舌や頬の内側など、口腔内にできるがんを総称して口腔がんと呼びます。この記事では、口腔がんについて、初期にどのような症状が表れるのかや、自覚症状がどうやって生じるか、そしてどのように治療が行われるのかといった内容について、詳しく解説します。
口腔がんの症状
口腔がんによって生じる具体的な症状についてご紹介します。
口腔がんは早期に見つかれば身体に負担の少ない治療が可能である一方で、症状が進行してしまうと治療が困難となり、生存率にも影響が出てくる症状ですので、下記のような症状がある方は早めに歯科口腔外科の診療を受けるようにしましょう。
口腔がんの初期症状
口腔がんは、身体の細胞の一部に異常が発生して、周囲の正常な細胞を巻き込みながら過剰に増加していってしまうという、悪性腫瘍、いわゆるがんの一種です。
口腔がんに限りませんが、がんは基本的に自分の細胞が増殖していくという症状ですので、初期では炎症なども発生しにくく、そのために異常が見つかるタイミングが遅くなりやすいという特徴があります。
口腔がんについても、初期症状ではほとんど痛みなどが出ることはありませんし、出血などが生じるということもほとんどありません。
初期症状としては口腔内にしこりを感じたり、少し膨らみが出るといった程度であるため、特に大きな問題ではないと考え、放置してしまうケースも多いといえます。
口腔がんが疑われる自覚症状
口腔がんがある程度進行してくると、がんのサイズが大きくなってくるため、腫れやしこりを強く感じるようになってきます。
また、がん細胞によって圧迫されたり、ダメージを受けた部位に痛みなどが生じるようになってくることで、口腔内の異変に気が付くというケースがあります。
自覚症状が出てくる段階ではある程度口腔がんが進行している可能性が高いため、異変に気が付いたら早めに診療を受ける必要があります。
口腔がんによって現れる自覚症状としては、痛みや腫れのほか、口腔内のただれや出血、場合によっては歯がグラつくようになったり、口臭が強くなるといった変化があります。
なお、こうした自覚症状は口腔がんではなくむし歯や歯周病などでも同様の症状が現れる場合があります。
口腔がんではなくむし歯などの口腔トラブルの場合は命に関わるようなケースはあまり考えられませんが、早期に治療を受けることで健康状態が保てるという点では同じですので、やはり早めに適切な診療を受けるようにしましょう。
転移の可能性がある場合の症状
がんは血流にのって身体のほかの部位に転移してしまう性質を持っていて、この転移によって肺や胃などの臓器ががんに侵されると、多臓器不全などの重大な症状へとつながる可能性があります。
口腔がんもほかのがんと同様に全身へと転移するがんですが、口腔がんの場合、最初に転移する場所は頸部(首、喉)のリンパ節となっています。
がんが転移してきたリンパ節は大きく腫れるため、口腔がんが頸部のリンパ節に転移すると、耳の下から鎖骨あたりまでの範囲で腫れやしこりが生じるようになります。
頸部のリンパ節の次は全身に転移する可能性があり、特に肺への転移がよく見られるとされています。
口腔がんと口内炎の違い
口内炎は、口腔がんと似た症状を引き起こす症状です。
口内炎というのは口腔内に生じる炎症全般を指す言葉で、免疫力の低下などによって細菌などが増殖し、それによって細胞がダメージを受けて炎症反応が生じたものが口内炎です。
口内炎は外部からの刺激によって引き起こされるため免疫反応で時間経過とともに治癒が期待できるのに対し、口腔がんは自分の細胞の異常であるため免疫反応が働かず、放置しておくと症状がどんどん悪化していきやすいという違いがあります。
また、自覚症状については口内炎の場合は初期から強い痛みが出やすいのに対し、口腔がんは前述のとおり、初期段階で自覚症状が出現しにくく、多少の腫れやしこりといった程度しか感じないという違いがあります。
お口の中に腫れができて、口内炎だと思っていたら時間が経ってもなかなか治らず、歯科医院で相談してはじめてそれが口腔がんであったというケースもよくあります。
口内炎であれば通常2週間程度もすれば治癒しますので、2週間以上が経過しても治らないような腫れがある場合は、一度歯科口腔外科の受診をおすすめします。
口腔がんのステージ分類
口腔がんは、その症状の程度によってステージ1からステージ4に分類がされ、さらにステージ4はA、B、Cという3つのパターンにわけられています。
このステージ分類は、腫瘍の大きさ、リンパ節への転移、そしてそのほかの部位への転移の有無といった内容によって判断されます。 まず、口腔がんの初期段階であるステージ1は、腫瘍の大きさが2cm以下であり、リンパ節への転移がないことが条件となります。
ステージ1の初期段階であれば、がんが生じている部位を切除すれば治療が行えるため、生存率も高い状態です。 口腔がんが進行して、腫瘍が2cmを超えてくるとステージ2の分類となります。
ただし、ステージ2でもリンパ節への転移がないことが条件になっていて、まだこの段階であれば治療による身体への負担も小さくすみ、ステージ1と2の段階は早期がんとよばれます。 一方で、リンパ節への転移があるか、または腫瘍の大きさが4cm以上となると、ステージ3に分類されるようになり、手術をすることでの身体への負担も大きくなります。
ステージ3以上は進行がんと呼ばれ、5年後生存率も大きく減少してきます。 そして、がん細胞がさらに大きくなるか、リンパ節へ転移したがんのサイズが大きくなる、または頸部リンパ節以外への転移が見つかると、ステージ4と診断されます。
上述のとおりステージ4はさらに3つの状態に分類され、頸部リンパ節以外の遠くの臓器に転移している場合はステージ4C、頸部リンパ節に転移したがんが6cmを超えるか、腫瘍が頭や喉の深部、内頸動脈まで広がっている場合はステージ4C、それ以下の場合はステージ4Aという診断となります。
口腔がんの検査と診断
口腔がんは口内炎と間違われやすい症状であり、また細胞が異常増殖を引き起こす腫瘍であっても、悪性腫瘍のものと、良性腫瘍の場合があるため、最終的な判断は専門的な診療を行う医療機関の受診が必要となります。
口腔がんの検査や診断についてご紹介します。
口腔がんが疑われる場合の診療科
お口のなかに腫れやしこりを感じたり、なかなか治らない口内炎が気になるという場合は、歯科口腔外科を標ぼうしている歯科医院での診断を受けるとよいでしょう。 歯科口腔外科は、口腔内の外科手術を含めた治療を専門的に行う診療科で、口腔がんの診療や、事故などによるケガの治療、顎関節症の治療などを行っています。
特に口腔がんは歯科口腔外科で対応する主な疾患の一つで、口腔外科出身の歯科医師であれば口腔がんの診療経験が豊富な医師が多く、適切な診断が受けやすいといえます。 口腔外科では口内炎の治療も対応しているので、口腔がんではなく口内炎の症状であった場合でも、素早く痛みや腫れを改善する治療が期待できます。
口腔がんの検査と診断方法
口腔がんの検査は、視診、触診、病理検査、画像検査といった方法によって行われます。
口腔がんが発生する部位は、口腔内の目に見える範囲であるため、まずは歯科医師が目で見たり、直接触って検査して舌や粘膜の異常を確認することで、症状の有無を判断します。
歯科口腔外科への受診であれば、ある程度この視診や触診だけで診断が可能なケースもあります。
ただし、視診や触診だけでは悪性腫瘍かどうかのはっきりとした診断が行えないため、病変の組織を一部採取して、顕微鏡を使用してがん細胞の有無や種類を詳しく調べる病理検査が行われます。
病理検査でがん細胞が見つかった場合、口腔がんが確定となります。
また、がんの大きさなどは視診などでは判断できないため、CTやMRI、エコー検査などによる画像検査で、がんの状態や転移状況などを検査します。
画像検査によってがんの大きさや転移状況を調べることで、がんの状態がどのステージに該当しているかを判断することができます。
口腔がんの治療方法
口腔がんの治療は、症状の進行状況によっても内容が異なります。
早期発見の場合は身体への負担が少ない手術で対応できる可能性が高いといえますが、症状が進行している場合は手術のほかにも治療を組み合わせるなど、より負担が大きな治療が必要になるケースがあります。
具体的にどのような方法で治療を行うのか、症状の進行状況に合わせてご紹介します。
早期発見の場合
口腔がんがステージ1またはステージ2の場合、リンパ節への転移などが無い状態であるため、がん細胞が発生した場所(原発巣)を外科手術によって除去すれば、治療することができます。
切除する範囲はがん細胞の発生した場所や大きさによって異なり、例えば舌癌という舌にできるがんであれば舌の切除、下顎にできた場合は、下顎の切除といった形となります。 なお、がんの手術を行う場合はがん細胞の部分だけを切除するのではなく、がん周辺の正常組織も含め、ある程度広範囲で切除されることとなります。
これは、がん細胞による影響がある細胞が残ってしまうと、その細胞からがんが再発してしまう可能性があるためで、確実性のある手術のためには、現時点では正常とみられる周囲の組織も除去する必要があるためです。 外科手術でがん細胞がある部位を切除した後は、切除範囲が小さければそのまま自然回復を待ったり、縫合によって治療を完了します。
しかし、切除範囲が大きい場合は、切除によって日常生活に必要な機能の一部が失われた状態となってしまうため、切除した部位を、人工物や身体のほかの部位から採取した組織によって再建し、見た目や機能を回復させる手術が行われます。 なお、がんの切除手術を終えた後は、定期的に病理検査を行って、再発のリスクについて確認します。
検査の結果再発のリスクが高いと考えられる場合には、抗がん剤による薬物療法や、放射線治療などによる術後補助療法が行われることもあります。 また、がんの状態などによっては、手術を行わないで放射線治療によってがん細胞を死滅させる治療のみが行われるケースもあります。
症状が進行している場合
ステージ3以上の進行がんになると、原発巣の切除だけでは治療が完了しない可能性が高くなります。
というのも、ステージ3以降は頸部のリンパ節などへの転移が見られるケースが多いため、原発巣だけではなく、転移したリンパ節も切除しなくてはならないためです。
リンパ節の転移に対しては、リンパ節を周囲の組織ごと取り除く手術が行われ、頸部郭清術と呼ばれます。
がんの状況などによっては頸部郭清術で神経なども除去されるため、麻痺などの後遺症が残る可能性もあります。
なお、ステージ1やステージ2のがんでも、頸部のリンパへ転移する可能性が高いとみられる場合は、予防的に頸部郭清術が行われるケースもあります。
完治が難しい場合
がんは、手術や放射線治療によって、がん細胞を体内から除去することができれば、完治が可能です。
しかし、がんが頸部のリンパ節だけではなく、すでに全身へ転移してしまっているような場合は、どこに転移しているかをすべて見つけ出すことが難しく、完治が困難となります。
この場合は、がん細胞を見つけて手術といった治療を繰り返すことができないため、薬物などによってがんの進行を遅らせる治療などが中心となります。
口腔がんは早めに発見できれば、少ない範囲の切除だけで完治が可能な症状ですので、なるべく早めに検査を受けることが大切です。
歯科口腔外科の診療も行っている歯科医院で定期的な歯科検診などを受けるようにすると、歯の健康状態を守るだけではなく、口腔がんの早期発見も可能となります。
できればいつでも相談しやすい歯科口腔外科を見つけ、むし歯や歯周病に対する予防治療と合わせて、口腔がんなどのトラブルを含めた検査を定期的に受けてみるとよいでしょう。
口腔がんにかかりやすい人の特徴
口腔がんにかかるリスクを上げる要因として、特に影響が大きいものが喫煙と飲酒です。
喫煙は口腔がんのリスクを引き上げる最大の要因で、喫煙習慣がない人の5~7倍も口腔がんになりやすいと言われています。
喫煙の次に影響がある要素が飲酒の習慣で、どの程度のお酒を飲むかにもよりますが、普段からアルコールを摂取する人は、お酒を飲まない人と比べて口腔がんのリスクが引きあがります。
喫煙と飲酒のどちらも行っている人はより危険性が高くなるので、口腔がんを防止するという観点では喫煙や飲酒は控えた方がよいでしょう。
そのほか、歯磨きなどのケアが不十分で口腔環境が悪いかたや、刺激物をよく食べる方、日常的にストレスを抱えているような方は、口腔がんのリスクが高くなります。
まとめ
口腔がんの症状は、初期段階ではなかなか自覚症状が出にくく、がんが大きくなることで痛みや腫れ、歯のぐらつきといった症状が現れ始めます。
ただし、こうした症状は口内炎などの口腔トラブルと似ている部分もあるため、放置しておけば治るものと考えて、その結果診断が遅くなって症状が悪化してしまうということもあります。
口内炎は2週間以上など長期にわたって持続されることは少ないので、もし2週間以上も口内炎の症状が続いているような場合は、一度歯科口腔外科の診療を受けてみるとよいでしょう。
できれば口腔外科での定期健診を受けて、口腔内や歯の健康を守るための検査や予防治療を受けるようにすると、トラブルの心配が少ない、安心感のある生活が送りやすくなります。
参考文献