口腔カンジダ症と呼ばれる病名を聞いたことがあるでしょうか。口腔カンジダ症は口腔内の常在菌であるカンジダ菌を過剰増殖させ、口腔内に炎症や白苔のような膜を発生させます。
口腔カンジダ症は、口腔機能や抵抗力が低下しているときに症状が現れます。そのため、赤ちゃんから高齢者まで広い年代で発症する可能性が高い疾患です。
しかし、口腔カンジダ症はうがい薬や塗り薬などの薬物療法で治療ができるため、早期に治療を開始すれば治癒は難しくない疾患です。
本記事では、口腔カンジダ症の症状や治療法を詳しく解説します。気になる症状がある人はぜひ最後まで読んで参考にしてください。
口腔カンジダの症状の治療
ガンジダ症は真菌(カビ)の種類によって感染する体の部位が異なり、炎症や痛み・痒みをもたらす病気です。
カンジダ菌が口腔内に感染する口腔カンジダ症の治療には薬物療法が効果を発揮します。
進行状況によって処方される薬剤が違ってきますが、初期段階で治療を開始した場合は、うがい薬で治癒した症例もあります。
ただし、口腔カンジダ症は抗真菌薬での治療が重要でうがい薬ならどれでもよいわけではありません。
抗真菌薬は市販されていないので、抗真菌薬(ベンゼトニウム塩化物)が配合されたうがい薬を病院で処方してもらいましょう。
抗真菌薬を含むうがい薬の使用
口腔カンジダ症の発見が早く初期段階で治療を開始した場合は、ベンゼトニウム塩化物を配合したうがい薬を使用してうがいを行うとよいでしょう。
うがいは口腔カンジダ症の予防にも効果的とされますが、イソジンやアルコール系のうがい薬は注意が必要です。長期的に継続使用すると常在菌のバランスが崩れ、口腔カンジダの発症につながる恐れがあります。
抗真菌薬を含む塗り薬の使用
口腔カンジダ症の抗真菌薬を含む塗り薬に、ミコナゾールゲル(フロリードゲル経口用2%)やオラビ錠口腔用50ミリグラムがあります。
1回に2.5~5グラムを口腔内にまんべんなく塗り広げ、時間を置いてから残りを飲み込むようにしましょう。毎食後と就寝前の1日4回使用すると効果を発揮します。
ミコナゾールゲルの特徴は以下のものがあります。
- 併用を禁止している薬が少ない
- 長期に使用しても肝機能に影響を及ぼさない
- 直接的な効果が期待できる
- 口腔内に長く滞留する
- 塗りやすい
- 義歯床面にも塗布が可能
- 嚥下困難にも適応性がある
ミコナゾールゲルは歯科医院の処方薬として多用されています。
また、小児用としてアムホテリシンB(ファンギゾンシロップ100ミリグラム/ミリリットル・ハリゾンシロップ100ミリグラム/ミリリットル)があります。
小児用のアムホテリシンBは、口腔内に広がりやすく口腔カンジダ症に対する効果が高いです。
用法は毎食後と就寝前の1日4回1ミリグラムを口腔粘膜に塗布し、15~30秒程お口に含んだ後飲み込みます。小児用になっていますが成人に処方されても問題はありません。
抗真菌薬の内服
口腔カンジダ症の内服薬として挙げられる薬剤はイトラコナゾール(イトリゾールカプセル50・イトリゾール内用液1%)です。イトコナゾールの特徴は以下のものがあります。
- 口腔内に直接作用
- 腸管吸収後の血中作用がある
- 併用する禁止薬が少ない
- 下痢が生じることがある
イトリゾール内服液は通常は1日1回20ミリリットルを服用しますが、副作用で下痢やアレルギーの症状がでる人がいます。下痢症状がでる場合は医師に相談しましょう。
なお、口腔カンジダ症の症状が重症の場合は、抗真菌薬やうがい薬を併用して処方される場合があります。
なお、口腔カンジダ症と口内炎の治療薬は相違があるので、安易に口内炎の薬である副腎皮膚ホルモン軟膏(ステロイド軟膏)を、口腔カンジダ症の治療に使用するのはやめましょう。
また、一般的に市販のうがい薬として販売されているポビドンヨードやアルコールを含んだ洗口剤も、口腔カンジダ菌に使用すると問題が生じる場合があります。
口腔カンジダ症に罹患しやすい人
カンジダ菌は常在菌としてもともと口腔内に棲息しているので、健康な人が口腔カンジダ症を発症するリスクはほとんどありません。しかし、以下の人は口腔カンジダ症に罹患しやすいと考えられます。
- 体の抵抗力が低下しているとき
- 乳幼児
- 体力がない人
- 高齢者
- 糖尿病やがん治療中の人
- 義歯を使用している人
- 口腔乾燥症(ドライマウス)の人
口腔カンジダ症は常在菌であるカンジダ菌が、体の変化に乗じて過剰増殖や形態変化した場合に口腔内に発症します。
全身衰弱がある
カンジタ菌は弱毒性の常在菌で、カンジダ菌の存在自体は通常は感染の原因にはなりません。
老化や病気が原因で全身衰弱がみられる場合に、カンジダ菌が過剰に増殖して粘膜に侵入し粘膜面に固着するので、口腔環境が乱れて口腔カンジダ症を発症します。
口腔カンジダは高齢者が罹患しやすいことや高齢者の人口増加などにより、高齢者の罹患率が高い傾向にあります。また、抵抗力が弱い乳幼児も発症するリスクがあるでしょう。
なお、カンジダ菌は血小板と同じくらいの大きさのため、病変部から血流を介して全身に移動して到達した臓器で増殖する特徴があります。
義歯を使用している
カンジダ菌は常在菌であると解説してきましたが、常在菌であっても増殖させないことが重要です。そのためには口腔内の清掃が鍵になります。
特に義歯はカンジダ菌が付着しやすいため、こまめな清掃が必要です。
食後に義歯を外してブラシを使用して洗浄したり義歯洗浄液を併用したりするなどの習慣を身につけましょう。
常に口腔内の衛生状態を保つようにすると、口腔カンジダ症に罹患するリスクを減少できます。
なお、義歯を装着したままで就寝すると寝ている間に義歯に付着したカンジダ菌が増殖するので、義歯は外して洗浄液につけてやすみましょう。
そして、舌に違和感を覚えたり白い苔様のものがみつかった場合は、早めに医療機関で受診をおすすめします。
寝たきりで口腔機能が低下している
寝たきりの人や認知症を発症している人は抵抗力が落ちていたり口腔機能が低下していたりします。
そのため、口腔カンジダ症の再発を繰り返す人が少なくありません。
抗真菌薬は治療の効果が高い一方で長期の服用は副作用の心配があります。
施設や病院では一定期間抗真菌薬を投与して口腔カンジダ症が落ち着いたら、口腔保湿剤に切り替えて口腔内に塗布します。
口腔保湿剤の使用を続けることで口腔カンジダ症にかかる頻度は少なくなるでしょう。なお、保湿剤の使用とともに義歯などの清掃も欠かすことができません。
寝たきりや認知症の患者さんは介助者の協力が不可欠です。
ドライマウスがある
ドライマウス(口腔乾燥症)を発症している人は、口腔カンジダ症を発症しやすくなります。
唾液には口腔内を清掃する浄化作用がありますが、唾液分泌量が減少すると口腔内の清掃が不十分になりがちです。
また、唾液の減少でカンジダ菌の増殖を止める力が弱まるといわれます。唾液量を増加させる方法は、こまめな水分補給やガムや柑橘類の摂取・保湿剤の塗布などです。
さらにドライマウスはむし歯や歯周病などのリスクも高まるので、ドライマウスの兆候がある人は常に唾液の減少に注意しましょう。
がん治療を受けている
がんの患者さんは抗がん剤治療や放射線治療の副作用で、口腔カンジダ症を発症するリスクが高いことがわかってきました。
がん治療は、全身の抵抗性や粘膜の安定を損ない口腔内の環境を悪化させカンジダ菌を過剰増殖させる要因です。
そのため、がん患者さんが口腔カンジダ症を発症する率は高くなります。
また、喘息や慢性閉塞性肺疾患の治療で、吸入ステロイド薬を使用している患者さんも口腔ガンジダ症を発症するリスクは高いです。
吸入ステロイド薬は全身の抵抗力を低下させる原因となるからです。
高齢である
高齢だから口腔カンジタ症にかかるリスクが高いわけではありません。
高齢者は義歯を装着している人や口腔機能が低下している人が少なくないため、高齢者が口腔カンジダ症に罹患するリスクは高まります。
また、義歯を装着していると口腔カンジダ症の症状の一つである疼痛などの刺激が粘膜に伝わりにくくなります。
さらに、高齢者は痛みに対する自覚症状が乏しいのでカンジダ症を発症していても発見が遅れることも問題です。
特に高齢になると唾液の分泌量が低下して口腔内が乾燥していることも少なくありません。唾液の分泌量の低下と義歯の装着でカンジダ菌が増殖する環境が整ってしまいます。
口腔カンジダの症状
口腔カンジダ症は以下の4つに分類できます。
- 白いカンジダ症=偽膜性カンジダ症
- 赤いカンジダ症=紅斑性カンジダ症・萎縮性カンジダ症
- 厚いカンジダ症=肥厚性カンジダ症
- その他のカンジダ症=口角炎・剥離性口唇炎・潰瘍性カンジダ症
白いカンジダ症は、白い偽膜や白苔様のものが口腔内に発生します。
赤いカンジダ症は発赤(粘膜が充血して赤い状態)が特徴で痛みや灼熱痛・味覚障害などの症状が特徴です。
厚いカンジダ症は、粘膜が厚くて硬くなりこぶのようなものや白斑などの症状を伴うことがあります。口腔カンジダ症は、種類によって症状が異なります。
白もしくは黄色の苔様の隆起が口腔内に発生する
白もしくは黄色の苔様の隆起が口腔内に発生する病型は偽膜性口腔カンジダ症です。
口腔カンジダ症のなかでは発生頻度が少なくないことで知られています。白苔は簡単に剥離するものと粘膜に入り込んで固く粘着しているものがあります。
固着している場合は、白板症や口腔扁平苔癖(慢性炎症性疾患)と症状が類似しているため注意が必要です。
偽膜性口腔カンジダ症の症状は軽いですが、進行すると痛みを伴うことも少なくありません。
舌に痛みが発生する
抗菌薬や副腎皮質ステロイド薬などを長期間服用した際の副作用として、急性萎縮性カンジダ症が発症した例があります。
急性萎縮性カンジダ症の症状は、白苔様のものはみられませんが舌乳頭に萎縮が現れ、偽膜性口腔カンジダ症よりもヒリヒリした痛みが強く灼熱感があるのが特徴です。
紅斑がみられる
紅斑性カンジダ症は、舌や粘膜に無数の出血斑が現れます。出血斑は、義歯装着の圧迫がもとで、カンジタ菌が粘膜下に入り込み紅斑が起こると考えられます。
なお、紅斑カンジダ症は、紅斑以外の症状として粘膜にヒリヒリした痛みが伴うことも少なくありません。また、義歯の不適合も紅斑性カンジダ症を発症するリスクになります。
口腔内が乾燥しやすい
口腔内が乾燥しやすくなると唾液量が減少します。唾液量の減少は唾液の浄化作用・潤滑作用・抗菌作用を低下させる要因です。
唾液の減少はカンジダ菌が増殖しやすい環境を与える手助けになるでしょう。
また、口腔乾燥は摂食時に口腔粘膜への刺激が強まっても、唾液減少による保護作用が低下しているため粘膜を損傷する可能性を高めます。
さらに口腔乾燥はカンジダ菌の粘膜への侵入も容易になると考えられます。
口腔カンジダの診断方法
口腔カンジダ症の診断は、自覚症状および医師による所見により総合的に診査されます。診断の対象となる症状は以下のものがあります。
- 白苔・紅斑がある
- 全身衰弱がある
- 義歯を使用
- 高齢
- ドライマウス(口腔乾燥症)
- 口腔機能の低下
- がん治療中である
上記の背景因子や症状が揃った場合に口腔カンジダ症と確定されることがほとんどです。
口腔カンジダ症は常在菌のため口腔内の検査でカンジダ菌が検出される確率は高いため、臨床症状と所見が診断では優先されます。
口腔カンジダは予防できる?
口腔カンジダ症の予防方法はいくつかあります。
- 唾液分泌量の促進
- 原因になる病気の治療
- 義歯の不具合の調整
- 食事の見直し=亜鉛・鉄分・ミネラル・ビタミンなどの補充
- 口腔内の清掃
- 口腔保湿剤の塗布
- うがい
- 禁煙
- 精神的ストレスを貯めない
口腔カンジダ症は再発する可能性が高い疾患です。
口腔カンジダ症を発症する要因はさまざまですが、要因の排除が口腔カンジダ症の発症を防ぐことになります。
口腔カンジダに関するよくある質問
口腔カンジダ症に関して、「お口のなかに現れた白い斑点は口腔カンジダ症の兆候ですか?」という疑問を持たれる方は少なくありません。
お口のなかに白い膜ができて取れるようなら口腔カンジダ症の可能性が大きいです。口腔カンジタ症は舌や上顎の内側に剥がれやすい白苔様のものが付着します。
剥がれやすいものもありますが、手で触ってみたりガーゼで拭ってみたりする行為は出血または腫れる可能性があるのでやめましょう。
なお、口腔カンジダ症は抗真菌剤を配合したうがい薬や塗り薬で治癒しますが、抗真菌薬は市販では販売していません。
また、自然治癒も難しいので気になる症状があるのなら歯科医院で受診して薬を処方してもらいましょう。
まとめ
近年、高齢者で口腔カンジダ症を発症する人が増加傾向にありますが、義歯を装着していることや体力や唾液分泌量の低下が大きな要因となっています。
また、普段は健康体の若年者でも体力が落ちているときは口腔カンジダ症の発症リスクは高まります。
口腔カンジダ症は口腔内に症状がでるため口内炎と間違えやすいですが、治療に使用する薬剤が異なります。
口腔カンジダ症は抗真菌薬だけが治療できる薬剤のため、自己判断で市販のうがい薬や塗り薬を使用する行為は、口腔カンジダ症を悪化させる可能性があるのでやめましょう。
なお、抗真菌薬は市販では購入できません。口腔カンジダ症の症状をみつけたら歯科医院で受診して薬を処方してもらうようにしてください。
参考文献