顎関節症は、顎の関節や顎を動かす筋肉に異常が起こる病気です。主な症状は、顎の痛みや口の開けにくさなどの顎の周囲の症状が挙げられます。
また、顎の周囲だけではなく、頭痛も引き起こす可能性があります。なぜ、顎関節症で頭痛が起こるのでしょうか。
そこで今回の記事では、顎関節症で頭痛が起こる原因を詳しく解説します。また、顎関節症の種類・症状・診断方法・治療法も紹介するので、気になる方はぜひ参考にしてください。
顎関節症で頭痛が起こる原因は?
顎関節症で頭痛が起こるのは、顎周囲の筋肉が痛むことが原因といわれています。
顎関節症は、噛み合わせの悪さや顎に負担がかかる習慣などによって顎の関節や顎を動かす筋肉に異常が起こる病気です。
顎を動かす筋肉のなかには、頭の近くまでつながっている筋肉もあります。その筋肉が痛むことで、頭痛のような痛みを感じます。
また、食いしばりや歯ぎしりによって起こる顎関節症でも頭痛が起こるようです。
食いしばりは睡眠中や無意識に歯を噛み締めてしまう行為、歯ぎしりは無意識のうちに上下の歯を擦り合わせたり強く噛み合わせたりする行為です。
いずれも顎周囲の筋肉に負担がかかるため、筋肉が緊張し筋肉収縮に異常が起こることで頭痛が生じます。
その他にも顎関節症により下顎がずれてしまい、首や頭の筋肉が緊張し頭痛が生じることもあります。
なお、筋肉の緊張によって起こる頭痛を緊張型頭痛といい、一般的に緊張型頭痛は生涯のうちに経験する場合が少なくありません。
顎関節症の頭痛以外の症状
主な顎関節症の症状は、顎の痛みや開口障害などのように顎の周囲に関する症状です。また、肩こりや嚥下困難などの全身症状も起こる可能性があります。
ここからは、顎関節症の症状を詳しく解説します。
顎関節症の代表的な症状
顎関節症になると、顎関節やその周囲が痛んだり動きにくくなったりします。顎関節症の代表的な症状は、以下の4つです。
- 顎関節の痛み
- 開口障害
- 関節雑音
- 咀嚼障害
顎関節症になると顎関節を構成する組織に炎症が生じ、口を開けたり閉めたりする際に顎関節に痛みを感じます。また、顎関節だけではなく、顎を構成する筋肉にも痛みを感じることがあるようです。
顎関節の痛みが生じることで、顎が思いどおりに動かず開口障害となることがあります。通常、口の中に縦に指3本が入るくらい口を開けられる状態ですが、顎関節症になると指3本が入らなくなります。
ただし、開口障害は顎関節症によるものとは限りません。顎関節の骨折などによっても開口障害が生じることがあります。そのため、開口障害があるからといって安易に顎関節症と判断しない方がよいでしょう。
また、顎を動かした際に音が発生する関節雑音も顎関節症の症状の1つです。
噛んだり大きく口を開けたりする際に、カックン・ガリガリなどの音が発生する場合があります。このように関節雑音が生じるのは、関節円板が通常の位置からずれてしまうからです。
関節円板とは、顎関節に存在する下顎頭と下顎窩の間にある組織で、骨よりやわらかい線維がまとまったものです。顎が動く際にクッションのようなはたらきをするため、顎関節は滑らかに動きます。
しかし、関節円板は強い圧迫などにより前後にずれやすいため、前にずれてしまうと顎を動かした際にカックンなどの音が生じます。
また、関節円板は変形してしまう場合もあり、変形して骨がすれ合うことでグニュ・シャリシャリなどの音が出るようです。
さらに顎関節の痛みや開口障害によって、咀嚼障害を生じることもあります。顎関節症になると顎が思いどおりに動かないため、食べ物を噛みにくくなり十分な栄養が摂れなくなる可能性があるでしょう。
顎関節症が原因で生じる副症状
顎関節症は顎や口だけではなく、肩や背中など全身に影響を及ぼすといわれています。顎関節症が原因で生じる服症状には、以下のようなものが挙げられます。
- 肩こり・背中や首などをはじめとする全身の痛み
- 目まい・耳鳴り
- 目の疲れ・目の充血
- 鼻詰まり
- 歯の痛み・味覚異常
- 嚥下困難・呼吸困難・四肢の痺れ
顎関節症によって顎がずれてしまうと、頭の位置が変化し体に負担がかかります。特に首や肩の筋肉が緊張し、肩こりや首の痛みが生じます。
症状が進行すると、背中や腕に痛みが生じる線維筋痛症を発症する可能性があるため、注意が必要です。
顎のずれは頸椎や脊椎のバランスを崩し、自律神経に影響を及ぼし目まいが生じます。
また、顎が後ろにずれると喉に異物感を覚えることがあります。進行すると嚥下困難・呼吸困難・四肢の痺れなどを招く可能性もあるでしょう。
顎関節症の種類
顎関節症には以下の4つの種類があり、種類によって症状が異なります。
- 咀嚼筋痛障害(1型)
- 顎関節痛障害(2型)
- 顎関節円板障害(3型)
- 変形性顎関節症(4型)
ここからは、顎関節症の種類を詳しく解説します。
咀嚼筋痛障害(1型)
咀嚼筋痛障害(1型)は、咀嚼筋の痛みとそれによる機能障害が生じるタイプです。咀嚼筋とは咀嚼する際にはたらく筋肉のことを指します。
主に顎の使いすぎが原因で、筋肉痛が生じます。これにより、咀嚼時の痛み・咀嚼障害に悩まされることがあるでしょう。
顎関節痛障害(2型)
顎関節痛障害(2型)は、顎関節の痛みとそれによる機能障害が生じるタイプです。関節の炎症・口の開けすぎ・食いしばりなどによって引き起こされます。
また、顎関節は耳の穴の前にあるため、顎関節の痛みを耳の痛みと思う患者さんもいるようです。
顎関節円板障害(3型)
顎関節円板障害(3型)は、顎関節にある関節円板がずれたり変形したりすることで生じるタイプで、主な症状は関節雑音や開口障害です。
関節円板がずれると、顎を動かした際にコクなどの短い音が生じます。このように関節雑音のみが生じているケースは、一時的に関節円板がずれたり正常の位置に戻ったりします。そのため、すぐに治療が必要となることはありません。
しかし、症状が進行すると関節円板が完全にずれてしまい、正常の位置に戻ることがなくなります。そのため、下顎の動きが制限され開口障害が生じます。
変形性顎関節症(4型)
変形性顎関節症(4型)は、顎関節に強い負荷がかかり続けることで骨が変形してしまうタイプです。関節雑音・開口障害・顎関節の痛みの症状が現れます。
加齢によって発症するリスクが高まるため、中高年の方には注意が必要でしょう。
顎関節症の診断方法
ここまでは顎関節症の種類や症状を紹介しました。顎関節症の症状のなかには歯周病や咽頭炎などほかの疾患が関連している可能性があるため、正確な診断が重要です。
では、顎関節症を診断するためにはどのような方法が行われるのでしょうか。ここからは、顎関節症の診断方法を解説します。
患者さんへの聞き取り
顎関節症の診断では、患者さんへの聞き取りを行います。具体的には、症状がどのように始まりどのように変化したのかを聞きます。
口を大きく開け閉めしたときに顎の痛みがあると回答した場合は、顎関節症の可能性が高いでしょう。
顎の動き・痛みの検査
聞き取りした内容をもとに、症状のある部位や程度をより詳細に確認するために、咀嚼筋や顎などを触診します。
また、顎の動きや痛みの検査なども行います。主に実施される検査は、以下のとおりです。
- 開口量測定
- 下顎頭圧痛および関節頭運動状況診査
- 下顎マニピュレーション下顎頭滑走診査
- 咬筋圧痛診査
口がどのくらい開くのかを調べるために、開口量測定を行います。
また、下顎の痛みや顎関節の動きを調べるためには、下顎頭圧痛および関節頭運動状況診査・下顎マニピュレーション下顎頭滑走診査を行います。
さらに、頬あたりにある咬筋の痛みや咬筋の左右の大きさを調べる咬筋圧痛診査を行うことがあるようです。咬筋圧痛診査では片方の噛み癖の有無を調べることが可能です。
レントゲン検査
顎関節の位置や骨の異常などを確認するために、レントゲン検査を行います。レントゲン検査は、X線を使い画像を映し出す検査です。
レントゲン検査では、口を開け閉めの顎の状態を撮影し、顎の動きに異常がないか確認します。また、顎関節症以外の疾患を区別するために口周り全体も撮影するようです。
MRI検査
レントゲン検査ではわからない筋肉や軟部組織の状態を見るために、MRI検査を行います。MRI検査は、強い磁石と電磁波を使って体内の状態を断面像として映し出す検査です。
顎関節症の診断に行うMRI検査では、関節円板の位置や変形・筋肉の異常を確認します。
顎関節症の治療法
顎関節症の治療は、顎関節症の種類によって異なります。主な顎関節症の治療法は、以下の4つが挙げられます。
- スプリント(マウスピース)療法
- 理学療法(物理療法・運動療法)
- 薬物療法
- 手術
一般的に、上下の歯列に被せるプラスチックの装置であるスプリントを使用した治療を行います。スプリントは、無意識の歯ぎしりによる顎関節や筋肉への負担を軽減させるのに役立ちます。
スプリントにはいくつか種類があり、一般的に使用されるのはスタビライゼーションスプリントです。
スタビライゼーションスプリントは、顎関節症の症状を広く改善できます。特に薬物療法や理学療法の効果が見られない場合に使用するようです。
また、理学療法も顎関節症の治療法の1つです。理学療法には物理療法と運動療法があります。
物理療法とは、温熱・レーザー・電気などの物理的なもので治療を行う方法です。具体的には手指による筋肉マッサージ・蒸しタオルなどによる温罨法・レーザー照射などがあります。
一方で、運動療法とは治療や予防のために運動を活用する方法です。筋肉ストレッチ・下顎可動化訓練・筋力増強訓練などがあります。
下顎可動化訓練は、関節へ直接アプローチすることで顎関節の動きを改善し開口量を増加させる方法です。また、筋力増強訓練は筋肉を鍛えて耐久性を向上させるために行う方法です。
痛みが強くある場合は薬物療法を行います。顎関節症の薬物療法で用いられる薬は、消炎鎮痛薬・筋弛緩薬などです。
消炎鎮痛薬とは炎症が起こっている組織に作用し痛みを緩和する薬です。主に顎関節や咀嚼筋の痛みに使用されます。
消炎鎮痛薬として非ステロイド性抗炎症薬が使用されますが、腎障害や気管支喘息などの副作用があるため注意が必要です。
一方で筋弛緩薬とは、筋肉が緊張している状態に対して、筋肉の緊張を緩めて血流を促進する薬です。
スプリント療法や理学療法などの治療を行っても症状が改善しない場合は、外科手術を行います。
顎関節症の外科手術には、生理食塩水で関節の中を洗う洗浄療法・関節円板を元の位置に戻す手術・関節円板を切除する手術などがあります。
顎関節症で起こる頭痛の改善方法
顎関節症で起こる頭痛は、軽度であればセルフケアで改善できるといわれています。顎関節症で起こる頭痛を改善するには、以下の方法があります。
- 開口体操
- マッサージ
- ナイトガードを着用
場合によっては、薬物療法やずれた下顎を元の位置に戻す施術を行う必要があるようです。ここからは、顎関節症で起こる頭痛の改善方法を紹介します。
開口体操
開口体操は、口を開けたり口を開けた状態で顎を動かしたりする体操です。
顎関節症では顎関節の周囲の筋肉が緊張しているため、開口体操を行うことで筋肉の緊張が緩和されて改善を促す作用が期待できるでしょう。
開口体操では、手指を使用して口を開けた状態を約10秒間キープします。また、口を開けたまま下顎を左右にずらした状態を約10秒間キープします。
これらの動作を1日数回行い、無理のない範囲で継続することが大切です。
マッサージ
マッサージも、顎関節の周囲の筋肉をほぐし頭痛を緩和させるのに有効とされています。
親指の付け根もしくは2〜3本の指先を使用しゆっくり回すように頬をマッサージします。体が温まっているとほぐれやすいため、入浴後に行うとよいでしょう。
また、蒸しタオルなどで頬を温めたうえで行うのもおすすめです。
ただし、強くつまんだりもんだりすると、症状が悪化する可能性があるため注意しましょう。
ナイトガードを着用
開口体操やマッサージを行っても改善が見られない場合は、ナイトガードを着用するとよいでしょう。
ナイトガードとはスプリントとも呼ばれる装置で、ナイトガードの着用はいわゆるスプリント療法のことを指します。咀嚼筋の緊張を緩和したり、顎関節の負担を軽減したりするのに役立ちます。
特に睡眠中に歯ぎしりしている場合は、ナイトガードを着用することで顎の負担が減り、頭痛の改善につながるでしょう。
まとめ
顎関節症は顎の痛みや開口障害だけではなく、頭痛をはじめとする全身症状が現れます。
これらの症状はほかの疾患が原因となっているケースもあるため、詳しく検査を行い診断する必要があります。
症状がどのように始まりどのように変化したのかを把握し、担当の医師に伝えるようにしましょう。
顎関節症で起こる頭痛は、軽度であればマッサージなどのセルフケアで改善が見込まれます。場合によっては薬物療法や手術が必要となることもあるでしょう。
ただし、自己判断で行うと症状を悪化させる可能性があるため、医師の指導を受けて治療することが大切です。
参考文献