顎関節症とは、どのような病気なのでしょうか? もしかすると、日常で無意識にしている行動が、顎関節症を引き起こす原因になっているかもしれません。
本記事では、顎関節症の治し方について、以下の点を中心に紹介します。
- 顎関節症の症状
- 顎関節症の原因
- 顎関節症の治療法
顎関節症の治し方について理解するためにも、ご参考いただけますと幸いです。 ぜひ最後までお読みください。
そもそも顎関節症とは?
顎関節症とは、顎の関節や顎を動かす咀嚼筋に異常が生じる病気です。 この病気は、顎が痛む、口が開きにくい、音がする、ものが噛みにくいなどの症状を引き起こします。顎関節症の患者さんには女性が多く、特に若い女性と中年の女性に多いとされています。
顎関節症は多くの場合、特別な治療をしなくても改善に向かい、自然に治まることもあります。しかし、痛みがある場合や口が開けづらい、物が食べにくい場合など、日常生活に支障があれば、医療機関を受診してください。
顎関節症は、日常生活における無意識の習慣が原因となることが多く、これらを自覚して改めることで、予防や症状の緩和も可能とされています。
顎関節症の症状
顎関節症の症状には以下のものがあります。
- 口を開閉する際に顎関節で「カックン」「コッキン」といった音がする
- 顎関節やその周辺に痛みや違和感を感じる
- 硬いものを噛むときや、大きく口を開けるときに痛みが生じる
- 口が十分に開かない、またはスムーズに開閉できない
- 口が左右にうまく動かない
- 顎がはずれる感覚
副症状には以下のようなものがあります。
- 全身の痛み(頭痛、首・肩・背中の痛み、腰痛、肩こりなど)
- めまい、耳鳴り、耳がつまった感じ、難聴
- 眼の疲れ、充血、涙が出る
- 鼻づまりなどの鼻の症状
- 呼吸困難
- 嚥下困難
- 四肢のしびれ
顎関節症の症状には個人差が大きく、軽いものから重いものまでさまざまです。
症状は、悪化したり改善したりを繰り返し、再発もしますが、多くの場合は治療によって生活に支障をきたさない状態になるとされています。
症状が重い場合、進行して顎の機能が破壊される可能性もあるため、早めに医師の診察を受けることが推奨されます。
顎関節症かな?と思ったら
もしかして顎関節症かもしれないと不安になった場合、どうすればよいのでしょうか。
自分でできるチェックや、病院の選び方などについて解説します。
顎関節症の自己チェックポイント
自分で確認できる、顎関節症かどうかのチェックポイントは下記の通りです。
- 顎が疲れる
食事や会話の際に顎がだるくなる感覚があれば、顎関節症の可能性があります - 顎の動きに伴った痛みがある
顎を動かす際に痛みがあり、特に口を開閉するときに痛みを感じる場合が該当します - 耳の前やこめかみ、頬の痛みがある
これらの部位に痛みを感じることも、顎関節症の一つの兆候です - 口の開閉が困難である
大きなあくびをするときやりんごを丸かじりするときなど、口を大きく開けようとすると顎の動きが制限され、口を開けられない場合があります - 顎が動かなくなる
ときどき顎が引っかかったようになり、動かなくなることがあります - 口を縦に開けられない
人差し指、中指、くすり指の3本を縦にそろえて口に入れられない場合、顎関節症の可能性があります - 口を開閉すると音がする
口を開けたり閉じたりする際に、耳の前の辺りで音がする場合、顎関節症を示唆しています - 噛み合わせが変化する
最近、噛み合わせが変わったと感じる場合も、顎関節症のサインです - 頭痛や肩こりがある
頭痛や肩こりが頻繁に起こる場合も、顎関節症と関連があるかもしれません
チェックポイントに多く該当する場合、顎関節症の可能性が高いと考えられます。 ただし、これらの症状がある場合でも、必ずしも顎関節症であるとは限りません。 症状が気になる場合は、医師の診断を受けることをおすすめします。
自身でできる処置
顎関節症の疑いがある場合、自分でできる処置は以下の通りです。
- 硬い食べ物を避ける
症状がある場合は、硬いものを噛んだり、大きく口を開けたりしないようにしましょう。軟らかい食事を心がけることが重要です - 顎の安静を保つ
顎関節や筋に痛みがあるときは、安静にして顎を使いすぎないよう注意しましょう。顎をリラックスさせ、上下の唇を軽く触れさせ、歯を接触させないようにすることが効果的とされています - 大きな開口を避ける
大きなあくびやりんごの丸かじりを避けるなど、大きく口を開ける動作は控えましょう - 温湿布をする
慢性の筋症状には、温湿布が効果的とされています。痛みのある部分に温めたタオルをあてがい、血行を促進しましょう - 筋肉へのマッサージ
顎周りの筋肉がだるい場合や、口を開ける際の痛みがある場合には、筋肉をマッサージしてみましょう - 姿勢を正す
長時間同じ姿勢を続けることを避け、適宜ストレッチをして心身を休めることが大切です。また、猫背や顎を突き出すような姿勢を避けましょう - 仰向けか横向きで寝る
顎関節や首の筋肉に負担をかけないように、仰向けか横向きで寝ることが推奨されます。うつぶせは避けましょう
これらの処置は、顎関節症の症状を和らげ、日常生活における不快感を軽減するのに役立ちます。ただし、これらの処置によって症状が改善しない場合や、症状が悪化する場合は、医療機関を受診することが重要です。
顎関節症になったらどの病院へ行けば良いのか
顎関節症の診断と治療は、主に歯科医院や大学病院の口腔外科で行われます。
また、顎関節症の外来を設置している医療機関も存在し、一部の整形外科でも顎関節症の診療が可能な場合があります。
顎関節症は、歯科医院と口腔外科どちらでも診断できますが、歯科医院は歯の治療や予防、口腔内の健康管理に焦点を当てています。
一方、口腔外科は、口腔内の外科的処置、顎関節症を含む顎の問題、口腔がんなどのより複雑な症状の治療に特化しています。
顎関節症の疑いがある場合、まずは歯科医院での診察を受けることが推奨されます。 必要に応じて、より専門的な治療が必要な場合は、口腔外科へ紹介されることがあります。
また、症状や状態によっては整形外科での診察も選択肢となることがあります。
顎関節症の原因
顎関節症の原因には、以下のようなものがあります。
- 歯ぎしりやくいしばり
これらの習慣は、顎関節に過度の圧力をかけ、顎関節症を引き起こす可能性があります - 悪い歯並びや噛み合わせ
不適切な噛み合わせは、顎関節に不均等な圧力をかけ、症状を引き起こすことがあります - ストレス
精神的なストレスは、無意識のうちに歯を食いしばることを引き起こし、顎関節に負担をかけることがあります - 外傷
顎に直接的な衝撃が加わることで、顎関節症が発生することがあります - 筋肉の異常緊張
首や頭部の筋肉の異常な緊張が、顎関節に影響を及ぼすことがあります - 悪い生活習慣
偏った食事、頬杖、うつぶせ寝などの生活習慣が、顎関節に負担をかけることがあります - 関節円板のずれ 顎関節の関節円板が正常な位置からずれることで、顎関節症の症状が引き起こされることがあります
これらの原因は、単独で発生することもあれば、複数が組み合わさって発生することもあります。
顎関節症は多因子性の疾患であり、個々の症状や原因は人によって異なります。 そのため、顎関節症の診断と治療は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて行う必要があります。
顎関節症の治し方
顎関節症の治し方には、どのような方法があるのでしょうか。以下で詳しく解説します。
顎関節症は自然治癒するのか
顎関節症は自然治癒する可能性が高いとされていますが、自然治癒とは症状が十分緩和され、日常生活に支障がなくなることを意味します。
ただし、顎関節自体が構造的にダメージを受けている場合、そのダメージがすべて治癒することはありません。
なお、傷ついた状態は残りますが、症状はコントロールが可能とされています。
顎関節症の症状は、セルフケアや対症療法で十分改善できることが多いとされています。
しかし、なかには痛みや違和感、開口障害などが慢性化するケースもあります。
そのような場合は、医療機関の受診が必要になることもあります。
自身での治し方
顎関節症の症状が強いときは、以下のようなセルフケアが推奨されます。
- 冷やし、顎運動をする
痛みのある顎関節や筋肉に、10分間氷水入りのビニール袋をあてて冷却した後、ゆっくりと顎を開閉し、関節と筋肉を伸ばす運動をします。この処置を1日に数回実施することが推奨されます - 食べ物は小さく切って食べる
食べ物は小さく切り、大きく口を開けないようにすることが重要です。また、ビーフジャーキーやするめ、フランスパンなどの噛みしめる力が必要な硬い食品は控えましょう - ゆっくりと口を開閉する
急激な開・閉口は関節へのダメージを招く恐れがあるため避けることが重要です - 大きくあくびをしない
あくびの際、疲れた顎の筋肉を使わず、下顎の下に拳を当てて口を開けると良いでしょう。これにより、顎の筋肉の負担が軽減されます
また、症状が落ち着いた後は、以下のようなセルフケアが大切です。
- あたためる
5分間、温かい蒸しタオルを当てると効果的とされています - マッサージする
母指球や指先2〜3本を使い、ゆっくりと圧をかけながらマッサージすると良いでしょう
ただし、力を入れすぎたり、痛みを感じるほど強く揉んだりするのはかえって悪影響を及ぼすため、優しくマッサージすることが大切です - 訓練療法を実施する
急性期の痛みが軽減した際には、少々の痛みを伴っても関節を動かし、筋肉をストレッチし、リハビリテーションすることで、痛みの回復が促進されます。この方法は、痛みの早期改善に効果的とされています - 行動療法を実施する
無意識の行動や姿勢、習慣が、症状の原因や悪化につながることがあります。自身で気づくことは難しいですが、歯科医の指摘を受け発見した際には、それらを改めることが症状の改善に効果的とされています
歯科医院での治し方
顎関節症の治療は、歯科医院によって異なる場合がありますが、主に以下のような治療法があります。
- 薬物療法
顎の痛みを薬でおさえる方法です。筋肉の緊張が強い場合にも、薬を用いることがあります - 理学療法
電気を流したり、マッサージをしたりして、顎周辺の筋肉の緊張を改善させます。また、筋肉をほぐして血流を改善し、痛みを軽減させます - 運動療法
ずれてしまった関節円板を元に戻すような運動や、顎周りの筋肉のストレッチをし、口を開けられる量を増やします - スプリント療法
マウスピースを使用した方法です。マウスピースを装着し、顎関節をリラックスさせた状態にします。昼間はマウスピースを装着する必要がないため、日常生活への影響は少ないといわれています - 心身医学療法
ストレスも取り除く必要があります。ストレスによる食いしばりも顎関節症の原因となる可能性があります。また、ブラキシズムの傾向がある場合は、スプリント療法により顎や咀嚼筋への負担軽減を期待できます。しかし、その根本原因へのアプローチも必要です
外科的な治療
顎関節症の治療には、主に非外科的なアプローチが取られますが、一部の難治性のケースでは、外科的治療が選択されることがあります。
外科的治療は、非外科的治療による改善が見られない、特に重度の顎関節症のケースで検討されます。
外科的治療には、関節鏡を使用した手術や、関節を切開して実施する手術があります。
関節鏡手術は、侵襲が少ない手術といわれており、関節内の問題を直接観察し、治療できます。
関節鏡を用いて関節内の異常を診断し、必要に応じて治療をします。
重度のケースや関節鏡手術で対応できない場合には、より侵襲の大きい開放手術が実施されることがあります。
これには、関節の切開や再構築が含まれることがあります。
なお、顎関節症の外科治療にはリスクが伴うため、患者さんの状態や症状の重さ、以前の治療の結果などを考慮した上で、治療方法が決定されます。
外科的治療によって、痛みの軽減、関節の機能の改善、および顎の動きの正常化などが効果として期待できます。
顎関節症にならないために
顎関節症にならないようにするためには、どのようなことに気を付けると良いのでしょうか。
以下で詳しく解説します。
癖を自覚する
顎関節症を予防するために、日常生活における無意識の癖を自覚することが重要です。 特に、上下の歯を接触させる癖(TCH)や食いしばる癖は、顎関節症の発症や悪化に大きく関与しています。
TCHは、日中に上の歯と下の歯を無意識に接触させる習慣を指します。
顎関節症の患者さんの多くがこの癖を持っており、この癖を意識して減らすだけで症状が改善することが多いとされています。
通常、上の歯と下の歯の間には隙間があり、接触していない状態が普通といわれています。
しかし、顎関節症の方は、通常よりも長い時間、上下の歯を接触させる癖があります。
これにより、顎関節に負担が蓄積され、顎関節症に移行することがあります。
また、食いしばる癖も同様に、顎関節に負担をかける要因となります。
特に過度なストレスや緊張状態が続いたり、不良姿勢でスマホやタブレット、PCの画面を見たりする際に、無意識に食いしばることがあります。
これらの癖は、顎関節や咀嚼筋に過度のストレスを与え、顎関節症の原因となり得ます。
予防のためには、これらの癖を自覚し、意識的に減らすことが重要です。
TCHに気づいた際には、中断し、あえてぼーっと口を空ける時間を取る、軽く口を閉じるときも上下の歯が当たらないようなポジションを確認するなどの方法が役立つとされています。
また、ストレス管理や姿勢の改善も予防に役立ちます。
セルフケア
顎関節症の予防には、自分でできるセルフケアが重要です。
以下で、主なものを紹介します。
- 開口訓練
口を開ける練習は、顎関節の動きを良くし、筋肉のストレッチとしても役立ちます。親指を上顎の前歯に、人差し指を下顎の前歯に当て、ゆっくりと力を加えながら口を開けます。この訓練は1日10回程度、強い痛みを感じない範囲で実施します - 筋肉をほぐす
顎関節症に関係する咬筋や側頭筋が凝っている場合、これらをほぐすことで血流を促し、緊張を和らげます。手のひらや指で側頭部から頬に向けて撫でるようにマッサージし、筋肉をリラックスさせます。1日10回程度実施すると効果的とされています - ストレッチ
顔や首、肩回りの軽いストレッチも効果的とされています。特に「あっぷっぷ体操」が推奨されています。リラックスし、歯と歯の間に隙間をもうけて、頬に空気を入れて膨らませ、上下左右に動かし、5秒ずつゆっくり息を吐きます - 生活習慣の見直し
顎に負担がかかる行動や習慣を避けることも重要です。例えば、頬杖をついたりうつ伏せで寝たりするなどの習慣は、顎関節に負担をかけるため、これらを避けることが推奨されます
これらのセルフケアは、顎関節症の初期治療として役立ち、日常生活で簡単に実践できます。
しかし、症状が出た場合は、これらのセルフケアだけに頼らず、医師に相談することが重要です。
気を付けるべき生活習慣
顎関節症の予防には、日常生活の中での習慣に注意することが重要です。
以下で気を付けるべき習慣について解説します。
- 噛み合わせの悪さに注意
不適切な詰め物や被せ物が原因で、噛み合わせが悪くなることがあります。これが顎関節症を引き起こすことがあるため、噛み合わせの調整が必要です - 片側でばかり噛まない
偏った咀嚼は顎に負担をかけ、顎関節症のリスクを高めます。均等に噛むことを心がけましょう。 - 歯ぎしりや食いしばりに注意
無意識での歯ぎしりや食いしばりは、顎に強い力がかかり、顎関節症を引き起こす可能性があります。マウスピースの使用が改善に役立つことがあります - 頬杖やうつぶせ寝を避ける
頬側からの圧力は噛み合わせに影響を及ぼし、顎関節症のリスクを高めます - 睡眠不足に注意
不十分な睡眠はストレスの原因となり、食いしばりを引き起こすことがあります - 頬や唇を噛む癖をやめる
日常的に頬や唇を噛む癖は、噛み合わせのバランスを崩し、顎関節症を引き起こす可能性があります - ストレスをためない
心理的ストレスは、歯ぎしりや食いしばりを招き、顎関節に大きな負担をかけることがあります - 適切な歯科治療を受ける
歯が抜けている場所やむし歯で噛めない部分を放置すると、顎関節症を引き起こす可能性があります。適切な歯科治療を受けることが重要です
これらの習慣に注意し、日常生活での小さな変更を心がけることで、顎関節症の予防につながります。
まとめ
ここまで、顎関節症の治し方についてお伝えしてきました。 顎関節症の治し方の要点をまとめると、以下の通りです。
- 顎関節症の症状には、口の開閉時に音がする、大きく口を開けると痛みを感じる、全身の痛み、めまいや耳鳴りなどがある
- 顎関節症の原因には、歯ぎしりやくいしばり、悪い噛み合わせ、ストレス、悪い生活習慣などがある
- 顎関節症の治療法には、自分でできるセルフケアのほかに、歯科医院での治療や外科的治療などがある
これらの情報が、少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。