お口の粘膜に水ぶくれのようなデキモノが生じたら、それは粘液嚢胞(ねんえきのうほう)かもしれません。いわゆる口内炎とは異なるもので、発生するメカニズムや対処法にも違いが見られます。一見するとニキビのようにも見えることから、自分で潰して治そうとする方もいるかと思います。ここではそんな粘液嚢胞ができる原因やできた場合の対処方法、治療方法について解説します。口腔粘膜に水ぶくれができていて不快な思いをしている方は参考にしてみてください。
粘液嚢胞とは
はじめに、粘液嚢胞の基本事項を確認しましょう。
- 粘液嚢胞とは何ですか?
- 粘液嚢胞とは、お口の粘膜にできる袋状の病変です。そのなかには唾液の成分である粘液が含まれていることから、このような名前が付けられています。粘液嚢胞にはなぜ唾液の成分が含まれているのか。それは唾液腺の出口が何らかの理由で塞がってしまい、隙間から漏れ出た粘液が嚢胞という形で病変を作り出すからです。ちなみに、粘液嚢胞の主な原因となる唾液腺は、小唾液腺(しょうだえきせん)と呼ばれるもので、口唇腺や頬腺、舌腺などが挙げられます。
- 粘液嚢胞がどのような場所にできやすいですか?
- 粘液嚢胞は、下唇の内側や頬粘膜、舌の裏側などに好発します。これらの粘膜は、食事や会話のときに誤って噛んでしまう誤咬(ごこう)が起こりやすい部位でもあります。つまり、粘液嚢胞は口腔粘膜が傷つくことで発症しやすい病気なのです。とりわけマルチブラケット装置による歯列矯正を行っている方は、ワイヤーや結紮線による刺激が原因となって、粘液嚢胞ができやすくなっているため、十分な注意が必要です。
- 粘液嚢胞ができた場合、どのような症状が出るのか教えてください
- 粘液嚢胞ができると、口腔粘膜に透明または半透明の水ぶくれが生じます。粘液嚢胞のサイズは、直径5ミリくらいから数cmにおよぶこともあります。大きな粘液嚢胞ができると、悪性の腫瘍ではないかと不安に感じるかもしれませんが、その点は、安心してください。粘液嚢胞は良性であり、悪性化するリスクはほとんどありません。また、粘液嚢胞自体に痛みを感じることはなく、違和感や異物感が生じる程度にとどまります。ただし、矯正装置による慢性的な刺激があったり、粘液嚢胞ができている部分を再び誤咬したりすると、強い痛みが生じるおそれがあります。
- 粘液嚢胞ができやすくなる生活習慣はありますか?
- 粘液嚢胞は、主に口腔粘膜が傷ついたときに生じることから、お口にダメージを受けやすい生活習慣はリスク因子となりえます。まず、お口のなかが乾燥すると、口腔粘膜が傷つきやすくなるため、口呼吸や口唇を噛む癖、不十分な水分補給といった生活習慣は、粘液嚢胞をできやすくします。極端に硬い食べものを食べる習慣がある場合も口腔粘膜が傷つきやすく、粘膜嚢胞の発症リスクが高まります。
粘液嚢胞を自分で潰す場合のリスク
次に、粘液嚢胞ができてしまった場合の対処法を解説します。
- 粘液嚢胞を自分で潰すとどのようなリスクがありますか?
- 粘液嚢胞を自分で潰すと、口腔粘膜に傷ができて細菌に感染するリスクが生じます。また、粘液嚢胞を自分で潰しても、多くのケースでは再び病変が生じるため、意味のある行為ではないといえるでしょう。それどころか粘液嚢胞を自分で繰り返し潰すことで患部の組織の線維化が進んで硬くなるというデメリットも生じることから、粘液嚢胞は自分で潰さない方がよいといえます。
- 粘液嚢胞を触ったり刺激したりすると悪化しますか?
- 粘液嚢胞は、極めて薄い組織に覆われた水風船のような病変なので、無暗に舌で触ったり、指で刺激したりすると潰れることがあります。同時に、細菌感染が起こって症状が悪化することも考えられるため、患部に刺激を加える行為は控えてください。
- 粘液嚢胞をもし自分で潰してしまった場合は、どのように対処すればよいですか?
- まずは、患部を清潔に保つよう努めましょう。粘液嚢胞が潰れた状態は、感染リスクが高まっています。口腔ケアをしっかり行うことはもちろん、患部を不必要に刺激する行為も避けてください。
粘液嚢胞が潰れたときの対処方法
続いては、粘液嚢胞が自然につぶれたときの対処方法を解説します。
- 粘液嚢胞が潰れた後に注意すべきことは何ですか?
- 粘液嚢胞が自然に潰れた場合も自分で潰した場合と同様、患部を清潔に保ってください。無暗に指や舌で触るのはNGです。口腔ケアをしっかりと行い、患部への刺激を避けていれば、傷口の状態も自然に落ち着いてきます。
- 粘液嚢胞が潰れた場合の正しい対応方法を教えてください
- 自然に潰れた粘液嚢胞のサイズが大きかったり、痛みを伴っていたりする場合は、歯科医院の受診を検討するのもひとつの方法です。歯科では、適切な方法で粘液嚢胞の治療を行えます。粘液嚢胞のサイズが小さく、痛みや腫れなどの症状も現れていないのであれば、特別な対応は必要ありません。患部への刺激を避け、十分な栄養をとり、口腔内を清潔に保つことで、傷口は落ち着いてきます。
- 粘液嚢胞は繰り返すこともありますか?
- 粘液嚢胞は、再発を繰り返しやすい病気です。なぜなら粘液嚢胞の根本的な原因が唾液腺の閉塞だからです。そのため粘液嚢胞が自然に潰れても、唾液が分泌される出口が塞がれている限り、再び病変が生じる可能性があります。もちろん、すべてのケースで粘液嚢胞の再発を繰り返すわけではなく、1度潰れたらそれで治癒に向かうこともあります。
粘液嚢胞の治療方法
最後に、粘液嚢胞を治療する方法について解説します。
- 粘液嚢胞ができた場合、どのような治療を行いますか?
- 粘液嚢胞の治療法の選択肢としては、主に以下の2つが挙げられます。
◎外科手術による摘出
粘液嚢胞の標準的な治療法は外科的な摘出です。摘出の対象となるのは、嚢胞だけでなく、根本的な原因となっている小唾液腺も含まれます。摘出手術といってもそれ程大がかりなものではなく、大きく出血したり、痛みを感じたりすることはほとんどありません。手術も10分程度で終わるケースがほとんどです。
◎レーザー照射
粘液嚢胞は、医療用レーザーを使って治療する方法もあります。メスを使うよりも侵襲が少なく、手術後の痛みや腫れも軽減できます。また、レーザー照射によって口腔粘膜の組織の活動が活発化されるため、メスでの外科手術より傷の治りが早いケースが多いというメリットもありますが、すべてのケースに適応できる治療法ではない点に注意が必要です。
◎その他の治療法
粘液嚢胞の治療法としては、その他にも凍結外科療法や薬剤の注入などが挙げられますが、現状で主流となっているのが外科的な摘出です。いずれにしてもまずは歯科医院を受診して、粘液嚢胞の診断を受けることが大切です。そのうえで適切な治療法を選び、必要に応じて口腔外科への紹介などを受けるようにしましょう。
- 粘液嚢胞の治療後の回復期間はどれくらいですか?
- 粘液嚢胞を外科的に摘出した場合は、手術から2〜3週間程度で傷口が回復します。ケースによっては数ヶ月かかる場合もあるため、その点については事前に主治医としっかり相談しておく必要があります。粘液嚢胞に対してレーザー照射を行った場合は、外科手術よりは回復期間がやや短くなります。それでも手術から2〜3週間程度は、回復期間として想定しておいた方がよいでしょう。
編集部まとめ
今回は、粘液嚢胞ができる原因やできた場合の対処法、歯科での治療方法などについて解説しました。粘液嚢胞は、口腔粘膜に分布する唾液腺の出口が何らかの理由で詰まった場合に生じやすい病変で、水ぶくれのような症状を呈します。痛みや腫れ、出血などを伴うことは稀ですが、粘液嚢胞が自然に潰れても、あるいは自分で潰しても繰り返し再発することも少なくないため、経過をしっかり見ていくことが大切です。日常生活に支障をきたすような症状が現れた場合は、歯科で粘液嚢胞の摘出手術やレーザー照射を受けることが推奨されます。
参考文献