口腔がんは、喫煙・飲酒・口腔内不衛生・むし歯などが原因で生じるとされています。舌や歯肉などの口腔にがんが発生し、口腔内の環境に影響されやすいのが特徴です。
初期の段階では症状が乏しく、ある程度症状が進行してから気付くことも少なくありません。
以下で、口腔がんは歯科医院でもわかるのかや検診の内容、早期発見のポイントを紹介します。喫煙も飲酒もしている方や、口腔内に気になる症状がある方の参考になれば幸いです。
口腔がんとは
口腔がんは、口腔内にできるがんです。口腔内のできる箇所によって呼び方や症状が異なります。以下で、口腔がんの種類・原因・症状を紹介します。
口腔がんの種類
口腔がんは、頭頸部がんの一つで口腔内にできるがんのことです。頭頸部がんは、鎖骨より上部に生じるがんで、脳と眼球の病変は除いた総称です。口腔がんは、以下のように細かく分けられています。
- 舌がん
- 歯肉がん
- 頬粘膜がん
- 口腔底がん
- 硬口蓋がん
- 口唇がん
口腔がんは希少ながんと呼ばれ、がん全体に占める罹患率は1%ほどです。頭頸部がんでは、40%を占めます。
患者さんの男女比は3:2で男性が多く、60代で罹患者が増えるのが特徴です。2002年にとられた集計での口腔がんの部位別発生割合は、以下のとおりです。
- 舌:60.0%
- 下顎歯肉:11.7%
- 口腔底:9.7%
- 頬粘膜:9.3%
- 上顎歯肉:6.0%
- 硬口蓋:3.1%
舌がんは、舌にできるがんで舌の前2/3に生じます。舌がんは、口腔がんのなかでも日本人に多く、口腔がん全体の55%ほどを占めるとされています。
歯肉がんは、歯肉のことで、上下顎にできるがんです。下顎の歯肉がんは、奥歯の歯肉にできることが多く、歯の痛み・違和感・動揺で見つかることがあります。
上顎の歯肉がんは、初期の段階では歯肉炎との判別が難しいのが特徴です。口腔底がんは、舌と下顎の歯肉の間にあるくぼみにできます。
頬粘膜がんは、ほっぺたの内側にできるがんです。口腔底がんも頬粘膜がんも初期の段階では、口内炎と診断されることがあります。
硬口蓋がんは、硬口蓋にできるがんです。硬口蓋は、口蓋の口唇側にある骨でできた硬い部分を指します。口蓋の喉側にある軟口蓋や骨に浸潤しやすいのが特徴です。
口腔がんの原因
口腔がんの原因は、以下のとおりです。
- 喫煙
- 飲酒
- むし歯
- 不適合義歯
- 口腔内不衛生
たばこの煙には、5,000種類以上もの化学物質が含まれており、そのうち70種類ほどに発がん性があるとされています。
ある報告では、男性で喫煙するグループは喫煙しないグループに比べて、口腔がんにかかるリスクが2.4倍高くなるとされています。
喫煙本数と喫煙年数が増えるほど、口腔がんに罹患するリスクが高くなるのも特徴です。また、週に1回以上お酒を飲むグループは飲まないグループに比べて、口腔・咽頭がんになるリスクが1.8倍高くなるとされています。
喫煙も飲酒も行うグループでは、喫煙も飲酒も行わないグループに比べて、4.1倍も口腔・咽頭がんになる確率が上がります。女性も同様で、喫煙と飲酒の影響で口腔・咽頭がんになるリスクが高くなりやすいです。
喫煙・飲酒以外にも口腔内の慢性的な刺激が口腔がんにつながります。考えられるのは、むし歯や不適合義歯、口腔内不衛生や口腔内の乾燥などです。
口腔がんの症状
病変部の変色・変形・しこり・腫れなどが出てきます。初期の段階では、痛みや出血など目立った症状が乏しいため、口内炎と考えて放置してしまうケースも少なくありません。
口内炎が長引く場合には注意が必要です。歯肉がんの場合、歯肉にできたがんが広がるため、歯の動揺・義歯の不適合などの症状が現れるでしょう。
口腔がんが進行すると、粘膜のただれ・強い痛み・出血・しこりなどが生じます。より進行すると、開口しにくい・飲み込みにくい・話しにくいなど、口腔機能や嚥下機能にも影響が現れます。
口腔がんは口腔内にできるため、自分でチェックが可能です。口腔内の違和感に気付いた際には、一度鏡で確認してみましょう。
気になる症状があれば、お近くの歯科口腔外科や耳鼻咽喉科を早めに受診しましょう。
口腔がんは歯医者でわかる?
口腔がんは、歯科医院でわかります。気になる症状がある方は、まずはかかりつけの歯科医院を受診しましょう。
口腔がんの可能性がある場合には、地域の口腔外科や口腔がんに詳しい歯科医院を紹介してくれます。
また、セルフチェックを行い口腔がんの可能性が高そうな場合には、近くの口腔外科の診療を行っている医院を受診するのもよいでしょう。
口腔外科は、一般的な歯科治療とは異なり、顎顔面の骨折・唾液疾患・口腔内粘膜疾患・腫瘍などお口の外科治療を行っている診療科です。
歯医者の口腔がん検診の内容
口腔がんの検診では、視診・触診・問診・画像検査・病理検査を行い、確定診断に至ります。以下で、各内容を詳しく紹介します。
視診・触診
視診は、直接口腔内を観察して舌や粘膜に異常がないかを調べる方法です。
舌や粘膜に白色や赤色に変化してしている箇所がないかや、むし歯や歯周病の有無、入れ歯やかぶせ物の状態などの確認が行われるでしょう。
触診では、医師ががんが疑われる箇所を直接触り、しこりや腫れの有無・大きさ・広がりなどを調べます。口腔がんは、頸部リンパ節へ転移しやすいため、頸部リンパ節の腫れがないかも確認します。
問診
問診では、既往歴・受診理由・症状・家族歴・喫煙・飲酒など患者さんの訴えや経緯、生活習慣などの確認が行われるでしょう。
問診は、患者さんの細かい情報収集を行い、誤診を防ぐのが目的です。また、危険因子がないかどうかを探り、病気の見当をつけるためにも重要です。
口腔内写真・エックス線検査
画像検査は、医師の視診・触診を受けた後に行われます。
がんの大きさ・深さ・リンパ節や他臓器への転移の有無などを調べるために、エックス線検査・CT検査・MRI検査・超音波検査・PET-CT検査などを行います。
エックス線検査では、骨への浸潤がないかを確認できます。CT検査は、身体の断面を3次元で確認できるため、がんの大きさ・位置・広がり・転移などがわかるでしょう。
MRI検査と組み合わせると、より正確にがんの状態を把握しやすくなります。超音波検査は、身体の表面にあてた超音波が体内から跳ね返り、画像化される検査です。
がんの広がりやリンパ節への転移がわかります。PET-CT検査は、全身のがんの広がり度合をみる検査です。骨への転移・重複がんの有無・がんのステージの確定のために行われます。
必要に応じて病理検査
病理検査は、確定診断のために行われる検査です。病理検査には、細胞診と組織診があります。細胞診は、綿棒やブラシで病変部をこすって細胞を採取する方法です。
組織診は、病変部とその周辺の組織の一部を切除する方法です。どちらの方法も、がん細胞の有無・がんの種類・正常な細胞との違いなどを顕微鏡で調べます。
歯医者で口腔がん検診を受ける頻度と費用
口腔がん検診はどれくらいの頻度で受けるのがよいのでしょうか。以下で、検診を受ける頻度と費用を紹介します。
口腔がん検診を受ける頻度
一年に一度の頻度で検診を受けるとよいでしょう。口腔がん検診は、各地で県市区単位の歯科医師会が中心で、集団検診として行われています。
住んでいる自治体によっては、対象の歯科医院での検診が可能です。また、大学病院や総合病院の人間ドックでも、口腔がん検査や歯科ドックと銘打って行っています。
県市区単位の検診では、対象年齢が30歳以上や50歳以上など各自治体によって異なるため、対象年齢を確認してから受けるようにしましょう。
また、口腔がんでは50歳以上で喫煙と飲酒の習慣がある方が、がんにかかりやすいとされています。該当する方は、口腔がんの検診を受けてみるとよいかもしれません。
気になる症状が続いている場合には、検診を受けるより先にかかりつけの歯科医院を受診するようにしましょう。
口腔がん検診の費用
受ける検診によって費用は大きく異なります。自治体と歯科医師会が行っている検診では、年齢によっては無料のものから2,000円前後かかる場合もあります。
人間ドックや大学病院で行われる口腔がん検診では、7,000〜14,000円(税込)ほどになるでしょう。
自治体の検診は、行われる日にち・回数・対象年齢・人数も決まっているため、よく確認してから受けるようにしましょう。
口腔がんを早期発見するポイント
口腔がんを早期発見するポイントは、セルフチェック方法を知っておくことです。以下で紹介するセルフチェック方法やがん化する可能性がある病変を知って、気になる症状がある場合には早期に医療機関を受診しましょう。
口腔がんのセルフチェック方法
以下が、口腔がんのセルフチェック方法です。
- 口内炎が2週間以上治らない
- 抜歯や噛んだ傷がなかなか治らない
- 入れ歯でできた傷が治らない
- 粘膜がただれている
- 舌や歯肉に赤や白の斑点がある
- しこりや腫れ、できものがある
- 口腔器官の動かしにくい
- 唇や舌がしびれる
- 首や下顎に腫れがある
- 歯の動揺がある
一つでも当てはまる方は、検診を受けるようにしましょう。早期発見が早期治療につながります。
がん化する可能性がある病変に注意
口腔がんになる可能性がある病変には、白板症(はくばんしょう)・紅板症(こうばんしょう)・扁平苔癬(へんぺいたいせん)などがあります。
白板症は、頬粘膜や舌、歯肉に生じる白斑状の病変です。舌にできるものはがん化する可能性が高いでしょう。こすっても取れないのが特徴です。
3〜15%ほどの病変ががん化するとされています。紅板症は舌や歯肉、口腔粘膜に生じる鮮やかな赤色が特徴の病変です。頻度は白板症よりも低いですが、50%ほどががん化するとされています。
刺激物を食べたり、触ったりすると痛みがあるのも特徴です。扁平苔癬は、口腔粘膜が角化する慢性炎症疾患です。
頬粘膜・口腔庭・歯肉・口唇に現れやすく、口腔内のシミ・舌の痛み・味覚障害などを生じます。中高年の女性によくみられるのが特徴です。
口腔内に違和感を覚えたり上記の病変を見つけたりした際には、医療機関を受診しましょう。
口腔がんの治療と予防
口腔がんは体内にできるがんとは異なり、場所によっては自分で見つけることができるがんです。以下で、口腔がんの治療法と予防法を紹介します。口腔がんの予防の参考にしていただけると幸いです。
口腔がんの治療法
口腔がんの治療は、手術・放射線療法・薬物療法の単独もしくは組み合わせで行われます。がんの発生部位・進行度合い・種類・転移の有無などによって、治療法は異なります。
がんは病変部に限らず、周囲にも広がっていくのが特徴です。そのため、手術では正常な組織も含めて切除します。骨まで浸潤している場合には、骨組織の切除が行われます。
また、頸部リンパ節への転移がみられる場合には、頸部郭清術が行われるでしょう。
放射線療法は、手術でがんを切除しきれなかった場合や頸部リンパ節へ転移している場合など、手術後の再発予防のために行われる治療法です。
治療期間は各個人によって異なりますが、6〜7週間ほどに渡って行われます。放射線療法では副作用が生じ、治療を初めて数週間で現れるものから、数ヶ月・数年経ってから現れるものがあります。
副作用が残る場合もあるため、気になる症状は担当の医師に相談してみましょう。薬物療法は、手術や放射線療法が行えない場合や他臓器にがんが転移した場合に行われる治療法です。
がんが進行している状況では、手術後に放射線療法と薬物療法を併用した方法がとられるでしょう。薬物療法も化学療法同様に副作用が生じます。
考えられる副作用と症状を知っておくと、対応も可能でしょう。手術後は、口腔器官や嚥下機能のリハビリテーションが必要になる場合があります。
患者さんによって切除部位・切除範囲・残存機能の能力なども異なります。術後早期からリハビリテーションを行い、機能の回復に努めましょう。
口腔がんにならないための予防策
口腔がんにならないための予防策には、以下のような方法があります。
- 禁煙をする
- 飲酒を控える
- バランスのとれた食事をする
- 刺激物や熱い飲食物に気をつける
- むし歯や歯周病は治療する
- 口腔内を清潔に保つ
- 合っていない義歯や詰め物は直す
- 定期的に歯科検診を受ける
口腔がんの初期の段階では、自覚症状に乏しく、口内炎と考えて放置してしまうケースも少なくありません。
口腔がんは、喫煙・飲酒・口腔内不衛生など口腔内への慢性的な刺激によって、生じる可能性が高いと考えられています。
そのため、上記のように生活習慣の改善や口腔内の衛生環境の維持を心がけることで、予防できるとされています。また、定期的に歯科検診を受けることで、早期発見・早期治療につなげましょう。
まとめ
口腔がんは、歯科医院の定期健診でみつけられる病気です。かかりつけの歯科医院を受診し、口腔がんの可能性がある際には、口腔外科や口腔がんを診療している歯科医院を紹介されるでしょう。
口腔がんの検診は各地で行われており、自治体と協力して口腔がん検診を行っている歯科医院もあります。
口腔がんは初期症状が乏しく、気付いた際には進行しているケースも少なくありません。頸部リンパ節に近いため、転移の可能性も高くなります。
そのため、セルフチェック方法やがん化する可能性がある病変を知っておくことで、口腔がんの早期発見につながります。
また、早期発見・早期治療につながるように定期的に歯科検診を受けるようにしましょう。
参考文献
- 口腔がんの原因・症状について|国立研究開発法人 国立がん研究センター
- 診療ガイドライン|日本癌治療学会 がん診療ガイドライン
- 口腔底がん|特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
- 頬粘膜がん|特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
- 上歯肉がん|特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
- 下歯肉がん|特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
- 喫煙とがん|厚生労働省
- 喫煙、飲酒と口腔・咽頭がん罹患リスクについて|国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト
- 口腔がんのセルフチェックをしましょう|公益社団法人 日本口腔外科学会
- 口腔外科(こうくうげか)って何?|北茨城市民病院
- 舌がん 全ページ表示|国立研究開発法人国立がん研究センター
- 口腔がんの検査・診断について|国立研究開発法人 国立がん研究センター
- 初診時の標準的な問診票の項目等
- 口腔がん検診について
- 口腔がんの療養について|国立研究開発法人 国立がん研究センター
- 人間ドックコース・料金|筑波大学附属病院 つくば予防医学研究センター
- 人間ドック,各種検診・検査のご案内|独立行政法人 労働者健康安全機構 青森労災病院
- 口腔がん検診|世田谷区
- 口腔がん検診の実施|神戸市役所
- 口腔がん検診|独立行政法人 地域医療機能推進機構 船橋中央病院 健康管理センター
- 口腔粘膜疾患|公益社団法人 日本口腔外科学会
- 口腔がん|東京女子医科大学 歯科口腔外科
- 口腔がんの治療について|国立研究開発法人 国立がん研究センター