口腔粘膜疾患は、口の中の粘膜に影響を及ぼすさまざまな病気を指します。口腔粘膜疾患とは、どのような疾患が当てはまるのでしょうか。治療や診断の方法も気になりますよね。また、これらの病気は予防できるのでしょうか?
本記事では口腔粘膜疾患とは?について以下の点を中心にご紹介します。
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- 口腔粘膜疾患について
- 主な口腔粘膜疾患について
- 口腔粘膜疾患の診断について
口腔粘膜疾患とは?について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。 ぜひ最後までお読みください。
口腔粘膜疾患とは?
口腔粘膜疾患とは、口の中の粘膜部分に発生するさまざまな症状の総称です。これには舌、歯肉、頬、口蓋などが含まれ、症状としては変色、水疱の形成、表面の凸凹や不整形、痛みなどが見られます。これらの症状は、口腔内の機械的・温度的刺激や常在菌による感染などの影響のほか、全身疾患が背景に隠れている場合があります。
口腔粘膜疾患は、多様な病態を示すため、日頃から口腔内をチェックしたり、定期的に歯科医院を受診したりして、早期発見・早期治療に繋げることが大切です。
主な口腔粘膜疾患と治療法
口腔粘膜疾患は、複数の症状の総称ですが、どのような疾患が当てはまるのでしょうか。
口腔粘膜疾患の主な疾患とその治療法について、以下に解説します。
口腔カンジダ症
口腔カンジダ症は、カンジダ・アルビカンスという真菌によって引き起こされる感染症です。舌や口腔内の粘膜に白い斑点や膜が形成され、これが剥がれると下の粘膜が赤くなり、痛みを呈する場合もあります。乾燥した口内環境、免疫力の低下、長期間の抗生物質の使用などが、この病気のリスクを高めます。
治療法:
治療には、口内を清潔に保つことが基本です。主に抗真菌薬を用いたうがい薬や塗り薬、場合によっては内服薬が処方されます。入れ歯を使用している場合は、カンジダを除去するための特別な洗浄剤が推奨されることもあります。治療は、感染の広がりを抑え、症状を緩和することを目的としています。カンジダ菌の過剰な増殖を防ぐために、生活習慣の見直しも重要です。
白板症
白板症は、口腔内の粘膜、頬粘膜や舌、歯肉に見られる白い病変です。この病変は、摩擦などで剥離しない固有の特性を持ち、表面の角化が亢進した状態を示します。痛みは少ない傾向にありますが、びらんを伴う場合は食事の際に痛みや不快感を感じることがあります。白板症は前がん病変とされ、舌に発生した場合は悪性化のリスクが高いと考えられています。
治療法:
白板症の治療は、その病変の特性に応じて異なります。病理組織検査によりがん化の有無を確認し、異形成が確認された場合や病変が広範囲に及ぶ場合は手術による病変部の切除が行われます。
がん化のリスクが低いと判断された場合は、経過観察を行いながら、リスク要因である喫煙の禁止やアルコール摂取の制限など生活習慣の改善を推奨します。また、ビタミンAが投与される場合もあります。定期的な歯科診察による経過観察が重要で、症状の進行を早期に捉えられれば、適切な治療につながります。
紅板症
紅板症、または紅色肥厚症とは、口腔粘膜に見られる赤い病変で、舌や歯肉、そのほかの部位に発生します。この病変は鮮紅色でビロード状の表面を持ち、境界が明瞭です。触れると痛みを感じることが多く、特に50歳以上の高齢者に多く見られます。発生原因は、アルコールやタバコ・合っていないかぶせ物といった刺激のほか、ビタミンA、Bの不足・加齢などが挙げられます。
紅板症は悪性化するリスクが高く、約50%のケースでがんへと進行する可能性があるとされています。
治療法:
紅板症の治療は主に外科的切除が推奨されます。悪性化するリスクが高いため、早期に病変を取り除くことが望ましいとされています。 診断時には、類似の症状を示すほかの口腔疾患との鑑別を行い、適切な治療計画を立てることが重要です。手術後も、がん化の兆候を見逃さないために定期的な経過観察が必要です。
扁平苔癬
扁平苔癬(へんぺいたいせん)は、角化と炎症を伴い、口腔内では白いレース状の模様と周囲の発赤が典型的な特徴です。痛みや食べ物がしみることもあり、まれにがん化するリスクも指摘されています。
治療法:
扁平苔癬の治療には、副腎皮質ステロイド薬の軟膏やうがい薬が用いられます。また、歯科金属アレルギーが関与する場合は、該当する歯科材料の除去が推奨されることもあります。重症例では、タクロリムス軟膏やシクロスポリンの含漱剤が処方されることがあります。
口腔乾燥症
口腔乾燥症は唾液分泌の低下により口内が極度に乾燥する状態を指します。症状としては、口の乾燥感、飲み込みにくさ、味覚の変化などがあり、糖尿病やシェーグレン症候群など、ほかの健康問題に関連して発生することが多いようです。また、特定の薬剤の影響で唾液の分泌が抑制されることもあります。
治療法:
口腔乾燥症の治療には、まず原因となる病気の管理が必要です。薬剤が原因であれば、その見直しや調整が行われます。対症療法としては、人工唾液の使用やシュガーレスガムを噛むことで唾液の分泌を促進させる方法があります。また、塩酸ピロカルピンのような薬剤が唾液分泌を助けることもあります。重要なのは、口内環境を保湿し、不快感や合併症のリスクを減少させることです。
再発性アフタ
再発性アフタは、口腔内に繰り返し出現する小さな円形または楕円形の浅い潰瘍を特徴とする疾患です。この潰瘍は灰白色または黄白色の偽膜で覆われ、周囲が赤くなります。さらに、強い痛みが伴い、食事や話すことが困難になることもあります。
発症の明確な原因は特定されていませんが、遺伝的要因、栄養不足、ストレス、あるいは特定の食品への反応など、複数の要因が絡んでいると考えられています。
治療法:
再発性アフタの治療は、主に対症療法が行われます。痛みの緩和と治癒を促進するために、副腎皮質ステロイドを含む軟膏の局所塗布、口腔粘膜貼付錠、うがい薬が使用されます。
重症の場合は、抗炎症薬やビタミン製剤が処方され、内服薬による治療が選択されることがあります。しかし、再発を防ぐ確実な方法は未だ確立されておらず、生活習慣の見直しやストレス管理も重要な対策となります。
ウイルス性口内炎
ウイルス性口内炎は、単純性ヘルペスウィルスによる初感染によって引き起こされます。主に小児に見られますが、最近では大人にも増加しています。
症状は、無症状の感染がほとんどですが、一部の患者さんは症状を呈します。全身的な発熱や倦怠感、口腔粘膜に多数の口内炎が生じ、歯肉の発赤、腫脹、びらんが見られます。自発痛や接触痛が強く、食事や会話が困難になることがあります。
治療法:
ウイルス性口内炎の治療には、抗ウイルス薬が用いられます。ウイルスの増殖を抑制し、症状の軽減が期待されます。また、必要に応じて消炎鎮痛薬が使用され、痛みや腫れを軽減します。二次感染の予防のために抗菌薬が処方されることもあります。局所的なケアとして、口腔内を清潔に保つためにうがい薬やトローチが使用されます。
重症な場合には入院治療が必要となり、点滴や経管栄養チューブを介して栄養補給を行うこともあります。症状の管理と共に、全身的な管理も重要であり、定期的な医師のフォローアップが必要です。
自己免疫性水疱症
自己免疫性水疱症は、体内で自己抗体が形成され、口腔粘膜や皮膚の細胞間接着に関与するタンパク質を攻撃することで引き起こされます。口腔粘膜に水ぶくれができ、通常はすぐに破れてびらんや潰瘍になります。
これにより、口腔内の食事摂取や口腔ケアが困難になり、口臭や出血などの症状が現れます。
皮膚科での検査・治療が一般的ですが、口腔粘膜に症状が先行する場合もあり、歯周病との鑑別が難しいことがあります。
治療法:
自己免疫性水疱症の治療には、免疫抑制療法が用いられます。主にステロイドの内服が中心的な役割を果たし、体重に応じて適切な投与量が決定されます。
治療初期では高用量のステロイドが使用され、水疱の新生が抑制されるまで投与されます。その後、徐々にステロイドの量を減らしていきます。治療が効果的でない場合、ステロイドパルス療法や血漿交換療法、免疫グロブリン大量静注療法などが追加されることもあります。副作用の監視として、定期的な外来通院が必要であり、血液検査などが行われます。
治療のゴールは、ステロイドの内服量を抑え、症状の管理を行うことです。治療中は口腔ケアが難しくなるため、口腔ケアの方法やサポートが提供されます。
悪性腫瘍(口腔がん)
悪性腫瘍(口腔がん)では、舌がんと歯肉がんについて解説します。
舌がん
舌がんは、口腔内で一般的ながんの一つであり、主に舌縁部に発生します。初期の病変は表面下に小さなしこりができる場合もあり、症状が現れにくいことがあります。進行すると、粘膜の表面が硬結し、潰瘍が生じることもあります。口内炎との鑑別が難しいため、口腔外科での検査や経過観察が必要です。
治療法:
舌がんの治療には、主に以下の方法が用いられます。
- 手術(外科治療)
切除範囲に応じて、舌部分切除術(舌の一部を切除)・舌半側切除術(舌の半分を切除)・舌(亜)全摘出術(舌の半分以上を切除)が行われます。舌の機能を維持するため再建手術が行われることもあります。さらに、リンパ節転移がある場合や予防のために頸部郭清術が行われることがあります。 - 放射線治療
がんの状態によって、放射線の組織内照射や外部照射が行われます。 - 薬物療法
術後補助療法として、抗がん剤と放射線治療の併用が行われることがあります。
歯肉がん
歯肉がんは、歯周病やむし歯による炎症が繰り返し生じた歯の周囲や、適合不良な義歯の下の粘膜に発生する傾向にあります。
主な症状は歯肉の腫れや出血、潰瘍形成で、顎骨の溶解や歯の不安定化を引き起こすこともあります。診断が難しく、誤った診断によって抜歯されるケースもありますので、口腔外科の受診が重要です。
治療法:
歯肉がんの治療には以下の方法が用いられます。
- 手術(外科治療)
浸潤の深さによって手術範囲が異なり、浸潤がわずかな場合は下顎辺縁切除術が行われ、顎骨への浸潤が深い場合には下顎区域切除術が必要になります。手術後、摂食機能や顔貌を保つために、肩甲骨移植やプレートとネジで固定する手術が行われます。失われた歯に対しては、顎義歯やインプラントが用いられます。 - 術前化学放射線療法
上顎歯肉がんや硬口蓋がんに対しては、手術前に抗がん剤と放射線の併用療法が選択されることもあります。がん細胞の増殖を抑制する目的で行われます。
口腔粘膜疾患の診断方法
口腔粘膜疾患の診断方法には、既往歴や使用している薬剤の確認のほか、状況に合わせて以下のような検査が複合的に実施されます。
- 舌の痛み:唾液分泌量検査や血液検査、細菌検査のほか、心理テストを実施する場合もある
- がん疑い:病理組織検査、細胞診
- 歯科用金属アレルギーの疑い:金属パッチテストや歯科金属補綴物分析検査
- 口腔乾燥の疑い:唾液量検査や唾液分泌機能検査、シェーグレン症候群の場合は唾液腺造影や口唇腺生検
- 感染症の疑い:口腔内細菌検査や血液検査を行い、口腔カンジダ症やヘルペス感染症などを検出
- 味覚異常:濾紙ディスク法や電気味覚試験
- 自己免疫の疑い:免疫学的検査、標的抗原の検索、病理組織像
これらの検査で、ほかの口腔粘膜疾患との鑑別診断を行うことが重要です。
口腔粘膜疾患の予防方法
最後に、口腔粘膜疾患の予防方法について疾患別に解説します。
口腔カンジダ症
口腔カンジダ症の予防には、以下の点に注意しましょう。
- 義歯の調整や新しい作成による噛み合わせの維持
- 鉄分や亜鉛、ビタミンなどの栄養素を摂取して口内の粘膜を強化
- 口内の衛生状態を保つ(口腔清掃で口の皮膚や粘膜を保護するため、消毒目的のうがい薬の長期使用は避ける)
白板症
白板症の予防には、以下の点に注意しましょう。
- 歯科医院での定期的な受診で早期発見と適切な歯科治療を受ける
- 喫煙や過度な飲酒を控え、健康的な生活習慣を実践する
- 辛い食べ物や熱い食べ物を控え、食生活を改善する
紅板症
紅板症の予防には、以下の点に注意しましょう。
- 正しい歯磨き方法を習慣化して口を清潔に保つ
- 尖った詰め物がある場合は歯科医院で研磨してもらう
- 口腔を定期的に観察し、異常が見つかったら口腔外科を受診する
- 刺激物の摂取を控え、口腔内の粘膜に慢性的な刺激を与えないようにする
口腔乾燥症
口腔乾燥症の予防には、以下の点に注意しましょう。
- 食べ物をよく噛むことや唾液腺のマッサージ、口腔の体操を行い、唾液の分泌を促す
- 正しい食生活と生活リズムを維持しストレスを軽減する
- 喫煙やアルコールの摂取を控える
- 水分補給をこまめに行い、口腔内の水分を維持する
- 口での呼吸を避ける
再発性アフタ
再発性アフタの予防には、以下の点に注意しましょう。
- 口腔内を傷つけないよう(粘膜を誤って噛むなど)注意する
- 疲労や精神的ストレス、喫煙などの生活習慣を見直す
- 鉄やビタミンの不足による栄養不足を防ぐため、バランスの取れた食事を心がける
- 口腔内を清潔に保ち、免疫力を高めることで再発を抑える
悪性腫瘍(口腔がん)
悪性腫瘍(口腔がん)の予防には、以下の点に注意しましょう。
- 禁煙と節度のある飲酒を心がけ、栄養バランスのとれた食事を摂る
- 歯みがきやうがいを習慣化し、口腔内を清潔に保つ
- 合わない入れ歯やむし歯を放置せず治療する
- 日常的に口腔内を観察し異常に早く気づく
- 定期的に歯科医院を受診し、口腔内のケアやチェックを受ける
まとめ
ここまで口腔粘膜疾患とは?についてお伝えしてきました。口腔粘膜疾患とは?の要点をまとめると以下の通りです。
- 口腔粘膜疾患とは、口の中の粘膜部分に発生するさまざまな症状の総称
- 主な口腔粘膜疾患には、口腔カンジダ症、白板症、紅板症、扁平苔癬、口腔乾燥症、再発性アフタ、ウイルス性口内炎、自己免疫性水疱症、悪性腫瘍(口腔がん)などが挙げられる
- 口腔粘膜疾患の診断には、既往歴や使用している薬剤の確認のほか、状況に合わせて複数の検査を複合的に実施し、ほかの口腔粘膜疾患との鑑別診断を行うことが重要
口腔粘膜疾患とは、複数の症状の総称です。鑑別が難しいものもあるため、専門の医療機関でしっかりと診断をして、早期に治療を開始することが重要です。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。