扁平苔癬は代表的な口腔粘膜の病気で、痛みや不快感に悩む方が少なくありません。
難治性で完治しないといわれていますが、適切な治療をすれば症状が緩和されて自然軽快していきます。
扁平苔癬にはさまざま治療方法があり、複数の方法を組み合わせて治療していくのが一般的です。
治療には扁平苔癬の原因を除去することが大切で、患者さん自身でも病気への理解を深めることで治療が進みやすくなるでしょう。
この記事では扁平苔癬の治療の際に知っておくべき、以下のポイントを解説します。
- 扁平苔癬の治療方法
- 扁平苔癬の原因
- 扁平苔癬は自然治癒するか
- 扁平苔癬はがん化するか
扁平苔癬で悩む方が、正しい情報をもとに適切な対処をするための参考になれば幸いです。
扁平苔癬治療
扁平苔癬の原因は完全には解明されておらず、治療法も確立されていません。
口腔内の扁平苔癬は難治性で、治療には長い期間がかかることもあり、患者さんにとっては精神的な負担も大きくなるでしょう。
しかし、症状を緩和して自然治癒を促すために有効とされる治療法はいくつかあり、複数の治療を組み合わせて症状の改善を目指します。
口腔内の扁平苔癬に対して、主に行われる治療方法を解説します。
うがい薬
扁平苔癬の治療には患部を清潔に保つことが不可欠であり、うがい薬によって症状の悪化を抑えます。
扁平苔癬は感染症ではありませんが、粘膜が損傷すると細菌感染に弱くなるため、二次感染を生じることが少なくありません。
歯ブラシが患部に触れると強い痛みがあり粘膜を傷つけやすいため、歯みがきは慎重に行い、うがい薬によって清潔を保ちます。
また、慢性的な痛みが辛い場合には、麻酔薬の入ったうがいで痛みを和らげる治療もあります。
軟膏
扁平苔癬の治療薬は、ステロイド軟膏が基本となります。
扁平苔癬は免疫細胞が自分の身体を攻撃してしまう自己免疫疾患と考えられており、ステロイドとは免疫の過剰な働きを抑える薬です。
扁平苔癬の治療では長期に渡ってステロイド軟膏を使用するとリスクが高まるため、期限を区切って効果をみながら慎重に処方します。
ステロイド軟膏は強さに応じて複数の種類があり、医師が症状と経過をみながら判断するため、途中で辞めないようにしましょう。
ステロイド軟膏によって免疫反応を抑えると、傷口から侵入する細菌に対する抵抗力が弱まるため、口腔内を清潔に保つセルフケアが重要となります。
ビタミン剤
扁平苔癬の治療には、ビタミン剤が使われることもあります。
扁平苔癬に対して処方されるビタミン剤は粘膜の健康を保つ働きのあるもので、主に以下のビタミンを含むものです。
- ビタミンA
- ビタミンB
- ビタミンC
- ビタミンE
扁平苔癬は口腔内の粘膜が痛んで食事が苦痛になるため、栄養不足となっている患者さんが少なくありません。
ビタミンをはじめとした栄養素は食事で取るのが基本ですが、病気の際にはビタミンの消費量も増えるため、ビタミン剤による補給が有効です。
抗アレルギー剤
扁平苔癬の原因は金属アレルギーとの説があり、抗アレルギー薬が奏効した症例もあります。
抗アレルギー薬は免疫の過剰反応を抑える薬で、扁平苔癬の原因が何らかの物質に対するアレルギーである場合には効果があるでしょう。
抗アレルギー薬を使用する前には、患者さんのアレルギー検査を行い、原因となる物質を調べたうえで適切な薬を使用します。
扁平苔癬とは
扁平苔癬とは、お口のなかの粘膜が局所的に白くただれ、痛みやかゆみを伴う病気です。
白い斑点が線状・網目状・レース状・環状などさまざまな形状で広がり、赤くなってびらん(皮膚が剥がれ落ちること)となる場合もあります。
白い部分は皮膚が異常に角化して固くなっているため、拭っても取れないのが特徴です。
慢性的に疼痛が続き、食事の際にしみたり灼熱感が続いたりと辛い症状のため、心身を消耗してしまう患者さんも少なくありません。
扁平苔癬の原因はよくわかっていませんが、免疫が過剰反応して自分の身体を傷つけてしまう自己免疫疾患の一種と考えられています。
お口だけでなく全身の皮膚に発症する場合があり、お口のなかにできる扁平苔癬は口腔扁平苔癬といいます。
扁平苔癬の原因
扁平苔癬の原因は完全には解明されていませんが、これまでの研究からリスクの高い因子はいくつかわかっています。
治療の際にはこれらの原因となりうる因子を調べ、当てはまるものがあれば除去して避けることが大切です。
扁平苔癬の原因として考えられる、主なリスク因子を解説します。
金属アレルギー
金属アレルギーが扁平苔癬の原因とする報告はいくつかあり、特に口腔扁平苔癬の場合は金属製の被せ物などがリスク因子となります。
歯科治療で金属製の被せ物をしてから扁平苔癬を発症した場合は、被せ物を除去して金属製でないものに変えることも検討します。
しかし被せ物を交換するには歯を削る必要があり不可逆的なため、まずは金属アレルギー検査などをして慎重に判断した方がよいでしょう。
遺伝
扁平苔癬は遺伝的な疾患といわれており、家族歴のある場合にはリスクが高い可能性があります。
扁平苔癬は中高年の女性に発症する傾向が強く、家族歴のある方は口腔ケアや栄養に気をつけてお口の健康を保ちましょう。
自己免疫疾患
扁平苔癬は免疫細胞の異常による、自己免疫疾患と考えられています。
免疫は体内に侵入した異物を排除するための機能で、自己と非自己を厳密に区別して非自己のみを攻撃する仕組みを備えています。
何らかの原因でこの仕組みが乱れ、免疫細胞が自己を攻撃して炎症を起こしてしまうのが自己免疫疾患です。
扁平苔癬をはじめとした自己免疫疾患は難治性となり、治療には長期的な取り組みが必要となります。
ストレス
ストレスは万病のもとであり、扁平苔癬も例外ではありません。
慢性的なストレスは自律神経や免疫の働きを乱して、自己免疫疾患を発症する大きな要因です。
ストレスが続くと食欲不振や消化不良になりやすく、栄養不足から粘膜の健康を保てなくなります。
自然治癒力が低下して傷の治りも遅くなるため、まずはできる範囲でのストレスケアが治療の第一歩です。
代謝障害
扁平苔癬は、代謝障害などほかの病気と関連して発症する可能性も報告されています。
代謝とは、体内である物質を別の物質に作り変える働きのことで、代謝のためにはさまざまな酵素やホルモンが不可欠です。
酵素やホルモンの機能が低下して正常な代謝をできなくなる病気を代謝障害や代謝異常といい、お口の粘膜を正常に保てなくなって扁平苔癬などの病気が起こると考えられています。
糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病は代謝障害のリスクが高まるため、扁平苔癬の治療では生活習慣の改善も大切となるでしょう。
扁平苔癬の症状
扁平苔癬は粘膜の炎症から皮膚の異常な角化を伴う病気であり、患者さんの自覚症状はひとつだけではありません。
同じ扁平苔癬でも人によって症状はさまざまですので、口腔外科の医師が慎重に検査して診断していきます。
以下のような症状が続く場合は、扁平苔癬の可能性がありますので、お早めに口腔外科にご相談ください。
口内炎
口内炎はさまざまな原因で発生しますが、扁平苔癬によって口内炎となるケースも少なくありません。
食事の際に誤って噛んでしまった部分が口内炎となることはよくありますが、扁平苔癬の場合は噛んでいない部分が赤く腫れて痛みを伴います。
刺激性のある食べ物で強い痛みが生じ、口内炎の多発から歯科医院を受診して扁平苔癬と診断されることもあります。
口腔内を傷つけていないのに口内炎が多発する場合は、一度歯科か口腔外科で受診してみましょう。
皮疹
皮疹とは皮膚にあらわれる目に見える異常の総称で、赤み・ただれ・ブツブツ・変色など代表的な症状です。
口腔扁平苔癬の患者さんの16%はお口以外の皮膚にも何らかの症状があり、皮膚症状のある患者さんの75%には、何らかの粘膜症状があると報告されています。
皮膚やお口のなかに慢性的な異常があらわれる場合は、それぞれが独立したものではなく、どちらも扁平苔癬の可能性があるでしょう。
口腔扁平苔癬の場合は白く変色して拭っても取れない異常が主ですが、赤くただれてびらんとなることも少なくありません。
皮膚や粘膜は、炎症を起こすと毛細血管が拡張して赤くなり、炎症の繰り返しによって異常に分厚くなって白く苔のようにこびりついているものが扁平苔癬です。
お口のなかが白く変色する病気はほかにもあり、白い部分が拭い取れる場合は口腔カンジダ症などが考えられるでしょう。
かゆみ
扁平苔癬はかゆみを伴うこともあり、慢性的に続くため精神的な負担も大きくなります。
特に皮膚にできる扁平苔癬では、強いかゆみで掻きむしってしまい、症状が悪化するケースが少なくありません。
お口のなかがかゆいと舌で触ってしまいますが、扁平苔癬では皮膚が炎症を繰り返して弱くなっているため、触りすぎると二次感染を起こしやすくなります。
かゆみが強い場合には医師に相談し、かゆみを緩和する薬で症状を抑えていきます。
出血・痛み
口腔扁平苔癬では、慢性的な疼痛を訴える患者さんが大半です。
口のなかがただれて接触痛を伴い、食事の快適性が大きく低下するため食欲不振・栄養不足となるケースもあります。
扁平苔癬は頬の粘膜や舌にできやすく、部位によっては発音に障害がでることも少なくありません。
生活の質が大きく低下するため、痛みが強い場合には麻酔薬を含んだうがいで痛みを緩和します。
麻酔によって一時的に症状が和らぎますが、処方された量以上には使用しないように注意が必要です。
味覚異常
扁平苔癬が舌にできた場合、味覚を感じる味蕾という細胞が障害されて味覚が狂うことが少なくありません。
味覚検査でどの程度味覚が傷害されているかを調べることで、症状の重さを診断する有力な情報となります。
口腔内の痛みや味覚の狂いによって食事の快適性が大幅に低下するため、扁平苔癬が長期化すると栄養不足のリスクが高まります。
扁平苔癬の治療は1~2年以上続くことも少なくありませんが、医師と相談してできる範囲での生活改善に取り組みましょう。
扁平苔癬は自然治癒する?
口腔扁平苔癬の症例では、64~68%が1年以内に自然軽快しているという報告があります。
これは金属アレルギーや薬剤アレルギーなどによる急性の症例も含んでおり、原因が明確な急性口腔扁平苔癬は、原因物質を除去すれば治癒します。
原因が不明確な扁平苔癬は、一時的に症状が軽快しても再発が少なくありません。
原因として考えられるリスク因子をできるだけ避けることで、辛い症状が軽快する可能性はあるでしょう。
患者さん自身が日常生活のなかで扁平苔癬のリスクを減らせるのは、主に以下のような行動です。
- 過度な飲酒・喫煙を控える
- ストレスをためないよう心がける
- 口腔内を清潔に保つ
- 口腔内を傷つけない
- 生活習慣病をコントロールする
- アレルギーの可能性があるものは避ける
病院で行う扁平苔癬の治療は、症状を抑える対症療法が基本となります。
根本的な治癒を目指すには患者さん自身の取り組みが不可欠であり、その結果自然治癒したように見えるケースも少なくないでしょう。
扁平苔癬の原因はよくわかっていませんが、できる限りの治療を続けた結果として自然治癒するケースはあるため希望をもって取り組んでください。
扁平苔癬ががん化するリスク
口腔扁平苔癬は、約1%の割合で有棘細胞がんが発生すると報告されています。
有棘細胞がんは皮膚の有棘層にある細胞ががん化したもので、皮膚がんの一種です。
扁平苔癬は前がん状態であるという説もありますが、がん化する可能性は高くないため過度な心配は不要です。
扁平苔癬は難治性で再発を繰り返すため、炎症の繰り返しががん細胞の発生リスクを大きくしているという説もあります。
がんは異常な細胞が除去されずに増殖してしまったもので、自己免疫疾患など異常な状態が続いている部位では発生しやすくなります。
扁平苔癬が前がん状態であるかに関わらず、炎症が慢性的に続くことはがん発生のリスクを高めるため、早めに治療して症状を抑えた方ががんのリスクも減らせるでしょう。
まとめ
扁平苔癬の原因や症状・治療方法について解説してきました。
口腔内の扁平苔癬は一般的に難治性で、治療しても再発して長引くケースが少なくありません。
原因がよくわかっていないため治療方法が確立しておらず、症状を緩和する対症療法が基本となります。
しかし、実際の症例では60%以上が自然軽快しており、治療を続ければ辛い症状も治癒していくでしょう。
治療によって症状を緩和しながら、悪化させる原因を除去して避けることが自然治癒を促します。
適切な検査と治療のためにも、まずは口腔外科にご相談ください。
参考文献