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金属アレルギーは口腔粘膜疾患の原因になる?メカニズムと対処法、口腔外科での診療について解説

金属アレルギーは口腔粘膜疾患の原因になる?メカニズムと対処法、口腔外科での診療について解説

金属アレルギーと聞くと、ピアスやネックレスによる皮膚のかぶれを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし実は、お口の中の粘膜トラブルにも金属アレルギーが関与している場合があります。歯科治療で使われる金属によって、頬の内側や舌などの口腔粘膜に炎症やただれが起きることがあるのです。では、金属アレルギーは本当に口腔粘膜疾患の原因になりうるのでしょうか。本記事では、そのメカニズムと症状、金属アレルギーが疑われる場合の対処法、そして専門領域である口腔外科での検査・治療方法について解説します。

口腔粘膜疾患の基礎知識

口腔粘膜疾患の基礎知識

お口の中の粘膜は、食べたり話したりするたびに刺激を受けるため、さまざまな病気が起こりやすい場所です。ちょっとした傷や口内炎から、慢性的な炎症、さらには全身の病気のサインであることもあります。この章では、口腔粘膜疾患がどのようなものか、どのような症状や原因があるのかを解説します。

口腔粘膜疾患とは

口腔粘膜疾患とは、お口の中を覆っている粘膜(頬の内側、歯茎、舌、口唇の内側など)に生じる病気の総称です。口腔粘膜は外部刺激や病原体に晒されやすく、全身の状態も反映しやすい部位です。そのため、ちょっとした傷や感染から慢性的な炎症、さらには前がん病変まで、さまざまなトラブルが起こりえます。具体的には、口内炎(アフタ性潰瘍)のような浅い潰瘍や、白板症や扁平苔癬といった白い斑紋ができる病変、カンジダ症のような真菌感染によるもの、自己免疫疾患に伴う水疱症など、多岐にわたる疾患が含まれます。

口腔粘膜疾患の症状

口腔粘膜に異常が生じると、次のような症状が現れることがあります。

  • 痛み・ヒリヒリ感
  • 潰瘍やただれ(口内炎)
  • 白い斑紋や赤い斑点
  • 腫れ・びらん
  • 味覚異常

これらの症状は原因となる疾患によって現れ方が異なります。軽度なものは自然に治ることもありますが、2週間以上治らない口内炎や原因不明の粘膜の変化がある場合、早めに専門医を受診することが重要です。

口腔粘膜疾患の原因

口腔粘膜疾患の原因は一つではなく、さまざまな要因が関与します。

  • 物理的刺激
    入れ歯や矯正器具、欠けた歯などが粘膜をこすってできる慢性的な刺激は、潰瘍や白板症の原因になりえます
  • 感染
    代表的なものにウイルス感染や細菌感染、真菌感染があります
  • 全身的要因・栄養
    ビタミンBや鉄分の欠乏は舌炎(舌が赤くなる炎症)や口角炎を引き起こすことがあり、また、自己免疫疾患(ベーチェット病や扁平苔癬など)やホルモンバランスの乱れ、ストレスも口腔粘膜疾患の発症因子とされています
  • アレルギー
    特定の物質に対するアレルギー反応が粘膜の炎症を引き起こすことがあります

このように、口腔粘膜疾患は生活習慣から全身疾患、さらには歯科治療材料まで幅広い要因で引き起こされます。なかでも歯科用金属アレルギーは見逃されやすい原因の一つであり、次章で詳しく説明します。

口腔粘膜疾患と金属アレルギーの関係

口腔粘膜疾患と金属アレルギーの関係

歯の治療に使われる金属が、お口の中の粘膜に炎症を起こすことがあると聞くと驚く方もいるかもしれません。実は、金属がアレルギー反応を引き起こし、それが原因で粘膜疾患になるケースがあるのです。ここでは、そのメカニズムや実際に起こりうる病気について詳しく説明します。

金属が口腔粘膜疾患を引き起こすメカニズム

金属そのものは本来、人間の体内で抗原(アレルギーの標的)にはなりません。しかし、金属は唾液や汗によってイオン化し、体内に取り込まれることでアレルギー反応を引き起こすことがあります。これら金属イオンが粘膜の組織内に入り込み、体内のタンパク質と結合して新たな異物を形成すると、免疫系がそれを異物と認識して攻撃を始めます。この免疫反応こそが金属アレルギーであり、Tリンパ球が関与する遅延型(Ⅳ型)アレルギーに分類されます。

金属アレルギーによる反応はすぐには起こらず、繰り返しの曝露で徐々に感作(アレルギー体質化)されて発症します。多くの場合、数年以上かけて体内に取り込まれた金属に対する感作が進み、ある日閾値を超えるとアレルギー症状が出現するとされています。一度発症した金属アレルギーは基本的に生涯持続するため、原因金属を継続して避けることが重要です。

金属アレルギーで生じる口腔粘膜疾患の種類 

歯科用金属によるアレルギー反応で起こりうる口腔のトラブルには、さまざまなものがあります。主な疾患を挙げてみましょう。

  • 口腔扁平苔癬
    頬の粘膜や舌に現れる白いレース状の模様と発赤を特徴とする難治性の慢性炎症です
  • アレルギー性接触口内炎
    金属アレルギーによる接触性皮膚炎の口腔版ともいえるものです
  • 口内炎・舌炎
    特定の金属による刺激で口内炎(潰瘍)が繰り返しできることがあります
  • 口唇炎
    金属に接触した唇が腫れる、皮がむけるといった症状です
  • 舌痛症・味覚異常
    お口の中に病変が見当たらないのに舌がヒリヒリと痛んだり、苦味・金属様の味を感じることがあります

以上のように、金属アレルギーが原因で起こる口腔粘膜疾患や症状は多岐にわたります。

金属アレルギーになる可能性がある金属

私たちの身の回りには多くの金属がありますが、アレルギーを引き起こしやすい金属と起こしにくい金属があります。金属アレルギーの原因となりやすい代表例は次のとおりです。

  • ニッケル(Ni)
    金属アレルギーの原因で最も多い金属で、ネックレスやピアスなどのアクセサリーに含まれることが多く、ニッケルに接触してかぶれた経験のある方は大変多いです
  • コバルト(Co)・クロム(Cr)
    ニッケルと並び、合金の成分としてしばしば用いられる金属で、コバルトクロム合金製の入れ歯の金属床や、ニッケルクロム合金のクラウン・ブリッジに含まれます
  • パラジウム(Pd)
    歯科治療では金銀パラジウム合金(銀歯)としてよく使われてきた金属です
  • 水銀(Hg)
    銀歯の一種であるアマルガムに含まれる金属で、現在日本の保険診療でアマルガムはほとんど使われなくなりましたが、昔の治療痕として残っていることがあります。

ただし、個人差が大きいため、自分がどの金属にアレルギーがあるかを正確に把握することが大切です。

歯科治療で金属アレルギーを起こす可能性はある?

歯科治療で金属アレルギーを起こす可能性はある?

「今まで金属アレルギーと無縁だった方でも、歯科治療がきっかけで金属アレルギーになることはあるのか?」という疑問を持つ方もいるでしょう。答えはありえます。実際、歯科治療で使用される金属が原因でアレルギー症状が出るケースは報告されています。
もともと金属アレルギー体質の方は歯科治療で症状が誘発される可能性があります。例えばニッケルアレルギーのある方がニッケルを含む矯正ワイヤーを装着した場合、口腔内の粘膜が反応してただれたり、全身的に湿疹が出たりすることがあります。このように既存のアレルギーを持つ方では、歯科材料との接触がトリガーとなって症状が顕在化することがあります。

一方、これまで金属アレルギーではなかった方が歯科治療を受けたことを契機にアレルギー体質になるケースも考えられます。金属アレルギーは前述のとおり長期間の曝露で感作が進み発症する遅延型アレルギーです。今は平気でも、将来的に歯科金属が原因で金属アレルギーになるリスクはゼロではないということです。

歯科治療で使用する金属は、口腔内という環境下で常時唾液に触れています。そのため金属イオンが溶出しやすく、アレルギーのリスク因子にはなりうるのです。心配な方は、事前に歯科医と相談し、金属アレルギー検査を受けておくと安心でしょう。

金属アレルギーが疑われるときの対処法

金属アレルギーが疑われるときの対処法

口腔粘膜の異常が「もしかして金属アレルギーかも?」と思われる場合、早めの対処が肝心です。自己判断で放置すると症状が悪化したり長引いたりする可能性があるため、以下のような対応をおすすめします。

  • 歯科(口腔外科)または皮膚科を受診する
  • 金属アレルギーの検査(パッチテスト)を行う
  • 原因と考えられる金属の詰め物・被せ物を除去する
  • 症状に対する治療を行う

以上が基本的な対処の流れです。ポイントは、自己流で判断せず専門医の診断を仰ぐこと、そして原因となる金属を特定して除去することです。特にパッチテストで原因がはっきりすればその後の治療方針が立てやすくなります。必ず専門医と相談しながら、安全かつ適切な方法で対処しましょう。

口腔外科での金属アレルギーによる口腔粘膜疾患への診療

口腔外科での金属アレルギーによる口腔粘膜疾患への診療

金属アレルギーが関係していると疑われる場合、歯科口腔外科では皮膚科と連携しながら検査・診断・治療を進めます。この章では、パッチテストなどの検査方法や、実際の治療に使われる材料について詳しく紹介します。安心して治療を受けるための参考にしてください。

金属アレルギーの検査方法

歯科口腔外科では、金属アレルギーが疑われる口腔粘膜疾患の患者さんに対し、皮膚科と連携して検査・診断を行います。

金属アレルギー診断の第一選択となる検査はパッチテスト(貼付試験)です。皮膚科専門医のもとで、20~30種類程度の金属試薬をガーゼやテープに染みこませ背中に貼付し、48時間後に剥がして皮膚の反応を確認します。

血液検査(リンパ球刺激試験など)として、患者さんの血液中の白血球(リンパ球)に特定の金属を反応させ、その増殖具合からアレルギーの有無を判定します。しかし、血液検査だけで金属アレルギー診断を確定することは難しいため、補助的な位置づけです。基本はパッチテストの結果を優先します。

以上のように、口腔外科では皮膚科と協力して金属アレルギーの有無・原因金属を特定する検査を行い、粘膜疾患の診断を進めます。特に保険診療で金属アレルギーを理由に非金属の治療を行う場合、皮膚科医からの診断書や情報提供書が必要となります。そのため、歯科と皮膚科の連携は不可欠です。

金属アレルギーによる口腔粘膜疾患の治療法

金属アレルギーが関与する口腔粘膜疾患と診断された場合、治療の柱は原因金属の除去と炎症症状のコントロールになります。

原因金属の除去

パッチテストなどで特定されたアレルゲン金属が口腔内に存在する場合、速やかにそれを除去・交換することが最優先です。例えばニッケルに陽性であればニッケル系の金属床義歯をチタン製に換える、パラジウムに陽性であればパラジウム合金の銀歯をセラミックなどに置き換える、といった具合です。

薬物療法(局所・全身)

粘膜の炎症や疼痛に対する治療も同時に行います。局所療法としては、ステロイド軟膏の塗布などで粘膜の炎症を鎮めます。全身的には消炎鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、ビタミンBなど栄養補給といった内服治療を行うことがあります。

金属アレルギーがある場合の詰め物や被せ物

金属アレルギー患者さんの歯科治療では、アレルギーを起こさない材料選びがとても重要です。口腔外科や歯科では以下のようなメタルフリー素材や特殊な金属を用いて治療します。

オールセラミッククラウンやセラミックインレーは、素材が100%セラミック(陶磁器)でできており金属を一切含みません。そのため金属アレルギーの心配がなく安心して使用できる詰め物・被せ物です。

小さなむし歯への、レジン(合成樹脂)、プラスチックの詰め物も金属を含まないため安全です。ただし、強度面ではセラミックに劣るため、奥歯の広範な修復には不向きです。

ジルコニアは人工ダイヤモンドとも呼ばれるセラミックの一種で、硬く割れにくいのが特徴です。ジルコニアクラウンやブリッジはメタルフリーでありながら強度が高く、大臼歯部でも安心して使える材料です。

どうしても金属を使用せざるを得ない場合や、患者さんが希望される場合には、アレルギーを起こしにくい金属を選択します。具体的には金合金(高カラットゴールド)やプラチナ合金純チタンなどです

歯列矯正治療中の方で金属アレルギーがある場合、ニッケルフリーのワイヤー(チタンモリブデン合金など)やセラミックブラケットを用いる工夫がなされます。

このように、現在の歯科医療では金属を使わない代替材料が充実しており、金属アレルギーのある方でも安心して治療を受けることができます。大事なのは事前に金属アレルギーであることを歯科側に伝えることと、必要に応じてアレルギーテストを受けて安全な素材を確認することです。歯科医はその情報をもとに適切な材料を提案してくれるはずです。

なお、保険診療内で使える材料には限りがあるため、場合によっては自由診療でのセラミック治療などを検討する必要があるかもしれません。しかし健康には代えられませんので、アレルギーのリスクがある金属を無理に使い続けるより、思い切ってメタルフリー治療に切り替えることをおすすめします。

まとめ

まとめ

金属アレルギーは口腔粘膜疾患の原因になりえます。金属アレルギーによる口腔粘膜疾患の症状は多彩ですが、適切な検査と治療によって改善が期待できます。もし金属アレルギーがあっても、現代の歯科医療には金属を使わないメタルフリーの修復法が数多く用意されています。セラミックやレジン、チタンなどの材料を活用すれば、金属アレルギーの方でも安全かつ快適に歯の治療を受けることができます。もし金属アレルギーが少しでも疑われるなら、遠慮なく専門の歯科口腔外科や皮膚科に相談してください。適切な診断と治療で、つらい口腔粘膜疾患を克服し、快適な日常を取り戻しましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
松浦 京之介歯科医師(歯科医)

松浦 京之介歯科医師(歯科医)

出身大学:福岡歯科大学 / 経歴:2019年 福岡歯科大学卒業、2020年 広島大学病院研修修了、2020年 静岡県、神奈川県、佐賀県の歯科医院で勤務、2023年 医療法人高輪会にて勤務、2024年 合同会社House Call Agencyを起業 / 資格:歯科医師免許 / 所属学会:日本歯科保存学会、日本口腔外科学会、日本口腔インプラント学会

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