みなさんのなかには、噛みあわせや外見から「顎が歪んでいる」と感じて、方法があれば治療したいと考えている方もいるかもしれません。
そこで今回の記事では、顎の歪みが起こる原因・歪みによる症状・リスク・顎の歪みを治療できる診療科について解説します。
記事の後半では顎矯正手術の方法や流れを詳しく紹介するほか、顎の歪みを歯列矯正で治療できる可能性についても触れますので、そちらも併せて参考にしてください。
顎の歪みの原因やリスク
- 顎の歪みの原因について教えてください。
- 顎の歪みには、遺伝的要因・習慣などが関わっているとされます。また、ほかの病気が原因となって顎骨に歪みが現れることもあります。
生活習慣によって起こる代表的な顎変形症は、上顎前突症・下顎前突症・開咬症です。
原因となる習慣には、乳幼児期の指しゃぶり・舌癖・頬杖などが挙げられます。また、傷病の影響による顎変形症の例は、下記のとおりです。- 唇顎口蓋裂の術後に起こる上顎後退症
- 顎関節の外傷・感染による下顎後退症
- 生まれつき顎の歪みがあるケースもありますか?
- 顎変形症の発症には遺伝的な要因が大きく関わっているとされ、また先天性疾患により起こるものもあります。
先天性疾患との関連が強い顎変形症として代表的なものは、ダウン症の方に起こる上顎後退症です。このようなケースでは、生まれつき顎変形症の傾向があるといえます。
しかし、遺伝・先天性疾患による顎変形症は出生直後には目立たず、骨格が大きく変化する成長期になってから症状が強く現れるケースが多いでしょう。
そのため、生まれたばかりの頃から顎の歪みがある方もいますが、成人の方と比較すると歪みが目立ちにくい場合があります。
- 顎の歪みによるリスクはありますか?
- 顎変形症の患者さんは、噛み合わせに問題を抱えている場合が多いです。その結果、咀嚼に問題を抱えるリスクが高いといえます。
また、顎の歪みが下記のような顎関節症状につながる可能性があります。- 顎を動かすと痛い
- 口がまっすぐに開けない
- 口を開くとカクカクと音がする
さらに、顎変形症の患者さんは口がしっかりと閉鎖できない場合があり、発音障害・口腔乾燥症のリスクも高まるでしょう。
口腔外科で顎の歪みは治療できる?
- 口腔外科とはどのような診療科なのですか?
- 口腔外科は口腔・顎と、その隣接組織の傷病を専門とする診療科です。
口の周りという言葉でまとめれば理解はしやすいですが、歯・骨・粘膜・筋肉などさまざまな組織が含まれる複雑な領域です。また、対象とする傷病も外傷・神経性疾患・悪性腫瘍・関節の疾患など多岐にわたります。
加えて、口の周りは話す・食べる・呼吸をするなど毎日欠かさず行う行為にも深く関係し、また他者からも目につきやすい部位です。そのため、治療の際には疾患に合わせて内科的・外科的・歯科的な視点から治療を行うほか、審美的な面にも気を配ります。
- 顎の歪みは口腔外科で治療できますか?
- 噛み合わせ・顎の痛みなどは、症状の程度・患者さんの年齢などにより歯科での治療ができる場合もあります。しかし、外科的な治療が必要な場合には、最初に歯科で相談をしても口腔外科がある医療機関へ紹介となる可能性が高いでしょう。
そのため、特に成人の方が顎の歪みに悩んでいる場合は、まず口腔外科に相談することをおすすめします。なお、後述のとおり子どもの顎変形症は、歯科での治療のみでも治癒する可能性があります。
ただし、原因や状態により、顎の歪みに対する治療方法は異なります。詳しい治療内容については、後述の治療方法・歯科矯正との関係も参考にしながら、受診に際しては担当の医師または歯科医師からも十分に説明を受けましょう。
顎の歪みの治療法
- 顎の歪みは歯列矯正だけでは治りませんか?
- 顎の歪みのなかでも、上顎前突症・下顎前突症・開咬症には歯性と骨格性があります。
歯性とは、顎の位置は正常で歯並びのみに問題があるものをいいます。
一方、骨格性とは顎骨自体に上下差・左右差・変形などがあるものです。このうち、歯性の顎変形症は外科的な治療をせず、歯列矯正のみで治る可能性があります。しかし、上顎前突症・下顎前突症・開咬症が骨格性だった場合や、上下いずれかの顎の発達が不十分な下顎後退症・上顎後退症などは歯列矯正だけでは治癒が難しいでしょう。
- 口腔外科で顎の歪みを改善する治療法を教えてください。
- 歯科で行う歯列矯正は、歯に外的な力を加えて徐々に噛み合わせが整う位置へ移動させる方法です。
一方、口腔外科で行う顎矯正手術では、顎骨を切って正しい位置へ動かします。このような方法を、骨切り術と呼びます。
歯列矯正とは異なり、手術に伴って入院が必要となる治療法です。また、術後は顎の動きを強く制限するため、退院してからも数ヵ月単位で顎のリハビリが必要となります。
- どのような手術が行われるのですか?
- 前述のとおり、顎矯正手術は骨を切って移動させることで顎の歪みを修正する手術です。上顎または下顎全体を動かす場合と、歯を含む顎骨を一部切り取る場合があります。
具体的な術式は下記のとおりです。- 下顎枝矢状分割(かがくししじょうぶんかつ)骨切り術
- 下顎枝垂直(かがくしすいちょく)骨切り術
- Le Fort1(ル・フォー・ワン)型骨切り術
- オトガイ形成術
- 前方歯槽骨切り術
このうち、矢状分割骨切り術・垂直骨切り術・Le Fort1型骨切り術は顎全体を、オトガイ形成術・前方歯槽骨切り術は顎の前方のみを移動させる術式です。
移動が必要な部位により、上記のような術式から適切なものを選択していきます。顎骨を移動したら、ボルトやプレートで骨を正しい位置に固定して手術は終了です。
術後は、噛み合わせが合った状態で上下の顎をワイヤー・ゴムなどで固定し、顎の安静を保ちます。固定の期間は、術式・部位・範囲により1~2週間程です。
固定期間中は食事のときも固定は外せないため、流動食になります。固定が外れたら、口を開くためのリハビリを進めます。なお、顎骨の周囲には多くの血管・神経があります。
そのため、手術中には輸血が必要になる場合があり、また術後に感覚障害が現れる可能性があるという点には注意が必要です。
- 手術の前後に歯科矯正を行う必要があるのですか?
- 手術で顎を動かせば、噛み合わせは変化します。
術後の噛み合わせに適した歯並びへの歯列矯正には1~2年程がかかるため、手術を終えた時点で噛み合わせが正しい状態になるには、事前の歯列矯正が必要です。
なお、この歯列矯正は術後の噛みあわせを見据えたものであり、手術前には一時的に、歯列矯正により噛み合わせが悪くなっていきます。この時期には「最終的に噛み合わせをよくするための治療なのに、どんどん噛み合わせが悪くなる」と不安に感じる患者さんもいるかもしれません。
加えて、術後には実際に移動した後の噛みあわせを確認して、微調整のため再び歯列矯正を行います。
- 子どもと大人では治療法が異なるのですか?
- ここまで紹介した内容は、主に骨格の成長を終えた成人に対する治療方法です。
一方、成長期を迎える時期の子どもは、顎の骨もこれから成長するタイミングとなります。そのため、下顎前突症に対して顎骨の成長を抑制する目的でチンキャップを装着するなど、手術を伴わずに症状を改善できる可能性があります。
チンキャップとは、ベルトによって顎を後頭部の方向へ牽引して、成長を抑制するための器具です。ただし、子どもの顎矯正には乳歯の時期に行う第1期治療と、永久歯が生えてから行う第2期治療があります。
そのため、適切な治療時期のみ定めが必要であり、また治療期間は大人よりも長くかかる可能性が高いでしょう。さらに、必ずしもチンキャップにより顎骨の成長を十分に抑制できるとは限らず、成長期が終わってから手術が必要になる可能性がある点にも注意が必要です。
編集部まとめ
顎の歪みが大きくなると、外見が気になるだけでなく会話・食事に支障をきたすなど、生活のなかのさまざまな場面で影響が現れる可能性があります。
早期に顎変形症の治療を始めることが、顎関節の負担を減らすとともに、顎の機能を改善してQOL(生活の質)を向上させることにもつながるはずです。
なお、顎の歪みを治す方法には歯列矯正と顎矯正手術があり、患者さんの年齢・歪みの状況・原因などにより選択できる方法は異なるでしょう。
もし自分や家族の顎に外見的なズレや機能的な問題を感じたら、まずはお近くの歯科・口腔外科への相談をおすすめします。
参考文献