口腔粘膜に現れる症状にはさまざまなものがありますが、その中でも「白板症(はくばんしょう)」は、特異な病気といえます。なぜなら頬粘膜や口唇、舌などにいろいろな性状の白色病変が見られるからです。しかも口内炎のような強い痛みが生じることは少ないにも関わらず、悪性化リスクが高くなっています。ここではそんな白板症の症状やリスク、治療法、予防法などを詳しく解説します。口腔粘膜の白色病変が気になっている人は参考にしてみてください。
白板症について
はじめに、白板症の基本事項から確認していきましょう。白板症は日常的に馴染みのない病気なので、そもそもどんな特徴があるのかを知らない人が大半でしょう。
白板症とは
白板症は、口内の粘膜に白い斑点が現れる症状で、特に舌や歯茎、頬の内側、口底、上顎などに見られます。この白斑は擦っても取れないものであり、放置すると口腔がんに進行するリスクがあります。口腔がんへの進行リスクがあるため、口腔潜在的悪性疾患と分類されています。
白板症の症状
白板症は、舌や歯肉、頬の内側、舌の下、上の歯茎の間など、口内の粘膜に白色の板状または斑状の病変が現れる状態を指します。これらの病変は長期間消えず、擦っても取れることはありません。白板症には主に二つのタイプがあり、「均一型白板症」と「不均一型白板症」に分類されます。
均一型白板症の場合、患部の表面は滑らか、またはわずかにざらついていることが特徴です。これに対して不均一型白板症では、潰瘍を伴うことがあったり、角化して盛り上がったりすることがあります。不均一型は、特に癌化のリスクが高いとされています。
白板症の症状は基本的に痛みを伴いませんが、赤くただれたり潰瘍があったりする場合は、食事の際に痛みやしみる感じが生じることがあります。また、病変部分に赤い斑点が見られる、もしくはイボのように盛り上がっていることもあります。これらの症状は、患者さんにとって不快感を与えるだけでなく、健康へのリスクも伴います。
患者さんや親御さんがお子さんの口内に異常を感じた場合は、見過ごさずに専門の医療機関で診断を受けることが重要です。早期の診断と適切な治療によって、口腔がんへの進行を防ぐことが可能になります。白板症はその症状が目立たないことも多いので、定期的な歯科検診を通じて早期発見を心掛けることが推奨されます。
白板症の悪性化リスク
白斑の中にただれや潰瘍がある場合、それは初期の口腔がんである可能性が高く、特にイボ状の白斑はがん化しやすいとされています。統計によれば、白板症の患者さんの約10%ががん化し、10年の経過観察で約30%ががんに進行する可能性が報告されています。その他、次のような症状が見られた場合は、がん化の兆候として捉えられるため、早期に歯科を受診した方がよいといえます。
・白斑の急激な拡大
白斑が短期間で顕著に広がる場合、注意が必要です。疣状または乳頭状の腫瘍の発生: 病巣中にこのような腫瘤が現れた場合、それは潜在的ながんのサインです。
・局面の亀裂と凹凸不整
比較的平滑だった部分に亀裂が生じ、凹凸が不整になる場合もがん化の可能性が高まります。
・境界の不明瞭さ
白斑の境界が不明瞭になるのは、正常な組織と異常な組織との区別が困難になるため、悪性化の徴候と考えられます。特に舌の辺縁、舌下面、口底といった癌の好発部位に生じる白板症は、前癌状態や上皮内癌である可能性が高いとされています。また、頬粘膜の白板症が悪性化する割合が比較的高いという報告もあります。
これらの兆候を見逃さず、早期に専門医の診断を受けることが非常に重要です。定期的な口腔検診により、これらの症状が早期に発見されることで、治療の選択肢が広がり、より良い治療結果が得られる可能性が高まります。
白板症の原因
白板症の原因は多岐にわたり、明確に特定されているわけではありませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。主に、悪い歯並び、尖った虫歯、不適合な差し歯や義歯が口腔粘膜に継続的な機械的刺激を与えることが原因とされています。この他に、喫煙や過度の飲酒、辛いものや熱いものなど刺激性の強い食べ物の摂取も化学的刺激として原因になり得ます。さらに、加齢による変化やカンジダ(一種のカビ)、ヒトパピローマウイルスの感染も白板症の発症に関与しているとされています。
白板症になりやすいとされている人の特徴
白板症は、人によって発症リスクが変わります。次に挙げる3つに当てはまる人は、白板症になりやすいため注意が必要です。
40歳以上の男性である
白板症の好発年齢は、50〜70歳代ですが、40歳以上からそのリスクが高まります。つまり、中高年から高齢にかけてかかりやすくなる病気なのです。また、白板症の発症率には性差が見られる点も強調しておかなければなりません。白板症は、女性よりも男性の方が1.3〜2倍程度かかりやすいといわれています。
喫煙をしている人
喫煙習慣も白板症のリスク因子のひとつです。白板症は、口腔がんへの進行リスクがある口腔潜在的悪性疾患であり、タバコの煙には発がん物質が含まれていることから、喫煙習慣が白板症の発症リスクを上昇させるメカニズムも容易に想像できることでしょう。また、喫煙が習慣化している人は男性の方が圧倒的に多いため、女性よりも男性の方が白板症になりやすい点も理解しやすいです。
ビタミンA・Bの不足
偏食で、摂取する栄養素にも偏りがあると、口腔はもちろん、全身の健康にも悪影響が及びます。白板症の場合は、ビタミンA・Bの摂取量が不足しているとそのリスクが高まります。そのため白板症の治療では、ビタミンAを投与することもあります。
白板症の診断と治療
次に、白板症の検査・診断と治療方法について解説します。病院でどのような検査を受けることになるのか知っておくことで、受診もしやすくなるかと思います。
白板症の検査と診断方法
白板症の診察は、まず視診と触診から始まります。この段階で、白斑の大きさや形状を評価し、それが噛んだり傷つけたりしている歯、差し歯、入れ歯がないかを確認します。必要に応じて、歯の形を整えたり、入れ歯の調整を行ったりすることもあります。さらに、舌がんと異なり、噛んでいない歯肉にも白斑が認められる場合がありますので、強すぎる歯磨きが原因でないかも検討し、適切な歯磨き方法の指導を行うことがあります。
歯科医院でのこれらの処置によっても症状が改善しない場合、患者さんは専門の医療施設への紹介となることがあります。特に、白斑内の赤い部分が治らない場合には、初期的な検査として擦過細胞診が行われることもあります。この検査では舌がんを参考に細胞の状態を調べますが、最終的な診断を確定するためには、白斑の一部を切り取り、病理組織検査を実施する必要があります。
病理組織検査では、がん化しているか、またはがん化しやすい状態である上皮性異形成が存在するかを調べます。また、角化が亢進している場合(鉛筆だこのような状態)も評価されます。これらの検査結果に基づいて、適切な治療計画が立てられます。白板症の早期発見と治療は、口腔がんへの進行を防ぐために重要です。患者さんや親御さんがお子さんの口内の異常に気付いた場合は、適切な歯科医院での診断を受けることが推奨されます。
白板症の治療法
口腔白板症の治療方針は、病状やがん化のリスクに応じて異なり、主に手術や経過観察が行われます。病理組織検査によってがんが確認された場合、またはがん化する可能性が高いと判断された場合には、手術によって病変部分を切り取る治療が推奨されます。
一方で、がん化のリスクが比較的低い場合(異型が弱い、または角化亢進のみの場合など)には、手術を行うこともありますが、経過観察を選択することも一般的です。この場合、実際にがんが発症するまでには数ヶ月から数年かかることが多いため、慎重な観察が求められます。
経過観察中は、定期的にかかりつけの歯科医院を受診し、患部の変化を注意深く監視することが重要です。この観察期間中には、歯や入れ歯、または歯磨きの方法との関連も考慮し、必要に応じて生活習慣の指導も行います。これにより、症状の悪化やがん化の進行を早期に捉え、適切な対応が可能となります。
口内に異変を感じた場合は、速やかに専門の医療機関での診断を受けることが勧められます。定期的な検査と適切な治療計画によって、口腔がんへの進行を防ぎ、健康を維持することが可能です。白板症の治療と管理は、患者さんの生活の質を向上させるためにも、非常に重要なプロセスです。
白板症と似たような症状が出る病気
口腔粘膜には、白板症と似た症状が見られる病気がいくつかあります。そのため白板症が疑われる場合は、次の病気との鑑別が必要となります。
白色海綿上母斑
生まれた時から口腔粘膜に見られる白くて皺状に厚くなった病変で、遺伝的な要因が関与しているとされます。白色海綿状母斑は通常、治療の必要はありませんが、定期的な観察が推奨される場合もあります。
急性増殖性カンジダ症
カンジダ菌というカビの一種の過剰な増殖によって引き起こされるこの病変は、粘膜が白く厚くなる特徴があります。ガーゼなどで擦ると拭い取ることが可能で、適切な抗真菌治療により改善します。
白色水腫
喫煙者や黒人に多いとされる白色水腫は、頬粘膜が左右対称に白くなる病気です。頬粘膜を引き伸ばすと、正常な色に戻るのが特徴的で、しばしば喫煙の停止が改善につながります。
擦過性角化症
頬、舌、口唇の粘膜を繰り返し噛むことで粘膜が傷つき、中心部にびらんや潰瘍が生じ、周囲が白く厚く盛り上がる症状を呈します。この病変は、歯ブラシによる傷、噛みタバコの使用、舌を前歯に押し付ける癖など、物理的な刺激により生じることが多いです。これらの習慣を止めることで、症状はしばしば改善します。 白板症では、その他にも習慣性咬傷、化学的損傷、扁平苔癬、円板状エリテマトーデス、ニコチン性口蓋白色角化症などとの鑑別が必要となります。いずれも白板症と似たような白色病変が認められるため、自己診断はせずに専門家の診察を受けることが大切です。
白板症の予防方法
最後に、白板症を予防する方法を解説します。白板症は、がん化するおそれのある病気なので、予防するに越したことはありません。
生活習慣の改善
白板症は、喫煙や過度な飲酒によって発症リスクが高まるとされています。このため、禁煙や節度ある飲酒への生活習慣の改善が予防には極めて重要です。加えて、辛い食べ物や熱い食べ物の摂取を控えることも、口腔健康を守るために効果的です。これらの食習慣の見直しとともに、日常生活全体を健康的なものにすることが望まれます。健康な生活習慣を心がけることで、白板症のリスクを減らし、全体的な健康を促進することができます。
むし歯の治療
むし歯が白板症の直接的な原因になるリスクは限りなくゼロに近いですが、その結果として歯を失い、入れ歯を装着することになったり、歯並び・噛み合わせが悪くなったりすることはマイナスな影響が及びます。なぜなら適合の悪い入れ歯による慢性的な機械刺激は、白板症や口腔がんのリスクを高めるからです。悪い歯並び・噛み合わせも口腔粘膜に悪影響を及ぼすことが少なくないため、むし歯の段階で速やかに治療することが望ましいです。むし歯は自然に治らない病気なので、原則として放置するという選択肢はありません。
定期的な検診
白板症の予防には、かかりつけの歯科医院で定期的に受診することが最も効果的です。歯や入れ歯、歯磨きとの関連が症状の発生に強く影響しているため、専門家による定期検診が重要です。また、日常生活において自分の口の中に関心を持ち、変化を観察することも、異常を早期に発見する鍵となります。早期発見と早期治療により、たとえがん化していた場合でも、治る確率は格段に高まります。定期的なケアと注意深い自己観察が、健康な口腔環境を維持するための基本です。
編集部まとめ
今回は、白板症の原因や症状、悪性化するリスクなどについて解説しました。白板症は、口腔粘膜にさまざまな性状の白色病変が現れる病気で、口腔がんに進行するリスクのある口腔潜在的悪性疾患に分類されるため、気になる症状が認められたら専門の医療機関で診察を受けるようにしましょう。白板症の診察は、一般の歯科医院でも行うことが可能です。また、白板症と診断されたからといって、必ずがん化するわけでもなく、積極的な治療が不要である場合もあります。いずれにせよ最終的な診断および対処は専門のドクターに任せることが大切です。
参考文献