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顎関節症

顎関節症を放置すると危険な理由|診療科・治療法も解説

顎関節症 放置

顎関節症は、頭蓋骨と下顎の骨をつなぐ顎関節と顎を動かす咀嚼筋の病気です。顎が痛い・口を開けづらい・口を開けると音がするなどの症状がよく見られます。

症状には個人差があり、何もしなくても自然に治る場合もあります。しかし放置すると慢性化して治療が困難になるケースもあるため、注意が必要です。

この記事では、顎関節症を放置すると危険な理由・症状・原因・診療科・治療法について解説します。気になる症状があれば、歯科医院で相談しましょう。

顎関節症を放置すると危険な理由や症状

リビングで座りながら歯が痛くて頬に手を当てる主婦

顎関節症になるとどのような症状が出るのですか?
顎関節症の主な症状は、顎の痛み・開口障害・顎関節雑音の3つです。
痛みの症状は、耳の穴の前にある顎関節で起きる場合と、顎・頬・こめかみにある咀嚼筋で起きる場合があります。口を開けると痛みを感じる・食べ物を噛むと痛いといった症状がよく見られます。
2つ目の開口障害とは、痛くて口を開けられない・口を大きく開けにくいといった症状です。個人差はありますが、開口量が40ミリ未満の場合は開口障害だと定義されています。目安として、人差し指から薬指までの3本の指を縦にして口の中に入れられなければ、開口障害が起こっていると考えてよいでしょう。
3つ目の関節雑音とは、口を開けたり閉じたりする時に「カクン」「ジャリジャリ」のような雑音がするといった症状です。
また顎以外にも頭痛・肩こり・耳や鼻の異常(痛み・耳鳴り・難聴・鼻詰まり)目の疲れなど、全身にさまざまな症状が起こることもあります。
顎関節症の症例分類について教えてください。
顎関節症は、日本顎関節学会によって4つのタイプに分類されています。

  • 咀嚼筋痛障害(I型)
  • 顎関節痛障害(II型)
  • 顎関節円板障害(III型)
    a:復位性関節円板前方転位
    b:非復位性関節円板前方転位
  • 変形性顎関節症(IV型)

I型の咀嚼筋痛障害は、咀嚼筋(ものを噛む時に使う下顎の筋肉)に痛みが生じるタイプの顎関節症です。口を開け閉めしたり食事をしたりする場合に咀嚼筋がある頬やこめかみが痛みますが、顎関節には異常がありません。
II型の顎関節痛障害は、顎関節の関節包や靭帯などの損傷によって起こる顎関節症です。顎関節が捻挫のような状態になり、顎を動かすと耳の周りが痛みます。
III型の顎関節円板障害は、顎関節症のなかで最も多いタイプで、顎関節にある関節円板の位置のずれや変形が原因になります。
関節円板は上下の骨の間でクッションになる役割があり、スムーズに顎を動かすためには欠かせない存在です。
この関節円板が少し前方にずれると、口を開ける際に下顎頭(下顎の関節)と関節円板が引っかかり、さらに口を開くと引っかかりが外れて「カクン」といった音(関節雑音)が出ます。この場合は口を開くと一時的に関節円板が正常な位置に戻るため、復位性関節円板前方転位(a)と呼ばれます。
これが進行すると関節円板は前にずれたまま変形し、口を開けても正常な位置に戻りません。この状態が非復位性関節円板前方転位(b)です。
下顎頭が大きく変形した関節円板に引っかかって外れず、口を大きく開けにくい開口障害が起こります。bの状態になると関節雑音はありませんが、口を開ける時に痛みが発生します。
IV型の変形性顎関節症は、顎関節の骨が変形して起こる顎関節症です。関節円板がずれた状態が長引くことで変形性顎関節症を発症して、ジャリジャリといった関節雑音・口を開けづらい・顎関節の痛みといった症状がみられます。

原因について教えてください。
はっきりとした原因はわかっていません。
近年では原因は一つではなく、複数のリスク要因が蓄積してそれぞれの限界を超えた場合に、顎関節症を発症すると考えられています。リスク要因には、以下のようにさまざまなものが挙げられます。

  • 習慣:ブラキシズム(日中の食いしばりや睡眠中の歯ぎしり)・上下の歯を接触させる癖・うつ伏せに寝る癖・片側だけでものを噛む癖・姿勢の悪さなど
  • 行動要因:硬いものを噛む・楽器を演奏する(特に管楽器)・スキューバダイビングやラグビーなど一部のスポーツ・デスクワーク・パソコンやスマートフォンの操作・編み物・読書など
  • 環境要因:多忙な仕事・人間関係の緊張など
  • 精神的要因:ストレスによる不安・気分の落ち込みなど
  • 悪い噛み合わせ
  • 顎関節や筋肉の弱さ
  • 外傷
顎関節症を放置すると危険な理由を教えてください。
顎関節症の症状は口を開けると音が鳴る・口を開けづらい・顎の痛みの3つが代表的です。症状が顎関節の雑音だけならば、特に治療の必要はないとされています。
口の開けづらさや痛みも、症状が軽ければ何もしなくても自然に治まることもあります。しかしこれらの症状が1週間以上続く時は注意が必要です。
口が少ししか開けられない状態や慢性的な痛みを放置すると、症状が進行して治療が難しくなる場合があります。また頭痛・肩こり・手足のしびれなど顎以外にも症状が出ることもあるので、痛みや開口障害があれば病院の受診をおすすめします。

顎関節症の診療科や治療法

歯医者の看板

顎関節症が疑われる場合どの診療科を受診すればよいですか?
顎関節症になると耳が痛むこともあるので耳鼻咽喉科を受診するか迷う方もいますが、顎関節症の治療は口腔外科で行うのが一般的です。
口腔外科とは口の中だけではなく顎や顔まわりに生じた病気や怪我を治療する診療科で、抜歯やインプラント治療などの外科処置も行います。顎の痛み・顎を動かすと音が鳴るなど顎関節症が疑われるような症状があれば、口腔外科を標榜する歯科医院を受診してください。
なかには顎関節症の治療を行っていない歯科医院もあるので、あらかじめ確認しておくと安心です。
治療法を教えてください。
顎関節症の治療は、歯を削るような不可逆的な方法は控えることが原則とされています。スプリント(マウスピース)療法・理学療法・薬物療法・認知行動療法などを組み合わせて治療を行います。
スプリント療法は、スプリントと呼ばれるマウスピース型の装置を、就寝中に装着する治療法です。歯ぎしりや食いしばりによる顎関節への負担の軽減に効果的です。
理学療法は物理療法と運動療法に分かれ、物理療法には低周波療法・レーザー照射・筋肉のマッサージ・ホットパックなどで顎周りを温める方法などがあります。
運動療法で行うのは、顎関節のストレッチや開口訓練などです。理学療法には歯科医師など医療者が行うものと、指導を受けて患者さんが自分で行うものの2種類があります。
薬物療法では、痛みを和らげるために鎮痛薬が処方されます。
認知行動療法では、TCH(無意識に上下の歯を接触させ続ける癖)や歯ぎしりなど顎関節症のリスク要因となる習慣を認知して修正する心理療法です。
また手術ではありませんが外科的治療としてパンピング・マニピュレーションや関節腔洗浄療法を行う場合もあります。

  • パンピング・マニピュレーション:関節円板のずれがひどい場合に、関節腔へ生理食塩水や局所麻酔剤でパンピング(注入と吸引を繰り返す)する治療法
  • 関節腔洗浄療法:関節腔内に2本の注射針を刺して、生理食塩水で洗浄する治療法
手術を行うこともありますか?
上記の治療法でほとんどの患者さんは症状が改善しますが、まれに治療が難しいケースもあります。
顎関節内の関節円板が癒着した場合は、癒着を剥がす外科手術を行います。耳の前を小さく切開して、関節鏡を挿入して手術する関節鏡下手術が主流です。
ほかにも変形性顎関節症・顎関節強直症・顎関節の腫瘍などの治療に手術が必要な場合があります。

顎関節症の予防法や注意点

鏡で口内を確認している若い女性

顎関節症かどうか自分で確認する方法はありますか?
以下のチェックポイントに該当する方は、顎関節症を発症しているかもしれません。これらの状態が続く場合は、早めに歯科医院で相談してください。

  • 口を大きく開けても、縦にした人差し指から中指までの3本が入らない
  • 口を開け閉めすると、耳の前で音が鳴る
  • 噛み合わせが変わったような気がする
  • 口を開け閉めすると、耳の前や頬・こめかみに痛みがある
  • 顎を動かすと痛みや違和感がある
  • 食事をすると顎がだるくなりやすい
  • 口が開かない時がある
顎関節症の症状がある場合の日常生活での注意点を教えてください。
顎関節症の症状がある場合は、安静にして口を大きく開けたり顎をあまり動かさないようにしましょう。あくびをする時も口を大きく開けないように注意して、ガムを噛むのも避けてください。
食事はなるべく噛む必要のないやわらかいものにしましょう。
顎関節症を予防する方法を教えてください。
顎関節症には、普段の生活習慣が関係していることが多いです。
歯ぎしりや食いしばりは顎関節や筋肉に負担をかけるので、特に顎関節症のI型(咀嚼筋痛障害)とII型(顎関節痛障害)の原因となります。意識して顔の筋肉を緩めて、ストレスをためないようにリラックスして過ごしましょう。
頬杖をついたり、横向きやうつ伏せで眠るのも顎関節症にはよくありません。猫背にならないように、姿勢にも注意しましょう。

編集部まとめ

歯医者と男性患者

顎関節症は特に珍しい病気ではありません。適切な治療を受ければ、ほとんどの方は日常生活が問題なく遅れる程度に改善します。

放置しても命の危険がある訳ではありませんが、なかには重症で外科手術を行う場合もあります。

顎の痛みや口の開けづらさなどは、顎関節症以外の病気でも見られる症状です。ほかの病気と鑑別するためにも、早めに歯科医院を受診することをおすすめします。

参考文献

この記事の監修歯科医師
熊谷 靖司歯科医師(熊谷歯科医院 院長)

熊谷 靖司歯科医師(熊谷歯科医院 院長)

1994年 鶴見大学歯学部 卒業 1994年 東京医科歯科大学歯学部 歯科補綴学第一講座入学(専攻生) 1996年 東京医科歯科大学歯学部歯科 歯科補綴学第一講座入学(医局員) 1997年4月 若林歯科医院(渋谷区) 就職 2000年9月 若林歯科医院 退職 2000年10月 熊谷歯科医院(中野区) 開業

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