顎関節症を発症すると顎関節や頬の痛み、お口を開けづらいなどの症状があらわれます。
症状が軽い場合はセルフケアによる症状改善が期待できますが、関節円板や骨軟骨が損傷している場合には手術が必要になることもあります。
また、症状が悪化すると硬いものが食べづらくなるなど日常生活にも支障をきたすため、早期発見と早期治療が大切です。
ここでは、顎関節症の原因や症状、治療法などを解説します。食いしばりや歯ぎしりなどの悪習癖に心当たりのある方は、かかりつけの病院で相談してみてください。
顎関節症の原因や症状
- 顎関節症とはどのような病気ですか?
- 顎関節症とは、顎の運動異常や咀嚼筋の痛み、お口の開閉時の雑音などの症状の総称です。
咀嚼筋の障害・関節包や靭帯の障害・関節内でクッションの役割を果たしている関節円板の障害・顎関節の骨の変形の4タイプに分けられます。一生のうち、2人に1人はお口を大きく開けづらかったり顎を動かす際に音がしたりなどの症状を経験するといわれていますが、治療が必要な方はごく一部です。
顎関節症の治療では、痛みに対する薬物療法や認知行動療法によるセルフケアなど、保存療法をメインに行います。しかし、症状が改善しない場合には手術療法の適応となることもあります。
ストレスによる歯ぎしりや食いしばりなどが原因となっている場合もあるため、セルフケアによる悪習癖の改善が大切です。
- 原因を教えてください。
- さまざまな要因が重なることによって顎関節や咀嚼筋に負担がかかり、顎関節症を引き起こすといわれています。
そのうちの一つが、ストレスです。ストレスが溜まると顎周りの筋肉が緊張し、無意識のうちに食いしばりや歯ぎしりをすることがあります。すると咀嚼筋や靭帯、顎関節内でクッションの役割を果たす関節円板などに異常が生じ、痛みなどの症状を引き起こします。
また、歯並びや噛み合わせの悪さも歯ぎしりの原因の一つです。起床時に顎が疲れている、集中すると歯を食いしばってしまうなどの自覚がある場合には、かかりつけの歯科医院で相談してみるとよいでしょう。
- どのような症状が出るのですか?
- 関節円板や咀嚼筋の障害、顎の骨の変形などによって、以下のような症状がみられることがあります。
- 頬の筋肉の痛み
- 顎関節の痛み
- お口を開けづらい
- あくびをする際にお口が大きく開かない
- 食べ物を噛みづらい
- お口の開閉時に音がする
これらの症状がみられる場合でも、会話や食事などの日常生活に支障がなければ急いで治療を受ける必要はないでしょう。セルフケアによる症状改善も期待できるため、気になる症状があればかかりつけの歯科医院で相談してみてください。
- 顎関節症になりやすい年代を教えてください。
- 顎関節症はさまざまな年代で発症しうる病気ですが、なかでも10代後半から20代の若い女性に多いのが特徴です。
これには、ストレスが関係していると考えられています。学校などの社会生活や進学・就職による環境の変化は、ストレスの原因の一つです。ストレスが溜まると顎周りの筋肉が緊張し、食いしばりや歯ぎしりを引き起こすため、顎関節症を発症する可能性があります。
顎関節症の予防には、自分なりのストレス解消法を見つけストレスとうまく付き合っていくことが大切です。また、女性の患者さんが多い理由の一つとして、男性に比べると骨格や筋肉、靭帯などの構造が弱いことが挙げられます。
顎関節にかかる負担に耐える力が弱く、痛みなどの症状が出やすいと考えられています。
- 何科を受診すればよいですか?
- 顎関節や頬の筋肉に痛みを感じたら、口腔外科を受診しましょう。
歯科ではむし歯や歯周病などの治療をメインに行いますが、口腔外科では顎関節の外科的治療を受けることもできます。しかし、顎や耳周囲にみられた症状の原因が顎関節症かどうか、ご自身での判断は難しいでしょう。
耳鼻科や整形外科、歯科などを受診した結果、顎関節症が疑われる場合には口腔外科を紹介してもらうことができます。受診に至った経緯や症状、病院での診察結果を詳しくまとめた診療情報提供書を作成してもらうこともできるため、担当の医師に相談してみるとよいでしょう。
顎関節症の薬物療法
- 顎関節症の薬物療法ではどのような薬を使用するのですか?
- 顎関節症に対する薬物療法では、非ステロイド系消炎鎮痛薬による疼痛コントロールを行います。
具体的にはアセトアミノフェンやロキソプロフェンナトリウム、イブプロフェンなどです。また、顎周りの筋肉の緊張を解くために、チザニジンやエペリゾンなどの筋弛緩薬を用いる場合もあります。
さらに、睡眠時の食いしばりや歯ぎしりに対しては、精神安定剤が処方されることもあります。
睡眠の質を上げることで、筋緊張を和らげることが期待できるためです。しかし、これらは対症療法であり根本的な治療には至りません。
関節円板をあるべき位置に戻す円板整位や、マウスピース装着による顎関節への負担軽減などを併せて行う必要があります。
- 市販の薬でも治療できますか?
- 市販の消炎鎮痛薬でも、顎関節症によって生じる疼痛をコントロールできます。しかし、長期服用による副作用症状出現のリスクがあるため、病院でご自身に合った薬を処方してもらうことをおすすめします。
また、根本治療には関節円板の整位や歯列矯正、手術による外科的治療などが必要です。軽症の場合はセルフケアによる症状改善も期待できるため、気になる症状があれば早めにかかりつけの病院を受診しましょう。
顎関節症のその他の治療方法
- 顎関節症の薬物療法以外の治療方法を教えてください。
- 顎関節症に対する治療法は、薬物療法以外に以下の種類があります。
- 食いしばりを改善するための認知行動療法
- スプリント療法による顎への負担軽減
- ストレッチやマッサージによる筋緊張の緩和
- 関節腔注射
- 徒手円板整位
- 関節腔洗浄による疼痛軽減
- 手術療法
スプリント療法とは、就寝中のマウスピース装着によって歯ぎしりや食いしばりを改善したり、顎への負担を軽減したりする方法です。
また、日中も無意識のうちに歯を食いしばる癖がある場合は、認知行動療法を行います。食いしばりをしていることを自覚し、日常生活のなかで食いしばりに気付いたら意識的に離すことを繰り返す方法です。
- 手術を行うケースもあるのですか?
- 薬物療法や関節円板の整位、認知行動療法などの保存療法によって症状が改善しない場合には、手術を行う場合もあります。
なかでも関節円板の穿孔や高度損傷、骨軟骨の変性は手術療法の適応です。手術療法には耳の前を切開して行う方法と、内視鏡を用いた関節鏡下手術の二種類あります。
関節円板の癒着の有無や程度によっても手術の方法は異なるため、詳しくは担当の医師に確認してみましょう。
- 症状が軽度の場合はセルフケアでも治りますか?
- 症状が軽度の場合には、認知行動療法やマッサージなどのセルフケアによる症状改善が期待できます。顎関節症を引き起こす要因の一つは、食いしばりや歯ぎしりによる顎関節・咀嚼筋への負担増加です。
日中、気付いたときに上下の歯の間を開けるだけでも、顎関節への負担を軽減できます。また、ストレスの蓄積は食いしばりなどの悪習癖の原因になりえるため、自分なりのストレス解消法を見つけることも大切です。
セルフケアの一つである顎周囲の筋肉のマッサージやストレッチは、顎関節症の発症予防にもつながります。気になる方は、歯科口腔外科を受診した際に聞いてみるとよいでしょう。
編集部まとめ
顎関節症の患者さんは10代後半から20代の若い女性に多くみられますが、食いしばりや歯ぎしりなどの悪習癖をもつ方は誰でも起こりうる病気です。
仕事や勉強に集中すると歯を食いしばってしまう、寝ている間に歯ぎしりをしているといわれたことがある方は、かかりつけの歯科医院で相談してみましょう。
マウスピースの装着や認知行動療法によって悪習癖を改善できるかもしれません。
また、市販の鎮痛剤によっても疼痛コントロールは可能ですが、長期服用による副作用症状出現のリスクがあります。
顎関節の周囲に気になる症状があれば早めに口腔外科を受診し、顎関節症を正しく治療しましょう。
参考文献
- 顎関節の疾患|公益社団法人 日本口腔外科学会
- 顎関節症|日本歯科医師会
- 顎関節症(がくかんせつしょう)とは|一般社団法人 日本顎関節学会
- 歯ぎしり|日本歯科医師会
- 顎関節症|慶應義塾大学病院
- 顎関節外来|東京歯科大学 千葉歯科医療センター
- 口腔外科(こうくうげか)とは?|公益社団法人 日本口腔外科学会
- 口腔外科|日本歯科大学附属病院
- 非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs,解熱性鎮痛薬)|名城大学 薬学部
- 顎関節の治療(薬物療法)|信州大学医学部歯科口腔外科
- 顎関節専門外来|京都大学医学部附属病院 歯科口腔外科
- 顎関節の治療(外科的治療ー開放手術)|信州大学医学部歯科口腔外科
- 顎関節外来について|大阪歯科大学附属病院