注目のトピック

親知らず

親知らずの抜歯で神経を傷つけてしまった場合の後遺症や治療法、歯科医院選びのポイントを解説

親知らずの抜歯で神経を傷つけてしまった場合の後遺症や治療法、歯科医院選びのポイントを解説

親知らずを抜歯する場合は、歯科医院選びを慎重に行う必要があります。なぜなら親知らずの抜歯には、重要な神経や血管を傷つけるリスクがあるからです。歯科治療というのはそもそも歯茎に麻酔を打ったり、歯を削ったりするなど、外科的な処置が主体となっているのですが、親知らずの抜歯となると少し話が変わります。ここではそんな親知らずの抜歯で神経を傷つけてしまった場合の後遺症や治療法について詳しく解説をします。

親知らずについて

親知らずについて
はじめに、親知らずという歯の特徴や生える理由について解説します。

親知らずとは

親知らずとは、20歳前後に生えてくる永久歯で、専門的には「智歯(ちし)」もしくは「第三大臼歯(だいさんだいきゅうし)」と呼ばれています。解剖学的にはその他の永久歯と変わりはないのですが、さまざまなトラブルを引き起こす原因となることから、“余計な歯”という認識を持っている人も多いです。親知らずは人によって生えてくる時期や本数、生え方に大きな違いもあるため、その他の永久歯とは別物と考えている人が大半を占めます。

◎抜かない方がよい親知らずもある
ただ、親知らずの中には、その他の永久歯と同様の価値を持っているものもあります。真っすぐ正常に生えていて、噛み合う歯が存在している場合は抜く必要がありません。むしろ、そしゃく機能を担う重要な天然歯のひとつとして一生涯、大切に使っていくべきといえます。噛み合わせに参加していない親知らずであっても、むし歯や歯周病になっていなかったり、周りの組織に悪影響を及ぼしていなかったりする場合は、将来、歯を失った時の移植歯やブリッジの支台歯として活用する道を残しておいた方がよいといえます。

親知らずの生える理由

親知らずは、むし歯や歯周病のリスクが高いだけでなく、手前の歯を圧迫するなどのトラブルを引き起こしやすいです。それにもかかわらずなぜ親知らずは生えてくるのか。それは上段でも述べた通り、解剖学的には親知らずも立派な天然歯のひとつだからです。親知らずも悪さをするために生えてくるのではないのです。

けれども、日本人の顎は欧米人より小さく、親知らずまで正常に生える十分なスペースがありません。そのため親知らずが生えてくる時期にばらつきが見られたり、いつまでも歯茎の中に埋まっている親知らずがあったりするのです。そういう意味で、親知らずが生えてくるのに特別な理由はないといえます。第一大臼歯と第二大臼歯が生えてくるのと同じように、親知らずも自然に生えてきます。

親知らずの近くの神経

親知らずの近くの神経 ここからは、親知らずの抜歯に伴う偶発症に関する解説です。親知らずが生えている位置、あるいは埋まっている位置には、いくつか重要な神経が走っています。具体的には、舌神経下歯槽神経が分布しており、親知らずの生え方・埋まり方によっては、抜歯の際にこれらの神経を損傷する恐れがあります。神経の損傷というと、後遺症を伴うこともあるため、親知らずの抜歯が怖くなる人もいることでしょう。とくに下歯槽神経の損傷は、親知らずの抜歯に伴う偶発症として、比較的リスクが高いため、歯科医師も細心の注意を払っています。なお、軽度の神経損傷は数ヶ月で回復して元の感覚に戻ることもありますが、損傷の程度によっては、外科的に神経縫合などしないと治らないケースもあります。

◎下歯槽神経とは?
親知らずのすぐ下には、下顎管(かがくかん)という管が下顎骨を横断するような形で走っています。下顎管の中には、下歯槽神経や下歯槽動静脈が通っており、親知らずを抜歯する時に傷つけやすい位置関係にあります。親知らずの抜歯を予定しているケースではレントゲン撮影を行いますが、その際、必ず親知らずと下顎管の位置を確認します。

レントゲン画像によっては、親知らずと下顎管が触れている、もしくは重なっているように見えることもあります。3次元的な画像が得られる歯科用CTで確認すると、実際は重なっていないことの方が多いのですが、それでも両者が近接していれば難症例となり、一般の歯科医院での抜歯は困難となるでしょう。親知らずの抜歯で、大学病院をはじめとした大きな医療機関を紹介された場合は、一般歯科で手に負える症例ではないことを意味します。

親知らずの抜歯で神経を傷つけた際に考えられる後遺症

親知らずの抜歯で神経を傷つけた際に考えられる後遺症 次に、親知らずの抜歯で神経を傷つけてしまった場合の後遺症について解説します。こうした偶発症はできる限り避けたいものですが、起こってしまったら仕方がありません。どのような後遺症が現れる可能性があるのか、事前に知っておくことが大切です。

舌神経麻痺

舌神経(ぜつしんけい)は、三叉神経のひとつである下顎神経から枝分かれした神経です。その名の通り舌に分布しており、舌の知覚や味覚を司っています。そんな舌神経を親知らずの抜歯の際に傷つけると、舌の前2/3の知覚(触覚、痛覚、温覚、冷覚)や味覚の低下が起こります。具体的には、舌を触っても何も感じなかったり、冷たいものや熱いものを口に含んでも、それらの温度を感じにくくなったりします。人によっては、舌がビリビリとした違和感に悩まされたり、発音障害が現れたりする場合もあります。食べ物の味がわかりにくくなるのも舌神経麻痺の後遺症のひとつとして挙げられます。

下歯槽神経麻痺

下歯槽神経も三叉神経から枝分かれした神経のひとつで、下顎の歯や下唇、顎の皮膚の感覚などを司っています。比較的広範囲に分布している神経なので、損傷した場合も広い範囲に後遺症が現れやすいです。具体的には、下唇や口角部の麻痺やしびれが主な症状として現れます。口唇周囲の感覚が麻痺するため、会話をしたり、飲み物を飲んだりするときにも不自由を感じることが多いです。下歯槽神経麻痺が長く続くと、表情筋の働きも衰えることから、表情が歪んだり、口腔周囲がむくんだりすることもあります。

神経障害性疼痛

神経障害性疼痛とは、神経にダメージを負った際に現れる痛みです。本来は痛みとして感じないような弱い刺激に対しても、敏感に反応するようになります。その他、しびれや不快感、灼熱感といった症状を伴う場合もあります。今回のテーマである親知らずの抜歯以外でも、インプラント手術や智歯周囲炎、外科的歯内療法などでも生じるリスクがある後遺症です。

親知らずの後遺症の治療法

親知らずの後遺症の治療法 親知らずの抜歯で神経を損傷して後遺症が現れたとしても、治療によって改善することは可能です。ここではそれぞれの後遺症の治療法を個別に紹介します。

舌神経麻痺の治療法

舌神経麻痺の治療法としては、星状神経節ブロック、レーザー治療、薬物療法、理学療法などが挙げられます。

◎星状神経節ブロック
星状神経節ブロックは、神経損傷による痛みや不快感を軽減するために効果的な治療法です。この治療では、痛みの原因となる神経に対して局所麻酔薬を使用し、神経の信号を一時的に遮断することで痛みを管理します。この方法は、痛みの緩和だけでなく、筋肉の緊張を軽減し、血流を改善することで、患者さんの自然な回復力を支援します。

◎レーザー治療
低出力レーザーを使用したレーザー治療は、患部に直接照射することで血流を促進し、炎症を減少させる効果が期待できます。この治療法は、星状神経節ブロック療法と同様に痛みを和らげる効果がありますが、より手軽に行えるため、多くの患者さんに選ばれています。レーザー治療は、痛みの軽減や噛み合わせの機能回復を助ける可能性があります。

◎薬物療法
痛みや炎症を抑制するための薬物療法も、当院で広く利用されています。この治療法では、ビタミンB12やステロイド剤、ATP製剤などを使用して、痛みを和らげ、炎症を抑えます。ただし、これらの薬物は症状の根本的な改善にはつながりにくいため、他の治療法と併用して効果を高めることが一般的です。

◎理学療法
理学療法は、痛みの軽減や運動機能の改善を目的としています。当院では、患者さんの状態に合わせた運動プログラムやストレッチを提供し、筋力の向上と神経機能の回復を促進します。また、鍼灸治療を通じて特定の経絡を刺激し、体内のエネルギーバランスを整え、痛みの軽減や全体的な健康改善を図ることが可能です。

下歯槽神経麻痺の治療法

下歯槽神経麻痺の治療法も基本的には、舌神経麻痺と同じです。星状神経節ブロック、レーザー治療、薬物療法、理学療法などから適切なものを選択し、必要に応じて組み合わせながら治療を進めていきます。

神経障害性疼痛の治療法

神経障害性疼痛の治療法に関しても、舌神経麻痺や下歯槽神経麻痺との大きな差は見られません。やはり、星状神経節ブロック、レーザー治療、薬物療法、理学療法などが主体となって、後遺症による感覚の麻痺や痛みを改善していきます。

親知らず治療を受ける歯科医院選びのポイント

親知らず治療を受ける歯科医院選びのポイント ここまで親知らずの抜歯に伴う偶発症について解説してきましたが、そのリスクを知ることで、歯科医院選びの重要性も理解できたかと思います。親知らずの抜歯は、一般的なむし歯治療や歯周病治療にはないリスクを伴うことから、歯科医院選びの際には以下の3つのポイントに着目するようにしてください。

検査や治療の設備

親知らずの抜歯を正確に行うためには、精密検査を行える設備が不可欠です。その際、ポイントとなるのが歯科用CTです。もちろん、親知らずの抜歯では通常のレントゲン撮影だけで十分な情報が得られる場合もあるのですが、歯科用CTによる精密診断が行えた方がより安全性が高まります。難症例の親知らずの抜歯に関しては、CTによる画像診断が必須ともいえるため、その点も踏まえた上で歯科医院を選ぶことが大切です。

また、親知らずの抜歯は「外科手術」に分類されるものなので、衛生管理が徹底されていることはもちろん、外科手術に適した設備が整っていることも前提条件として挙げられます。親知らずの抜歯自体は、通常の歯科ユニットでも行えるため、必ずしも手術専用の診療室が完備されていなければならないというわけではありません。

所属している歯科医師の経験

適切な医療設備が整っていることを確認できたら、次は執刀する歯科医師の経験に着目しましょう。一般歯科の歯科医師は、むし歯や歯周病の治療などを日常的に行っており、親知らずの抜歯の経験はあまりないという人も少なくありません。親知らずの抜歯の患者さんがきたら、近くの口腔外科に紹介状を出す歯科医師が多いです。それは親知らずの抜歯に伴うリスクを背負いたくないというよりは、経験豊富な歯科医師に任せた方が確実性や安全性が高まることを知っているからです。

理想をいえば、口腔外科の認定医や専門医の資格を持った歯科医師に任せたいところですが、該当するのは全国的にも一部に限られることから、それを必須条件に挙げる必要はありません。親知らずの抜歯の経験が方法であるかを電話やカウンセリングの場で確認しましょう。過去に難しい症例の親知らずの抜歯を行った経験があることはとても重要なポイントです。歯列矯正における便宜抜歯(べんぎばっし)と親知らずの抜歯は、難易度が大きく異なるため、同じものとして考えるのはよくありません。

抜歯後の経過観察などのアフターケア

上でも述べたように、親知らずの抜歯には神経や血管の損傷のリスクを伴います。抜歯後のケアが不適切だと、患部に細菌感染が起こることもあるため、アフターケアが充実している歯科医院を選ぶようにしましょう。万が一、後遺症が残ったり、術後感染が起こったりしても迅速に対処してくれる歯科医院が望ましいです。おそらく、そうした条件を満たす歯科医院は、口腔外科の診療に長けた歯科医師が在籍しているか、大きな病院の口腔外科に限定されることかと思います。

編集部まとめ

編集部まとめ 今回は、親知らずの抜歯で神経を傷つけてしまった場合の後遺症や治療法、歯科医院選びで失敗しないためのポイントなどを解説しました。親知らずの抜歯では、特定の神経を損傷することで舌神経麻痺、下歯槽神経麻痺、神経障害性疼痛といった後遺症に悩まされることがありますが、星状神経節ブロックやレーザー治療、薬物療法、理学療法などを行うことで症状を改善可能です。

そうした親知らずの抜歯に伴うリスクは、検査や治療の設備が充実していて、親知らずの抜歯の経験豊富な歯科医師を見つけることで、最小限に抑えられます。抜歯後の経過観察などのアフターケアが充実している歯科医院であればなお良いでしょう。近いうちに親知らずの抜歯を受ける予定の人は、このコラムの内容を参考にしてみてください。最初に受診した歯科医院で不安に感じた場合は、他の医院でセカンドオピニオンを受けるのもよいでしょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
酒向 誠医師(酒向歯科口腔外科クリニック院長 東京女子医科大学口腔外科 非常勤講師 聖路加国際病院歯科口腔外科 非常勤嘱託)

酒向 誠医師(酒向歯科口腔外科クリニック院長 東京女子医科大学口腔外科 非常勤講師 聖路加国際病院歯科口腔外科 非常勤嘱託)

1980年: 愛知学院大学歯学部入学 1986年: 愛知学院大学歯学部卒業 1986年: 愛知学院大学歯学部歯学研究科入学 1990年: 愛知学院大学歯学部歯学研究科卒業 1990年: 愛知学院大学歯学部第2口腔外科講座非常勤助手 1990年: 名古屋第一赤十字病院歯科口腔外科勤務 1993年: 東京女子医科大学歯科口腔外科学講座非常勤助手 1995年: 聖路加国際病院歯科口腔外科勤務 1998年: 東京女子医学大学歯科口腔外科学講座非常勤講師 2005年: 聖路加国際病院退職、酒向歯科口腔外科クリニック開業 2017年: 日本口腔科学会 認定医取得(5/31) 2020年: 日本口蓋裂学会 口腔外科 認定師取得(4/1) 2021年: 日本口腔ケア学会 評議員 2021年: 国際歯学会(ICD ) フェロー認定

記事をもっと見る
  • この記事の監修医師
  • 他の監修記事
酒向 誠医師(酒向歯科口腔外科クリニック院長 東京女子医科大学口腔外科 非常勤講師 聖路加国際病院歯科口腔外科 非常勤嘱託)

1980年: 愛知学院大学歯学部入学 1986年: 愛知学院大学歯学部卒業 1986年: 愛知学院大学歯学部歯学研究科入学 1990年: 愛知学院大学歯学部歯学研究科卒業 1990年: 愛知学院大学歯学部第2口腔外科講座非常勤助手 1990年: 名古屋第一赤十字病院歯科口腔外科勤務 1993年: 東京女子医科大学歯科口腔外科学講座非常勤助手 1995年: 聖路加国際病院歯科口腔外科勤務 1998年: 東京女子医学大学歯科口腔外科学講座非常勤講師 2005年: 聖路加国際病院退職、酒向歯科口腔外科クリニック開業 2017年: 日本口腔科学会 認定医取得(5/31) 2020年: 日本口蓋裂学会 口腔外科 認定師取得(4/1) 2021年: 日本口腔ケア学会 評議員 2021年: 国際歯学会(ICD ) フェロー認定

  1. 口腔がん・口内炎などの口腔粘膜疾患は何科を受診すればいい?口腔粘膜疾患の種類も解説

  2. その症状もしかしたら紅板症かも?初期症状や考えられる原因について詳しく解説!

  3. ストレスで顎関節症になる?原因や生活習慣の注意点を解説

RELATED

PAGE TOP

電話コンシェルジュ専用番号

電話コンシェルジュで地域の名医を紹介します。

受付時間 平日:9時~18時
お電話でご案内できます!
0120-022-340