鏡を見て「自分の顔がなんだか左右で違って見える…」と感じたことはありませんか?顔の左右差(ゆがみ)は程度の差こそあれ誰にでもあるものです。スマートフォンやパソコンの長時間使用による猫背・首の前突きといった悪い姿勢が、身体の歪みを招き顔の歪みの原因になることもあります。そこで、本記事では、こうした顔の歪みの原因から、口腔外科で対応できる症状や治療の流れ、さらに手術が必要なケースと日常生活でできる改善策までを解説します。
顔の歪みに悩む人が増えている背景

最近、写真や動画で自分の顔を見る機会が増えたり、美容意識が高まったりしたことで、顔の左右差が気になって相談に訪れる方がいます。もともと人間の顔や身体は完全な左右対称ではなく、骨格や筋肉の発達の違いにより多少の非対称が生じるのは自然なことです。しかし、マスク生活やリモート会議で自分の顔に意識が向きやすくなったこと、現代の生活習慣(長時間のスマートフォン操作による前傾姿勢など)が身体のバランスに影響を与えることから、顔の歪みへの関心が高まっているようです。
顔が歪んで見える原因

一口に顔の歪みといっても、その原因はさまざまです。骨格そのものの問題から日々の癖による筋肉バランスの偏りまで、考えられる原因を整理してみましょう。
顎の骨格(下顎・上顎)の左右差
顔の土台である顎の骨格に左右差があると、顔全体が歪んで見えます。上顎や下顎の形・大きさ・位置にズレがある状態は、専門的には顎変形症と呼ばれます。顎変形症とは、上下どちらかの顎骨(または両方)に生まれつきまたは成長過程で異常な発達が起こり、その結果として顔面の変形や噛み合わせの異常が生じている状態を指します。原因ははっきりわかっていない場合も多いですが、幼少期からの骨の成長バランスの乱れや遺伝的要因が関与すると考えられます。
噛み合わせや歯並びの問題
顎の骨格が正常でも、歯並びの問題によって顔が歪んで見えることがあります。上下の歯の噛み合わせが悪いと、顎が安定せず左右どちらかにずれて位置してしまうことがあるのです。また、上下の歯の噛み合わせがずれたまま放置すると、顎関節に無理な負担がかかり、お口が開けにくくなったり関節に痛みが出たりといった障害が現れることがあります。
姿勢・習慣による筋肉のアンバランス
日常生活の何気ない姿勢や癖も、顔の歪みの大きな原因となります。長年の生活習慣によって顔周りの筋肉に左右差が生まれると、骨格に異常がなくてもお顔が非対称に見えてしまうことがあります。また、食事の際に左右どちらか一方で噛んでいると、使われない側の筋肉は衰え、反対側ばかり発達してフェイスラインがアンバランスになることがあります。
さらに、姿勢の悪さも見逃せません。日頃から背骨や首がゆがむ姿勢(猫背など)で過ごしていると、それに伴って顎の位置もずれ、顔の筋肉の付き方にも左右差が出てきます。このように、全身の姿勢の歪みは顔の土台である顎の位置に影響を与え、結果として顔の左右非対称につながることがあるのです。
けがや外傷による後遺症
過去のけがや外傷によって顔の骨格に変形が残り、歪みが生じているケースもあります。交通事故やスポーツ中のアクシデントなどで顎の骨折を経験すると、骨がずれた位置でくっついてしまい顔貌に変形が残ることがあります。適切な位置に整復しないまま骨折が治癒すると、そのずれた骨格がそのまま顔の歪みとして残ってしまうのです。
口腔外科で対応できる顔の歪み

骨格や顎の位置に起因する顔の歪みであれば、歯科口腔外科が対応できます。一方、骨格は正常で歯並びだけの問題であれば、矯正歯科のみで改善できる場合もあります。ここでは、口腔外科が扱う代表的なケースをいくつか紹介します。
顎変形症に伴う骨格の左右差
先述の顎変形症による顎骨の左右差は、口腔外科の専門分野です。上顎骨と下顎骨のバランスが悪く顔面非対称が顕著な場合、矯正歯科治療だけではなく外科手術を伴う矯正治療が必要になることがあります。顎変形症と診断されるケースでは、噛み合わせにも異常があることが多く、治療には顎の骨自体の位置を正す手術が有効です。
下顎前突・下顎後退などの骨格的問題
顎の骨格そのものの前後方向のズレも、口腔外科の手術対象です。典型的なのは下顎前突と下顎後退です。これらは骨格的な問題であり、上顎前突(出っ歯)などとともに顎変形症の代表例です。歯並びだけでなく顎の骨そのものが前後方向にずれている場合、外科手術によって骨格を適切な位置に移動させる必要があります。
顎のずれによる噛み合わせのズレ
顔を正面から見たときに、下顎が左右どちらかにずれている場合も口腔外科で治療可能です。この場合、多くは噛み合わせも左右非対称になっており、片側でしかうまく噛めない、といった機能的な問題を伴います。原因としては成長期の顎の発達の不均衡や、偏った噛み癖・顎関節のトラブルなどさまざまですが、ずれてしまった下顎の位置を骨切り手術で正しい位置に戻すケースでは、矯正だけでは対応が難しいため、口腔外科での外科的矯正が検討されます。
外傷などで骨格が変形した場合
事故や外傷によって顎の骨格が変形した場合も、口腔外科での治療が可能です。例えば、以前に下顎骨折をして顎のラインが曲がってしまったり、頬骨の骨折後に頬の高さが左右で違って見えるようになった場合などです。骨折直後であれば形成外科や口腔外科で骨を元の位置に整復固定する治療を行いますが、受傷後時間が経って骨が癒合した後でも、必要であれば骨を再び切開して正しい位置に治す手術が検討されます。
顔の歪みに対する受診から治療開始までの流れ

初めて口腔外科を受診する際は不安もあるかもしれませんが、一般的な流れを知っておくと安心です。ここでは、診察から治療方針決定までの基本的な流れを解説します。
診察で確認される症状とヒアリング内容
まずは医師による診察です。医師は顔の歪みの程度や部位を視診し、お口の中を含めた状態を確認します。また、いつ頃から歪みが気になり始めたか、過去のけがや歯科治療の有無、普段の癖についても問診されます。こうした問診内容から、顔の歪みの原因の推察や、治療の必要性の有無を判断していきます。
検査と診断
診察・問診の後、必要に応じて各種検査が行われます。代表的なものは顔面や頭部のレントゲン撮影(X線写真)やCTスキャンです。これらの画像検査で顎の骨格の形状、上下の顎の位置関係、歯並びと顎関節の状態などを詳細に調べます。必要があればMRI検査などで顎関節や筋肉の状態を評価することもあります。これら検査結果をもとに診断を行います。
治療方針の説明と選択肢の提示
検査・診断の後、いよいよ治療方針の説明が行われます。医師から、現在確認できた顔の歪みの原因や程度、それに対する具体的な治療法が提案されます。治療法は一つとは限らず、複数の選択肢が提示されることもあります。それぞれの方法について、メリット・デメリットの説明を受け、患者さん自身の希望も踏まえて方針を決めていきます。
口腔外科における顔の歪みの治療法

口腔外科で行う顔の歪みへの治療は、大きく分けて手術による治療と矯正歯科治療(歯列矯正)があります。多くの場合、この二つを組み合わせて最良の結果を目指します。それぞれ具体的にどのような治療法なのか、見ていきましょう。
手術療法
顔の歪みの原因が骨格にある場合、根本的な解決策となるのが外科的な手術による治療です。顎の位置や形自体を変える手術の総称を顎矯正手術または骨切り術と言います。これは、上下どちらかの顎の骨(場合によっては両方)を外科的に切り離し、正しい位置に動かしてからプレートやボルトで固定する方法です。
歯列矯正
歯列矯正は、ワイヤーやマウスピースなどを用いて歯に持続的な力をかけ、徐々に歯並びや噛み合わせを整える治療です。顔の歪みが歯並びのズレから来ている場合は、この歯列矯正のみでかなりの改善が得られることがあります。特に軽度の場合や、子どもの成長期で骨が柔軟な場合は、手術をせず矯正治療だけで十分対応できることもあります。
手術が必要になるケース

顔の歪みの治療で手術をするかどうかは悩ましいポイントです。一般的に、以下のようなケースでは手術による治療が検討されることが多いでしょう。
見た目の左右差が大きい場合
まず、外見上の左右差が顕著な場合です。顔を正面から見て明らかに顎先が曲がっている、笑ったときに歯の見え方が左右で極端に違う、このような場合、手術で骨自体の位置を矯正しないと十分な改善が難しいと考えられます。
噛み合わせに機能的な障害がある場合
次に、噛み合わせの異常によって機能面の問題が出ている場合です。噛む・食べるという日常の基本的な動作に支障がある場合は、単なる見た目の問題ではなく医学的な治療適応となります。顎の位置異常が原因で噛み合わせが悪化しているなら、手術で顎を適切な位置に戻すことで咀嚼機能や顎関節の負担を改善できます。機能障害を放置すれば将来的に歯や顎関節のさらなるトラブルにつながる恐れもあるため、手術を含む積極的な治療がすすめられます。
日常生活に支障がある場合
顔の歪みによって日常生活に支障が出ている場合も、手術を検討すべきケースです。特に顎変形症の患者さんでは、発音しづらい音があったり、常にお口が開いて口呼吸になってしまうなど生活の質(QOL)に関わる問題が生じていることがあります。こうした場合、矯正歯科治療だけで長期間かけて様子を見るよりも、専門の医療機関で外科的矯正治療を行い、早期に根本的な改善を図る方が結果的にQOLの向上につながることがあります。
手術を受けるときの注意点

顔の歪みの治療で手術を受ける際には、知っておきたい注意点があります。ここでは、特に重要なポイントを解説します。
入院やダウンタイムについて
顎の骨格に対する手術は入院が必要になります。入院期間は治療内容や医療機関によって異なりますが、一般的には1~2週間程度が目安です。全身麻酔で手術を行った後、安全に経過を観察するため数日間は安静が必要だからです。手術直後は顎間固定によりお口を大きく開けられず、食事も流動食中心となります。会話も最初は多少不自由しますが、筆談やジェスチャーで意思疎通は可能です。腫れや内出血痕は徐々に引いていきますが、完全に落ち着くまでに数週間~数ヶ月かかることもあります。仕事や学校への復帰時期も、主治医と相談しながら無理のない範囲で決めましょう。
後戻りのリスクと再治療の可能性
手術や矯正でせっかく歪みを治しても、時間の経過とともに少しもとに戻ってしまうことがあります。後戻りの主な原因として、保定装置(リテーナー)の未使用、舌癖や口呼吸などの習慣の改善不足、そして成長期の場合は顎の骨のその後の成長などが挙げられます。万一、後戻りが生じてしまった場合でも、小さなズレであれば追加の矯正治療で対処できることがほとんどです。極めてまれに、大幅な後戻りが起きた場合には再手術を検討するケースもありますが、適切な保定と生活習慣の改善を行えば通常そこまで大きくもとに戻ることはありません。
日常生活でできる歪み対策

手術や矯正以外にも、日常生活で顔の歪みを和らげたり予防したりする工夫があります。軽度の歪みであれば生活習慣を見直すだけで改善する場合もありますし、たとえ外科治療を受ける場合でも、普段からのケアが治療効果の維持に役立ちます。今日から実践できる対策をいくつかご紹介します。
噛み癖・頬杖などの生活習慣の見直し
まずは癖の見直しです。偏った癖は顔の歪みの大敵ですので、思い当たるものがあれば今日から改善してみましょう。特に以下の点に注意してください。
- 噛み癖:食事の際、左右どちらか一方だけで噛んでいないか意識してみましょう
- 頬杖:頬杖は顔の骨格や筋肉に不均等な力を加え、歪みの原因になります
- 寝るときの姿勢:仰向けで寝る時間を増やす、左右均等になるよう寝返りを打つなど、寝る姿勢にも気を配ってみてください
ストレッチや筋肉バランスの意識
次に、筋肉のバランスを整えるエクササイズです。顔や首回りの筋肉をほぐし左右均等に使うことで、軽度の歪みであれば目立たなくなることがあります。簡単なストレッチやマッサージを日課に取り入れてみましょう。
フェイスストレッチ
お口を「いー」「うー」と大きく動かして表情筋をまんべんなく動かします。
咀嚼筋のマッサージ
奥歯で噛みしめたときに硬く盛り上がる筋肉(咬筋)を、指の腹で優しく揉みほぐします。
首・肩のストレッチ
首や肩のコリも顎の位置に影響します。ゆっくり首を左右に倒したり回したりして筋を伸ばし、肩も回して血行を良くしましょう。姿勢が良くなることで顔の歪み改善にもつながります。
軽度の歪みへのアプローチ方法
軽度の顔の歪みであれば、上記の習慣改善やストレッチで十分に対処可能な場合もあります。成長期のお子さんであれば、これらを意識することで将来的な歪みを予防できます。特に、小さい頃から姿勢良く過ごす習慣や、偏りのない咀嚼習慣を身につけることはとても重要です。
まとめ

骨格や噛み合わせに起因する顔の歪みは、口腔外科での治療によって改善可能です。一方で、すべての歪みが手術しなければ治らないわけではありません。軽度な歪みや癖が原因の歪みであれば、日常生活での工夫や矯正治療だけで十分に良くなるケースもあります。
大切なのは、まず専門家に相談して自分の顔の歪みの原因をきちんと把握することです。そのうえで、自分に合った方法で無理なく治療・対策を続けていきましょう。悩んでいる方は一人で抱え込まず、口腔外科や矯正歯科の専門医にぜひ気軽に相談してみてください。あなたの笑顔に自信を取り戻すための第一歩になるはずです。
参考文献