口腔粘膜疾患は、炎症や感染が原因で起こる口内の異常を指し、多くの人が一度は経験する問題です。
適切なケアと定期的な検診の重要性を理解し、健康な口腔環境の維持につなげましょう。
本記事では口腔粘膜疾患の治療方法について、以下の点を中心にご紹介します。
- 口腔粘膜疾患とは?
- 口腔粘膜疾患の治療方法
- 口腔粘膜疾患の予防法
口腔粘膜疾患の治療方法について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
そもそも口腔粘膜疾患とは?
口腔粘膜疾患とは、口の内側を覆う粘膜に発生するさまざまな病状を指します。この粘膜は食事や歯、入れ歯などによる刺激によって感染し、病変が発生しやすい特性を持ちます。
病態は多岐にわたり、中には全身疾患の一症状として現れたり、皮膚疾患の特徴を表す場合もあります。
口腔内は、病態が変化するため、歯科や口腔外科だけでなくほかの科との連携が求められます。特に、患者さんが受診する時点で、症状が進行している場合が多く、診断や治療には時間と注意が必要とされます。
主な口腔粘膜疾患
口腔粘膜疾患は、紅斑、紫斑、色素斑、白板症、丘疹、結節、水疱など多岐にわたる症状があり、ときには全身疾患の兆候としても現れます。以下で、具体的な口腔粘膜疾患について解説します。
白板症
白板症は口腔粘膜、特に頬や舌、場合によっては歯肉に見られる白い変色病変を指し、擦っても剥がれない特徴があります。
この状態は、口腔内の粘膜上皮が異常に肥厚し、その下の毛細血管が見えなくなることで白く見えます。白板症は特に舌に発生した場合、悪性転化のリスクが高く、前癌性状態の一つとみなされます。
痛みを伴わないことも多く、日常的な歯科検診で偶然発見されることもありますが、接触痛や食物がしみるなどの症状が伴うこともあります。
40歳以上の男性に多く見られ、喫煙がリスク因子として関連しているとされています。前がん病変としての扱いを受けるため、早期発見と適切な管理が重要です。
紅板症
紅板症、別名紅色肥厚症は、口腔粘膜に発生する病変で、特に舌、歯肉、口蓋などに見られます。この状態は鮮やかな紅色でビロード状の表面を持ち、境界が明瞭であることが特徴です。
患者さんはしばしば刺激に対して痛みを感じることが初期症状として多く見られます。紅板症は50歳以上の高齢者に多く見られ、全症例の約80%を占めています。疾患の約50%が悪性化するとされ、白板症よりもがん化のリスクが高いと考えられています。
この病気は、がんへの転化率の高さから、早期発見と適切な治療が求められる重要な口腔疾患です。
口腔カンジダ症
口腔カンジダ症はカンジダ・アルビカンスという真菌が原因で生じる感染症で、口腔内の粘膜に白苔状の病変を引き起こします。
この疾患は急性と慢性の型に大別され、患部は痛みや味覚障害を伴うことがあります。特に偽膜性カンジダ症は、灰白色または乳白色の白苔が粘膜に付着し、除去後には粘膜の赤みや潰瘍を示すことがあります。
一方、慢性の形態には、肥厚性カンジダ症があり、白苔が固く粘膜に定着し、粘膜の厚みが増します。カンジダ症のリスクは免疫力の低下、唾液量の減少、義歯の不適合などによって高まり、特に高齢者に多く見られます。
口腔カンジダ症は、早期の診断と適切な治療が重要であり、症状や患者さんの健康状態に応じた治療法が求められます。
アフタ性口内炎
アフタ性口内炎は口腔内に現れる小さな潰瘍で、数ミリの直径を持ち、円形または楕円形の浅い潰瘍が特徴です。潰瘍部は灰白色や黄白色の膜で覆われ、周囲は赤く炎症します。
触れるだけで痛みを感じ、刺激物によって痛みが増すこともあります。1〜2週間で自然に治癒するものの、再発性アフタ性口内炎の場合は潰瘍が繰り返し現れるとされています。
約20〜60%の人が生涯にわたって何度か経験するとされ、特に20〜30代の若年層や女性がかかる傾向があり、日常生活に支障をきたすこともあります。慢性再発するアフタ性口内炎は、ベーチェット病の一症状として見られることもあり、適切な診断と治療が必要です。
扁平苔癬
扁平苔癬は、皮膚や口腔粘膜に現れる角化性かつ炎症性の難治性疾患であり、頬粘膜に多く見られることが特徴です。
扁平苔癬は口腔内に限らず、舌や口唇、ときには歯肉にも生じることがあり、その病変はこすっても消えることはありません。
痛み、口内の荒れ、出血、不快感、味覚異常、灼熱感などの症状が現れ、改善したり悪化したりを繰り返すことがあります。扁平苔癬はまれにがん化するリスクを持っているため、発見したときは迅速な診断と治療が求められます。
口腔粘膜疾患の治療方法
口腔粘膜疾患の治療は、病変の種類と原因に応じて異なります。ここでは、口腔粘膜疾患別の治療法を解説します。
白板症
白板症の治療法は多岐にわたりますが、その病態や原因に応じて異なります。一般的に以下のような治療が考慮されます。
- ビタミンAの投与と禁煙: 軽度の白板症に対しては、ビタミンAの補給や禁煙により、白板症の進行を遅らせることが期待されます。
- 外科的切除: 表面が不均一で異形細胞が見られる白板症は、がん化のリスクが高いため外科的切除が推奨されます。ヨード溶液を用いた生体染色を行い、不染域を含めた広範囲の切除が行われることがあります。
- 薬物療法: 外科手術が困難な場合や、白板症が大きく広がっている場合には、薬物療法が選択されることがあります。5-Fluorouracil (5-FU) 軟膏の局所投与が適切であるとされ、これにより病変の縮小を図ります。
これらの治療法は、白板症の性質や患者さんの全身状態を考慮して選択され、複数の治療法が組み合わされます。また、治療後も長期にわたる経過観察が必要とされることがあるとされています。
紅板症
紅板症の治療には、悪性転化のリスクを考慮して、外科的切除が推奨されます。この外科的切除は、紅板症のがん化を防ぐために、患部を早期に取り除くことを目的としています。
手術は、ほかの内臓がん手術より身体への負担は少なく、多くの場合は局所麻酔のもとで行われます。しかし、紅板症が悪性化するリスクが高いため、手術後には定期的な経過観察を受ける必要があります。
この観察期間は、再発や新たな病変の早期発見に重要であり、病状の進行を防ぐためには不可欠です。治療計画は、患者さんの状態や病変の広がりに応じて個別に決定され、早期治療と定期的な経過観察が、良い結果を得る鍵となります。
口腔カンジダ症
口腔カンジダ症の治療法は、症状の程度や患者さんの全体的な健康状態に基づいて選択されます。
軽度の場合、抗真菌薬を含むうがい薬や塗り薬の局所治療が一般的です。特に義歯を使用している人は、入れ歯を清潔に保つことが重要で、専用の入れ歯洗浄剤の使用が推奨されます。
一方で、症状が重い、または基礎疾患を持つ患者さんには、抗真菌薬の内服治療が必要になることがあります。ミコナゾールゲルのような抗真菌薬は、服用しやすい形状のため、特に高齢者や小児に適しています。治療の効果は通常、開始数日で明らかになりますが、再発防止のため、症状が消失してからも2〜3週間は継続的な治療が推奨されます。
極めて稀なケースでは、局所的な炎症が特定の部位に限定されている場合、外科的な切除が選択されることもあります。このように、口腔カンジダ症の治療は、病状に応じて基礎疾患の有無を考慮して選択されます。
アフタ性口内炎
アフタ性口内炎の治療には、現在根治療法が存在しないため、対症療法が中心となります。この治療の主な目的は症状の緩和と患者さんの不快感の軽減です。治療法は以下の通りです。
- 局所治療: 副腎皮質ステロイドを含む軟膏や口腔粘膜貼付錠、噴霧薬が一般的に使用されます。これらは直接患部に適用し、炎症を軽減させることで痛みを和らげ、治癒を促進します。
- うがい薬: 抗炎症作用を持つうがい薬も、症状緩和に適しています。炎症を鎮め、口内を清潔に保つことで感染のリスクを低減し、快適な口内環境を維持します。
- 内服薬: 症状が重い場合や局所治療だけでは不十分な場合には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗アレルギー薬、ビタミン剤、漢方薬などの内服薬が処方されることがあります。これらは体系的に炎症を抑え、全身からの症状緩和を図ります。
治療の選択は、症状の重さ、患部の位置、および患者さんの状況に応じて行われます。いずれの治療法もすぐに効果が現れるわけではありませんが、適切な管理によって痛みを軽減します。
扁平苔癬
扁平苔癬の治療は根本治療法が存在しないため、症状の緩和と生活の質の向上を目的とした対症療法が中心となります。以下にその代表的な治療法を紹介します。
- ステロイド軟膏: 扁平苔癬による炎症と痛みを抑えるために用いられる方法です。抗炎症作用により、患部の不快感を和らげます。
- ビタミンA製剤: タミンAは粘膜の正常な機能を促進するために使用され、粘膜の健康を維持し、乾燥を防ぐことで患部の回復を支援します。
- アルカロイド製剤: 抗アレルギー作用に加え、末梢血管を拡張し血流を改善することで、病変部への栄養供給を促進し、症状の改善を図ります。
- タクロリムス軟膏: 免疫反応の過剰な活動を抑制することで、扁平苔癬の活動を抑え、症状の悪化を防ぎます。
- マレイン酸イルソグラジン: 血液の循環を改善し、傷ついた粘膜の修復を助けることにより、病変部の回復を促進します。
歯科用金属によるアレルギーが関与している可能性がある場合は、金属アレルギー検査を行い、問題のある充填物や冠を除去することも治療の一環となります。
口腔粘膜疾患の予防法
口腔粘膜疾患を予防するには、日々の口腔衛生を徹底することが大切ですが、具体的にどのようなことを行えばいいのでしょうか?以下で具体的な予防法について解説します。
アルコールや喫煙を控える
口腔粘膜疾患を予防するためには、刺激物への注意が欠かせません。特に、喫煙とアルコールは口腔粘膜への直接的な刺激となり、さまざまな疾患のリスクを高めることが知られています。
タバコの煙に含まれる化学物質は、口腔粘膜の細胞にダメージを与え、炎症や細胞の異常増殖を引き起こす可能性があります。また、アルコールは粘膜を乾燥させ、その保護機能を低下させることで、細菌や真菌に感染しやすくなります。
総じて、喫煙を控え、アルコール摂取を適度にすること、バランスの取れた食事を心がけることが、口腔粘膜疾患の予防につながります。
ストレスや栄養不足に注意
口腔粘膜疾患の予防において、ストレス管理と栄養バランスの良い食生活は非常に重要です。
ストレスは免疫機能に影響を及ぼし、口腔内の環境を不安定にすることがあります。そのため、十分な休息を取り、ストレスを管理することが推奨されています。
また、栄養不足は口腔粘膜の健康を維持するための基本的な要素であり、特にビタミンA、C、E、B群及び鉄、亜鉛などのミネラルが重要です。
これらの栄養素は粘膜の修復と再生を促進し、感染症からの保護機能を高めます。バランスの取れた食事を意識し、必要に応じて栄養補助食品を取り入れることも一つの手段です。したがって、健康な生活習慣を心がけることが、口腔粘膜疾患の予防につながります。
口腔ケア
口腔粘膜疾患の予防には、口腔ケアが不可欠です。これには歯科医による定期的なケアと日々のセルフケアが含まれます。
専門的なケアでは、むし歯や歯周病の治療、歯石除去、定期的なクリーニングが行われ、口内環境の健全化を図ります。特に、がん治療前には、感染リスクを低減させるための口腔ケアが推奨されています。
セルフケアとしては、適切な歯磨き方法の習得や、炎症、潰瘍に対する局所副腎皮質ステロイド剤の適切な使用、痛みがある場合の麻酔薬含有うがい薬の利用があります。
したがって、歯科衛生士による口腔衛生指導も重要で、歯磨き方法の指導を受けることで、口内を清潔に保ち、疾患の発生や悪化を予防できます。
口腔粘膜疾患は何科を受診したらいいの?
口腔粘膜疾患の場合、歯科や歯科口腔外科が主な受診先となります。これらの診療科は口の中のさまざまな問題に特化しており、歯茎や舌、顎、唇、頬の粘膜など、口内のトラブル全般を診察・治療できます。
しかし、症状や疾患によってはほかの診療科でも適切な治療が可能です。痛みがなくても口の中に何か違和感を感じる場合は、歯科や歯科口腔外科を受診することが大切です。
まとめ
ここまで口腔粘膜疾患の治療方法についてお伝えしてきました。 口腔粘膜疾患の治療方法の要点をまとめると以下の通りです。
- 口腔粘膜疾患は、口の内側を覆う粘膜に発生するさまざまな病状を指し、食事や歯、入れ歯などによる刺激によって感染し、病変が発生しやすいという特性を持っている
- 口腔粘膜疾患の治療方法は病態や原因によって異なるが、適切な治療を受けることが大切
- 口腔粘膜疾患を予防するには、アルコールや喫煙を控え、ストレスや栄養不足に注意し、口腔ケアを徹底することが重要
口腔内の炎症が2週間以上経過しても、改善が見られない場合には歯科や歯科口腔外科を受診しましょう。