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顎関節症

顎関節症の手術が必要なケースは?顎関節症の原因や症状、手術方法を解説

顎関節症の手術が必要なケースは?顎関節症の原因や症状、手術方法を解説

顎関節症は、顎の動きを制御する関節と筋肉に影響を及ぼし、噛む、話す、あくびをするなどの日常的な動作に支障をきたすことがあります。手術は顎関節症の治療法の一つですが、その適用は患者さんの状態や症状の重さによって異なります。
本記事では、顎関節症の手術について以下の点を中心にご紹介します!

  • 顎関節症で手術が必要なケース
  • 顎関節症の手術を受けられる診療科
  • 顎関節症の手術方法

本記事では、顎関節症の手術に焦点を当て、顎関節症の基本知識や、手術の種類について詳しく解説します。
ぜひ最後までお読みください。

顎関節症とは

顎関節症とは

そもそも顎関節症とはどのような状態のことをいうのでしょうか。ここでは、顎関節症の原因、症状、分類について詳しく解説します。

顎関節症の原因

顎関節症の原因はひとつではないことから「多因子病因説」と呼ばれており、多様で複雑です。噛み合わせの影響をはじめ、日常の癖や行動が原因で、顎関節や周囲の筋肉に負担をかけ、痛みや動きの制限を引き起こしている可能性があります。

  • 噛み合わせの悪さ
    不正な噛み合わせは顎の位置に影響を与え、顎関節に過剰なストレスをかけることがあります。これにより、顎関節症の症状が引き起こされることがあります。
  • TCH(Tooth contacting habit)
    日中、食事以外の時間に無意識に上下の歯を接触させる習慣のことで、8割以上の顎関節症患者さんに見られる行動といわれています。
  • 歯ぎしり・食いしばり
    無意識のうちに行われる歯ぎしりや食いしばりは、睡眠中に顎関節や咀嚼筋に強い力が加わり、これが顎関節症を誘発する要因となることがあります。また、不自然な姿勢やストレスが持続することによって、顎の筋肉が過度に緊張し、症状を悪化させる場合もあります。
  • ストレス
    精神的なストレスも顎関節症の一因とされており、ストレスが原因で無意識に顎を緊張させてしまうことがあります。
  • そのほか
    外傷や遺伝的要因、あるいは口腔内の状態が悪化することも、顎関節症の発症に寄与することが示されています。

顎関節症の予防や初期対応としては、無意識の食いしばりや歯ぎしりの癖を改善すること、ストレス管理、適切な口内環境の維持などが重要です。また、症状が見られる場合は早めに歯科医や専門の医療機関に相談することが推奨されています。

顎関節症の症状

顎関節症の症状は初期から進行するにつれて多様化し、さまざまな不快感を引き起こします。次のような特徴が見られます。

    • 開口時の痛みと制限
      口を開ける際に痛みを感じることがあり、なかでも大きく口を開ける動作が困難になることがあります。これは「開口障害」とも呼ばれ、顎の動きが制限されている状態を指し、食事の際に一口の量を少なくしなければ食べ物を食べられないといった弊害が起こることもあります。
    • 顎関節の雑音
      口を開け閉めするときに「カクン」とか「ガリガリ」という顎関節の雑音(顎関節音)がすることがあります。これは関節円板の位置異常や関節自体の構造変化によるもので、顎が正常に動かないことが原因で生じます。
    • 筋肉の痛みと緊張
      顎を支える筋肉、主に咀嚼筋に過剰な緊張が生じることで、顎関節や頬、こめかみといった顎周辺の痛み(顎関節痛)が起こることがあります。食事の際に顎がすぐに疲れてしまうという症状が出る場合もあります。
    • そのほかの症状
      耳鳴りや耳の痛み、めまいなどの顎付近にある耳関連症状の出現だけでなく、頭痛や視力の問題、味覚の異常、肩や首のコリ、精神的不調といった全身症状を呈することもあります。

これらの症状が現れた場合は、適切な診断と治療が必要です。

顎関節症の分類

顎関節症は、その発症原因によって大きく5つのタイプに分類されます。

  • 咀嚼筋障害(I型)
    筋肉の異常が原因のもので、主に咬筋や側頭筋の「使いすぎ」が原因となる「筋肉痛」が特徴です。こめかみの痛みから頭痛を訴える患者さんもいます。この型の患者さんは、咀嚼筋の過剰な緊張や疲労が主な症状で、開口障害や関節雑音は伴わないことが多いのが特徴です。筋マッサージや顎の安静、ストレス管理などで治療されます。
  • 顎関節痛障害(II型)
    関節靭帯の異常が原因で、いわば「顎のねんざ」に相当します。無理に口を開けすぎたり、固いものを食べたり、歯ぎしりや食いしばりが原因となります。顎関節は耳の穴の直前にあるため、「耳の痛み」を伴うこともあります。この型の患者さんは、関節の可動域制限や関節雑音、関節痛などの症状が特徴的です。
  • 顎関節円板障害(III型)
    顎関節の間に位置するクッションの役割を果たす関節円板が正常な位置からずれることによって生じます。関節円板が変形し、関節内で癒着して可動性を失ったことによる円板のずれが原因で、「カクカク」「ポキポキ」といった音が生じることが特徴です。関節円板に穿孔が生じ、それに伴う骨軟骨の退行性変化が見られる場合も該当します。この型の患者さんは、開口障害や関節雑音、関節痛などの症状が見られます。保存的治療では症状の改善が得られない場合、手術的治療が必要となることがあります。
  • 変形性顎関節症(IV型)
    骨の異常が原因で、変形性関節症のように関節の変形が高度な症例が該当します。この型の患者さんは、関節の可動域制限や関節痛、咀嚼筋の痛みなどの症状が特徴的です。レントゲンで確認される骨の変形が診断の鍵となります。保存的治療では十分な改善が得られない難治性の症例に対して、関節形成術や人工関節置換術などの手術的介入が必要になることがあります。
  • 結合組織障害(V型)
    上記のどのタイプにも当てはまらない症例で、原因が特定できないものです。この型の患者さんは、顎関節症の症状を呈するものの、明確な原因が特定できない場合が多いのが特徴です。顎関節を取り巻く結合組織に炎症や障害が生じるタイプも含まれます。このタイプはほかのタイプと併発することがあり、全身性の結合組織病と関連することもあります。

顎関節症の正確な診断と適切な治療計画を立てるためには、これらの分類を理解し、症状の原因を特定することが重要となります​。

顎関節症で手術が必要なケース

顎関節症で手術が必要なケース

顎関節症の大多数の患者さんは、保存的な治療で症状の改善が見られます。しかし、以下のような一部の症例では手術的治療が必要となる場合があります。

  • 長期間の治療に反応がない場合
    長期にわたる薬物療法、理学療法、マウスピース療法などが効果を示さず、痛みや機能障害が持続する場合に、手術が選択されることがあります。
  • 構造的な障害や重度の変形がある場合
    MRIやCTなどの画像診断で、顎関節の重度の変形や関節円板の広範囲な損傷や変形が著しい場合に手術が検討されます。関節円板が変形したり、関節内で癒着して可動性を失った場合、あるいは関節円板に穿孔が生じ、それに伴う骨軟骨の退行性変化が見られる場合などが該当します。このような構造的な異常が認められ、保存的治療では症状の改善が得られない場合は、手術による治療が検討されます。
  • 機能障害が顕著な場合
    口が十分に開かない、顎の動きが著しく制限されるなど、日常生活に支障を来すほどの機能障害がある場合にも、手術が検討されます。
  • 保存的治療の限界
    物理療法や薬物療法での改善が見られず、生活の質が低下している場合に手術が検討されます。例えば、変形性関節症のように関節の変形が高度で、保存的治療では十分な改善が得られない難治性の症例も手術の適応となります。このような場合、関節形成術や人工関節置換術などの手術的介入が必要になることがあります。

これらの状況では、顎関節の構造を修正するために外科的介入が考慮されます。手術が必要となるのは全体の20%程度と少数派です。大半の患者さんは薬物療法やスプリント治療、理学療法などの保存的治療で症状の改善が得られます。
手術は最終的な選択肢であり、まずは保存的治療を試みることが重要です。手術は顎関節の機能を回復させるための最後の手段として選択されることが多く、患者さんの症状や全体的な健康状態を考慮して慎重に判断されます。
また、手術を行った後も、不適切な生活習慣や咬合状態の悪化などが続く場合、症状の再発リスクがあるため、手術後のケアも重要です。

顎関節症の手術を受けられる診療科

顎関節症の手術を受けられる診療科

顎関節症は歯科や口腔外科で診察および治療が行われます。これらの診療科では、顎関節の痛みや機能障害に対する専門的な診断と治療が期待されます。

歯科では、マウスピースの装着や薬物療法、理学療法など、軽度な症状の治療を行います。一方、口腔外科では、より複雑で重度の顎関節症のケースに対応し、必要に応じて手術などの侵襲的な治療を提供することがあります。
また、顎関節症の症状が耳の近くにあるため、耳鼻咽喉科を受診することもありますが、主治医は通常、歯科や口腔外科の専門の医師です。

重度の顎関節症で手術が必要な場合は、口腔外科が主に関わります。こうした診療科では、顎関節に対する精密な評価と治療計画が立てられ、新しい診断技術を駆使して個々の患者さんに合った治療を行います。したがって、顎関節症で治療を検討している場合は、歯科や口腔外科を受診することが推奨されます。

顎関節症の手術方法(外科治療)

顎関節症の手術方法(外科治療)

顎関節症の手術が必要となった場合、手術方法にはどのようなものがあるか知っておくことは重要です。それぞれの手術方法について以下に詳しく解説します。

顎関節鏡視下手術

顎関節鏡視下手術は、顎関節症の治療に使用される侵襲性の低い手術です。関節鏡と呼ばれる小型のカメラを顎関節内に挿入して内部を直接観察し、関節の状態を詳しく診断します。
手術では局部麻酔を使用し、関節の炎症除去、関節円板の調整や修復を行います。
顎の動きを改善し、痛みを軽減させる目的で行われ、正確な治療が期待できるため、多くの患者さんにとって望みのある選択肢とされています。

関節腔注射

顎関節症の治療における関節腔注射は、痛みの管理と炎症の軽減を目的として行われます。薬剤を直接顎関節内に注入し、局部的な治療効果が期待されています。使用される薬剤にはステロイドやヒアルロン酸があり、これにより関節の潤滑性が改善され、動きがスムーズになるように働きかけます。
関節の動きに伴う痛みが強い場合や、顎を動かす際に不快な感覚が伴う患者さんに推奨されます。
簡単に行えるかつ即効性がありますが、効果の持続期間は個人差があるため、症状に応じた繰り返しの治療が必要になることもあります。

関節腔洗浄療法

関節腔洗浄療法は顎関節症の手術方法の一つで、関節内の痛みや機能障害に対して効果が期待できます。顎関節内に洗浄のための液体を注入し、炎症や痛みの原因となる物質を洗い出します。
手術は局部麻酔下で行われ、小さな針を使用して関節腔内にアクセスします。関節内の遊離体や破片を除去し、関節の潤滑を改善して顎の動きをスムーズにすることを目指します。
関節腔洗浄療法は、ほかの侵襲的な手術よりも回復が速く、手術後の合併症の可能性も低いため、この手術方法が適応される症例には改善が見込まれる治療選択とされています。

開放性関節手術

開放性関節手術は、顎関節症に対する外科的治療法の一つで、主に重度の症状がある場合やほかの治療法で改善が見られない場合に適用されます。
顎関節に直接アクセスし、病的な組織を除去し、関節の構造を修正することを目的としています。
特に、関節円板の損傷が著しい場合や、関節の重度の変形が見られる場合に行われることが多いようです。
手術は全身麻酔下で行われ、切開を伴うため、回復期間も長くなり得ますが、適切なケースでは顎の機能の改善が期待できます。

まとめ

まとめ

ここまで顎関節症の手術についてお伝えしてきました。顎関節症の手術の要点をまとめると以下の通りです。

  • 長期間の顎関節症治療に反応がない場合、顎関節の重度の変形や関節円板の広範囲な損傷や変形が著しい場合、口が十分に開かない・顎の動きが著しく制限されるなど日常生活に支障を来すほどの機能障害がある場合、変形性関節症など存的治療では十分な改善が得られない難治例では手術が必要になる場合がある
  • 顎関節症は歯科や口腔外科で診察および治療が行われ、手術は口腔外科で受けられる
  • 顎関節症の手術方法には顎関節鏡視下手術、関節腔注射、関節腔洗浄療法、開放性関節手術などがあり、患者さんの状態や重症度によって選択される

顎関節症の手術は、患者さんの症状や疾患の進行度に応じて検討される重要な治療法です。手術は痛みの軽減や顎の機能改善を目指し、関節の異常な動きや組織の変化を修復します。手術後の適切なリハビリテーションとフォローアップが成功への鍵です。
患者さんは医師との相談を通じて、自身に合った治療方法を選択しましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事の監修歯科医師
若菜 康弘医師(若菜歯科医院院長)

若菜 康弘医師(若菜歯科医院院長)

鶴見大学歯学部大学院卒業 / 現在は若菜歯科医院の院長

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