口唇ヘルペスと口内炎はいずれもお口の周りや中にできるトラブルですが、実は原因や症状、治療法が異なるまったく別の病気です。見た目が似ているために混同されがちですが、正しく見分けて適切に対処することが大切です。本記事では、口唇ヘルペスと口内炎の違いや見分け方、受診すべき診療科や治療方法について解説します。
口唇ヘルペスと口内炎の違い
- 口唇ヘルペスとはどのような病気ですか?
- 口唇ヘルペスは、主に単純ヘルペスウイルス(HSV-1)の感染によって唇やその周辺に水ぶくれができる病気です。初めてウイルスに感染したとき(初感染)には、発熱や倦怠感を伴い、唇やお口の中に多数の水疱やただれが生じるヘルペス性歯肉口内炎になることがあります。多くの場合、初感染は乳幼児期に不顕性感染(症状が出ない感染)として起こり、その後ウイルスは体内の神経節に潜伏します。一度感染するとウイルスは一生体内に潜み、ストレスや疲労、発熱などで免疫力が低下したときに再活性化して唇に再発するのが特徴です。これが口唇ヘルペスで、唇の縁に痛みや痒みを伴う小水疱が集まってできます。口唇ヘルペスは感染力が強く、キスやタオルの共用など直接・間接の接触で人にうつるため注意が必要です。
- 口内炎の概要を教えてください
- 口内炎は、お口の中の粘膜に起こる炎症の総称です。ほおの内側や歯茎、舌、上顎、唇の裏側など、口腔内のどこにでも発生しうる炎症や潰瘍をまとめて口内炎と呼びます。一般的なのはアフタ性口内炎といい、直径数ミリ程度の浅い潰瘍(アフタ)が1個または数個できるタイプです。アフタは中央が灰白色~黄白色の偽膜で覆われ、周囲が赤く縁取られた丸い傷で、食べ物に触れたり歯ブラシが当たっただけでも飛び上がるほど痛みます。原因は明確に解明されていませんが、ビタミン不足やストレス、疲労、お口の中を噛んでしまうなどの物理的刺激、アレルギー、自己免疫疾患などさまざまな要因が関与すると考えられています。単なる口内炎自体は伝染するものではなく、多くは1〜2週間ほどで自然に治ります。
- 口唇ヘルペスと口内炎は何が違いますか?
- 大きな違いは原因がウイルス感染かどうかです。口唇ヘルペスはヘルペスウイルス感染による病気であり、人に感染する可能性があります。一方、一般的なアフタ性口内炎はウイルスや細菌による感染症ではなく、栄養状態やストレス、物理的刺激などが関係する非感染性の炎症です。見た目にも違いがあります。口唇ヘルペスは再発時、唇やその周辺の皮膚に小さな水ぶくれが集まってでき、それが破れると浅い潰瘍になり最後に痂皮(かさぶた)になるまで治癒過程をたどります。ピリピリ・チクチクする前兆を感じた後に水疱が出現し、1〜2週間かけて乾燥していきます。一方、典型的な口内炎(アフタ性口内炎)は最初から丸い潰瘍として現れ、水ぶくれの段階を経ません。潰瘍の表面は白〜黄色で周りが赤くただれて見えます。
- 口唇ヘルペスがお口の中にできることはありますか?
- 通常、口唇ヘルペスという言葉は唇や口周りにできるヘルペスを指し、再発する場合は唇の外側に症状が出るのが一般的です。しかし、ヘルペスウイルス自体は口腔内の粘膜にも感染しうるため、状況によってはお口の中に症状が現れることもあります。典型的なのが初めてHSV-1に感染したときのヘルペス性口内炎です。これは特に幼児期に多くみられ、発熱や喉の痛みを伴いながらお口の中全体に痛みを伴う多数の口内炎(潰瘍)が発生します。このような場合は口唇ヘルペスではなくヘルペス性口内炎と呼び、ウイルス感染による口内炎の一種です。初感染以外でも、まれに再発ヘルペスがお口の中に出現することもあります。
口唇ヘルペスと口内炎の見分け方
- 口唇ヘルペスと口内炎の見た目に違いはありますか?
- はい、見た目には顕著な違いがあります。特に水ぶくれ(水疱)の有無がポイントです。
口唇ヘルペスでは唇の境目や周辺に小さな水ぶくれの集まりが出現します。水疱はやがて破れてただれになりますが、1~2週間ほどで乾燥してかさぶたが形成され、最終的には痕を残さず治るのが一般的です。
一方、口内炎では、口腔内の粘膜に白~黄味がかった丸い潰瘍が生じます。直径は数ミリから大きくても1cm程度で、周囲が赤く縁取られて炎症を起こしているのがわかります。水ぶくれの前段階はなく、初めから潰瘍として出現する点がヘルペスとの大きな違いです。
- 口唇ヘルペスと口内炎を見分ける方法を教えてください
- 見た目と発生部位、経過から判断できます。前述のとおり、水ぶくれがあればヘルペス、白い潰瘍のみなら口内炎である可能性が高いです。また、痛みの前に自覚できる前兆症状があったかどうかも判断材料になります。口唇ヘルペスでは再発時に患部のムズムズ・チクチクする違和感が発疹の数分~数時間前に生じることがありますが、口内炎ではそうした前兆は普通ありません。ただし、専門的に見分けるには医療機関で診断を受けることが大切です。口唇ヘルペスと口内炎は同時期に発生することもありうるため、自分では判断が難しい場合は無理せず受診しましょう。
- 口唇ヘルペスと口内炎が同時にできることはありますか?
- お互い直接の因果関係はありませんが、例えば強いストレスや疲労で体調を崩したときに、口唇ヘルペスの再発と口内炎の発生が偶然重なることがあります。その場合、唇には水疱、お口の中にはアフタがそれぞれできるため同時に存在しうるでしょう。さらに、ヘルペス初感染や免疫力低下時には、唇だけでなく口腔内にもヘルペス由来の口内炎が多発することがあります。いずれにせよ、水ぶくれを伴う症状がある場合はヘルペスの可能性が高いため、早めに皮膚科などで診断を受けることをおすすめします。
口唇ヘルペスと口内炎の違いで迷ったときの対処法
- 口唇ヘルペスか口内炎で迷ったら何科を受診すればよいですか?
- 症状の出ている場所や状態によって適切な診療科が異なります。唇の表面に水ぶくれやただれができている場合は、まず皮膚科を受診するのが一般的です。皮膚科医はヘルペスの診断と治療に慣れており、口唇ヘルペスであれば抗ウイルス薬の処方を受けられます。同時にお口の中にも症状がある場合でも、皮膚科で相談すれば必要に応じて口内炎の処置もしてもらえます。症状が唇ではなくお口の中だけにある場合や、ヘルペスかどうか判断がつかない場合は、耳鼻咽喉科または歯科口腔外科を受診するとよいでしょう。ほかにも、かかりつけの内科や皮膚科クリニックで口内炎を診てもらえることもあります。実際、口内炎は特定の科に限定されずさまざまな診療科で治療が可能です。ただし症状が長引く場合や何度も繰り返す場合には、耳鼻咽喉科・口腔外科など専門医への受診をおすすめします。なお、小児の場合、まずは小児科で相談し、必要に応じて専門科に紹介してもらうとよいでしょう。
- 医療機関での口唇ヘルペスと口内炎の診断基準を教えてください
- 病院やクリニックでは、医師が患部の視診と問診によって大部分は診断できます。経験豊富な医師であれば、病変の分布や見た目からヘルペスか口内炎かおおよそ判断可能です。しかし、帯状疱疹やほかの皮膚疾患との鑑別が必要なこともあり、必要に応じて追加の検査を行います。ヘルペスの診断では、ウイルスの検出が有用です。具体的には、水疱内容液や潰瘍部からウイルスをPCR検査(核酸検出法)や抗原検出検査で調べ、HSV-1/HSV-2の感染を確認します。一方、口内炎の診断では、その形態・大きさ・部位から種類を推定します。特にアフタ性口内炎は特徴的な灰白色斑でわかることが多いです。原因特定のため、ビタミン不足の有無や全身疾患の有無を調べる血液検査が行われることもあります。さらに、長引く難治性の口内炎や原因不明の潰瘍に対しては、粘膜の一部を採取して組織検査(生検)を行い、がんなどほかの疾患が隠れていないか確認する場合もあります。
- 口唇ヘルペスと口内炎はどのように治療しますか?
- 口唇ヘルペスは、ウイルスの増殖を抑える抗ヘルペスウイルス薬が主体です。症状が軽い再発例ではアシクロビル軟膏など抗ウイルス薬の外用を行うこともありますが、原則として内服薬(全身投与)による治療が基本です。一方、口内炎は通常のアフタ性口内炎であれば、多くが自然治癒しますが、痛みの軽減と治癒促進のため対症療法を行います。一般的なのは、患部に直接塗るステロイド軟膏です。また、口内を清潔に保つためのうがい薬も処方されることがあります。これらの局所療法で通常は1〜2週間以内に良くなります。
原因に応じた治療も大切です。例えば栄養不良が疑われる場合はビタミンB2・B6剤の内服が有効なことがあります。入れ歯やむし歯の尖った箇所が慢性的な刺激となっている場合は歯科での調整が必要となることもあります。
編集部まとめ
口唇ヘルペスと口内炎は一見似ていますが、原因から治療まで大きく異なる疾患です。見分けがつかず、迷ったときは無理に自己判断せず、症状に応じて皮膚科や耳鼻咽喉科、歯科口腔外科などを受診してください。適切な診断のもと、それぞれに合った治療で早期の改善が期待できます。日頃から栄養バランスの取れた食事や十分な休息をとり、口腔を清潔に保つことで、これらの予防や再発防止にも努めましょう。
参考文献