親知らずは第三大臼歯(智歯・ちし)と呼ばれ、最も奥に、そして最後に生えてくる永久歯です。生えてくる時期が遅いため、顎の骨の中でスペースが足りず、まっすぐ正常に生えることが難しい歯でもあります。
その結果、斜めに生えたり、歯茎の中に埋まったままの状態になったりすることがあり、これを萌出不全といいます。このような状態の親知らずは、炎症やむし歯といったトラブルの原因となりやすいため、抜歯がすすめられることがあります。
親知らずを抜歯する方にとって、手術そのものはもちろん、術後の痛みや腫れも心配ではないでしょうか。つらい痛みが何日も続くと不安になるでしょうし、食事や運動といった日常生活にも支障が出る可能性があります。
この記事では、親知らずを抜いた後の痛みについて、痛みの原因や自宅でできる対処法、再受診のタイミングなどを詳しく解説します。
親知らず抜歯後の痛みの継続期間
- 親知らずを抜いた後の強い痛みはいつまで続きますか?
- 親知らずの抜歯は、外科的な処置で行われ、生え方や炎症の程度によっては全身麻酔が使われることもあります。処置後に縫合が必要になるケースも珍しくありません。
特に下顎の歯肉の中に埋まっている親知らずは、抜歯後に90〜100%の確率で痛みが出るともいわれており、腫れや軽い発熱を伴うこともあります。抜歯後の痛みは個人差がありますが、麻酔の効果が切れ始めるころから現れて、一般的には抜歯後1〜2日が特に痛みが強く、その後は時間とともに落ち着いていきます。
- 親知らずを抜いてから痛みが完全になくなる時期を教えてください。
- 痛みが完全になくなる時期は、通常、1週間から10日前後といわれています。
痛みの強さや痛みが続く期間は、親知らずの生え方や智歯周囲炎の発症の有無などで変わります。例えば、下顎の親知らずが、歯肉の中に水平に埋まっているケース(水平埋伏歯)ですと、抜歯方法も少し大がかりな処置が必要になります。
まず歯を覆っている歯肉を切開し、歯を包んでいる歯槽骨を取り除きます。次に埋まっている歯を切削器を使用し分割して抜き取り、充分に洗浄した後に切開した部分を縫合します。
こういった手術は1時間以上を要することもあり、身体への影響も大きいため、術後の痛みや腫れも強く出る傾向があります。
親知らず抜歯後の痛みを和らげる方法
- 親知らず抜歯後に処方された薬の効果がすぐに切れてしまう場合はどのように対処すればよいですか?
- 親知らずの抜歯後は、約60〜80%の患者さんが2時間程で痛みが現れると報告されています。通常は、鎮痛剤や抗生物質が処方されますが、決められた時間と容量を守って服用することが大切です。
鎮痛剤は服用後30分から1時間程で効果が現れるため、痛みが出る前に計画的に服用する先制鎮痛が推奨されることもあります。それでも鎮痛剤の効果がすぐに切れてしまう場合には、我慢をせずにまずは担当の歯科医師に相談しましょう。鎮痛剤は、一定の間隔を空けて服用する必要があり、効果が切れたからといって自己判断で追加服用することは、副作用のリスクがあるため避けたほうがよいでしょう。
- 処方された薬を飲んでも痛みが治まらない場合の対処法を教えてください。
- 抜歯後から数日間は、強い痛みが続くことがあります。鎮痛剤を服用しても十分な効果が得られない場合には、以下の対処法を組み合わせることで、症状の緩和が期待できます。
- 冷やす(手術当日)
- うがいを控える
- 飲酒・喫煙を控える
- 激しい運動を控える
詳しく解説します。
まず、抜歯した当日は、血液の流れがよくなることは避けた方がよいでしょう。頬の外側から保冷剤や冷たいタオルで優しく冷やすと、痛みや腫れが和らぐことがあります。痛いからといって、翌日以降も冷やすと、治りが遅くなる可能性があるので、注意が必要です。抜歯手術後は少し出血することもありますが、強くうがいをすると、止血の妨げになることがあります。気になるかもしれませんが、術後当日のうがいは、できるだけしないようにしましょう。
激しい運動や、飲酒、喫煙によって痛みが増すことがありますので、安静に過ごすことが望まれます。
親知らず抜歯後の痛みで再度受診をする目安
- 抜歯後の診察予約前に受診をすべきサインを教えてください。
- 親知らずを抜歯した後の痛みや腫れは、時間の経過とともに自然に治っていくことがほとんどですが、診察予約前に受診することが必要な症状もいくつかあります。
まずは出血の量についてです。抜歯手術した当日から翌日にかけて、少量の出血が見られることは珍しくありません。こうしたときは、清潔なガーゼを丸めて傷口に当て、15分から20分ほどしっかり噛んで止血を行ってください。ガーゼを外した後も出血が収まらず、お口の中に血が貯まるようなときは、歯科医師に相談が必要です。
ほかにも、一度治った痛みや腫れが再発したときや、高熱が続くときなどは細菌感染などの合併症が起きている可能性もあります。不安な症状があるときは、早めに歯科医師に相談しましょう。
- 痛みがひどく夜も眠れません。何かほかの病気になっている可能性はありますか?
- 親知らずの抜歯後には、いくつかの合併症が起こることがあります。なかでも多くみられるのがドライソケットです。抜歯後数日が経過し、痛みや腫れが一度治りかけた後、再び強い痛みが出るのが特徴です。
ドライソケットとは、本来、傷口を覆うはずの血餅(けっぺい)が何らかの原因で取れてしまい、骨がむき出しになってしまう状態です。露出した骨が刺激を受けることで響くような痛みが続き、夜も眠れないほどつらく感じることもあります。
特に下顎の親知らずを抜歯した後に起こりやすく、予防は難しいとされています。ほかにも以下のような合併症が考えられます。
- 抜歯後感染
- 神経麻痺
- 副鼻腔炎
抜歯後感染は、抜歯後2週間から1ヶ月頃に多く見られ、一度引いた腫れが再び起こったときに疑われます。
下顎の親知らずを抜歯した後にまれに見られるのが神経麻痺です。舌前方や下唇から口角にかけてしびれや知覚の低下、味覚の麻痺といった症状が特徴です。
上顎の親知らずの抜歯後では、副鼻腔炎を発症する可能性があります。抜歯の2〜3週間後に見られ、鼻水や鼻詰まり、頭痛など症状はさまざまです。親知らずの抜歯後に起こりえる合併症のリスクは、親知らずの生え方や患者さん自身の持病などによっても異なります。異変を感じたときは、我慢せずに担当の歯科医師に相談することが大切です。
- 親知らず抜歯後の痛みが強い場合、病院ではどのような治療が受けられますか?
- 親知らずの抜歯後の痛みが強く、鎮痛剤の効果が十分に感じられない場合は、歯科医院で適切な処置を受けることができます。
代表的な例として、口腔内の洗浄があります。生理食塩水などを用いて、傷口をていねいに洗浄し、感染の原因となる細菌や汚れを取り除くことで、痛みが和らぐ可能性があります。また、鎮痛剤の効果の感じ方には個人差があるため、歯科医師に相談することで、より効果の高い薬や別の種類の鎮痛剤に変更してもらえることもあります。
ドライソケットや抜歯後感染などの合併症が疑われる場合には、それぞれの症状や状態に応じた治療が行われます。
編集部まとめ
親知らずの抜歯後は、痛みや腫れ、発熱などの症状が現れることがありますが、ほとんどは時間の経過とともに落ち着いていきます。とはいえ、術後の痛みが強くつらいときは不安になるものです。
冷却や安静、飲酒や喫煙の制限といった、自宅でできる対処法を適切に取り入れることで、痛みや腫れを和らげることもできます。
しかし、一度治りかけた痛みや腫れが再発したり、強い痛みや腫れが続いたりする場合は、ドライソケットや感染といった合併症が起きている可能性もあるため注意が必要です。 不安な症状があるときは我慢せず、早めに歯科医師に相談することが大切です。
参考文献