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顎関節症

顎関節症は重症度で4つに分類 | 分類ごとの治療法やセルグチェック方法を解説

顎関節症は重症度で4つに分類 | 分類ごとの治療法やセルグチェック方法を解説

顎の関節やその周囲にさまざまな症状が現れる顎関節症。現代においてとりわけ日本人によく見られるこの病気は、4つの病態に分類できます。顎関節症は、病態分類ごとに異なる症状が見られることから、治療法もそれに合ったものを選ばなければなりません。ここではそんな顎関節症の4つの病態分類とそれぞれの治療法、自分がどの症状に当てはまるのかをセルフチェックする方法について解説します。

顎関節症の概要

顎関節症の概要 はじめに、顎関節症の基本事項を確認しておきましょう。

顎関節症の主な症状

顎関節症で見られる主な症状は、顎関節の痛みや咀嚼筋痛、開口障害、関節雑音などです。そのほか、症例によっては歯の痛みや舌の痛み、耳の閉塞感などが現れることもあります。顎関節はとても複雑な病気で、症状にもバリエーションが見られるのです。

顎関節症の原因

顎関節症の原因は、解明されていません。一つの因子が原因となっているのではなく、複数の要因が複合的に絡み合うことで発症する病気であると考えられています。具体的には、歯ぎしり・食いしばり、噛み合わせの異常、神経系の異常、外傷などが要因として挙げられます。特に睡眠中の歯ぎしりは歯や顎関節に大きな負担がかかることから、十分な注意が必要といえます。

顎関節症の4つの病態分類

顎関節症の4つの病態分類

I型(咀嚼筋痛障害)

咀嚼筋痛障害は顎を動かす筋肉に痛みが生じ、その結果、顎の動きに障害が出る状態を指します。この病気は患者さんが日常生活で感じる筋痛や運動時の痛み、顎の動きがスムーズでないといった症状が主に現れます。

この疾患の理解を深めるためには、DC/TMD(Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders)という国際的な基準が役立ちます。この基準によると、咀嚼筋痛障害には複数の形態がありますが、最も一般的なのは局所筋痛と筋・筋膜痛です。特に筋・筋膜痛は、噛み合わせや顎の動きに密接に関連し、顎関節の健康に大きな影響を与えます。

筋・筋膜痛は、筋肉内の微細な損傷や過度な緊張が原因で起こります。これには筋肉内部の痛みを感じる受容器が関与しており、その刺激が中枢神経系に伝わることで痛みが認識されます。

II型(顎関節痛障害)

顎関節痛障害は、顎の動きを司る関節に痛みや機能障害が生じる状態であり、日常生活に影響を与えることがあります。この障害は顎関節の円板障害、変形性顎関節症、または内在性外傷(硬い食べ物の咀嚼、大きなあくび、睡眠時の歯ぎしりや咬合異常など)によって引き起こされることが多いです。

この疾患の発生原因として主に挙げられるのは、関節の滑膜、円板後部組織、関節靭帯(特に外側靭帯)、および関節包の炎症や損傷です。滑膜は、顎関節内の複数の表面を覆っており、外部からの異常な力が加わると損傷しやすく、炎症を引き起こすことがあります。この炎症が進行すると、痛みを引き起こす物質が放出され、痛みを感じやすい受容器が刺激され、顎関節痛が生じます。

また、顎関節の円板が前方に移動すると、円板後部組織に直接負荷がかかり、これが組織損傷と炎症を引き起こし、さらに顎関節痛を誘発します。関節靭帯の損傷や関節包の炎症も、顎関節痛の一因となり得ます。

III型(顎関節円板障害)

顎関節円板障害(Ⅲ型)は、顎関節の円板が正常な位置や形状を失うことによって生じる障害です。この状態は、顎関節内障とも呼ばれ、関節円板の転位や変性、穿孔、線維化などによって発生します。顎関節の円板は、顎の動きをスムーズにし、衝撃を吸収する役割を持っていますが、これが異常をきたすと痛みや機能障害が起こり得ます。

顎関節症の中でも、顎関節円板障害は発症頻度が最も高く、患者人口の約60〜70%を占めるとされています。MRI検査により診断が可能であり、関節円板の転位の方向や量、さらには復位の有無によって、患者さんの症状や治療法が異なってきます。

顎関節円板の転位は、主に前方または前内方に生じることが一般的ですが、内方、外方、後方に転位することもあります。円板が転位した後、顎を動かすことでその位置が修正される(復位する)場合と、修正されない(非復位性)場合があり、それぞれに特有の症状が現れます。

◎復位性関節円板前方転位
復位性関節円板前方転位の場合、患者さんは顎を開く際に「クリック音」と呼ばれる短い音を感じることがあります。これは、下顎頭が円板の後方肥厚部を乗り越え、中央狭窄部に滑り込むときに生じる現象です。この時、顎関節の関係は一時的に正常な状態に戻りますが、顎を閉じるときに再び円板が転位し、クリック音が再発することがあります。この相反性クリックは、関節円板の転位や変形の程度に関連が深く、開口時よりも閉口時にクリック音が生じやすいとされています。

◎非復位性関節円板前方転位
非復位性関節円板前方転位の場合、どのような顎の動きをしても円板が前方に転位したままの状態が続きます。これにより、下顎頭の運動が制限され、開口障害が生じることがあります。この状態は「クローズドロック」として知られ、開口時にあごが引っかかり、開かなくなることがあります。また、復位性から非復位性への進行はしばしば観察され、この過程で開口路の患側偏位や開口障害が顕著になります。

IV型(変形性顎関節症)

変形性顎関節症は、顎関節の退行性変化を特徴とする疾患で、関節軟骨、関節円板、滑膜、下顎頭、下顎窩が主な病変部位です。この病変によって、軟骨の破壊、肉芽形成、骨吸収、骨の異常な増殖が起こります。臨床的には、顎運動障害、顎関節部の痛み、または顎の動きに伴う摩擦音であるクレピタス(捻髪音)が見られることが一般的です。

この症状の進行は、非復位性関節円板前方転位が高頻度に認められることが特徴で、関節円盤には穿孔や断裂が生じやすいです。これらの病理変化は、下顎頭や下顎窩の変形を引き起こし、顎関節の機能に大きな影響を与えることがあります。また、変形性顎関節症の発生は年齢とともに増加する傾向があり、男女間での発症頻度の差はありません。

病態の発生原因としては、関節組織の老化や関節への負荷が増大することが背景にあります。特に、元々の関節状態が正常であっても発症するケースが少なくなく、また関節円板の転位や炎症、関節包内の骨折などの原疾患に続発して発症する場合も多く見られます。全身性の変形性顎関節症では、全身の骨関節症が顎関節にも影響を及ぼすことがあります。

顎関節症の病態分類ごとの治療法

顎関節症の病態分類ごとの治療法

I型(咀嚼筋痛障害)の治療法

◎物理療法
物理療法には、咀嚼筋のマッサージ、温罨法(おんあんぽう)、電気刺激療法などが含まれます。マッサージは手指を用いて筋肉に機械的な刺激を与え、血流を促進し痛みを緩和します。特に、入浴後にリラックスした状態で行うことが推奨されています。温罨法では、ホットパックや蒸しタオルを用いて組織の温度を上げ、血流増加や筋緊張の緩和を図ります。電気的に筋肉を刺激するマイオモニターやTENS(経皮的電気刺激療法)は、筋のリラックスと痛みの除去を助ける手段です。

◎運動療法
筋伸展訓練は、咀嚼筋のストレッチングを通じて、筋肉の柔軟性を高め、顎の開閉能力を向上させます。この訓練は患者自身が日常的に行うことができ、朝晩のルーチンとして取り入れることが望ましいです。訓練は痛みを伴うこともありますが、継続することで効果が期待できます。

◎薬物療法
薬物療法では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンが用いられます。これらの薬剤は、痛みの原因となる化学物質の活動を抑えることで、痛みと炎症を軽減します。ただし、NSAIDsは副作用が問題となることもあるため、使用には注意が必要です。治療は安全性を最優先に考慮し、最小限の期間と用量で行われるべきです。

◎アプライアンス療法
スタビライゼーションアプライアンスは、顎関節症の治療において広く使用されています。この装置は、顎の咬合を均一に保ちながら咀嚼筋の緊張を緩和し、顎関節への負担を軽減します。通常は夜間に使用され、日中の使用は副作用のリスクが高まるため推奨されません。

II型(顎関節痛障害)の治療法

◎薬物療法
顎関節痛の治療においては、NSAIDsが広く用いられます。これらの薬剤、例えばジクロフェナク、ナプロキセン、ロキソプロフェンは、顎運動時の痛みを軽減するために効果的です。これらの薬は通常、急性の痛み管理に用いられ、投与は最長で7日間とされ、痛みのコントロールと炎症の抑制を目的としています。薬物療法は頓用ではなく、時間を定めての服用が推奨されます。

◎運動療法
顎関節の可動性を向上させるために、顎関節可動化訓練が行われます。この訓練は、顎の開口制限がある患者に特に推奨され、顎の動きを促進し、関節の機能を改善するために実施されます。治療は軽度の疼痛がある場合でも継続されることが多く、痛みが強い場合には炎症が収まるのを待つこともあります。また、手技によるソフトな外力を顎関節に適用し、滑走や回転運動を促して顎の動きをスムーズにします。

◎アプライアンス療法
顎関節痛障害におけるアプライアンス療法は、咀嚼筋の痛みを管理する目的で用いられるスタビライゼーションアプライアンスと同様です。

III型(顎関節円板障害)の治療法

◎復位性の治療
復位性の顎関節円板障害では、基本的には円板の復位を目指さず、痛みや間欠ロックのない場合は経過観察が推奨されます。ただし、開口制限を恐れて自発的に開口を制限している場合は積極的な開口を指導します。症状が重度で日常生活に支障をきたしている場合には、運動療法や薬物療法の検討があります。

◎運動療法
運動療法では、顎関節授動術や顎関節可動化訓練が行われます。顎関節授動術は、非復位性の関節円板前方転位や間欠ロックを伴う復位性の症例に対して行われます。また、顎関節可動化訓練では、患者自身が顎の動きを重視した訓練を行います。症状が強い場合や復位が困難な場合は、専門医の紹介も検討されます。

◎アプライアンス療法
アプライアンス療法では、スタビライゼーションアプライアンスや前方整位型アプライアンスが使用されます。これらのアプライアンスは、関節円板の復位や後方偏位に起因する負担の軽減を目的としています。治療の設定は患者に合わせて調整され、関節円板の復位後には咬合再構成が必要な場合もあります。

◎そのほかの治療法
非復位性の場合は、経過観察が主な治療となりますが、痛みや開口障害がある場合には適切な治療法が検討されます。また、確定診断にはMRIによる画像検査が必要であり、必要に応じて専門医の意見を仰ぐことも重要です。

IV型(変形性顎関節症)の治療法

変形性顎関節症(Ⅳ型)の基本治療は、顎関節痛、開口障害、または関節雑音のいずれかを示す場合があり、ほかの疾患の治療と同様に対処されます。診断には関節雑音やX線検査が用いられますが、過剰な治療には注意が必要です。自然経過が良好でない場合もあるため、漫然とした経過観察は避けるべきです。下顎頭の変形やそれに伴う咬合問題が進行する可能性もあります。専門医は、下顎頭の変形や咬合不全に対処するために口腔機能回復療法や補綴歯科治療、矯正歯科治療を必要に応じて行います。

顎関節症のセルフチェック方法

顎関節症のセルフチェック方法 顎関節症は、次の方法でセルフチェックできます。自分の症状が気になる人は、試してみてください。

指を3本口に入れる

人差し指と中指、薬指を縦に重ねて口の中に入れることができれば、顎関節症の可能性は低いです。この3本の指が入らない場合は、顎関節症に由来する開口障害が認められるかもしれません。

鏡で口を開閉する

鏡で口を開閉した時に、左右で差が見られたり、顔に歪みが認められたりする場合は、顎関節症が疑われます。その際、顎関節で「カクカク」とか「ジャリジャリ」といった雑音が生じるかどうかもチェックしましょう。

顎や頭をマッサージする

顔や顎、頭をマッサージした時に凝りを感じる、もしくは筋肉がほぐれて気持ち良いと感じる場合は、顎関節の周囲の筋肉に何らかの異常があるかもしれません。

顎関節症で受診すべき診療科

顎関節症で受診すべき診療科 顎関節症の診察は、歯科や口腔外科で受けることができます。歯科医院によっては、顎関節症の診察や治療が得意でない場合があるため、あらかじめ電話などで確認しておくと良いでしょう。口腔外科を標榜している歯科医院や大学病院であれば、ほぼ間違いなく顎関節症の治療まで行えます。

編集部まとめ

編集部まとめ このように、顎関節症は重症度や症状に応じて4つの病態に分類できます。その分類を知ることで、顎関節症がいかに複雑な病気であるかがわかることでしょう。病気が複雑ということは治療法も単純ではないため、診察を受けるなら、顎関節症の診療経験豊富な歯科医院を探すべきといえます。自分が顎関節症にかかっているかどうかよくわからないという人は、本文でも紹介したセルフチェック法を試してみてください。

参考文献

この記事の監修歯科医師
山下 正勝医師(医療法人徳洲会 名古屋徳洲会総合病院)

山下 正勝医師(医療法人徳洲会 名古屋徳洲会総合病院)

国立大学法人 鹿児島大学歯学部卒業 / 神戸大学歯科口腔外科 勤務 / 某一般歯科 7年勤務 / 国立大学法人 山口大学医学部医学科卒業 / 名古屋徳洲会総合病院  呼吸器外科勤務 / 専門は呼吸器外科、栄養サポートチーム担当NST医師

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