぎしりと関連するとわかっています。
人間関係の悩みや仕事の忙しさなどでストレスをためてしまう場合もあります。また、真面目・完璧主義・心配性の性格を持っている方は、ストレスをためやすいそうです。
意識的に休憩をとる・スポーツや趣味を行う・音楽を聴いてリラックスするなどできるだけストレスをためないもしくはストレスを発散しましょう。
正しい姿勢を心がける
悪い姿勢は顎に負担をかける行為です。現代ではスマートフォンが普及し、長時間操作する方が少なくありません。
スマートフォンやパソコンの操作時の姿勢は、猫背で顎が前に突き出している状態になりやすいとされます。顎が前に突き出している状態は、顎に負担がかかっているため注意が必要です。
スマートフォンやパソコンの操作は長時間行わない、できるだけ猫背の姿勢にならないように心がけましょう。
食いしばりなどの癖を直す
食いしばりや歯ぎしりなどの癖があれば、早めに治すようにしましょう。食いしばりや歯ぎしりは日常生活で治すのは難しいため、歯科医院で治療を受けるのがおすすめです。
また、頬杖や唇を噛む癖も顎に負担をかける行為です。頬杖はデスクワーク中などに無意識に行ってしまうと考えられます。
頬杖をしないためには、正しい姿勢が大切です。ご自身の姿勢を見直し、猫背にならないように注意しましょう。
まとめ
顎が痛くなるのは、顎関節症や食いしばりなどが原因と考えられています。
顎の痛みの原因として代表的なものが、顎関節症です。顎関節症は顎関節や咀嚼筋に異常によって起こる病気で、顎の痛みだけではなく開口障害や関節雑音が生じます。
日常生活の見直しや改善を行えば改善する可能性がありますが、重い症状の場合は悪化して顎の機能が低下するリスクもあります。
顎の痛みが1週間以上続いたりお口が開かなくなったりした場合は、口腔外科を受診しましょう。
また、顎の痛みを予防するためには、顎に負担をかけないことが大切です。日常生活でうつ伏せ寝や頬杖など顎に負担がかかる習慣がないか見直し、該当する習慣があればこれらの習慣を改善しましょう。
参考文献