普段は気にならない親知らずでも、ある日突然痛み出す可能性はゼロではありません。また、親知らずによって歯並びや噛み合せに違和感を抱くこともあります。
そのようなとき、歯科医院で親知らずの抜歯を検討するでしょう。ただ、親知らずの抜歯の費用はどれくらいになるのでしょうか。
親知らずは真っ直ぐ生えている場合や横に生えている場合もあれば、顎骨のなかに完全に埋まっている場合もあります。
親知らずの抜歯は生え方によって費用が変わり、ケースによっては保険適用外となるでしょう。
本記事では親知らずの費用を紹介します。
また、抜歯するべき親知らずの基準・抜歯後の痛み・親知らずから罹患しやすい疾患も解説するので、参考にしていただければ幸いです。
親知らずの抜歯費用はいくら?
まず、親知らずはほかの歯のように真っ直ぐに生えているとは限りません。
真っ直ぐに生えていることもあれば、真横に生えていることも、顎の骨のなかに埋まっていることもあるのです。
どのような生え方をしているかは歯科医院で明らかになり、生え方によって抜歯の費用が変わります。
また、即日で抜歯するか否かでも費用に若干の差が生じます。ここからは、親知らずの抜歯費用をケース別で紹介していきましょう。
真っ直ぐ生えている親知らず
親知らずには、智歯(ちし)や第三大臼歯という正式名称があり、そのなかでも真っ直ぐに生えているものは、抜歯も困難ではない状態です。
真っ直ぐに生えている親知らずの抜歯は、普通抜歯と呼ばれ、歯科医院によって費用は異なり、保険適用で1,000円〜2,000円が相場となります。
ただ、1,000円〜2,000円はあくまでも抜歯のみにかかる費用です。抜歯前の検査・抜歯後の抜糸にも費用が発生するので注意しましょう。
横向き・骨のなかに埋まっている親知らず
親知らずが真っ直ぐに生えていない場合、以下のケースが考えられます。
- 横向きに生えている(水平埋伏歯)
- 顎の骨のなかに完全に埋まっている(骨性完全埋伏歯)
いずれも、真っ直ぐに生えている状態と比べれば抜歯が難しい状態です。費用も普通抜歯よりも高くなり、保険適用で2,000円〜5,000円が相場となります。
水平埋伏歯の場合はまず、歯茎を切開します。そこから歯と骨を少しずつ削る抜歯方法が一般的です。
親知らずが骨のなかに埋まっている骨性完全埋伏歯も、水平埋伏歯と同様の抜歯方法を行います。
また、受診した歯科医院が水平埋伏歯・骨性完全埋伏歯の抜歯を取り扱っていない場合もあるでしょう。その場合は歯科医師が別の歯科医院を紹介し、日をあらためて検査を受けることになります。
即日抜歯
歯科医院を受診して親知らずが認められた場合、その日のうちに抜歯を希望される患者さんもいます。
即日抜歯が可能でも特別料金が発生する訳ではありません。ただ、検査をしてからの抜歯となるので、親知らずの状態によっては費用が変わります。
親知らずが横向きに生えている状態や顎の骨のなかに完全に埋まっている状態だとすれば、抜歯のみにかかる費用の相場は保険適用で5,000円程となるでしょう。
抜歯費用に加えて検査費用がかかり、後日行う抜糸にも費用がかかるので、その点を留意していただければ幸いです。
親知らずの抜歯のための検査と抜歯にかかる費用
先の項目では親知らずの抜歯のみにかかる費用を紹介しましたが、実際に親知らずを抜歯する際には検査・抜歯の抜糸費用がかかることもあります。
親知らずが真っ直ぐ生えている場合は抜歯以外の費用も安くなりますが、横向き・骨のなかに埋まっている親知らずの場合は費用が高くなるのです。
ここからは親知らずの抜歯のための検査・抜歯に必要な費用を、ケース別に紹介していきましょう。
まず、親知らずの検査は1,000円〜8,000円が相場となっています。
抜歯後の抜糸は1,000円以下が相場です。
検査の場合のみ1,000円〜8,000円と幅があるのは、薬代・CT検査の有無があるからです。炎症や痛みがない場合、薬を出すことはありません。
また、CT検査を行った分だけ費用も高くなりますが、親知らずが真っ直ぐに生えている場合だと採用されることは少ないでしょう。
親知らずが横向きに生えていたり、骨のなかに埋没していたりすると、抜歯時に神経を傷つけないか確認するためにCT検査が行われるのです。
真っ直ぐに生えている親知らずを抜歯する場合の費用は保険適用で1,000円〜2,000円となります。
検査・抜歯の抜糸費用を含めると、費用総額は3,000円〜11,000円が相場です。
横向きに生えている親知らず・骨のなかに埋没している親知らずの抜歯費用は、保険適用で2,000円〜5,000円となります。
検査・抜歯後の抜糸費用を含めた総額は4,000円〜14,000円が相場となっています。
親知らずの抜歯で保険が適用されないケース
親知らずの抜歯の費用には基本的に保険が適用されますが、保険が適用されないケースがあるのも事実です。
保険適用外となる親知らずの抜歯は以下のようなケースとなります。
- 歯列矯正目的で抜歯する場合
- 親知らずを奥歯に移植する場合
- 静脈内鎮静法を使用する場合
- 普通抜歯が可能な親知らずにCT検査を行った場合
親知らずの抜歯を検討した際、上記のケースに当てはまるとしたら費用は保険適用外となります。
抜歯の治療は受けられるものの、費用は高めになるので注意が必要です。
ただし、親知らずの移植は保険適用で行われる場合もあります。矯正目的の場合も保険適用で行われるケースがありますが、小臼歯の便宜抜歯は保険適用外となることが多いでしょう。
歯列矯正目的で抜歯する場合
親知らずの抜歯の目的が審美性を重視した歯列矯正だった場合、保険は適用されません。自由診療扱いとなり、抜歯の費用は6,600円〜22,000円(税込)が相場となります。
横向きに生えている親知らずは歯列を乱しやすいこともあるので、歯列矯正の前に親知らずの抜歯を検討する患者さんもいるでしょう。
たしかに親知らずを抜歯すれば歯列矯正もスムーズになりますが、保険適用外の費用が発生するので注意が必要です。
親知らずを奥歯に移植する場合
歯の移植は自家歯牙移植と呼び、嚙み合わせで機能していない部分の歯を別の歯に移植する治療です。
自家歯牙移植では自身の親知らず以外の歯の移植は保険適用外となりますが、親知らずを移植させても保険適用とならないケースがあります。
まず、移植先の歯が完全に失われている場合は保険が適用されません。さらに移植予定の親知らずと、移植先の歯のサイズが合わなければ保険適用外となります。
また、親知らずを抜歯した日と同日中に移植をしない場合も保険が適用されません。
親知らずの抜歯を含めた自家歯牙移植の費用は、保険適用外の場合だと110,000円(税込)が相場となります。
静脈内鎮静法を使用する場合
親知らずで悩んでいても歯科恐怖症を抱えている人や、口腔内に入った医療器具に対して嘔吐反射をしてしまう人もいます。
そのような患者さんの場合、通常どおりに親知らずを抜歯するのが困難となる可能性は高いでしょう。
歯科恐怖症を抱えている、または嘔吐反射のおそれがある患者さんには静脈内鎮静法を提案するケースもあります。これは点滴で麻酔薬を投与し、患者さんが眠っている間に抜歯を終える治療方法です。
静脈鎮静法を用いた親知らずの抜歯は患者さんによってはスムーズな治療となりますが、保険適用外となります。1回あたりの費用は50,000円~77,000円(税込)が相場です。
普通抜歯が可能な親知らずにCT検査を行った場合
親知らずが横向きに生えていたり、骨のなかに埋没していたりすると抜歯の際に神経を傷つけてしまう可能性があります。そのため、事前に保険適用のCT検査を行うのが通例です。
親知らずが真っ直ぐに生えている場合は普通抜歯が採用されますが、神経を傷つけるおそれもないため、基本的にCT検査は行われません。
ただ、患者さんによっては親知らずが真っ直ぐに生えている場合でもCT検査を希望されます。その場合はCT検査を行いますが、費用には保険適用外のCT検査費が含まれるのです。
CT検査の費用は保険適用外の場合、5,000円(税込)が相場となっています。
親知らずを抜歯したほうがよい判断基準
親知らずは、抜歯しなければならない歯ではありません。ただし、以下の場合は抜歯が推奨されます。
- 痛みや腫れを繰り返している
- 歯並びに悪影響が出ている
- 手前の歯の根を溶かしている
- 口が開けにくくなっている
ここからは、上記した親知らずの抜歯の基準を紹介します。
もし心当たりがある場合は、なるべく早めに歯科医院を受診するように心がけてください。
痛みや腫れを繰り返している
歯科医院の検診で親知らずが確認でき、さらに痛みや腫れを繰り返している場合は抜歯が必要だと判断します。
患者さんによっては、数日で痛みや腫れが引くケースもあるでしょう。しかし、放置しておくと親知らずが歯全体に悪影響を及ぼす可能性もあります。
痛みや腫れがひどいようであれば、抜歯前に抗生物質を処方します。
歯並びに悪影響が出ている
親知らずが横向きや斜めに生えている場合は、歯並びにも悪影響を及ぼす可能性があります。これは親知らずが隣の歯にぶつかり、押してしまっているからです。
歯並びが悪いと噛み合わせも悪くなり、歯間に食べかすがたまりやすくなります。そうなるとむし歯・歯周病のリスクも高まるでしょう。
親知らずがむし歯・歯周病の原因となると判断できた場合、歯科医師は患者さんに抜歯を推奨します。
手前の歯の根を溶かしている
親知らずが真っ直ぐに生えていない場合、手前の歯の根を溶かしてしまうケースもあります。
歯磨きの際に、真っ直ぐに生えていない親知らずを磨くのは困難です。これによって清掃不良を引き起こし、細菌が増殖します。
細菌が増殖すれば炎症が生じ、さらに炎症は親知らず周辺にまで広がるのです。最終的には破歯細胞という歯の根を溶かす細胞が、手前の歯まで溶かしてしまいます。
普段は気にならない親知らずでも、気付いたときには周囲の歯への悪影響が進行しているケースもあるので注意が必要です。
親知らずをなるべく早めに抜歯できるよう、歯科医院で定期的に検診を受けましょう。
口が開けにくくなっている
親知らずが横に生えている、もしくは斜めに生えていると歯磨きが十分に行えない可能性があります。その場合にはむし歯以外にも、歯茎周辺に炎症が生じるおそれもあるでしょう。
歯茎に起こった炎症が口の筋肉にまで広がると、腫れによって口を開けづらくなるかもしれません。腫れがひどくなると口が開かなくなることもあるので、日常生活を送るのが困難になるのです。
親知らず周辺の歯茎が炎症を起こしている場合は、抜歯を検討しましょう。
親知らず抜歯後の痛みはいつまで続く?
抜歯したい親知らずがあるものの、抜歯後の痛みを考えたら躊躇してしまうかもしれません。
親知らずの抜歯後の痛みは個人差があり、痛みをまったく感じない人もいます。痛みを感じる場合は、長くても10日間程で痛みが治まるのが一般的です。
ただ、抜歯後の穴に血がたまらないことで骨が露出し続け、痛みが続く場合もあります。この状態をドライソケットといい、長い場合は数ヵ月間、痛みを感じるでしょう。
ドライソケット状態となる確率は数%ですが、以下のような物事が原因となります。
- 過度なうがい
- 抜歯箇所への過度な歯磨き
- 飲酒・喫煙
親知らずの抜歯後はなるべく飲酒と喫煙を控え、適切なうがいと歯磨きを心がけましょう。
親知らずから罹患しやすい疾患
悩みの種となりがちな親知らずですが、親知らずから罹患しやすい疾患も存在するのはご存知でしょうか。
親知らずを放置すれば、口腔内のトラブルがさらに広がってしまうかもしれません。生え方によってリスクは変わるものの、親知らずから生じる疾患もしっかりと確認しておきましょう。
智歯周囲炎
智歯周囲炎は、親知らずから罹患する代表的な疾患です。
親知らずが正常に生えていない場合、隣接する歯との間に隙間が生じます。その隙間の部分は歯磨きで清潔しづらいので、細菌が繁殖しやすい環境となるでしょう。
繁殖した細菌が親知らずの周辺で炎症を起こし、智歯周囲炎となるのです。症状として、歯肉の腫れ・痛み・膿の発生が段階的に生じます。
炎症がさらに広まれば、頬部蜂窩織炎(きょうぶほうかしきえん)となります。腫れが頸部へと広まり、そこに膿もたまってしまうので注意が必要です。
むし歯・歯周病
親知らずが正常に生えていなければ歯磨きもしづらくなるので、むし歯や歯周病のリスクも高まります。
特に親知らずが斜めに生えて、歯肉に半分埋まっている場合は、何度治療をしても再発するかもしれません。
親知らずは、生え方・ほかの疾患のリスクによってはなるべく早めの抜歯をすすめられる場合もあるでしょう。もちろん抜歯をしなくてもよいケースもあるので、歯科医師の判断を参考にしていただければ幸いです。
まとめ
現代人の顎や歯は退化傾向にあり、一番奥に生える親知らずのスペースが残っていない人は多いでしょう。
生まれつき親知らずが生えない人もいますが、知らず知らずのうちに生えている人もいるでしょう。
親知らずが生えても、生える向きは人それぞれです。まったく問題がない人もいれば、さまざまな悩みを抱える人もいるでしょう。
親知らずは、生え方によっては必ずしも抜くべき歯ではありません。ただ、正常な生え方でなければ、なるべく早く抜歯したほうがよいケースもあります。
費用については本記事を参考にしていただければ幸いです。そして定期的な歯科検診を心がけ、親知らずとの向き合い方を見極めていきましょう。
参考文献