口を開けると顎が痛い・口が開けにくいなどの症状に、悩んでいる方がいるかもしれません。
もしかしたら、顎関節症を発症している可能性があります。
顎関節症は頭痛や肩こりなどの症状もあるため、何科を受診すればよいかわからなくなるでしょう。
今回の記事では、顎関節症の疑いがある場合に受診すべき診療科・顎関節症の症状や治療法を解説します。ご自身や周りの方で顎関節症の疑いがある場合は、ぜひ参考にしてください。
顎関節症は何科を受診すればよい?
顎関節症とは顎の関節や顎を動かす筋肉に異常が起こることで、顎が痛くなる・口が開きにくいなどの症状が現れる病気です。
顎関節症は、歯科のなかでも口腔外科で治療を行うことが一般的です。そのため、口腔外科を受診するとよいでしょう。
なお、口腔外科とは口の中・顎・顔面・顔面に隣接する組織に現れる疾患を扱う診療科です。
対応している疾患には外傷などの外科的疾患や神経性疾患などの内科的疾患が含まれています。口腔外科は口の中や顔面全体の機能を回復させるのに重要な役割を担います。
なお、診療科目に口腔外科がなくても、診療科目に顎関節症がある・顎関節症の治療を得意としている歯科医院を受診するのもおすすめです。
顎関節症の原因
これまで顎関節症の原因は噛み合わせの異常と考えられていましたが、現在はさまざまな原因が重なることで発症するとわかっています。
主な顎関節症の原因は、以下の4つが挙げられます。
- 過度に口を開ける
- 硬いものを噛む
- 噛み合わせの異常
- 歯ぎしりをする
なお、上記以外にも姿勢が悪い・外傷・睡眠障害なども顎関節症を招く要因となるようです。ここからは、主な原因の4つを詳しくみていきましょう。
過度に口を開ける
顎関節症の原因のうちの1つは、過度に口を開けることです。顎関節症は顎の関節が弱かったり顎の関節に負担がかかったりすると、発症しやすくなると考えられています。
そのため、過度に口を開けることで顎に負担がかかり顎関節症を招く可能性があります。
硬いものを噛む
硬いものを噛むことはやわらかいものを噛むよりも力が入るため、顎に負担がかかり顎関節症を引き起こす可能性があります。
特に片方のみで噛むと、片方の顎に負担がかかり続けて顎が痛くなることもあるでしょう。
なお、無意識に歯を噛み締めてしまう食いしばりも顎関節症を招くことがあります。食いしばりは顎の周りの筋肉に負荷がかかることで、顎の痛みが生じます。
顎関節症の患者さんのほとんどは、口を閉じている時に噛んでいる癖があるようです。そのため、噛んでいる癖がある方は顎関節症になりやすいでしょう。
噛み合わせに異常がある
噛み合わせの異常は顎関節症の代表的な原因です。噛み合わせの異常は、緊張やストレスが影響して顎の周囲の筋肉が緊張することで起こります。
また、入れ歯や被せものが合っていないと、噛み合わせが悪くなる場合もあります。
歯ぎしりをする
歯ぎしりをすると、顎関節症を引き起こす場合も少なくないようです。
歯ぎしりとは、無意識のうちに上下の歯を擦り合わせたり強く噛み合わせたりすることです。これまでは歯と歯を擦り合わせて音をたてることを指していましたが、現在では以下のような動作を含めて歯ぎしりとしています。
- ブラキシズム:歯を擦り合わせたり噛み締めたりする
- グラインディング:上下の歯を擦り合わせる
- クレンチング:上下の歯を強く噛み合わせる
- タッピング:上下の歯をカチカチと噛み合わせる
歯ぎしりは自覚症状が少なく、診断が難しいようです。また、原因はストレスや歯並びと考えられていますが、はっきりとはわかっていません。
歯ぎしりは顎関節症だけではなく、冷たいものがしみる知覚過敏や歯周病などの原因にもなるとされます。さらに歯並びにも影響を及ぼし、顎関節症の原因の1つである噛み合わせの異常を引き起こす可能性もあります。
顎関節症の症状
顎関節症になると、顎関節やその周囲が痛んだり動きにくくなったりします。顎関節症の症状として、以下のようなものが挙げられます。
- 顎関節の痛み
- 開口のしにくさ
- 顎を動かす時の雑音
- 顎関節周囲の筋肉や靭帯の圧縮
- 開口障害
- 咀嚼障害
顎関節症の症状は悪化したり改善したりを繰り返すようです。また、症状の重さは個人差があり、人によっては日常生活に支障を来す可能性があります。
重い症状は進行すると顎の機能が低下することもあるため、気になる症状があれば早めに病院を受診することが大切です。
ここからは、顎関節症の症状を詳しく解説します。
顎関節の痛み
顎関節症になると、顎関節を構成する組織に炎症が生じます。そのため、開口・閉口・咀嚼時に神経が刺激され顎関節に痛みを感じます。
また、顎の近くにある咀嚼筋にも負担がかかることで、筋肉痛のような痛みを感じる場合もあるそうです。咀嚼筋に負担がかかるのは、食いしばりや歯ぎしりによるものだといわれています。
開口のしにくさ
顎を動かすと痛みを感じるため、開口がしにくくなります。通常では口を開けた際に縦に3本の指が口の中に入りますが、顎関節症を発症すると3本の指が入らなくなるようです。
開口しにくくなる場合は、顎関節か咀嚼筋に問題が生じている可能性があります。
顎を動かす時の雑音
顎関節症では、咀嚼したり大きく口を開けたりする際にカックン・ガリガリなどの音が発生する場合があります。これらの音は関節円板がずれることで生じる音です。
関節円板とは、顎関節に存在する下顎頭と下顎窩の間にある組織で、骨よりやわらかい線維がまとまったものです。顎が動く際にクッションのような役割をするため、顎関節は滑らかに動きます。
関節円板は強い圧迫などにより前後にずれやすく、前にずれた状態で顎を動かすと、カックンなどの音が生じます。
さらに関節円板は変形してしまう場合もあるため、注意が必要です。変形して骨がすれ合うことで、シャリシャリ・グニュなどの音が出ます。
顎関節の雑音は痛みを伴わなければ、治療の必要はないといわれています。雑音が気になる場合は、歯科医師に相談するとよいでしょう。
顎関節周囲の筋肉や靭帯の圧縮
顎関節周囲の筋肉や靭帯の圧縮も顎関節症の症状です。
顎関節の周囲には咬筋・側頭筋などの顎の筋肉があり、顎を使い過ぎるなどの原因で痛みが生じます。
咬筋を使い過ぎた場合は頬、側頭筋を使い過ぎた場合はこめかみに痛みが生じます。こめかみの痛みは、頭痛と思う患者さんもいるようです。
また、顎関節周囲の靭帯に必要以上の力が加わると、捻挫したような痛みが生じます。靭帯とは骨と骨、筋肉と骨をつなぐ線維組織です。
靭帯の痛みは無理に口を開けたり、食いしばりをしたりすると起こりやすくなります。
開口障害
顎関節症では、口が開かなくなる開口障害を生じる可能性があります。開口障害が起こるのは、顎関節周囲の筋肉・関節円板のずれ・関節痛・顎関節内の骨の癒着が原因と考えられます。
突然口が開かなくなった場合は関節円板のずれや変形による影響、徐々に口が開かなくなった場合は筋肉の痛みや緊張による影響であるようです。
ただし、開口障害は顎関節症によるものとは限りません。顎関節炎や関節の骨折などが原因で開口障害となることがあります。
そのため、開口障害の症状がある場合は自己判断せず、歯科医師に相談することが大切です。
咀嚼障害
顎関節症では顎が思うように動かなくなるため、咀嚼障害が生じる可能性があります。
食事をしていると顎がだるくなるほか、口を動かしたり噛んだりすると顎関節が痛むため、咀嚼が難しくなります。咀嚼障害により十分な栄養が摂取できなくなる可能性があるでしょう。
顎関節症で首こり・肩こりなどが起こることも
顎関節症では顎の周囲だけではなく、全身に影響を及ぼすことがあります。顎関節症によって起こると考えられる全身症状は、以下のようなものが挙げられます。
- 頭痛・背中の痛み
- 肩こり・首こり
- 目の疲労
- 鼻詰まり
- 味覚異常
- 四肢の痺れ
これらの症状は、必ずしも顎関節症によるものとは限りません。気になる症状があれば、自己判断せず歯科医師に相談しましょう。
顎関節症の治療法
顎関節症の治療では、主に以下のような治療を行います。
- スプリント(マウスピース)治療
- 薬物療法
- 物理療法
- 手術
顎関節症の治療はスプリント(マウスピース)治療が一般的で、必要に応じて薬物療法や手術を行います。
また、治療中は生活習慣の改善を継続的に行うことも重要です。片方ばかり噛んでいる場合は両方の顎を使用してする、硬いものを多く食べる場合は硬い食べ物を避けやわらかい食べ物を取り入れるようにしましょう。
ここからは顎関節症の治療を詳しく解説します。
スプリント(マウスピース)治療
顎関節症の治療は、一般的にマウスピースのようなものであるスプリントによる治療を行います。
スプリントは上下の歯列に被せるプラスチックの装置です。就寝中に使用すると、無意識の歯ぎしりによる顎関節や筋肉への負担を軽減させるのに役立ちます。
顎関節症に使用するスプリントは、スタビライゼーションスプリント・リポジショニングスプリント・リラクセーションスプリントなどです。
スタビライゼーションスプリントは咀嚼筋や関節に痛みがあり、薬物療法やリハビリの効果がみられない場合に使用するようです。
リポジショニングスプリントは関節円板のずれによる症状、リラクセーションスプリントは強い噛み締めの症状がみられる場合に使用します。
薬物療法
痛みが強くある場合に消炎鎮痛薬や筋弛緩薬などの薬を使用します。
消炎鎮痛薬とは炎症が起こっている組織に作用し改善するとともに、痛みを緩和する薬です。主に顎関節や咀嚼筋の痛みに使用されます。
一方で筋弛緩薬とは、筋肉の緊張を緩めて血流を促進する薬です。筋肉が緊張している状態に対して使用されます。
上記の薬はいずれも副作用があるため、歯科医師の説明をよく聞いたうえで使用することが大切です。
物理療法
顎関節症の治療では、物理療法を行うことがあります。物理療法とは温熱・レーザー・電気などの物理的なもので治療を行う方法です。
顎関節症の物理療法では、患部を温めたり冷やしたりして症状を改善します。また、手指によるマッサージ・低周波治療による筋肉への電気刺激・レーザー照射なども行うことがあります。
物理療法は患者さん自身でも行えるため、日常生活に積極的に取り入れるとよいでしょう。日常生活で行える主な物理療法は手指によるマッサージ・温罨法です。
手指によるマッサージは、筋肉の緊張が取れ痛みの緩和につながります。
セルフケアで行う際は、親指の付け根もしくは2〜3本の指先を使用しゆっくり回すように頬をマッサージします。体が温まっているとほぐれやすいため、入浴後に行うとよいでしょう。
ただし、強くつまんだり激しくもんだりすると、症状が悪化する可能性があるため注意が必要です。
一方で温罨法は、蒸しタオルやホットパックなどを患部に当てて温める方法です。血流促進・痛みの緩和・筋肉の緊張の緩和などの効果が期待できます。
セルフケアで行う際は、蒸しタオルを5分程度当てて温めるようにしましょう。
手術
一般的に外科手術が用いられることは少ないですが、ごく一部ケースで行うことがあるようです。
具体的には関節円板が変形したりずれたりしている状態・顎関節内に癒着が起こり顎が動かない状態などに対して、外科手術を行います。
顎関節症の外科手術には、関節円板を元の位置に戻す手術・生理食塩水で関節の中を洗う洗浄療法・関節鏡を関節内に挿入して癒着している部分を離す手術などがあります。
口腔外科で扱うその他の疾患は?
顎関節症を専門に治療する口腔外科は、その他の疾患に対しても治療を行います。口腔外科で扱っている主な疾患は、以下のとおりです。
- 歯・歯周の疾患
- 炎症
- 顔面の外傷
- 腫瘍(良性腫瘍・悪性腫瘍)
- 口腔粘膜疾患
- 嚢胞
- 唾液腺の疾患
- 神経性疾患
- 顎変形症
口腔外科は、外傷や顎変形症などの外科的疾患から口腔粘膜疾患や唾液腺の疾患など内科的疾患まで幅広く治療する診療科です。さらに、親知らずの抜歯・インプラント治療・口腔ケアなども行っています。
ただし、すべての歯科医院が上記の疾患に対応しているとは限りません。親知らずの抜歯や顎関節症の治療などを専門とした歯科医院もあるため、事前に対応している疾患を調べたうえで受診するのがよいでしょう。
まとめ
顎関節症の疑いがある場合は、口腔外科のある歯科医院を受診するのが望ましいです。もしくは診療科目に顎関節症がある歯科医院・顎関節症を専門とする歯科医院でもよいでしょう。
顎関節症とは顎関節や顎を動かす筋肉に異常が起こることで、顎の痛み・開口障害などの症状が現れる病気です。歯ぎしりや食いしばりなどご自身の癖が影響して症状が現れます。
顎関節症を治療するためには、スプリント(マウスピース)治療や薬物療法などを行います。また、セルフケアや生活習慣の改善も欠かせません。
顎関節症は放置していると、顎の機能が低下し日常生活に大きな影響を及ぼします。少しでも気になる症状があれば、歯科医院を受診するようにしましょう。
参考文献