口を開けると顎が痛い。口を大きく開けられない。こうした症状が見られる場合は顎関節症が疑われますが、正確な診断は医師や歯科医師でなければ行えません。そこで気になるのが顎関節症の診断方法です。顎関節症は、歯周病やむし歯のような目に見える異常が現れにくい病気なので、どのように診断するのか、あるいはセルフチェックする方法があるのか知りたいことでしょう。ここではそんな顎関節症の診断方法や症状、治療方法などを解説します。
顎関節症の診断方法や症状
はじめに、顎関節症を診断する方法や症状、放置するリスクなどを解説します。
- 顎関節症はどのように診断されますか?
- 顎関節症を診断する際には、以下の診査が行われます。
◎開口量測定
患者さんが自力でどこまでお口を開けられるかを調べる検査です。顎関節が正常であれば、上下中切歯切端間で40mm以上の開口量が見られます。開口量がそれ以下の場合は、顎関節の異常が疑われます。
◎下顎頭圧痛(かがくとうあっつう)
顎関節症で関節包(かんせつほう)や滑膜に炎症が生じている場合は、下顎頭を押したときに痛みが生じます。
◎関節頭運動状況診査(かがくとううんどうじょうきょうしんさ)
患者さんにお口を大きく開けてもらって、下顎頭が正常に滑走していくかどうかを調べます。
◎咬筋圧痛診査(こうきんあっつうしんさ)
患者さんに噛みしめてもらい、噛むときに使う咬筋を押して痛みがあるかどうかを調べます。
◎画像診断
レントゲンやMRI、CTなどの画像検査を行って、診断に必要な情報を取得します。
顎関節症では、これらの診査を必要に応じて組み合わせて最終的な診断を下します。すべてのケースでMRIやCTを撮影するというわけではありません。
- 顎関節症の主な症状を教えてください
- 顎関節症の主な症状としては、痛み、開口障害、関節雑音の3つが挙げられます。
◎痛み
顎関節症に伴う痛みは、顎関節痛と咀嚼筋痛の2つに分けられます。顎関節痛は、顎関節を構成する軟組織の炎症反応が原因となる痛みです。咀嚼筋痛は、専門的に筋・筋膜疼痛と呼ばれるもので、局所的な鈍い、うずくような痛みが特長です。
◎開口障害
お口を一定以上、開けられなくなる症状です。開口障害の原因は、筋性、関節円板性、関節痛性、癒着の4つに分けられます。
◎関節雑音
お口を開けたときに、「カックン」とか「ジャリジャリ」といった雑音が鳴る症状です。カックンと鳴る場合は、関節円板が転位している可能性が高いです。ジャリジャリという音は、下顎頭や関節窩、関節円板の変形が疑われます。いずれも顎関節が正常に機能しなくなっていることを意味します。
- 顎関節症を放置するとどのようなリスクがありますか?
- 顎関節症は、経過を見るだけで症状が改善されていくこともありますが、病態が悪化する可能性も否定できません。具体的には、開口量がさらに少なくなったり、痛みが強くなって食事や会話に支障をきたしたりすることも珍しくありません。重症例では、顎関節が変形して、外科手術が必要となる場合もあるため、顎関節症は放置せず、まずは歯科医院などで診察を受けるのが望ましいです。
- 顎関節症を発症しやすくする生活習慣があれば教えてください
- 次に挙げる生活習慣があると、顎関節症を発症しやすくなります。
- 歯ぎしり、食いしばりをしている
- 食事のときに片側だけで噛む癖がある
- うつ伏せ寝をしている
- 頬杖をつくことがよくある
- 睡眠不足や運動不足でストレスがたまっている
これらは結果として顎関節に想定以上の負担をかけることになるため、顎関節の発症リスクが高まります。
顎関節症を自分でチェックする方法と受診の判断基準
顎関節症の診断は医師や歯科医師でなければ行えませんが、スクリーニング検査に相当するセルフチェックは、自宅でも行えます。顎関節症の症状が気になる方は、受診の判断基準と併せて確認してください。
- 顎関節症かどうかセルフチェック方法を教えてください
- 顎関節症かどうか気になる場合は、以下のセルフチェック項目を調べてみてください。
- お口を開けたり、顎を左右に動かしたりすると痛みを感じる
- お口を大きく開けたときに顎が左右どちらかに曲がる
- 人差し指、中指、薬指の3本を縦にそろえてお口に入れるのが難しい
- お口を開けたときにカックン、ジャリジャリといった音が鳴る
- 硬い食べ物を噛むと顎が痛い
- 最近、噛み合わせが変化したように感じる
- 食事や会話の後に顎がだるいと感じる
- 耳の前を指で押すと痛みを感じる
- 顎が引っかかって動かなくなることがある
- 原因がよくわからない頭痛や肩こりがある
- 顎が腫れて、発熱も見られる
このなかで当てはまるものが複数ある場合は、顎関節症が疑われます。念のため専門の医療機関を受診するのが望ましいです。
- どのような症状がでたら口腔外科を受診すべきですか?
- セルフチェックで取り上げた症状が1週間以上続いたり、日常生活に支障をきたすようになったりした場合は、口腔外科を受診して診断を受けましょう。特に開口障害で食事ができない、顎の腫れや発熱が認められる、顎関節症の症状が数日で急速に悪化した場合は、できるだけ早く口腔外科を受診した方がよいといえます。
- 口腔外科を受診する際に伝えるべきことがあれば教えてください
- 今現在の症状はもちろんのこと、これまでの経過を伝えることが大切です。顎関節症の原因となる生活習慣がある場合は、それらも詳細に伝える必要があります。お口や全身に何らかの持病がある場合も口腔外科を受診した際に伝えておきましょう。
顎関節症の治療方法
最後に、顎関節症の治療方法やセルフケア方法について解説します。
- 顎関節症の治療方法を教えてください
- 顎関節症の一般的な治療方法は、スプリント療法と薬物療法の2つが挙げられます。スプリント療法は、治療用のマウスピースを作製して、就寝中に装着することで歯ぎしりによる影響が抑えられ、顎関節への負担が軽減されます。スプリントには、顎の位置を適切に保持し、顎関節の安定化をはかるという効果も期待できます。顎関節症による痛みが強いケースでは、非ステロイド系消炎鎮痛薬による薬物療法が有効です。
近年は、こうしたスプリント療法や薬物療法、セルフケアなどを組み合わせて治療するのがスタンダードとなっていますが、難治性の顎関節症に関しては、外科手術が必要となることもあります。顎関節症の手術療法としては、耳の前に穴をあけて顎関節を洗浄する手術、顎関節の癒着を剥離する手術、関節円板の脱臼をもとに戻す手術などが挙げられます。
- セルフケアや生活習慣の改善だけで治ることはありますか?
- 軽度の顎関節症では、セルフケアや生活習慣の改善だけで症状が軽くなることはあります。ただし、顎関節を構成する組織に蓄積したダメージや器官の変形などはもとにもどりません。また、顎関節症は再発しやすい病気でもあることから、自分だけで判断はせず、まずは専門家に診てもらうことが推奨されます。
- 外科的処置が必要になるのはどのようなケースですか?
- スプリント療法や薬物療法といった保存的な治療が奏功しない難治性の顎関節症では、外科的処置が必要となる場合があります。また、顎関節の変形が著しいケースでも、外科的処置でなければ改善が難しいこともあります。顎関節症で外科的処置が必要となるのは稀なケースですが、この病気を軽視して放置しているとそのリスクは上がっていくため、顎関節に異常を感じたら専門家の意見を聞いておいた方が賢明といえます。
編集部まとめ
今回は、顎関節症の診断方法や症状、セルフチェック方法などについて解説しました。顎の関節を構成する組織や周りの筋肉に異常が現れる顎関節症は、口を開けると顎が痛い、顎関節で雑音が鳴る、硬い食べ物が噛みにくいなどさまざまな症状が現れます。こうした症状はセルフチェックでもある程度、確認することができますので、顎関節の状態が気になる方は本文で紹介した項目をチェックしてみてください。口腔外科などの医療機関で顎関節症と診断された場合でも、現状では保存的な治療で改善できるケースがほとんどです。
参考文献