親知らずを抜く場合、歯科医院では局所麻酔下で行われることが主流です。しかし、全身麻酔下で親知らずの抜歯を行うケースもあります。
局所麻酔下での抜歯では不安が大きく、施術に支障をきたすようなケースで行われます。ただし、すべての医療機関で可能なわけではありません。
親知らずを全身麻酔下で抜くメリット・デメリット・適用すべき症例・施術可能な医療機関・費用などを解説します。
親知らずの全身麻酔での抜歯について
- 親知らずを全身麻酔で抜歯すべき症状について教えてください。
- 全身麻酔下での親知らずの抜歯の対象となるケースとしては、歯科治療への協力が得られない患者さんが想定されます。具体的には以下のような疾患がある患者さんです。
- 知的障害
- 発達障害
- 認知症
- 脳性まひ
親知らずを抜く必要があっても、患者さんの状況に応じて適切な術式の選択が必要です。また、以下のように患者さんが医療行為に恐怖心を持つ場合も対象となります。
- 恐怖心が極めて強い
- 嘔吐反射が強い
- 治療中に気分が悪くなったことがある
患者さんに可能な限り不快感を与えず、スムーズに治療を行うための処置です。以下のような基礎疾患があるケースも、全身麻酔下での親知らず抜歯の対象です。。
- 高血圧
- 狭心症など循環器疾患
全身麻酔による管理下で術式を行うことで、基礎疾患に由来する全身の状態の変化を確認しやすくする狙いがあります。
- 親知らずを全身麻酔で抜歯する際は入院が必要ですか?
- 全身麻酔下での手術は自発呼吸が弱くなるため、術中術後の全身管理が欠かせません。このため、全身麻酔による親知らず抜歯は入院治療が基本です。
手術前日に入院し、問診を行うなど万全の体制を取る医療機関もあります。ただし、医療機関によっては日帰り手術の対象となっていることもあります。事前に確認しておくといいでしょう。
- 全身麻酔での親知らずの抜歯はどの歯科医院でも受けられますか?
- 全身麻酔そのものが、人工呼吸をはじめとする全身状態の管理が必要です。小規模の歯科医では、こうした全身管理を行うことは不可能です。
また、全身麻酔による親知らず抜歯はほとんどの医療機関で入院が必要なため、入院設備のない医療機関ではできません。全身麻酔での親知らず抜歯は、大学病院をはじめとする大規模医療機関で行います。
こうした医療機関のなかには、紹介なしでの外来を受け付けていないこともあります。多くの場合はかかりつけの歯科医師の紹介で、大規模な医療機関で抜歯を受けることになるでしょう。
- 親知らずを全身麻酔で抜歯したら費用はどれくらいかかりますか?
- 全身麻酔による親知らず抜歯は医療保険の対象外となるケースがあります。標準治療である局所麻酔下の術式が医療保険の対象であっても、全身麻酔下のものは対象となるとは限りません。同じ疾患の治療であっても、先進的な治療のように標準治療と異なるものが保険適用とならないことと同じです。
医療保険の対象外の場合は、医療機関によって費用が異なることは知っておいてください。そうした点を踏まえたうえでの一般的な相場は、1泊2日の入院で20,000〜30,000円(税込)程度です。もちろん、これより高くなることも安くなることもあります。
ただし、医療機関によって技量の差はあります。このため、一概に費用が安くつくほうがよいとはいえません。
- 手術が怖いです。希望すれば誰でも全身麻酔で親知らずを抜歯できますか?
- 繰り返しますが、親知らず抜歯に極めて大きな恐怖心を持つ場合は全身麻酔下での術式の対象です。持病などが原因で全身麻酔ができないケースを別にすれば、希望する患者さんならば誰でも施術を受けられます。
ただし、保険医療の対象ではないため局所麻酔と比較すると費用がかかります。大半は入院が必要ですし、医療機関によっては入院は必須です。また、全身麻酔は25万人に1人の割合で危険な状態になることがあります。
こうしたリスクを理解したうえで、どうしても医療行為に耐えられない程の恐怖心がある場合には全身麻酔下での施術が選択肢に入ってきます。
親知らずを全身麻酔で抜歯するメリット・デメリット
- 親知らずを全身麻酔で抜歯するメリットを教えてください。
- 以下が親知らずを全身麻酔で抜歯するメリットになります。
- 抜歯時の恐怖心が抑えられる
- 協力が得られない患者さんの施術が可能
- 4本まとめて抜歯できる
歯科医で治療を受けるのが嫌な人は珍しくありませんし、抜歯が必要とわかっていても恐怖心が先に立って医療行為を受けられない人も少なくありません。そうした人にとって、施術中に意識がなくなる全身麻酔下の手術は恐怖心を抑えられる大きなメリットにつながります。
知的障害などで患者さんの協力が得られなくても、抜歯自体が必要なケースもあります。そういう場合には医療行為をスムーズに行う観点から、全身麻酔下での抜歯が選択されることもあるでしょう。
また、親知らずを4本まとめて抜くことは患者さんの体力が持ちません。このため、局所麻酔だと複数回の施術が必要です。
全身麻酔の場合は患者さんの状態がしっかりと管理されているので、長時間となる4本抜歯も可能になります。
- 親知らずを全身麻酔で抜歯するデメリットはありますか?
- 以下が親知らずを全身麻酔で抜歯するデメリットになります。
- 施術可能な医療機関が限られる
- 医療保険の対象外なので費用がかかる
- 全身麻酔そのものにリスクがある
まず、全身麻酔そのものがしっかりとした管理下で行われます。小規模な歯科医でできるようなものではありません。このため、大学病院をはじめとする大規模な医療機関でのみ施術が可能となります。最近では日帰り治療に対応した民間の医療機関も出てきましたが、施術可能な医療機関が限られていること自体は変わりません。
同じ親知らず抜歯でも、全身麻酔下のものは医療保険の対象外となるケースがあることもデメリットです。自由診療は保険治療より費用がかかり、医療機関によって必要な金額も異なります。
極めて稀ですが、全身麻酔そのものがリスクがあることもデメリットといってよいでしょう。
親知らずを全身麻酔で抜歯する際の注意点
- 抜歯後の痛みや腫れはどれくらい続きますか?
- 全身麻酔下で行うとはいえ、抜歯術そのものが大きく変わるわけではありません。痛みや腫れが完全に治まるまでには10日程度が必要です。
ただし、後述するドライソケットと呼ばれる症状が起きた場合には、治癒までの期間が長引いてしまうことも考えられます。
- 抜歯後すぐに飲食しても大丈夫でしょうか?
- 全身麻酔下の手術は、医師や看護師によって厳密に管理されています。意識が戻ったからといって、即座に飲食を行うことは難しいでしょう。
抜歯後すぐに飲食を行うようなことは、難しいと考えてください。飲食が可能になっているかどうかは、医療機関側の判断になるため従うようにしてください。
入院する場合には、医療機関側から食事が出るようになるまで待つほうがよいでしょう。
- 抜歯後避けたほうがよい行為があれば教えてください。
- 繰り返しになりますが、全身麻酔下の親知らず抜歯は医療機関の指示に従わず勝手な行動は禁物です。それ以外の避けたほうがよい行為は、以下のように局所麻酔下での親知らず抜歯に準じます。
- 頻繁なうがい
- 患部を指や舌で触れる
- 歯ブラシを患部に当てる
- 激しい運動
- 刺激物の飲食
- 喫煙や飲酒
特に気を付けてほしいのが、うがいのしすぎです。親知らずを抜いた後にできるかさぶたがはがれ、ドライソケットと呼ばれる状態になるからです。
骨が露出している状態で痛みを伴い、治癒が遅れてしまう原因となります。患部に触れること、歯ブラシを当てることを避けるべきなのも、同様にドライソケットの防止が狙いです。
編集部まとめ
全身麻酔下の親知らず抜歯には、費用がかかるなどのデメリットがあります。全身麻酔そのものがリスク含みであることも、無視できません。
しかし、歯科医での治療に恐怖心を持つ人は少なくありません。親知らず抜歯が必要だとわかっていても、恐怖心が大きすぎて施術ができない人もいます。
恐怖心が極めて大きな患者さんにとって、全身麻酔下の親知らず抜歯は大きなメリットがあります。施術可能な医療機関が限られるため、かかりつけの歯科医と相談のうえ実際に行うかどうかを決めることがおすすめです。
参考文献