顎関節やその周りの筋肉に痛みが出る顎関節症は、数ヵ月にわたる長期的な治療が行われるのが一般的です。
症状は音が聞こえる程度の些細なものから、お口が開かなくなったり痛みを感じたりするものまで大きく個人差があります。
ではどのくらいの症状が出た場合に医療機関に受診するべきなのでしょうか。また治療にかかる費用はどのくらいなのでしょうか。
今回は、顎関節症の治療方法・治療にかかる通院期間・費用の目安・受診の目安・セルフチェックの方法について解説します。
顎関節症の治療法と治療費用
- 顎関節症の治療には保険が適用されますか?
- 顎関節症の治療は保険診療の範囲で行うことが可能です。顎関節症の一般的な治療にあたるスプリント療法はもちろん、患部の炎症や痛みを抑える薬の処方も含めて、その負担額は3割以下になります。
全国どこの医療機関で受診しても保険診療の窓口負担割合は一定です。これは負担額が年齢や所得などの条件で決定することが定められているためです。
- 顎関節症の治療方法と治療費用の目安を教えてください。
- 顎関節症の主な治療は咬合調整とスプリント療法です。医療機関を受診してきたときには、顎関節症によって痛みを感じている人が少なくありません。原因が関節円板のズレの場合、この部分を元の位置へと戻して筋肉の萎縮をほぐします。
これは顎関節症の痛みを緩和する目的として行う治療です。その後は咬合調整とスプリント療法によって噛み合わせの治療を行います。具体的には咬合調整では歯の高いところを削り、低いところに噛み合わせの高さを合わせます。そしてスプリント療法としてマウスピースを顎関節症の原因に合わせて作成・装着して、ずれてしまった顎関節矯正と負担軽減・噛み合わせの調整・萎縮してしまった筋肉のリラクゼーションを図るのです。
この治療法は保険診療で治療が可能なため、負担額は3割で3,000〜8,000円程度です。このほかに初診料や診断の際に行われる検査の料金がかかります。診断に用いる検査は、原因によって異なるため、あらかじめ医療機関で確認しておくとよいでしょう。
- 顎関節症の通院期間はどのくらいですか?
- 顎関節症の治療期間は、重症度によって異なります。一般的に初期治療を行って症状の消失に至るまでの期間は約1〜3ヵ月です。またハードスプリントによる治療を行う場合には、さらに長期の治療期間が必要となり、約2〜12ヵ月程度の治療期間が見込まれます。
治療にかかる期間は個人差が大きいため、自分に合った具体的な治療期間を知るためには歯科医院での診察が必要です。治療中にスプリントの着用を怠ってしまうと、治療期間が長くなります。また、期間中の通院回数の目安は、月に4回程度です。
顎関節症の診断
- 顎関節症で医療機関を受診する目安を教えてください。
- 顎関節症の症状で医療機関を受診する目安は、お口を開け閉めしたときの痛みが1週間以上続いていることです。顎関節症の症状の強さは人によって異なり、なかにはお口の開け閉めのときの音が聞こえるだけという人もいます。
顎関節症のときに聞こえる音は、周りにとっては大きな音ではなくても、とても気になる人も少なくありません。これは顎関節が耳の隣にあるため、実際は小さな音でも気になりやすいのです。
しかし一般的に顎関節症で音がするだけの場合には、治療する必要はないとされています。また顎関節症による痛みやお口の開けにくさなどの症状が現れても、その症状が一時的であれば治療の必要はありません。
- 顎関節症はどのように診断されますか?
- 顎関節症の原因は関節や筋肉などさまざまなものが考えられるため、複数の検査の結果で診断を行います。顎関節症の診断の診断に用いられるのは、以下の検査です。
- 問診
- 触診
- パノラマ・レントゲン診断
- MRI
- 口腔内写真撮影
これらの検査の結果を総合して顎関節症の診断が行われます。
顎関節症の予防やセルフチェック
- 顎関節症は予防できますか?
- 顎関節症は、生活習慣のなかで普段無意識に行っている癖や行動によって起こることがあります。そのため日頃から生活習慣に気をつけることで、顎関節症の症状の予防につながります。顎関節症の予防をする行動は以下のとおりです。
- 硬い食品の摂取を避ける
- 長時間の咀嚼を避ける
- 頬杖をつかない
- 姿勢に気をつける
- 上下の歯の接触に気付いたら歯を離す
- 歯を食いしばるような強いストレスは避ける
これらの習慣に気をつけることで顎関節や咀嚼筋の負担を減らし、顎関節症の予防ができます。
- セルフチェックの方法を教えてください。
- 顎関節症は症状が自覚しやすい病気です。もし以下に当てはまる項目があれば、顎関節症の可能性があります。
- 食べ物を噛んだときにこめかみや耳の周りが痛い
- お口が開かなくなることがある
- お口が開きにくく、大きく開けても縦に3本の指が入らない
- 開け閉めに合わせて音がする
- 物を噛むと顎が疲れやすい
- 顎が外れてしまうことがある
これらの症状が一時的でなく、1週間以上続いている場合には医療機関に相談しましょう。正常な場合は、お口を大きく開くときに音はなりません。またお口を縦に約4cm以上開けられます。しかし、4cm以上の開口ができても、顎をずらしながらしかお口が開けられない場合や開口時にコリッという音がなる場合があります。
これらは顎関節症の症状に当てはまるため、正常な状態ではありません。このような症状がみられる場合も顎関節症の治療対象となるため、一度医療機関での診断を受けることがおすすめです。
- 普段の生活で気を付けるべきことはありますか?
- 急な開口や閉口は顎関節のダメージがあるため、避けるように気をつけましょう。あくびが出そうな場合には、下顎の下に握った手を置いて開口しすぎないように調整します。
これにより顎の筋肉のダメージを軽減することが可能です。食事を摂るときにも、大きく開口するのは避けましょう。そのために、食事前に食品を小さく切り分けておくと食べやすいだけでなく、噛み切るために顎に力をかけることも避けられます。
- 顎関節症のセルフケア方法を教えてください。
- 顎関節症は、生活のなかでのセルフケアが症状の改善に大きく影響します。まずは、お口とお口周りの筋肉のストレッチを紹介します。このストレッチで期待できるのは、筋肉の血流をよくして顎周りの筋肉の緊張を緩和する効果です。
具体的な方法は、顔を斜め上に向け、そのままお口を大きく開きます。そのままお口の両側を両手ですぼめながら、お口の大きく開け閉めを5〜10回ずつ朝晩行います。効果を高めるには、入浴中やお風呂上がりなど、筋肉の温まったタイミングで行うとよいでしょう。
次に顎関節症の原因の1つである、顎の筋肉(咬筋・側頭筋)の使いすぎに効果的なマッサージを紹介します。これらの筋肉を使いすぎて筋肉痛になっているために生じる痛みも顎関節症によるものです。咬筋は頬部に、側頭筋はこめかみに痛みを感じるため、人によっては顎ではなく頭痛として症状を訴える人もいます。
咬筋は耳たぶから顔の中心に向けて指3本程進んだあたりに存在する筋肉です。歯を噛み締めると咬筋の盛り上がりに触れることができます。この部分に1〜2本の指を当て、少し痛みを感じる程度の強さで円を描くように5〜10分朝晩マッサージをします。これを側頭筋に行う場合は、同様の方法でこめかみ部分にマッサージを行ってください。
ただし、顎関節症の状態によっては、マッサージやストレッチが症状を悪化させる原因になることがあります。顎関節症のなかでも、顎関節の軟骨・靭帯・関節包などが痛む顎関節痛障害のある人には、これらのケアは不向きです。そのため事前に医療機関を受診し、マッサージやストレッチを行っても問題がないことを確認しておきましょう。
編集部まとめ
約50%の人が一生のうちに一度、顎関節症の症状を経験します。お口が開かなくて食事に困ったり、開口に痛みが伴ったりするので受診せずともその症状に悩んでいる人は少なくありません。
顎関節症の治療では、咬合調整やスプリント療法が行われます。さらに治療と同時に日常生活でセルフケアを行うことが重要です。
日頃から顎関節や頬の筋肉への負荷を減らすように気をつけることで、痛みなど顎関節症の症状軽減につながります。
医療機関での治療と合わせてセルフケアを行い、辛い開口制限や痛みの原因を解消しましょう。
参考文献