親知らずを抜歯すると小顔になるといわれていますが、果たして本当でしょうか?
親知らずを抜歯するのは口腔内の治療や予防治療のためであり、1本でも多く自分の歯を残すためです。
小顔になりたいなど、本来の治療とは違った目的で親知らず抜歯を行うと、将来的に自分の歯を残すうえで大きなデメリットがあるかも知れません。
本記事では、親知らずの抜歯でどのような影響があるか、以下の内容を解説します。
- 親知らず抜歯で小顔になるか
- 親知らず抜歯が必要なケース
- 親知らず抜歯が必要ないケース
- 親知らずを抜歯しないメリット
正しい情報をもとに、親知らずを抜歯するか判断する参考になれば幸いです。
親知らずを抜歯すると小顔になる?
親知らずを抜歯したのが原因で、顎の骨が小さくなることはほとんどありません。
エラが張っているタイプの方や、頬骨が大きく出ているタイプの方は親知らずの抜歯による小顔効果が大きいといわれることもありますが、医学的な根拠はありません。
いわゆるエラの部分にあたる下顎骨は親知らずが生えている部分とは離れているため、抜歯による影響は極めて軽微です。
親知らずを抜歯した後に、歯が生えていた部分の骨が退縮することはありますが、フェイスラインに影響を与える程の変化にはならないでしょう。
ただし、親知らずの抜歯によって噛み合わせが変わり、肥大していた咬筋が小さくなるなどの間接的な影響は出る可能性があります。
また、親知らずが原因で歯肉や歯槽骨に炎症が起きている場合には、抜歯と治療によって腫れが治まって小顔になったように見える可能性はあるでしょう。
この場合はもともと小顔だった人が親知らずの炎症によって腫れていただけであるため、親知らずの抜歯によって小顔になったわけではありません。
顔の大きさやフェイスラインは骨格の成長によってほとんど決まっているため、親知らずの抜歯で大きく変化する可能性は低いでしょう。
親知らずを抜歯すること自体は多くのメリットがありますが、問題が生じていない親知らずを小顔目的で抜歯してしまうのは大きなデメリットがあります。
親知らずは抜歯しなくてよいケースもあり、親知らずを残すことにはメリットもあるため、抜歯するかどうかは正しい知識をもとに慎重に検討しましょう。
親知らずとは
親知らずは医学的には智歯や第三大臼歯と呼ばれ、18~20歳頃に生えてくる3番目の奥歯です。
親知らずは28本の歯が生え揃って骨格の成長も止まった後に生えてくるため、ほかの歯を押しのけて歪な生え方になるケースが少なくありません。
親知らずが傾いて生えたり、歯肉に埋まっていたりすることで周囲の組織が炎症を起こすことを智歯周囲炎といい、口腔内に悪影響を与える場合には抜歯が必要です。
顎の骨が小さい小顔の方では、親知らずが生えるスペースが少ないために歪な生え方となったり、親知らずが生えてこないケースがあります。
親知らずを抜歯するメリット
親知らずが原因で口腔内に問題が起こる前に、予防的に抜歯することにはいくつかのメリットがあります。
小顔効果が望めなくても、お口の健康維持のためには有効な治療方法といえるでしょう。
親知らずの抜歯によって得られる、主なメリットを解説します。
むし歯や歯周病予防につながる
親知らずは口腔内の一番奥に生えるため歯みがきがしづらく、歯科治療もしにくいため、むし歯や歯周病になりやすい歯です。
親知らずと隣接する第二大臼歯との隙間もケアしにくくなるため、第二大臼歯まで失わないためにも予防的に抜歯するケースが少なくありません。
特に親知らずが半分以上歯肉に埋まっていたり傾いて第二大臼歯の奥に隠れている場合には、食べ物が詰まりやすく、むし歯や歯周病のリスクが高くなります。
歯みがきがしづらい・歯間ブラシが入れにくいなどの生え方をしている場合は、むし歯になる前の抜歯を検討しましょう。
口腔内の炎症を抑える
親知らずが傾いたり横向きに生えたりしていると、歯肉を傷つけて智歯周囲炎を起こすことがあります。
智歯周囲炎の症状は慢性的な痛み・出血で、出血した場合には傷口から細菌感染を生じることも少なくありません。
親知らず周辺で増殖した細菌が口腔内のほかの部位に悪影響を与えたり、血管から体内に侵入する可能性もあります。
慢性的な歯茎の炎症や腫れがある場合には、親知らずの抜歯によって再発のリスクを軽減できます。
口臭予防につながる
歯みがきがしづらい親知らずの周辺には歯垢がたまり、口臭の原因となることも少なくありません。
口臭の原因がお口のなかにある場合、歯垢そのものよりも、歯垢を餌に増殖する細菌の老廃物が主な原因です。
歯の周りで細菌が増殖すると歯周病につながり、細菌の出す老廃物によって口臭も悪化していきます。
口臭は自分よりも周りの人に与える不快感が大きく、コミュニケーションに問題を生じることもあるでしょう。
口臭予防には毎日の歯みがきが重要ですが、歯みがきがしづらい親知らずがある場合は抜歯が根本的な治療方法になります。
顎関節症の予防になる
親知らずが原因で噛み合わせが悪くなっている場合、顎に負担がかかって顎関節症となる場合があります。
横向きに生えてくる親知らずに第二大臼歯が押されて歯並びが乱れたり、親知らずのせいで噛みづらいため片側だけで噛む癖がついたりすると、顎関節に過剰な負担がかかります。
顎関節症は放置すると重症化して食事や会話が難しくなりますので、親知らずが原因で噛み合わせに問題があると思われる場合には早めの抜歯を検討しましょう。
親知らずを抜歯しないといけないケース
親知らずは口腔内で問題を起こしやすい歯であり、親知らずが原因で問題が起きた場合には抜歯が第一の選択肢です。
症状が軽度であれば対症療法だけで経過観察となりますが、慢性的に繰り返すようであれば抜歯した方がよいでしょう。
親知らずを抜いても口腔内の機能にはほとんど問題がなく、口腔内の機能を守るためにも抜歯が必要となるケースは少なくありません。
親知らずを抜歯しなくてはいけない主なケースを解説します。
腫れや痛みがある場合
親知らず周辺の歯茎が腫れて痛みがある場合は、智歯周囲炎によって歯茎が炎症を起こしている可能性が高いでしょう。
炎症が軽度であればすぐに抜歯は必要ありませんが、腫れや痛みが強かったり、慢性的に繰り返したりする場合には抜歯が根本的な治療方法となります。
親知らずが歯肉に半分以上埋まっていたり横向きに生えたりしている場合は、智歯周囲炎のリスクが高いため、予防的に抜歯するケースも少なくありません。
むし歯や歯周炎の可能性がある場合
親知らずは日常的な歯みがきがしづらいためにむし歯や歯周病になりやすい歯ですが、治療するメリットが少ないため抜歯となるケースがほとんどです。
親知らずと接触している第二大臼歯との隙間がむし歯になった場合には、第二大臼歯を治療しやすくするためにも、親知らずは抜歯した方がよいでしょう。
歯茎の腫れは歯周病につながる可能性が高いため、細菌の増殖を抑えるためにも抜歯が有効な治療方法となります。
横向きや斜めに生えて近くの歯に影響がある場合
親知らずが横向きや斜めに生えてきた場合、隣の歯を押し込んでしまう場合があります。
横向きの親知らずが第二大臼歯の根元に食い込んでいる場合、根元の骨が溶けて第二大臼歯まで抜歯せざるを得なくなるケースも少なくありません。
このような兆候が見られる場合は、第二大臼歯を守るために親知らずを抜きましょう。
親知らずが原因で歯並びが悪化する可能性がある場合
親知らずは骨格の成長が止まってほかの歯が生え揃ってから生えてくるため、ほかの歯を押しのけて歯並びが乱れる場合があります。
親知らずが直接的に歯並び全体を動かさなくても、親知らずが第二大臼歯を動かすことで噛み合わせが変わり、噛み合わせの変化によって歯並び全体が乱れることも少なくありません。
噛み合わせが乱れると歯列矯正によって長期間の治療が必要となりますので、歪に生えた親知らずは早めに抜歯した方が無難です。
親知らずを抜歯しなくてもよいケース
親知らずは抜歯するケースが少なくありませんが、親知らずだからすべて抜歯しなくてはいけないわけではありません。
抜歯手術は麻酔をしても、腫れや痛みが2・3日間続く患者さんにとっても辛い治療であるため、必要のない抜歯はしない方がよいでしょう。
親知らずの抜歯が必要ないのは、主に以下のようなケースです。
まっすぐ生えて噛み合わせに問題がない場合
親知らずがまっすぐきれいに生えていて問題がない場合は、抜歯する必要はありません。
下顎の骨が大きく、親知らずがまっすぐ生える十分なスペースが残されている場合には、抜歯が必要ない程きれいに生える可能性が高くなります。
逆に顎の骨が小さい小顔の方は、親知らず抜歯が必要になる可能性が高いでしょう。
完全に埋もれていてほかの歯や顎の骨に影響がない場合
顎の骨が小さく親知らずが生えるスペースがまったくない場合、親知らずが完全に骨のなかに埋まったままになるケースがあります。
医学的には埋伏歯と呼ばれ、骨のなかに埋まったままほかの歯に影響しない場合は、放置しても問題ありません。
全部の親知らずが影響を与えるわけではない
親知らずは口腔内に悪影響を与えるケースが少なくありませんが、すべての親知らずがそうではありません。
上顎の親知らずが横向きで抜歯が必要でも、下顎の親知らずはまっすぐきれいに生えているケースもあります。
4本の親知らずはそれぞれ状況が異なるケースも少なくないため、それぞれ抜歯か保存かを歯科医師と十分に相談してください。
歯が噛み合えば無理に抜かなくてもよい
親知らずがまっすぐ生えていて上下が噛み合っている場合は、無理に抜歯する必要はありません。
親知らず抜歯によって第二大臼歯が奥側に動くこともあり、噛み合わせに影響が出る可能性もあります。
また、親知らずの傾きが軽度であり、歯列矯正によって噛み合わせを十分に整えられる場合は、歯列矯正して親知らずを残すことが可能です。
貴重な自分の歯を多く残すためにも、機能している親知らずは保存した方がよいでしょう。
顎の骨の内部にあれば抜歯は行わない
埋伏歯を抜くには骨を大きく切開しなければならないため、大きな問題が起きない限りそのままになるケースが大半です。
特に下顎の埋伏歯は下顎骨神経という太い神経に近接している可能性が高く、抜歯手術は神経を傷つけるリスクを伴います。
骨に埋まった親知らずが動いて神経を刺激したり、ほかの歯を押し出したりするなどの問題がない場合は、抜歯はしない方が無難でしょう。
親知らずを抜歯しないメリット
親知らずといえども自分の歯であるため、自分の歯を1本でも多く残すことは将来的に多くのメリットがあります。 口腔内の一番奥にある親知らずが残っていると、将来的に第二大臼歯を失ったときにブリッジ治療や部分入れ歯治療の架橋にしたり、歯列矯正の際にブラケットをかけられるため治療の選択肢が広がります。
第二大臼歯や第一大臼歯を失った場合、親知らずが残っていないとブリッジ治療ができないため、取り外し可能な入れ歯治療以外は高額なインプラント治療しか選択肢がなくなります。
取り外し可能な入れ歯治療は安定性が悪いため食事の快適性が大きく低下し、インプラント治療は長い治療期間と1本あたり300,000万〜400,000円(税込)の高額な費用がデメリットです。
ブリッジ治療では歯を失った部分の隣の歯を架橋のために大きく削らなくてはいけないのがデメリットですが、もともと抜歯する予定だった親知らずであれば、削ることへの抵抗感は少なくなるでしょう。
骨や歯の状態が問題なければ、親知らずを移植したり歯列矯正で動かしたりして、失った歯を自分の歯で補うことも可能です。
第一大臼歯や第二大臼歯を失った際に、親知らずを抜歯して速やかに移植することで再び噛める状態になるケースも少なくありません。
まっすぐ生えて噛み合わせが問題ない親知らずは、自分の歯としてしっかり機能するため、抜歯しないで保存した方がよいこともあります。
重要なのは1本でも多く自分の歯を残すことであり、親知らずの抜歯が必要なのは、親知らずの悪影響でほかの歯を失ってしまう可能性が高いケースだけと考えてください。
まとめ
親知らず抜歯で小顔になるのかどうかや、抜歯のメリット・デメリットを解説しました。
親知らずを抜くと骨が多少退縮することはありますが、フェイスラインが変わって小顔になる程の影響があるケースは極めてまれです。
問題なく機能している親知らずを小顔目的で抜いてしまうのは、メリットがほとんどなくデメリットの方が大きいでしょう。
一方で、親知らずは横向きに生えたりほかの歯を押し込んだりして問題を起こしやすい歯であるため、予防や治療のためには抜歯した方がよいケースもあります。
親知らずの炎症によって慢性的な腫れなどがあった場合は、抜歯による治療で腫れが治まり小顔になったように見えることも少なくありません。
親知らずを抜歯するかどうかは、口腔内の状態を考慮して歯科医師と十分に相談してください。
参考文献