朝目覚めた時や食事の時に、ふと口が開かないことに気づく。そんなケースでは顎関節症が疑われます。顎関節症とは、顎の関節にさまざまな症状が現れる病気で、口が開かなくなる開口障害が見られることもあります。ひと言で「口が開かない」といっても、口が全く開かないこともあれば、数センチ程度は開くこともあるため、一概に語ることは難しいです。ここではそんな開口障害と顎関節症の関係について、原因や治療方法も併せて解説します。
顎関節症について
- 顎関節症の症状について教えてください。
- 顎関節症を発症すると、顎が痛い、顎が疲れやすくなる。口が開きにくい、口を開けた時に「カクン」とか「ジャリ」といった雑音が鳴る、などの症状が現れます。顎関節症はいくつかのタイプに分けられることから、ケースによって見られる症状も異なりますが、上述したいずれかに当てはまるものがある場合は、顎関節症が疑われます。
- どうして顎関節症が起こるのですか?
- 顎関節症が起こる原因としては、歯ぎしり・食いしばり、噛み合わせの異常、顎の外傷、TCH(歯列接触癖)、頬杖をつく・うつ伏せ寝をする・片側だけで噛むなどの悪習癖が挙げられます。どれかひとつで顎関節症を発症するケースは比較的珍しく、ほとんどの場合、複数が組み合わさることが原因となります。
- 顎関節症は誰でもなる可能性がありますか?
- 誰でも発症する可能性があります。とくに日本人は、下の顎が小さく、歯並び・噛み合わせも悪い傾向にあるため、欧米人よりも発症するリスクが高いと言えるでしょう。とくに上段で取り上げた顎関節症の誘因を複数持っている人は要注意といえます。ちなみに顎関節症は、10~20代の女性に好発し、30代をピークにその発症率は低下します。女性に発症しやすく、40~50代では発症率が低くなる理由は、医学的に解明されていません。
顎関節症で口が開かない原因
- 顎関節症で口が開かなくなる原因について教えてください
- 顎関節症で開口が現れる主な原因は、関節円板(かんせつえんばん)の転位です。顎関節は上顎骨と下顎骨が連結する部位で、そこには関節円板というクッションのような軟組織が介在しています。骨と骨とが直接、こすれ合うと強い痛みを伴いますし、顎骨の摩耗や変形を引き起こしてしまいますが、関節円板が介在することでそうしたトラブルを防げます。 関節円板が本来の位置から逸れて転位すると、口が開かなくなるクローズドロックの状態となるのです。その他、口を開けた時に咀嚼筋が痛くなることから、意識的にも無意識的にも口を開けなくなったり、顎関節の変形によって下顎の運動が制限されたりすることもあります。
- 口が開かない以外に顎関節症にはどんな症状がありますか?
- 顎関節症では、開口障害にも次のような症状が見られます。
◎関節雑音
口を開けた時に顎関節で異常な音がなることを関節雑音といいます。「カクン」という音は、関節円板がずれた時に生じるもので、専門的にはクリック音と呼ばれています。「ジャリジャリ」という音は、関節円板や顎骨に摩耗や変形が起こっている場合に生じるもので、クレピタス音といいます。どちらも正常な顎関節では生じることのない雑音です。◎咀嚼筋痛
食べ物を噛む時に使う咀嚼筋に痛みが出る症状です。とくに咬筋(こうきん)と側頭筋(そくとうきん)に起こりやすく、筋肉の過剰な運動が原因となります。
- 口が開かない状態が続くとどうなりますか?
- 食事や会話をする時に支障をきたします。歯磨きも十分に行えなくなるため、口腔衛生状態が悪くなってむし歯や歯周病になるリスクも上昇することでしょう。口が開かなくなっている原因によっては、その状態を放置することでより深刻な症状へと発展しかねないため、早期に専門の医療機関を受診してください。
顎関節症の診断と治療方法
- 顎関節症の診断の流れについて教えてください。
- 顎関節症の診断は問診から始まります。今現在、どのような症状に悩まされているのか、その症状はいつから始まって、どんな時に強くなり、どのように変化してきたのかなど、これまでの経過を細かく伝えることで、歯科医師や医師も正確に診断しやすくなります。続いて、開口量や顎関節の痛みの有無、顎の筋肉の腫れ具合などを視診・触診し、必要に応じてレントゲンやCT、MRIなどによる画像検査を行い、得られた情報を総合的に判断して、最終的な診断を下します。
- 顎関節症の治療方法にはどのようなものがありますか?
- 顎関節症には、理学療法や薬物療法、スプリント療法などの治療法があります。最もポピュラーなのはスプリント療法で、患者さん専用のマウスピースを歯科医院で作り、それを就寝前に装着することで、顎関節への負担を減らします。マウスピースは、下顎を正しい位置に誘導する効果も期待できるため、顎関節症の原因療法としても有効です。
- 顎関節症の自宅でできる治療方法はありますか?
- 顎関節症を自宅で完治させることは難しいですが、顎や顎関節の痛みや腫れを和らげることは可能です。例えば、顎が急に痛み出した場合は、冷湿布を当てるとよいでしょう。冷湿布が手元にない場合は、保冷剤や氷嚢をタオルで包んで顎を間接的に冷やす方法でも構いません。顎関節症による慢性的な痛みに対しては、冷湿布ではなく温湿布が有効です。温湿布で患部を温めて、血流を良くすることで症状の改善が見込めます。
顎関節症に対して日常生活でできること
- 日常生活で顎関節症を悪化させないためにできることはありますか?
- 口を大きく開けない、会話を長時間続けない、硬い食べ物を噛まない、あくびをする時はできるだけ口を開かない、歯ぎしり・食いしばりを控える、頬杖をつかない、片側だけで噛む癖をやめる、うつ伏せ寝をしない、といった点に気を付けることで、顎関節症の悪化を防ぐことができます。いずれも顎関節に大きな負担をかけるリスクのある行為ですので、顎関節症を患っている人は意識的に控えるようにしましょう。
- 食事で気をつけることはありますか?
- しっかりと噛まなければ咀嚼できないものは、できるだけ避けるようにしましょう。また、食べ物を噛む時は、できるだけ両側の奥歯を使って、ゆっくりと咀嚼するようにしてください。片側だけで噛んだり、前歯を中心に咀嚼したりすると、顎関節に大きな負担がかかって症状が悪化します。
- ストレッチは顎関節症の改善になりますか?
- 正しいストレッチを行うことで全身の血流が良くなり、顎関節症の改善につながることがあります。その一方で、不適切なストレッチをすると、顎関節やその周囲の筋肉に過剰な負担をかけることがあるため注意が必要といえます。ですから、顎関節症を改善する目的でストレッチを行う場合は、事前に歯科医師や理学療法士の意見を求めておいた方が安全といえます。
顎関節症の予防方法について
- 顎関節症の予防方法について教えてください。
- 顎関節症は、顎に過剰な負担がかかることで発症する病気なので、そうした行為や習慣を見直して改善することを第一に考えましょう。具体的には、頬杖をつく癖、うつ伏せ寝、歯ぎしり・食いしばり、TCH(歯列接触癖)などが認められる場合は、早期に改善することで顎関節症を予防しやすくなります。
- 症状が再発しないようにするにはどうすればいいですか?
- 顎関節症になった原因を取り除くことが大切です。これは顎関節症の予防方法と重なりますが、頬杖をつく癖、うつ伏せ寝、歯ぎしり・食いしばり、TCH(歯列接触癖)などが原因で顎の痛みやクリック音が生じたのであれば、それらを改善するよう努めましょう。その他、顎関節に負担がかかる行為・習慣は意識的にやめるようにしてください。歯並び・噛み合わせが原因で顎関節症を発症した場合は、歯列矯正を検討するのもひとつの選択肢です。
編集部まとめ
今回は、口が開かない場合に考えられる病気・異常について、顎関節症を中心に解説しました。顎関節症では、関節円板が転位することでクローズドロックとなり、口が開かなくなることがあります。また、開口すると顎に痛みが生じるため、無意識に口を大きく開けなくなることもあるでしょう。その他、顎関節のクリック音や咀嚼筋痛などを伴っている場合は、顎関節症を発症している可能性が高まることから、早期に歯科や口腔外科を受診することが推奨されます。
参考文献