舌癌という癌をご存じでしょうか?
舌癌は悪性腫瘍の一つで、名前のとおり舌にできる癌です。舌癌もほかの癌と同様に早期発見と早期治療が生存率を高めるために重要となりますが、口内炎と誤認して放置してしまいやすく判断が遅れてしまうことも多いです。そのため、正しい知識を身に着けて早めの判断や対策を行えるようにしましょう。
舌癌の診断方法
- 舌癌とはどのような症状ですか?
- 舌癌は舌に悪性腫瘍ができる症状です。
腫瘍には悪性と良性があり、良性のものは周囲の組織への浸潤や転移がないもので、悪性腫瘍は周囲の組織や離れた組織を癌化させる働きを持つことから、症状の進行に伴って身体の中の多くの組織の働きを阻害し、臓器の不全などによって命に関わる可能性が高いものという違いがあります。舌癌ができる部位は主に舌の両端や裏側で、舌の表面や中央部分にはあまり発生しません。ほとんどのケースで舌の表面側に小さな腫瘍ができて、時間経過とともに腫瘍が拡大し、深い部位へと進行していきます。なお、舌癌は口の中にできる癌である口腔がんの一種とされていますが、口腔がんの半数程が舌癌です。
また、舌の根元に近い部分に癌ができる場合がありますが、この場合は口腔がんや舌癌ではなく、咽頭がんとして分類されます。
舌癌は舌先の方にできるものであり、鏡でチェックが可能な部位にできる癌といえます。
- 舌癌の治療は可能ですか?
- 舌癌は手術や放射線、薬物による治療が行われます。癌の進行状況によっても完治できる可能性や治療後の生存率が変わり、初期のステージ1で見つかれば5年後生存率は90%以上であるのに対し、ステージ2では70%、ステージ3では60%、ステージ4以降では50%程度と減少していきます。
そのため、極力早い段階での発見が良好な治療の重要なポイントであり、歯科口腔外科などの口腔がん、舌癌を専門的に取り扱う診療科への定期的な通院が推奨されています。
- 舌癌は何科にかかればよいですか?
- 舌癌の心配がある方は、まず歯科口腔外科を受診することをおすすめします。
歯科口腔外科は口腔内の外科的な治療に関するスペシャリストで、口腔がんや舌癌の治療のほか、難しい親知らずの抜歯や顎関節症の治療、インプラント手術などを取り扱っています。
歯科医院として歯のクリーニングや歯科検診を行っている医院が多く、かかりつけ医として定期的に通院をすることで舌癌を早期発見できる可能性が高くなります。
舌癌のリスク
- 舌癌はどのように進行していくか教えてください
- 舌癌はほとんどの場合で扁平上皮細胞という舌の表面を覆っている細胞から発生し、徐々に深くへと進行していきます。
舌癌は腫瘍のサイズや転移状況などによってステージ分けされており、腫瘍サイズが2cm以下で深さが5mm以下であれば初期のステージ1と分類されます。そこから徐々にサイズが大きくなり、最大径が2cm以下で深さが5mm以上になるか、最大径が2cm以上4cm以下で深さが10mm以下であればステージ2となります。ステージ3以降は腫瘍のサイズだけではなく転移があるかが関係し、ステージ2の分類となる最大径を超えた大きさの腫瘍になった場合や、リンパ節への転移があり、転移がリンパ節の外への広がっていないというような場合はステージ3に該当します。ステージ4はさらに症状が進行し、転移がリンパ節の外側や離れた臓器まで到達してしまった場合や、腫瘍が骨を貫通し皮膚にまで到達している状態です。
- がんと間違いやすい疾患はありますか?
- 舌癌と間違われやすい疾患に口内炎があります。口内炎は口腔内に生じる炎症全般を指す言葉ですが、免疫力の低下などによって舌に付着した細菌などが増殖すると、そこが炎症部位となって腫れ、強い痛みを感じるようになります。
口内炎は誰にでもよく発生する症状の1つであるため、舌にしこりができたとしてもそれが口内炎によるものと考えて放置してしまい、なかなか治らないことから口腔外科などを受診して舌癌であることが判明するというケースも多くあります。
- どのような症状が出ていたら診察にかかるべきですか?
- 舌癌が発生すると、舌の一部がほかと比べて真っ白になる白斑病変を生じることが多いため、歯磨きの際などに舌をチェックしてみて、特に舌の端が白くなっていると感じたら一度診察を受けてみるとよいでしょう。
また、間違われやすい症状である口内炎との違いとして、舌癌は初期状態であれば硬結(しこり)があるものの痛みを感じにくいという性質があることや、口内炎は放置しておいても1~2週程度で治る性質のため、痛みの少ない腫れが続く状況や、3週間程度が経過しても治らない口内炎がある場合は早めに一度診察を受けるようにしましょう。
舌癌の治療法
- 舌癌と診断されたらどのように治療が行われますか?
- 舌癌と診断された場合、症状の進行状況によっても治療法が変わりますが、まずは腫瘍を切除する手術が行われます。
発生の初期であれば舌の端だけなど部分的な切除で治療が可能なケースもありますが、腫瘍のサイズが大きくなっている場合は舌の半分など、より広範囲での切除が必要となることもあり、さらに症状が進行していくと顎などにも広がっていくため、顎の部分切除など広い範囲での治療が必要となります。
また、舌癌は早い段階で頸部リンパ節に転移しやすいという特徴もあり、転移が認められる場合や、治療時には転移が認められなくとも、転移している可能性が高いと医師が判断した場合には頸部郭清術といって、リンパ節を周囲の組織ごと切除する手術が行われます。
切除術では腫瘍の部位だけではなくその周囲の細胞も除去されるため、必要に応じて再建術が行われます。再建術では体のほかの部位から採取した組織や人工物を使用して、状態を回復させます。
なお、舌癌の初期であれば病巣の切除のみで完治する場合もありますが、リンパ節への転移などが生じた場合には切除術の後にも放射線治療や抗がん剤治療が継続して行われるケースもあります。
- 治療におけるリスクについて教えてください
- 切除手術については、舌の部分切除であれば治療後に食事を飲み込む機能や発音する機能、そして味覚の低下が生じるなどのリスクがあります。
リンパ節への転移がある場合の頸部郭清術を行った場合は、リンパ組織だけではなく周囲の神経や血管、筋肉といった組織も切除することがあり、顔のむくみや肩が動かしにくくなるという運動障害を生じる可能性があります。手術以外では放射線治療や抗がん剤治療が行われる場合がありますが、放射線治療では口腔内の乾燥や痛み、味覚障害や倦怠感といった副作用リスクが考えられます。抗がん剤治療では吐き気や嘔吐といった副作用のほか、脱毛などの反応が生じるリスクがあげられます。
- 舌癌を治療した後の再発率はどれくらいですか?
- 舌癌が原発巣から再発する可能性は10~20%強とされています。舌癌が発生した場所や治療の内容によっても再発率が異なります。
また、舌癌は治療の際には転移がみられなくても、治療の後でリンパ節への転移が見つかるというケースもある症状のため、原発巣からの再発ではありませんが、治療後に転移した癌が見つかって再発したと感じるケースも考えられます。
舌癌を引き起こす原因
- 舌癌はなぜ発生しますか?
- 舌癌を含めて悪性腫瘍が発生する要因は、細胞が複製される際に遺伝子異常が発生するためです。
通常は細胞の複製は一定の回数で停止するため細胞が過剰に増え続けるということはありませんが、遺伝子異常が生じた場合は急速に増殖を続けてしまい、大きな塊となって周囲の組織の働きを阻害する要因となります。通常はこうした異常な働きをする細胞は体の持つ免疫機能により除外されるのですが、免疫機能の低下などがあると増殖を防ぐことができず、癌が発生しやすくなります。
細胞のコピーにおける異常であるため、口内環境が悪く粘膜が損傷しやすい状態などにあると新しい細胞が作られる頻度が高くなり、腫瘍の発生リスクも高まるといえます。
- 舌癌になるのを防ぐための方法はありますか?
- 舌癌をはじめ口腔がんを予防するためには、第一に口腔内を清潔に保つことが大切です。
定期的な歯のクリーニングなどを受けて清潔に保つことで、過剰な代謝を促進する刺激を抑えて舌癌のリスクを低下させます。
また、喫煙や飲酒といった刺激は舌癌のリスクも高めるため、なるべく控えた方がよいでしょう。
編集部まとめ
舌癌は初期に見つかれば安全に治療しやすく、身体への負担も少なくなります。
歯科口腔外科での歯科検診を受けることなどで早期発見や治療を行いやすくなりますので、信頼できるかかりつけ医を見つけて定期的な歯のクリーニングや健診を受けることをおすすめします。
参考文献