口腔カンジダ症と口内炎は、いずれも口腔内の粘膜に炎症を起こす疾患です。このうち口腔カンジダ症は専門の医療機関での適切な治療が必要になります。
本記事では、口腔カンジダ症と口内炎の違いや口腔カンジダ症の原因・治療法・予防策について詳しく解説します。
お口の健康を守るために、正しい知識を身につけましょう。
口腔カンジダ症と口内炎の違い
- 口腔カンジダ症と口内炎の違いを教えてください。
- 口腔カンジダ症とは、口腔内でカンジダ菌と呼ばれる真菌(カビ)の増殖により発症する感染症で、カンジダ性口内炎とも呼ばれています。
一方口内炎とは、口腔内の粘膜に起こる炎症を総称した呼び方で、原因や症状によりさまざまな種類に分類されます。
つまり口腔カンジダ症は、多数の種類が存在する口内炎の一種です。
一般的によくみられる種類の口内炎はアフタ性口内炎と呼ばれるもので、原因不明ですが、通常は1〜2週間程度で自然治癒します。そのため、痛みがひどくなければ放置していても問題ありません。
しかし、口腔カンジダ症は自然治癒が難しく、専門の医療機関での治療が必要になります。
- 口腔カンジダ症とはどのような病気ですか?
- 口腔カンジダ症はカビの一種であるカンジダ菌の増殖によるもので、日和見感染の一種とされています。カンジダ菌は弱毒性で、健康な方の口腔内にも存在する常在菌です。
通常、免疫系や口腔内の細菌のバランスによってカンジダ菌の増殖が抑えられています。しかし、免疫力の低下やステロイド剤の投与などが原因となって常在菌のバランスが崩れることでカンジダ菌が過剰に増殖し、口腔カンジダ症を発症します。
これまでは健康な方に発症することはまれとされていましたが、近年の高齢化に伴い口腔内の乾燥や義歯の清掃不良により、健康な方も罹患しやすくなってきました。
口腔カンジダ症は臨床的に以下の3つに分類されます。- 偽膜性カンジダ症
- 萎縮性カンジダ症
- 肥厚性カンジダ症
偽膜性カンジダ症は、3つのうち発生頻度の高い口腔カンジダ症であり、口腔内にぬぐいとることが可能な乳白色の白苔が発生します。軽症の場合がほとんどですが、重症になると痛みを伴うこともあります。
萎縮性カンジダ症は、口腔内に赤色の斑点が現れる特徴を持ち、特に義歯を装着している方によくみられる病型です。義歯の装着自体が原因ではなく、義歯を清潔に保てていないことが原因とされています。
肥厚性カンジダ症はまれな疾患で、口角や頬などの粘膜上皮にカンジダ菌が侵入することで、上皮の過形成が起こります。症状は少ないですが、硬く肥厚した上皮を形成するため、形態異常を気にして通院されることで見つかる場合がほとんどです。
- 口腔カンジダ症になるとどのような症状が出ますか?
- 口腔カンジダ症の主な症状は以下のとおりです。
- 口腔内の白い斑点や膜状物
- 口腔内の不快感や痛み
- 味覚異常
- 赤みや炎症
口腔カンジダ症では、口腔内に白い斑点や膜が現れる症状が一般的で、偽膜性カンジダ症の方によくみられます。
これらの斑点はガーゼで拭いとることができるものも少なくなく、斑点の下は赤く腫れあがっていたり出血したりします。
口腔内の粘膜の痛みや不快感の症状は、萎縮性カンジダ症の方にみられる症状です。特に食事中に痛みを感じやすく、義歯を装着している方は義歯がうまくはまらないことで通院され、口腔カンジダ症と診断されることもあります。
また、口腔内だけではなく、口角(お口の両端)が切れて炎症が起きる口角炎が伴うこともあります。
- 口腔カンジダ症が疑われる場合の受診目安を教えてください。
- 口腔カンジダ症は、症状が軽度でも適切に治療しないことによる症状の悪化や、難治性に移行することで再発を繰り返しやすくなります。
そのため、気になる症状がみられた場合は、早めに専門の医療機関を受診するのが望ましいです。
口腔カンジダ症(カンジダ性口内炎)の原因
- 口腔カンジダ症の原因を教えてください。
- 口腔カンジダ症を発症する原因は複数ありますが、そのうち主な原因のものは6つあります。
- 免疫力の低下
- 副腎皮質ステロイド薬の投与
- 長期間の抗生物質の服用
- 糖尿病
- 口腔内環境の悪化
- 口腔内の乾燥
これらの原因はどれも常在菌のバランスを崩し、カンジダ菌の増殖を促します。特に口腔内の環境悪化による口腔カンジダ症が増えています。これは近年の高齢化に伴い、義歯を装着する方が増えてきた結果、義歯の清掃不良により口腔内のカンジダ菌が増殖しやすいためです。
また、口腔内の乾燥も口腔カンジダ症の原因の一つです。
唾液には粘膜保護や自浄・抗菌作用などがありますが、唾液の分泌量の減少により口腔内は乾燥しやすい環境となり、カンジダ菌の増殖につながります。
- 口腔カンジダ症になりやすい方の特徴を教えてください。
- 口腔カンジダ症は健康な方にも発症する可能性はありますが、特に以下のような特徴を持つ方は発症リスクが高くなります。
- 免疫力が低下している(HIV感染者・がん罹患者さん・高齢者など)
- 慢性的な疾患をもっている(糖尿病・シェーグレン症候群など)
- 薬剤の影響を受けやすい
- 口腔内の環境が悪化している方
免疫力が低下している方のなかでも、特にHIV感染者は口腔カンジダ症を発症しやすいです。
また、高齢者は免疫機能が低下していることに加え、義歯の使用や口腔内の乾燥も発症リスクを高めています。
長期間にわたる抗生物質の服用は、口腔内の細菌がいなくなる代わりにカンジダ菌を増殖させている場合があります。喘息や慢性閉塞性肺疾患の治療で使用される吸入ステロイドも口腔内のカンジダ菌を増殖させる要因です。
薬の服用により口腔カンジダ症を発症している可能性がある方は、自己判断で休薬せず、かかりつけ医に相談しましょう。
口腔カンジダ症(カンジダ性口内炎)の治療と予防
- 口腔カンジダ症の診断ではどのような検査を行いますか?
- 口腔カンジダ症の診断には検査が必須ではなく、患者さんの症状や病歴、医師による視診により診断が下される場合もあります。
医師が検査を必要とした場合には、細胞診や培養検査を行います。それぞれ綿棒やヘラなどで患部をこすって検体を採取し、顕微鏡での観察や培養することでカンジダ菌の同定が可能です。
細胞診はその場で結果がわかりますが、培養検査の場合結果が出るまでに数日かかります。
- 口腔カンジダ症の治療法を教えてください。
- 口腔カンジダ症は、病型や重症度によって治療方針が異なります。
肥厚性カンジダ症の場合、薬剤による治療では病変が消失するまで時間がかかる場合があることや悪性化する可能性などから、外科的処置も候補の一つです。
偽膜性カンジダ症や萎縮性カンジダ症において軽症の場合は、うがい薬の使用や口腔ケアによって改善することがあります。義歯を使用している方は、義歯洗浄剤を使用して義歯を清潔な状態に保つことも大切です。
症状が中等度から重度の治療法には、抗真菌薬を使用した薬剤治療を行うことが一般的です。一般的にミコナゾールゲル・アムホテリシンBシロップ・イトラコナゾール 内用液といった抗真菌薬が使用されます。
ただしこれらの薬剤のなかには、ほかの薬との組み合わせが悪く、併用できないものも存在します。口腔カンジダ症は免疫力が低下している高齢者も多数おり、複数の薬を服用している方も少なくありません。
服用中の薬がある方は、受診の際に服用中の薬があることを医師に伝えましょう。
- 口腔カンジダ症は市販薬でも治りますか?
- 現在日本では、口腔カンジダ症の治療に特化した市販薬はありません。口腔カンジダ症の治療には抗真菌薬が必要で、それには医師の診断と処方箋が必要です。
一方、義歯洗浄剤やうがい薬などの口腔ケア用品は市販されており、それらの使用により症状の改善がみられる場合もあります。
しかし、口腔カンジダ症は免疫低下によって引き起こされる日和見感染であり、口腔カンジダ症以外に思わぬ疾患が隠れている可能性もあります。そのため、専門の医療機関への相談が大切です。
- 口腔カンジダ症を予防する方法はありますか?
- 口腔カンジダ症の予防方法には、次の3つがあげられます。
- 適切な口腔ケア
- 口腔内の乾燥を防ぐ
- 徹底した義歯管理
口腔ケアには、15〜30倍に希釈した7%ポビドンヨード液・ベンゼトニウム含嗽薬・炭酸水素ナトリウムを含むアズレン含嗽薬などのうがい薬の使用が推奨されています。
要介護者でうがいができない場合は、生理食塩水を含ませた綿球やスポンジブラシで口腔内を清掃してあげるとよいでしょう。
口腔内の乾燥はカンジダ菌を増殖させる原因のため、口腔内用の保湿ジェルやマスクの使用により口腔内の乾燥を防ぐことも予防方法の一つです。
また、適度な水分補給や咀嚼回数を増やすなどお口周りの筋肉を動かし唾液分泌を促すことでも、口腔内の乾燥を防げるでしょう。
義歯を使用している方は、管理方法に気を付けることで、カンジダ菌の増殖を防ぐことが可能です。
一般的に義歯の材質はカンジダ菌が付着しやすく、ブラシでこするだけでは取り除けません。超音波による義歯洗浄やポリデントなどの義歯洗浄剤の使用により、カンジダ菌の増殖を予防できます。
近年、義歯の清掃不良による口腔カンジダ症の方が増えているため、しっかりと義歯を管理して口腔カンジダ症を予防しましょう。
編集部まとめ
口腔カンジダ症と口内炎は広義でみれば同じ口内炎ですが、口腔カンジダ症は専門の医療機関での治療が必要な疾患です。
口腔カンジダ症は、免疫力の低下や薬剤の使用に加えて不衛生な義歯の管理もリスクが高まる要因であり、適切な治療と予防が重要です。
症状が疑われる場合は、早めに専門の医療機関を受診し、正しい診断と治療を受けましょう。
参考文献